「プロダクトアウトから、マーケットインへ――。営業スタイルのマインドチェンジを図る」。前社長の早水潔会長からバトンを受け、今年6月にトップの座に就いた浦野義朗社長は、新制フォーバルクリエーティブの営業体制強化に強い意欲を見せる。セキュリティ市場は成長分野とはいえ、一時の市場急伸はひと段落したかに見える。同社も昨年度(2003年3月期)の業績では苦戦を強いられた。浦野社長は、この状況をどのように打破しようと考えているのか。
現場の最前線に立ち、社員と直接コミュニケーションを
──セキュリティ市場は成長分野の1つですが、ファイアウォールは、市場の伸びがやや鈍化しているようですね。
浦野 セキュリティへのニーズは高く、将来も明るい市場であることは間違いありません。ただ、今は一番厳しい状況ではないでしょうか。
──そうなると、浦野社長は市場が最も厳しい時期に、セキュリティ製品販売会社の社長に就任したことになりますね。
浦野 確かに今年度(2004年3月期)上期については、当社としても製品の端境期にあたるだけに、厳しい局面が続きます。しかし、新たなビジネスを開拓する余地は十分にあると思っています。まず、当社の基本スタンスですが、ITセキュリティ製品をワンストップでお届けする「ベスト・オブ・ブリード戦略」として、主に海外から有力製品を日本に持ってきて、サービス、教育事業も含め提供していくという基本姿勢には変わりありません。これは早水(潔会長)路線を引き継ぎます。しかし、単に商品を売るだけでは、ユーザーに満足してもらえない時代になってきました。優れた製品は揃っているものの、営業力は少々弱っているのではないかということを、私が当社に移ってきた1か月半、感じていたのも事実です。
──それが理由で、営業本部長も兼務されたわけですね。
浦野 そうです。きちんとユーザーの声を聞いて、それぞれのユーザーが持つ悩みに合わせて製品を提供できる営業でなければならない。営業スタイルを変えるマインドチェンジを行い、蕫プロダクトアウトからマーケットイン﨟の営業を進めていくことを目指しています。ユーザーやパートナーのために当社が何をできるのか。真剣に考えて提案ができる営業を目指します。管理体制でいいますと、当社の組織体制は、社長の下に営業本部、技術本部、管理本部の3本部があります。私が入社する前は、製品企画などを担当する企画部が管理本部に属していました。
一方、営業部は営業本部の下にあったので、営業と企画が連携を取りやすい体制ではありませんでした。これではユーザーやパートナーの声にきめ細かく対応できない。そこで、管理本部の管轄だった企画部を営業本部管轄にし、同時に営業本部長に私が就任しました。これで、現場の最前線に立って指揮できるようになり、社員と直接コミュニケーションを取れる場面が多くなりました。また、営業担当者のマインドを変えることもできました。入社後間もなかったのですが、社員1人ひとりの顔と名前をすぐに覚えることもできましたよ(笑)。社員も最初は戸惑いがあったかもしれませんが、すでに順応してくれています。活気があり、これまでにない良い連携が取れています。上期内には社員の意識改革を完成させたいですね。
まずは大手企業にアプローチ、そこから中堅・中小企業の需要開拓へ
──営業体制のマインドチェンジ以外で、事業を拡大していく施策としてどんな手を打っていきますか。
浦野 当社の主力商品であるチェック・ポイント社の「FW―1」は、ファイアウォールとしてはデファクトスタンダードになっている製品です。しかし、普及がこれだけ進んでしまうと、この製品を未導入という大手企業はほとんどいないというのが実情です。しかし、最近は、本社にFW―1を導入した企業が、ネットワークをIPベースで構築し、本社だけに限らず支社・支店や関係会社、チェーン展開をしている店舗との間でも、インターネットプロトコルを介しデータのやり取りをしたいというニーズが出てきました。そうした本社を中心とするネットワーク網が出来上がった時、本社にファイアウォールを置いただけでは、セキュリティソリューションが完成したとは言えません。支社・支店から関係会社まで同じセキュリティポリシーをもって、セキュアネットワークを構築する必要があります。当社はセキュリティ専門企業です。セキュリティ専門だからこそ、お客様が新たなセキュリティを求める場面が拡大しても、それに応えることができるわけです。
──だからこそ、顧客の声を聞いて必要な製品を届ける体制づくりが重要なわけですね。
