NEC三菱電機ビジュアルシステムズ(NMビジュアル)は昨年、液晶ディスプレイ(LCD)、CRT(ブラウン管)ディスプレイともに、BCNランキングの販売台数シェアで第1位を獲得した。なかでもCRTの下半期実績は、過去最高のシェアを記録している。だが、時代の主流は低価格化にともない急速にLCDにシフト、同社のCRT販売台数も減少傾向をたどり、収益構造の変革が求められている。
世界的なブランド認知度は高いが、LCDの場合は国内や韓国、台湾の新興勢力を無視できなくなっている。同社では「低価格競争では太刀打ちできない」と、CRTで築いたブランド力をさらに向上させるべく、高品質、高付加価値、高サポートを目指し他社との差別化を図る方針だ。
同社の収益は、大手企業を中心とするコーポレート市場で大半が築かれている。「販売するだけ」のメーカーではなく、きちんとしたシステムサポート体制が構築されているのが強みだ。技術力でも、環境に配慮したLED(発光ダイオード)バックライトの開発にいち早く取り組むなど、市場の評価は高い。しかし今は、安ければ売れる時代にあるのも確か。時流を意識しつつも独自のブランドを維持し、収益の上がる分野に特化した経営が求められる。
今年度は単年度黒字化が目標、売上高ではLCDがCRTを追い越す
──ディスプレイ業界は昨年あたりから競争が一段と激化しています。新社長としてどんな舵取りをしていきますか。
松田 純損益ベースで2期連続の赤字となっていますが、これを今年度(2004年3月期)に単年度黒字化することが命題としてあります。競争が激化するディスプレイ市場では、売る場所としての国や地域、流通の販売チャネルやルート、トレンドを見越した製品をラインアップするなど、蕫取捨選択﨟した上で、確実に利益を出せる経営体質に改善していく必要があります。やたらと台数を売りさばき売上高を上げるのではなく、販売台数の規模を減らしてでも、利益率の高い分野へ重点的に経営資源を投下したいと考えます。NECと三菱電機が共同出資で当社を設立した00年当時には、「05年までに台数シェア世界第3位になる」との目標を立てましたが、その頃は、こんなに早く低価格のLCDが市場に浸透するとは予想していませんでした。ボリュームを追求する当時とは、状況が一変したのです。CRTは売れば売るほど利益が上がりましたが、LCDの登場で、販売対象など扱う分野も変革の時が来ました。利益を上げる体質にするために、固定費の削減も進めています。
──今年中に世界市場でLCDの売上高がCRTを初めて上回るとの予測もありますが。
松田 当社の売上高では、昨年下期の段階でLCDがCRTを上回っています。今年は販売台数でもLCDがCRTを追い越すでしょう。ここ数か月はLCDパネルは高値安定傾向にありますが、各社が量産体制を強化すれば、今年7月頃から急激に価格は落ちるでしょうから需要自体は活発になります。今年は世界のディスプレイ市場約1億台のうち、LCDは半数を超えるだろうと予想しています。こうしたなか、CRTについては、ハイエンド機種を除き事業を縮小していきます。ただ、22インチの機種だけは、競合メーカーが少なく利益率の高い商品なので継続して生産を高めていきます。ほかの安価なCRT各機種については、当社が委託生産している台湾のNEC子会社に設計を一元化しました。ただ、この子会社でも、主力はLCDに移行しています。
──NMビジュアルのCRT事業は、どうしていくのですか。
松田 CRTから新製品のCRTに買い替える需要はほとんどなく、LCDの値段も下がり、「ブラウン管はもういらない」というのがトレンドです。今までに出荷してきた分については、今後もサポートは行っていきます。損しない範囲でCRT事業は継続しますが、目に見えて市場性が薄まっている国・地域で気張ってみても、損を出すだけです。ただ、東欧・ロシアに対しては、現在もCRTの需要が高いので盛んに出荷しています。マクロ経済的に判断しても、5年後を見越すと市場性は極めて小さくなります。途上国や東南アジアの経済が伸びてくれば、CRTの用途はあると思いますが、私は(起点として)05年が世界全体でCRTの蕫諦めの年﨟と見ています。
──LCD市場では、液晶パネルの価格下落を受けてマーケットが活気づき、競合他社の攻勢が強まっています。
松田 当社の製品を購入するユーザーは、技術やサポート体制に裏付けされたブランド力を評価する場合が多いのです。現在主力の15インチや17インチでも、表示画面を引き立たせるためベゼル幅を極力薄くする技術や、最新鋭のパネルには定評があります。しかし、その技術力を営業サイドでうまく説明できているかというと問題はある。ベゼル幅を薄くする開発は、00年からいち早く始め、3年の歳月を経て他社とは差別化ができてますし、ディスプレイ全体のデザインも、周囲の環境に溶け込む個性的な蕫かっこいい﨟ものに仕上がっています。ただ単に安い製品を開発するのでは、所帯の小さなメーカーに価格面などで対抗できません。多少価格が高くても、高い分の付加価値を当社のサポート力で補うことができます。「値下げ、値下げ」という時流に乗る必要があるのかもしれませんが、当社は付加価値の部分でユーザーに購入してもらう機運をつくらなければなりません。
