CAD業界が復調の兆しを見せている。業界のリーダーであるオートデスクの志賀徹也社長は、「力強い復活とまではいえないが、底は打ったと思う」と、その顔色は明るくなった。「これまでのCADは青焼きにしたら終わり。デジタルデータになっているのだから工場から保守サービスまで、バリューチェーンのすべての側面でCADデータを生かせる体制をつくっていく」と、新たな成長戦略を描く。
CAD業界は昨年12月から復調傾向、今年は3次元がキーワードに
──現在のCAD市場はどんな傾向にあるのですか。
志賀 一昨年、昨年は厳しかったですね。私どものメイン市場は製造業と建設業ですが、ご承知の通り、製造業は空洞化が問題になるほど工場を海外に移転しました。建設業も長期不況に悩んでいます。当然、当社の事業にも大きな影響をもたらしていますが、昨年12月から流れが変わったと感じています。今年に入ってから割合順調で、最悪だった昨年と比べると2ケタ成長を続けています。昨年が悪過ぎたので、力強い復活とまでは言い切れないんですが、底は打ったのかなとは思っています。ユーザー企業も、4―5年間投資をしなかったらライバルに置いていかれますし、2000年問題当時の買い替え需要も期待できる。IT投資減税も動き出していますし、来年にかけては明るい展望をもっています。
──今年の新製品ラッシュは凄いですね。
志賀 昨年がいまひとつだった理由は、新製品を投入しなかったこともあるんです。今年は各ソリューションで意欲的な製品を次々と投入しています。
──そのソリューションですが、いまの事業構造はどうなっているのですか。
志賀 大きく分けますと、4つの製品群をもっています。ソリューションと呼んでいますが、建築・建設系ソリューション、製造系ソリューション、社会基盤(GIS:地理情報システム/土木)系ソリューション、それに教育ソリューションです。
──各ソリューションで目立つ動きはありますか。
志賀 製造系では3次元の「Inventor(インベンター)」シリーズが伸びています。これは機械設計用の3次元CADで、5月に最新版の「インベンター7」を発売しました。また、建築・建設系でも「Revit(レビット)5.1」という3次元のパラメトリックデザインツールを発表しました。当社にとっては新しいコンセプトを盛り込んだ新製品です。今年は製造系でも建築・建設系でも3次元が1つのキーワードになって成長を牽引すると確信しています。
──製造系でも3次元CADはこれからなのですか。
志賀 これまでメカニカル用3次元CADは、特注のような形で開発されていたため、価格が非常に高く、一握りのスペシャリストしか使えないというのが実態でした。それがハードウェアの高速化にソフトウェアの進化が重なり、ミッドレンジクラスでも安くて早い3次元CADが使えるようになった。ユーザーもそのことに気がつき、ここにきて導入が活発化しています。
──建築・建設系では「レビット」を発表しました。
志賀 米オートデスクもいろいろな会社を買っていますが、昨年2月に買収したのがレビットです。過去2番目の大きな投資だそうですから、社運がかかっていると言っていいでしょうね。これまでのオートデスクにはなかった新しいコンセプトをもった製品で、パラメトリックエンジンによって、1つの図面を変えると関連するデータが瞬時に変わるという機能を売りにしています。
──デスクトップPLMを提唱なさっていますが、これはどんなコンセプトなのですか。
志賀 PLMはプロダクト・ライフサイクル・マネジメントの略で、大元のデータである設計図面を、製造、販売、マーケティング、保守といったバリューチェーンのなかでもっと有効活用しようという呼びかけなんです。これまで、設計図は青焼きにして出したら、そこでデータの流れは断ち切られてしまっていた。現場には青焼きをもっていくわけです。修正がある場合はその青焼きに書き込んで、設計室に戻して元データを直すというサイクルで動いていたのですが、せっかくCADで書いたデジタルデータがありながら、そのデジタルのメリットを生かし切れていなかった。
それでは「あまりに、もったいないでしょう」ということで、オンライン・コラボレーション・サービスを7月15日から開始します。「Stream line5(ストリームライン5)」という新製品を導入すれば、インターネット上でCADデータを自由にやり取りできるようになります。CADデータは重過ぎてインターネットでのやり取りは不向きとされていましたが、独自の圧縮技術により、5分の1から10分の1に圧縮して送受信できるようにしました。海外工場とのやり取りなど、これで格段に便利になりますよ。保守サービスの際などにも、元図面を簡単にウェブから呼び出すことができますし、マニュアル作成の際にも元図面を利用できます。元データを共有して、その部署に合った加工を行えばよいわけで、コラボレーションはグンと上がります。
