富士ゼロックスプリンティングシステムズ(FXPS)が4月1日から業務を開始した。富士ゼロックスの100%子会社で、オフィス向けプリンタの企画・開発から製造、販売までの全事業を担当する。プリンタ業界は、オフィス向けカラープリンタを巡って激しい初期シェア争いを展開しているが、堀江潔社長は「プリンタ専門会社として、意思決定を早く、小回りを利かせて、きめ細かくユーザーニーズを吸い上げることで、カラープリンタ産業のリーダーを目指す」と明快に目標を掲げる。
複写機ビジネスは1つのカルチャー
プリンタ事業は独自のビジネスモデル
──オフィス向けプリンタ事業で分社・独立というかなり思い切った措置をとられました。その狙いはどこにあるのですか。
堀江 富士ゼロックスは、創立40周年を迎えていますが、この間、中核事業となってきたのは複写機、複合機ビジネスです。そこにプリンタなどの新事業が加わりつつあるというのが、ここ数年の流れです。
そうした新事業については、それぞれの事業単位で分社化し、本社はそれを緩く束ねる方が良いのではないかというグループ経営の構想を3年ほど前から検討してきました。
複写機ビジネスでは、1つのカルチャー、マネジメントスタイルが確立され、動かし難い伝統ができあがっているわけですが、プリンタビジネスにそれをそのまま当てはめて良いかという問題意識です。
実際のところ、複写機とプリンタは技術的には「印字」という同じ役割はもっていますが、ビジネスモデルは相当違う。それにプリンタの場合、1つのまとまった事業として切り出しやすいという面もあるため、一番バッターとして分社に踏み切ったという側面もあります。
──ビジネスモデルが違うというのは、具体的にはどんな点ですか。
堀江 複写機は元になる原稿があり、それを大量に複製するのが目的の機械です。ビジネス的にいうと、自己完結できる。 一方のプリンタは、その元原稿をつくる機械です。パソコンなどで自分の思いを込めた原稿をつくり、保存したり、ネットワークを通じて配布したりする。パソコン、サーバー、ネットワークといった一連の流れのなかで使われるわけで、自己完結型ではない。
実は、この自己完結できるかどうかは、ビジネス形態としては非常に大きな違いをもたらすんです。自己完結型の複写機ですと、富士ゼロックス単体で直販をやっても十分やっていける。ところが、プリンタのように非自己完結型商品の場合、例えばサーバーやネットワークに強いパートナーと組み、それぞれに独自性を発揮してもらう必要がある。売り込む窓口も総務系に加えて、情報処理システム系も重要になります。
そのために、パートナーを積極的に増やしてきたんですが、富士ゼロックスの直販部隊との軋轢が生じるときも時にある。
──確かに直販力が強すぎると、代理店は反発するでしょうね。
堀江 そうした点を勘案して、パートナー重視の姿勢を示すには、分社・独立した方が良いだろうと判断したわけです。当社から見ますと、他人資本のパートナーと富士ゼロックス、富士ゼロックスプリンティングシステムズ販売も同列の位置づけになります。もし、ユーザー先で富士ゼロックスの直販部隊とバッティングしたときは、富士ゼロックスには退いてもらって支援の立場に回る、ここは明確にしていきます。
カラープリンタでリーダーシップ握る
当面は3つのブランドを併存
──ここ数年、フェイザー、NEC、富士通のプリンタ部門と随分積極的に買収してきましたが、シナリオをもって自ら働きかけてきたんですか。
堀江 それぞれのケース自体は向こうから飛び込んできたというのが実情です。ただ、当社にとってメリットがあると判断し、買収に踏み切りましたが、その結果組織的には多少錯綜感が生まれた。それをすっきりさせるのも新会社の狙いの1つです。
──ブランドはどうなさるんですか。
堀江 当面は3ブランド併存でいきます。「フェイザー(Phaser)」は固形インクという特殊な技術と優れたコントローラ技術をもち、グラフィックス処理の世界では高く評価されています。また、NEC向けには「マルチライター(MultiWriter)」のブランドで、富士ゼロックスプリンティングシステムズ販売が窓口となって販売していきます。それに当社が開発・製造する「ドキュプリント(DocuPrint)」となります。
──一部プリンタメーカーにエンジンのOEM(相手先ブランドによる生産)供給も行っていますが、これはどうなさるのですか。
堀江 基本的には、今まで通りOEMにも力を入れていきます。当社と真っ正面からバッティングする商品仕様となると考えますがね…。OEM先も大きな意味でのグループ会社ですから、結果的に競業企業に対する包囲網を形成できればいいと考えています。
