昨年度(2003年3月期)までの実績で8期連続の増収、10期連続の増益を記録した住商情報システム。今年度(04年3月期)は9期連続の増収増益を狙う。今年度を最終とする3か年経営計画で目指した連結売上高1000億円は達成が難しい見通しだが、経常利益100億円の目標は、すでに射程距離に入っている。IT投資の減速感が依然として強いなか、業績を伸ばし続ける秘策とは?。6月26日付で副社長から昇格した中川惠史社長に聞いた。
ここ10年で自社製品群を充実、「受託開発型」から「提案型」へ
──増収増益を続ける背景は。
中川 10期連続増益の前半部分は、インターネットの普及期でIT投資が盛んな頃でした。このため他社も業績を伸ばした時期でもあり、それほど自慢できることではありません。一方後半は、IT業界のなかで伸びるところとそうでないところとの差が大きく出ました。当社は伸びているグループに入ることができ、この点では強みを発揮できたと自負しています。振り返ってみると、1990年頃はメインフレームのダウンサイジングの波が押し寄せて、当社も大混乱した時期でした。当時は前年度比で2―3割も売上高を落としています。この時、「顧客の指示を受けないと何もできない受託開発型」ではダメだと判断し、自社の“提案力”を高める営業力を強化することを決めました。
そこで、それぞれの部門で得意な分野を自社製品化することにしました。この結果、数多くの自社製品を産み落としました。その中で、93年4月に純国産として初めて製品化した統合型ERP(基幹業務システム)パッケージ「プロアクティブ」は、昨年度だけで429社、累計で2432社に納入するなど、ヒット商品に育ちました。「プロアクティブ」に代表されるように、自社製品群を充実させ、コツコツまじめに提案力を高めてきたことが、増収増益の継続に役立っています。
──01年4月からの3か年経営計画「フォワード21」の売上高目標は未達のようですが。
中川 フォワード21の最終目標は、売上高1000億円、経常利益100億円を目指すというものです。今年度(04年3月期)の事業計画では、売上高810億円、経常利益105億円を見込んでいますので、売上高は達成できない。理由は、計画作成段階で、ここまでデフレ経済が進むとは予測できなかったからです。こうした“縮みの経済”のなかでは、売上高を伸ばすのは極めて難しい。利益重視というか、それに徹せざるを得ないというのが本音です。「何としてでも1000億円をやらなきゃならん」とは、考えていません。ただ、業界の“線引き”みたいなものがあり、何となく売上高1000億円以上は“大手システムインテグレータ”で、それ以下は“中堅システムインテグレータ”と分ける傾向があります。われわれは、住友グループのなかの中核的なシステムインテグレータとして、この線引きを超えられるかどうかというのは、常に気にはなりますよ。
SEが顧客の声を直接聞く、 “製販一体”の営業体制へ
──グループ事業の拡充が続いています。
中川 今年4月に、住友商事グループの住商フォーエスの株式を51%取得して連結子会社にしました。住商フォーエスは、主に住友商事のシステム開発などを請け負っています。どちらかといえば、住友商事の職場に入り込み、現場で必要となるソフト開発など比較的小さな案件を獲るのを得意としています。この点、当社はこうした“ご用聞き”的な営業ではなく、どちらかといえば“店を構えて”やっているため、多少業態が異なります。
今回の住商フォーエスの連結子会社化は、実は住友商事サイドの連結経営を戦略的に研究している部隊の発案による施策です。これは当社を住商グループの中核的なシステムインテグレータに位置づけていることの表れであり、今後も当社を中核として、関連するサービスを再編成するという方向性を示すものです。とはいえ、住商グループの情報システムを一手に引き受けているというわけではありません。グループ各社はそれぞれ自主独立の企業で、そこを一括でわれわれがまとめるというのは、ちょっと無理があります。現に昨年度の売上高に占める住商グループ向けの比率は、減少傾向にあります。グループの中核的なシステムインテグレータであるというアグリーメントを得ると同時に、独自の提案力をフルに活用した営業展開にも力を入れていきます。
──もともとソフト開発会社からスタートしていることからくる営業パワーの問題はどうですか。