浦野 そうです。当社は何でも手を出すという企業ではなく、セキュリティというフォーカス分野をもっている。だからこそ、お客様の声を聞いて、どんなセキュリティ製品が必要なのかを見極め、それに応じた製品提供ができるのです。
──顧客層の裾野を広げるために、中堅・中小企業によりアプローチしていく方向性は考えないのですか。
浦野 中堅・中小企業は、確かに潜在需要が大きい市場ではあります。IT化全般についてもこれからですし、セキュリティへの需要は強く、アプローチしたい市場ではあります。しかし、1つひとつニーズを吸い上げ、その要望に応えていくための体制が構築できていないのが現状です。ですので、まずは大手企業の支店や支社にアプローチすることが先決だと考えています。中堅・中小企業の需要開拓は今後の大きな課題ですね。先月、LinuxOSを採用した統合セキュリティソフト「ASTARO(アスタロー)Security Linux」の国内総販売代理店契約を締結しました。新市場でどんな反響があるのか楽しみです。この製品は、独のセキュリティソフトベンダーが開発、当社の役員がかなり前から目をつけていた製品です。日本市場では初めての展開となります。
当社の主力製品は、チェック・ポイント社のセキュリティ製品になりますが、バリエーションとして、オープンソースの新商品の扱いも開始し、ラインアップを広げました。新製品は、OSにLinuxを採用し、オープンソースのファイアウォールやアンチウイルス、スパムフィルタリングなどの機能が盛り込まれている統合セキュリティソフトで、LinuxOSと各アプリケーションのすべてを1枚のCD―ROMに収録し、インストールが簡単に行えることが大きな特徴です。この特徴を生かして、アプライアンス化し販売していく展開も考えています。また、オープンソースだけに、サポート力を前面に打ち出した展開も行っていきます。Linuxは安価で提供できるメリットがあります。低価格で主な機能だけを提供する製品を取り入れる必要があると判断し、提携しました。このように、蕫伸びる製品﨟と思ったら、積極的に取り入れる機敏なマーケティング力を持ち、それを受け入れる柔軟な体制をつくっていきます。実は、このような小回りのきいたマーケティングは以前からやりたかった。しかし、前に勤めていたキヤノン販売では母体が大きかっただけに難しい面もあった。このような展開は、今後どんどんやっていきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長就任から約1か月半。フォーバルクリエーティブに身を転じてまだ間もないにも関わらず、社内の雰囲気にすっかり慣れている様子が印象的だった。それとともに、印象に残ったのが浦野社長の執務室。両壁面がガラス張りになっており、東京・西新宿の超高層ビル群を一望できる。撮影を担当したミワタダシ氏によると、「ここまで西新宿のビル群がきれいに見られる場所はあまりない。撮影に使いたいカメラマンも多いのでは」とか。一方、オフィス側に目を移すと、社員の働く姿が手に取るように見える。折に触れ「コミュニケーションを積極的に取っている」ことも短期間で慣れている理由だろうが、社員の姿をくまなく見られる執務環境も、その要因のようだ。(鈎)
プロフィール
浦野 義朗
(うらのよしろう)1948年、東京都生まれ。71年3月、立教大学社会学部卒業。同年4月、日本オリベッティ入社。80年7月、キヤノン販売入社。00年1月、ソフトウェア商品企画部長。03年5月、フォーバルクリエーティブ入社。6月に代表取締役社長に就任。営業本部長も兼ねる。
会社紹介
1991年に設立され、今年度で13年目を迎えるフォーバルクリエーティブ。情報セキュリティ製品の輸入販売を主軸事業におき、チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズやソニックウォール、ノキアなどのセキュリティ製品に独自のサービス・サポートを付加して提供。セキュリティ製品の卸販売企業として確固たる地位を築いてきた。01年12月には、大阪証券取引所ヘラクレス市場に上場を果たし、資本金を4億4000万円に増資。02年度(03年3月期)の連結業績は、売上高が前年度比3.2%減の23億700万円、営業損益は1億2600万円の赤字(前年度は3200万円の黒字)、経常損益は1億2400万円の赤字(同7900万円の黒字)、最終損益は5000万円の黒字(前年度比48.1%減)と苦戦を強いられた。だが、今年度はサービス・サポートなどが順調に推移するとみており、売上高で前年度比14%増の26億2700万円、経常利益は7100万円と黒字転換を見込む。