昨年度(2003年3月期)の連結実績は、売上高が前年度比17.2%増の1639億5600万円、営業利益が同23.4%増の96億800万円。これに対し、今年度(04年3月期)の売上高は同1.2%増の1660億円、営業利益は横ばいの96億円を見込む。控えめな予測を立てる背景には、経営資源の“選択と集中”がある。
注力事業のシステム構築事業と情報処理・ネットワークサービス(システム運用事業)の売上高は、ともに前年度比8%増を計画するのに対し、ソフトウェア開発は同8%減、機器・サプライ販売は同14%減と縮小を見込む。ソフト開発や機器・サプライ販売は、総合力を維持するために継続するものの、積極的な拡大策はとらない。
その一方で、システム構築とシステム運用は、総力を挙げて取り組む。システム構築はパッケージを基盤として、短い構築期間と廉価な価格を売りにする。システム運用は、データセンターを軸とした遠隔運用を主力に据える。
これらの施策により、05年度(06年3月期)は営業利益率7%以上(02年度実績は5.9%)を目指す。
PAIとCBOを事業の柱に、システム関連売上比率を75%へ
――PAI、CBOとは何ですか? 堀越 PAIは、「パッケージド・アプリケーション・インテグレーション」の頭文字で、パッケージソフトをベースにしてシステムを構築しようという考え方です。当社では、自社開発ソフトも含めて約70種類のアプリケーションパッケージを取り扱っており、これらパッケージを軸にしてシステム構築を推進する方針です。
CBOは、「センター・ベースド・オペレーションズ」で、顧客のところにある情報システムをわれわれのデータセンターから遠隔操作で運用しようという考え方です。今年度(2004年3月期)から05年度(06年3月期)までの3か年中期経営計画では、PAI事業とCBO事業の2つを柱に据え強化します。PAI、CBOのいずれも私が考案した造語です。
昨年度(03年3月期)の業績は、情報処理・ネットワークサービス(システム運用)が前年度比36%増の682億円、システム構築が同33%増の355億円でした。増収の背景には、一昨年の日立情報ネットワークとの合併効果がありますが、これを差し引いても、伸びています。私は、システム運用事業を伸ばすためのキーワードとしてCBOを掲げ、システム構築事業を伸ばすキーワードとしてPAIを掲げています。
昨年度の連結売上高1639億円のうち、システム運用とシステム構築を合わせた売上比率は63%ですが、これを05年度までに75%までに高めます。これに対して、ソフトウェア開発は前年度比3%減の346億円、機器・サプライ品販売が同6%減の254億円と減少傾向にあります。この傾向は、今年度も大きく変わらない見込みです。
――パッケージを主体としたビジネスでは、付加価値がつけにくいのではないですか。 堀越 情報システムの導入は、生産性を高めるのが目標です。個別にソフトを手作りしていては、生産性が高まりにくい。この部分が日本の遅れているところです。欧米市場では、業務システムの8割がパッケージを基盤としたもので組み上げられています。パッケージ化を推進している当社でさえも、システム構築事業の売上高のうち、パッケージをベースとしたシステムの比率は31%に過ぎません。
付加価値うんぬんというのが問題ではなく、手作りの業務システムでは、開発期間が延びることが多く、新しい世界標準への対応が遅れがちになるなど、生産性を高められない要因の方が大きい。さらに、ソフトウェアの受託開発の単価が下がっており、「開発工数を増やせば必ず儲かる」という図式はすでに崩れています。
ところが、依然として独自の情報システムを作りたいという需要が大きい。確かに販売管理システムや物流管理システムなど、他社との差別化が重要な部分は、ある程度の独自性を出すべきですが、財務会計など、どの会社でも原則として共通する分野であれば、積極的にパッケージを使うべきだと思います。パッケージを使えば、開発・構築期間を半年から1年以内に抑えられ、廉価に販売できます。一方で、自社開発のアプリケーションソフトや構築後のシステム運用の受注など、付加価値を生み出す仕組みも、きちんと用意しています。
当社はSAPから始まり、独自開発の自治体向け基幹システム「e-アドワールド」や、中小卸売業向けERP(基幹業務システム)パッケージ「天商」、中小向け生産管理システム「天成」など、数多くのパッケージを扱っており、今後もこれらをベースにしたシステム構築に力を入れます。05年度には、システム構築事業の売上高のうち、PAI事業の比率を現在の31%から一気に50%へ高める計画です。これは、かなり挑戦的な目標です。
毎年約20億円を投資、全国15か所にデータセンター
