長引く景気低迷で民間の情報化投資は湿りがち。一方、政府の進めるe-Japan計画で公共分野のIT化は本格化の時期を迎える。チャンス拡大にかける大手が自治体ビジネスに腰を据えてかかるなかで、地元システムインテグレータも生き残りをかけた決断を迫られる。仙台市に本社を置く中小システムインテグレータも同様だが、彼らの選択は“団結”。地元24社が参加する合弁会社、ハイパーソリューションは生き残りのための試金石だ。
目標は自治体ビジネスの獲得、地元企業の強みを生かした協業へ
──自治体のIT化が急速に進められています。大手ベンダーも必死で、地元のベンダーには受注のチャンスが限られてくる、という見方もあります。
江幡 われわれがハイパーソリューションを設立した目的は、これまで大手ベンダーなどに押されてなかなか参入のチャンスがなかった自治体ビジネスを獲得していくのが目的です。つまり今までは、土俵にも上がることができなかったのが、ハイパーソリューションという形で力を結集することで名乗りを上げようということなのです。なぜ、これまで土俵にも上がれなかったかというと、地元の中小システムインテグレータではスキルもノウハウも限られてくる。それぞれ得意分野はあるものの、自治体の業務を網羅するような、全体的なシステム構築案件となるとリソースが限られてきます。そのため、今までは大手ベンダーの下請けに入ることが多かったわけです。しかし、市町村合併や自治体のIT化でビジネスの様相が変わってきました。景気低迷で民間の情報化投資が先細り、そこにe-Japan計画で電子政府構築から電子自治体構築へと、公共部門には今後も需要が拡大する期待がもてます。一方で、市町村合併にともなうシステム統合というニーズもあります。
──大手ベンダーに対抗していく手段として、合弁企業の設立が不可欠だったと?
江幡 対抗していくだけではありません。宮城県に本社のある地元企業という強みを生かしたイコールパートナーとして協業していくことも視野に入れています。そのためにも、技術スキルとノウハウの結集が必要になるわけです。現在、ハイパーソリューションに出資している企業は18社です。各社に数人から十数人の高い技術力をもったエンジニアがいても、1社1社ができることはそれほど大きくはない。しかし、高度なスキルをもった技術者を結集すれば、単独では発揮できないパワーをもつことになります。そこに存在意義があるのです。たまたま参加している企業同士は、宮城県情報サービス産業協会(MISA)のなかで情報交換もしてきましたし、ビジネス領域で競合する部分が少ないという要素もありました。通信やネットワークに強い、汎用機のビジネスの歴史が長い、ウェブ系に強いといったような、それぞれ得意分野があります。それらのノウハウを生かして、自治体の広範囲なシステム案件に対して、トータルソリューションを提供できるというわけです。
──もともと、自治体ビジネスが目的で結集したわけではないようですが。
江幡 地方にいるシステムインテグレータにとっては、最新のテクノロジーをキャッチアップしていくというのは想像以上に難しいことなのです。最初は、6社でJavaの勉強会として発足したのが起源で、2001年の初めです。Javaの技術を習得し、さあ実際にビジネスに生かしていこうということで、たまたま自分たちのスキルを生かせる案件があり着手したのですが、プロジェクトを完遂していくためには責任の所在をはっきりさせた体制が必要だろうということになり、その年の10月に6社が出資して法人化したのがハイパーソリューションというわけです。最新の技術をこういう形で習得し、ビジネスに生かせる体制ができた。ちょうどその頃に自治体の電子化というテーマが見え、宮城県が打ち出した「みやぎマルチメディアコンプレックス(MMC)構想」をビジネスにつなげるために、02年6月に「みやぎITコラボレーション研究会」を設置して、われわれ企業だけでなく地元大学も交えて検討をスタートさせました。そこでの検討のなかで、自治体ビジネスを実際に手がけるためには法人化しなければならない、これから会社を設立しても業者登録は難しい、ちょうど各社が賛同して設立したハイパーソリューションがある、じゃあこれを活用しよう、と話がトントン拍子に進み自治体ビジネスの受け皿としてのハイパーソリューションが誕生したわけです。
首都圏の大型案件なども視野に、宮城県外の事業者とのアライアンスも
──現在の体制について。