ブランド力で海外勢と競う、技術力とともにサービスも強化
──韓国、台湾勢との戦いや、複数メーカーの製品を組み立てるパソコン「ホワイトボックス」の市場も意識する必要があると思いますが。
松田 日本は非常にブランドを重視する市場です。韓国や台湾のディスプレイメーカーが、積極的なテレビなどの広告・宣伝でブランド力の強化を図っていますが、まだ認知度や信用力の面で定着するまでに至ってないと判断しています。当社では、さらにブランド力を高めるべく、サービス面を技術力とともに強化して、こうした勢力との差別化を図りたいと考えています。当然、ホワイトボックス市場も無視できない存在です。米国やEU(欧州連合)では、この市場が完全に形成されています。当社は、CRT全盛期から「AccuSync(アキュシンク)」というブランドでこの市場に参入し、事業を育ててきました。ホワイトボックスとSMB(中堅・中小企業)の市場はヒットする機種が決まっているようですが、流通網がディストリビュータ経由だけではないので、正確な売り上げ数が把握できていません。それでも、今後最も伸びる市場として注視しています。ただ当社は、大企業を中心とした法人向けが売上高全体の約75%を占めます。例えば、フィナンシャル(金融)業界のトレーディング系ディスプレイでは圧倒的な強さを誇っています。米欧の企業はパソコンとディスプレイを別々に入札する傾向にあり、壊れたら瞬時にサポートできる体制が今後も重要だと思っています。
──「Adobe RGB」に近い色域を持つ「LED(発光ダイオード)バックライト」を採用したテクニカルサンプル品を展示会などで出品し、評判が良いようですが。
松田 液晶のバックライトは、発光効率が高く低価格の冷陰極管を使用していますが、これには水銀が含まれています。近年は環境への配慮から、水銀を使用しないバックライトの開発が求められるようになりました。また、76年には米国の標準委員会「NTSC」が、人間がもつ記憶色からテレビの標準再現色域を定めましたが、CRTのテレビでは蛍光体があまり発展していないため再現色域を72%までしか満たせていません。LCDは、バックライトにLEDを使用することで、水銀を使用せず、環境に優しい上、色域の再現範囲でNTSC標準を100%満たすことも可能になっています。コストパフォーマンスを考えなければ、すぐにでも商品化は可能ですが、LEDの発光効率がまだ標準に達していません。ただ、いち早く市場に出さないといけないと感じています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
松田社長の父は、かつて“日の丸飛行機”を開発したことで知られる中島飛行機に勤めていた。反面教師だったのか、自身は大学で「モールス符号」を学んだ後、商船学校に進学。「船乗り」になるのが夢だったそうだ。視力検査で不合格になり、その夢は潰えるが、東京オリンピック開催の1964年、NECの前身の1つである新日本電気に入社。その後、一貫して蕫技術畑﨟を歩んだ。それだけに、技術系の話題になると、言葉が弾む。NECのテレビにマイクロコンピュータを採用した当時から、一線で活躍したテレビ開発の蕫生き字引﨟。98年からの2年間は、NEC米国法人のトップに就き“畑違い”のマーケティングも手掛けた。技術を見る眼に新たな“武器”を加えた(吾)
プロフィール
松田 博利
(まつだ ひろとし)1940年11月12日、東京都生まれ。62歳。64年3月、電気通信大学電気通信学部卒業。同年4月、新日本電気に入社。パーソナルインテリジェンス機器事業部長代理、VAP事業本部パーソナルインテリジェンス事業部長などを経て、91年6月に取締役。92年4月、NEC支配人。95年6月、NECホームエレクトロニクス常務取締役。98年7月、米NECテクノロジーズ副会長。同年10月、同社会長。00年1月、NEC三菱電機ビジュアルシステムズ取締役。常務取締役を経て、03年4月16日付で代表取締役社長に就任。
会社紹介
今年4月でNEC三菱電機ビジュアルシステムズ(NMビジュアル)は、営業開始から丸3年を迎えた。その間、CRT(ブラウン管)ディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)の両市場は情勢が急激に変化した。CRTを主力に置いてきた同社の予測を遥かに超え、世界的規模でLCDがCRTを抜き去ろうとしている。当然、これに対応した経営変革が同社の緊急課題だ。4月に就任した松田博利社長は蕫取捨選択﨟を何度も口にする。利益率の高い得意分野へ経営資源を集中投下し、それ以外は収れんさせていく意向だ。