――CBO事業の収益構造はどうですか。 堀越 アウトソーシング事業の強化です。しかし、どこのシステムインテグレータもアウトソーシングを強化しようしており、差別化が難しい。そこでCBOというコンセプトを打ち出して、より効率的なアウトソーシング事業を考案しました。
システムを構築した後の運用では、技術者を顧客先に派遣して運用する方法と、データセンターから遠隔で運用する方法の2種類があります。当社では、できるだけ派遣ではなく、センターから遠隔運用する比率を高めていきたいと考えています。優秀な技術者を効果的に使わないと、顧客満足度が得られないからです。
昨年度のシステム運用の売上高のうち約43%がCBO方式での受注ですが、これを中期的に50%にもっていきたい。CBOの比率を高める端的な方法は、当社のデータセンターにサーバーを預からせてもらうことです。パソコンなどは用途的に預かれませんから、こちらはライセンス管理やウイルス駆除などの管理をします。SAPなど基幹システムが顧客先で稼働していたとしても、当社のデータセンターから遠隔運用することでCBO方式を適用できます。
――SAP事業が順調のようですね。 堀越 日立グループ全体で、順次、SAPを導入することが決まっており、当社はグループ内のSAP構築の受注を得ています。当社も今年4月から全社でSAPシステムに統一し、大幅な効率化を達成しました。SAP認定コンサルタントの資格も累計573に増え、国内のシステムインテグレータのなかでは最大数を誇っています。
SAPシステムも構築するだけでなく、その後のCBOの受注につなげることで収益力を高めます。自治体向けに販売している自社開発の「e-アドワールド」でも、同じようにCBOにつなげます。
CBO事業で重要となるのが、顧客からの信頼に足る設備と仕組みを拡充していくことです。当社ではここ数年、毎年約20億円を投資して、データセンターを整備しています。現在、全国約15か所にデータセンターを開設しており、総床面積は4万1000平方メートルになります。サーバー預かり台数も昨年度末で、前年度末比1100台増の計2400台になりました。大切な情報システムを預かるわけですから、顧客からの信頼獲得が第一です。また、CBOを中心としたアウトソーシング事業は、日立グループのなかにおいて、当社の重要な責任領域です。
――中期経営計画の目標は。 堀越 05年度までに営業利益率7%以上、売上高1900億円を計画しています。このためには、PAI事業、CBO事業の両輪を強化すると同時に、国内システムインテグレータでトップ水準の人材を育成し、プロ集団を形成する必要があります。SAPやオラクルなど、各種ベンダーの資格に加えて、業務系の資格取得数も増やすことが大切です。財務会計の業務資格となると、税理士などの資格になるわけですが、これらの分野にも積極的に挑戦していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
売上構成比で21%を占めるソフト開発でも、儲からないとなれば迷うことなく絞り込み、規模を追わない。「ソフト開発は、技術基盤を維持するという意味で重要。しかし、システムインテグレータは純粋なテクノロジーよりも、顧客に即した業務ノウハウの方が大切」と割り切る。コンサルティング能力についても、「当社は顧客の情報システムを構築し、運用することを重視したい。コンサルをやらないわけではないが、専門のコンサルタント会社と組んだ方が早い」と話す。一方で、PAIやCBOなど注力事業には、果敢に挑戦的な目標を打ち出す。合理的な経営判断を迅速に導き出す、技術畑出身の経営者だ。(寶)
プロフィール
堀越 彌
(ほりこし ひさし)1940年、東京都生まれ。62年、東京大学工学部卒業。64年、同大学院数物系研究科(修士)修了。同年、日立製作所入社。国産初の大型コンピュータの開発などに従事。83年、工学博士(東京大学)。89年、中央研究所長。91年、理事。92年、コンピュータ事業本部製品企画本部長。97年、日立情報システムズ専務取締役事業企画開発本部長。03年4月、代表取締役社長。同年6月、代表執行役社長兼取締役に就任。情報処理学会フェロー、情報処理学会国際連合(IFIP)日本代表。
会社紹介
日立情報システムズは、パッケージアプリケーションソフトを基盤としたシステム構築を加速させる。パッケージの活用によりソフト開発の工数を抑え、生産性の向上につなげていく戦略だ。同時に、データセンターからの遠隔による運用・保守機能を強化することで、効率的なサポートサービスを展開する。今年4月、専務からトップに昇格した堀越彌社長は、これら「PAI」「CBO」の両分野に経営を集中していく。