──新会社で当面、最も力を入れるのはどの分野ですか。
堀江 もちろんカラープリンタです。当社はカラープリンタには早くに進出し、画質は世界最高だと自負していますし、世界最高速の分速35枚機もすでに発売しています。
──カラープリンタ市場の立ち上がりは鈍いように見えるんですが。
堀江 確かにその側面はあります。ここ3年ほど、カラープリンタ本体のコストダウンが猛烈な勢いで進んできましたので、そろそろ値頃感が出て本格的に売れていい時期だとは思っていますが、それを加速させるためにも地道な需要発掘に力を入れていきます。
今はまだ、カラープリントの良さや効用が必ずしもユーザーに伝わっていない。原稿の作成段階でも、色を付けるという1工程が加わるわけで、ここも普及の足かせになっているんでしょうね。
カラー入力の簡略化の方はパソコンソフトの力が大きいでしょうが、一度カラー出力にしたら、もうモノクロには戻れないという用途はたくさんあります。そうした用途を1つひとつ発掘して積み重ねていく努力が必要だと考えています。
例えば「DocuPrint1616」というプリンタは、紙送りのローラー部分を工夫した結果、一部に堅いものが入った薬袋にも印刷できるようになりました。
「こんなことができれば、こんな用途がある」というのが見えれば、即座に開発陣を動かすつもりです。専業企業として、小回りを利かし、意思決定を早くする、それが私に与えられた役割だと理解しています。
──カラープリンタの技術は、フォーサイクルからレーザータンデムへと移行してきました。大きな流れとしては、このなかで争われるのですか。
堀江 高速プリントを実現するタンデム技術としては、LED(発光ダイオード)方式とレーザー方式があり、当社はレーザー方式を最初に商品化したわけですが、原理的にはLED方式の方が構造がシンプルでコストダウンにも向いています。
ただ、LED方式はホコリに弱いという大きな欠点があります。部屋の中のホコリがLEDに付くと、鮮明な画像の出力を妨げてしまう。ここさえ解決すれば、LEDは脚光を浴びるでしょう。
高画質化、小型化、低価格化がカラープリンタの課題だと認識し、それを実現するために全力を挙げていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
富士ゼロックスは、元々販売会社としてスタートしただけに、体育会系が幅を利かせているというイメージが強い。そこに、ソニー、NEC出身者が加わった。それぞれが感じたカルチャーショックは強烈だったことであろう。どう融合させていくのか。新社長の最初の課題になりそうだ。
堀江社長は技術畑が長く、開発の陣頭指揮にあたってきた。複写機やプリンタでは日本メーカーが世界市場で頑張っているが、その理由について堀江社長の見解は、「日本語のおかげ」と明快だ。
「漢字の複雑さは、最初はハンデだったが、それを克服する過程で技術を磨いた。色に対しても、日本人は非常に敏感。日本で認められたらカラーでも世界をリードできる」
そうあって欲しいものだ。(見)
プロフィール
(ほりえ きよし)1945年7月19日、奈良県生駒市に生まれる。68年3月、千葉大学工学部卒業。71年4月、富士ゼロックス入社。研究畑を歩き、プリンタ開発にも初期から携わる。95年にはボリュームインテンシブプロダクツ事業部長として、モノクロプリンタでOEM事業の立ち上げに成功、世界の主要なパソコンメーカーに出荷した。00年1月、執行役員。03年4月1日、富士ゼロックスプリンティングシステムズ社長に就任。
会社紹介
富士ゼロックスのプリンター事業本部が分社・独立する形で発足したオフィス向けプリンタの専門会社。資本金は50億円で、富士ゼロックスが全額出資。スタート時の社員は740人。
富士ゼロックスはここ数年、プリンタ事業に本腰を入れ、2000年にはソニーテクトロニクスからフェイザー部門、01年にはNECのプリンタ部門、02年には富士通のプリンタ部門を買収してきた。NECからのプリンタ部門買収にともなって、01年10月に設立したのがプリンタの販売会社「旧・富士ゼロックスプリンティングシステムズ」(旧FXPS)。
今回の新会社は旧FXPSをいったん吸収・分割する形をとり、旧FXPSは「富士ゼロックスプリンティングシステムズ販売」に社名を変更、新FXPSの子会社になった。また、製造を担当する「新潟富士ゼロックス製造」も新FXPSの傘下に入った。
「ドキュプリント(DocuPrint)」、「フェイザー(Phaser)」、「マルチライター(MultiWriter)」の3ブランドは継続して使用していく。