最新バージョンを常に提供するサブスクリプションプログラム
──「Subscription Program(サブスクリプションプログラム)」も始めておられますが、これはどんな狙いをもっているのですか。
志賀 ソフトウェアメンテナンスプログラムで、年間契約を結んで頂いたユーザーは、契約期間内にアップグレードしたバージョンを自由に使っていいというサービスです。大きなアップグレードは1年とか2年おきになるのですが、小さなというか、部分的なアップグレードは常に行われているわけです。その部分的なアップグレードを、出来たところからお届けする。昨年11月15日に開始したんですが、大手ユーザーほど関心をもってくださり、予想以上のスピードで契約数が伸びています。大手企業は、年間予算で縛られる傾向にありますから、最新バージョンを自由に使えるというのは競争優位を保つためにも、評価できるという声を多数頂いています。
──代理店が減っているようにみえるのですが。
志賀 私が社長に就任してから、同じ方向を向いてくださる代理店さんをより大事にしようということでやってきました。むやみに数を増やすのではなく、当社と本当に歩調を合わせてくださるところと、より親密な関係を築いていこうということです。いま、パソコン用CADは決して高い価格ではありません。そのため、ついサポートをなおざりにするような傾向があるんですが、そうではないんだと…。サポートを充実させることが、アップグレード版の獲得につながり、新しい顧客の開拓にもつながる。この世界ですから、技術進歩も激しい。最新情報を提供できないと、ユーザーから見放される。そんなことを言いながら、代理店さんに働きかけてきたんですが、この考えや方向性に賛同してくださる中核となる代理店さんが20数社固まってきました。数はあまり増やさず、個々の代理店さんに大きくなってもらう──。その方向でやっていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ヒゲを生やした。「お正月に無精してヒゲも剃らなかったんだけど、鏡を見たら結構いける。このままいっちゃおうか!」となった。昨年、CAD業界も苦境にあえいでいたが、12月に曙光を感じたそうだ。虚脱感、安堵感取り混ぜての正月が、ヒゲに結びついたということのようだ。
オートデスクの世界最大のCAD商社は大塚商会。同社の大塚実会長は、「昨年はどうなるかと思ったけど、今年はいいね…。製造業の不況は底を打ったんじゃない」と志賀社長以上に強気だ。日本法人の売上規模は世界全体の12―13%といったところ。社員は3.5%の規模なので、威張れる数字かと思ったら、「マイクロソフトさんよりは低い。もっと頑張らないと」と自らを励ましていた。(見)
プロフィール
志賀 徹也
(しが てつや)1947年生まれ。70年、早稲田大学卒業後、日本電子に入社。74年、日本ディジタルイクイップメント(日本DEC)入社。PC事業部本部長、取締役チャネル本部長、取締役製品企画本部長を経て、95年にアップルコンピュータ入社。ワールドワイドセールス担当副社長、代表取締役社長に就任。97年、オートデスク代表取締役社長に就任。01年から米オートデスク本社副社長を兼任。
会社紹介
米オートデスクの創業は1982年。パソコン用の汎用CADで市場を創造、機械系、建設系などで業界をリードしている。2003年1月期の売上高は8億2500万ドル。04年1月期予想では、8億7500万-9億ドルとの見通しを明らかにしている。世界160か国で500万人のユーザーを抱える。
日本には85年に進出。製図台の代わりにパソコンCADが売れる時代の波に乗って成長してきた。日本市場の売上規模は、全世界のなかで12-13%。社員は約130人。世界全体に占める日本法人の社員比率は3.5%ほどになる。ディーラー経由の販売に力を入れ、大塚商会は世界最大のオートデスクのディーラーとして知られる。志賀徹也社長は、今年で社長就任から7年目を迎える。「社員にとって働きやすい会社」を目指してきたというが、外資系の臭いをあまり感じさせない会社風土はその結果であろう。