中川 当社の連結人員約1800人のうち、約1500人がSE(システムエンジニア)です。その他の約300人が、営業人員および間接部門のスタッフです。このように当社は圧倒的にSE比率が高く、純粋な営業だけをやる人員はごくわずかしかいません。以前は、これら技術者を顧客先に出向させるなど、技術者派遣的なビジネスやソフトの受託開発などをやっていました。しかし、今はそういう時代ではありせん。今の顧客は、「知恵があるなら持ってこい。食えるものなら食ってやろう。乗れるものなら乗ってみよう」というものです。
われわれが全力で取り組んでいることは、何を顧客に提案したら満足してもらえるのだろうかと考えることです。このためには、SEが顧客の声を直接聞いて、次の新しい提案に結びつけるという当社の手法は、非常に有効性が高いということが判明しています。当社では、SEをプログラマーとは定義していません。SEは営業をして、提案をして、システムも開発するという位置づけです。これは“製販一体”の営業体制と呼ぶこともできます。一長一短ありますが、当社では伝統的に製販一体を採用しており、これが今のように、顧客の需要が提案の中身を重視する傾向が強まるなかで、威力を発揮していると考えています。今後も製販一体を変えるつもりはありません。
──ERPが絶好調のようですね。
中川 今年10年目になる自社開発のERP「プロアクティブ」をはじめ、SAP R/3、オラクルなどのパッケージを中心に、昨年度はERP事業の売り上げが前年度比3割増の170億円に達しました。「プロアクティブ」は、代理店が約50社ほどあります。当社と代理店とで昨年度に納入した「プロアクティブ」の件数は429社で、1案件あたり約3000万円になりました。「プロアクティブ」はここ数年、商談規模が大きくなる傾向が続いており、提案最前線では、だいたい7―8社の競合会社とぶつかることが多い。全戦全勝というわけではありませんが、大手ベンダーと一緒に2次提案や最終提案まで残る比率も極めて高くなっています。
昨年4月から、ERP事業部をエンタープライズ・ソリューション事業部に改組して、これまで担当を分けていたSAPやオラクルと同列で「プロアクティブ」を扱うようにしました。今は顧客の需要を聞いて、この3つのERPのうち最適なものを提案するようにしています。このあたりの提案力の強化が、顧客に評価されているのではないでしょうか。また、当社が開発の段階から保守運用まで、一貫して頼め、しかも業績が好調という点で、顧客の信頼や支持を取り付けているのだと考えています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「34年前、この会社ができた当時は10年近くも赤字で、ダメだなぁと思うこともあった。よくここまで来られた」ダウンサイジングなどで浮き沈みを経験しながらも、今年度は9期連続の増収増益を狙う。「時の運も手伝って伸びた実力ある会社」と評す。
社長就任にあたり、「まず第1に自己満足的な芽が出ていないか注意しなければならない。自分のキャリアに対しても同様だ。2点目が住商グループのコンプライアンスの精神を守る。3点目が人材の育成」を、抱負として挙げる。「知的な仕事をチームでやるのが、われわれの事業の本質。皆の信頼感を保ち、あうんの呼吸で動かないと、成果が出てこない」と気を引き締めている。(寶)
プロフィール
中川 惠史
(なかがわやすひと)1940年、兵庫県生まれ。63年、神戸大学経営学部卒業。同年、住友商事入社。65年、社長室。住商コンピューターサービス(住商情報システムの前身)の設立を担当。69年、同社に出向。79年、住友商事に帰任。87年、米国住商コンピューターサービス取締役社長。93年、住友商事取締役情報通信システム本部長。95年、住友商事を退社し、住商情報システム常務取締役に就任。97年、専務取締役。01年、副社長。03年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
昨年度(2003年3月期)の連結売上高は前年度比6.9%増の741億円、経常利益は同19.4%増の97億円。今年度(04年3月期)は売上高で同9.3%増の810億円、経常利益で同8.2%増の105億円と、経常利益100億円の大台を目指す。
中川惠史・新社長は、住友商事の社長室に勤務していた1969年当時、住商情報システムの前身に当たる住商コンピューターサービスの設立を担当。自ら10年ほど住商コンピューターサービスに出向した経験を持つ。その後、87年に住商コンピューターサービスの米国法人社長に就任するなど、同社との関わりを深める。95年に住商情報システムの常務取締役となってからは、提案力の強化に力を入れ、業績改善に貢献してきた。