江幡 02年11月に第3者割当て増資を行い、当初の6社に加えて出資会社が18社に拡大しました。さらに、出資はできなくても協力したいという会社もあり、技術協力という形で参加してもらっています。実際のプロジェクトに際しては、各社からエンジニアを派遣してもらい、そのなかで中心となるプロジェクトマネージャーがリーダーを務めます。プロジェクトの内容によって、各社の得意分野を当てはめていき、関わり方も様々な変化が出てくるでしょう。昨年11月に第3者割当て増資を行った際に、パーティを開いたのですが、産官学の各方面から多くの方に出席して頂き、われわれのビジネスに対する期待が大きいということを実感しました。宮城県ではIT施策の推進とともに、IT化を支える人材の育成も重要な政策になっています。地元企業にとっては、優秀な人材を獲得するチャンスであり、高度なスキルを蓄積していくメリットもあります。ところが、地元企業の受け皿が小さくては人材も技術も十分に活用できない。しかし、ハイパーソリューションのように技術結集型のビジネスモデルを作れば、人材を生かし、同時に企業としてのパワーアップも図れます。
──今後の事業方針については。
江幡 自治体ビジネスの獲得を目指すだけでなく、最新のテクノロジーの導入と、それをもとにしたビジネスの拡大を目指します。自治体ビジネスでは宮城県が中心になりますが、民間の需要についても、これまでは参画できなかった首都圏での大型案件などにも進出を狙っています。また、全国規模でわれわれがノウハウを提供する場合や、逆にノウハウを取り入れるということも想定して、必要があれば他の地方のシステムインテグレータとのアライアンスも進めて行きたいと思います。ハイパーソリューションは、地元の独立系システムインテグレータが集まってできた会社です。こうした例は全国的に見ても珍しいでしょう。出資各社はそれぞれ独自の事業を展開しており、私はアート・システムの社長であり、6人の役員もそれぞれ企業の経営者です。
アート・システム子会社のクールヴィジョンでは、eビジネスのアイデアを募集し実際に起業家を募る「起人倶楽部」という事業をスタートしましたが、それぞれの出資企業も独自のアイデアでユニークなビジネス開拓を進めています。そういう独立性を保ちながら、しかし、共通の目標に向かって集合できることの意味は大きいと確信しています。ハイパーソリューションは、大手ベンダーに押されて地元の中小企業が参集した蕫弱者連合﨟ではない、仙台市という東北第1の都市にあって実績を上げている企業がパワーを集中する蕫強者連合﨟です。われわれがどれほど地元に貢献できるか、あるいは成功するかによって、他の地方でもハイパーソリューションのような企業が設立されるかもしれませんね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ただ漠然と寄り合い所帯のように地元企業が肩を寄せ合っても、激しい競争に生き残れない。あくまでも力をもった集団でなければならない。江幡社長だけでなく、ハイパーソリューションの役員全員が、「弱者連合ではなく、強者連合」と強調する。出資企業それぞれが「本業」で事業を拡大しているという余裕からか、その態度は皆自信にあふれている。それをまとめて「宮城県は群雄割拠なんですよ」と付け加える。それぞれ個性をもった「雄」を、共通の目標に向けてまとめていく手腕が期待される。「あくまでも中心は宮城県。しかし、要請があれば他の地方システムインテグレータと自治体ビジネスで協力する」とは、東北の雄になろうという自信の表れだろう。(蒼)
プロフィール
江幡 正彰
(えばた まさあき)1946年7月31日、秋田県秋田市生まれ。70年、青山学院大学卒業。77年3月、アート・システムを設立、代表取締役に就任し、現在に至る。01年10月、ハイパーソリューション設立に参加し、02年10月、代表取締役社長に就任。このほか、01年10月設立のウェブサイト企画会社、クールヴィジョンの代表取締役会長に就任。社団法人宮城県情報サービス産業協会(MISA)理事を務める。
会社紹介
宮城県仙台市に拠点を置く独立系システムインテグレータのアート・システム、アテネコンピュータシステム、イートス、インタークラフト、コンピュータシステム開発、東北オータスの6社が2001年10月に資本金1000万円で設立。02年11月にさらに12社が出資し、出資企業数は18社で資本金を1250万円に増資した。この際に、出資はしないものの技術協力企業として6社が参加しており、現在、ハイパーソリューションには地元システムインテグレータ24社が名を連ねている。これからも、地元システムインテグレータで参加したいという企業については「オープン」でいくという。役員の選出はユニーク。各社が出資額に関係なくそれぞれ1票をもち互選による。そこで選ばれた役員のなかで再度投票を行い、社長を決める仕組み。あくまでも平等という原則を貫いているというわけだ。ひとたびハイパーソリューションを離れれば、それぞれ自らの会社の経営という責務を果たしているだけに互いの信頼関係はできている、ということだろうか。それだけに結束の固さも十分だ。