6月21日付でソリマチ社長に就任した反町秀樹新社長が打ち出す新戦略は、「サービスカンパニーへの転換」だ。単なる業務会計ソフトウェアの“モノ売りベンダー”ではなく、同社が力を入れている中小・零細企業を中心に、IT業務を支援できる企業へと改革の舵取りを進めようとしている。競争が激しい業界だけに、「ここが帯を締め直す時期」というのが戦略転換の理由。新社長の判断がどう成功するか、その手腕に注目が集まる。
会計ソフト市場は地殻変動の時代、「サービスカンパニー」を目指す
──社長に就任して1か月半が経ちましたが、新たな経営方針は固まりましたか。
反町 当社の強みである中小・零細企業向け業務会計ソフトウェアは、大局的に見て大きな曲がり角にあると認識しています。会計業務をパソコンで行う習慣が日本の企業に定着したのは、バブル経済が崩壊する直前の1989年。消費税が導入されたことが大きな要因です。その後、ウィンドウズ95が発売されて初心者層にもパソコンが普及し、安価な会計ソフトのマーケットが急拡大しました。ある意味で過去10数年前から現在まで、右肩上がりで成長を続けてきた業界ですが、最近になって地殻変動が起きていると感じています。この2年間は、経営体質を見直し組織体制を改めることに力を入れてきました。そんな折、篠崎紘一前社長から経営のバトンを受け取ることになったわけです。
──地殻変動とは、具体的に言えばユーザーニーズの変化ですね。そうした業界の変革期に企業として、どう対処していくかで企業の本質が問われますが。
反町 黙っていても業務会計ソフトが売れていた時代に、「顧客の視点」を見失っていることに気づきました。ソフトが売れれば収益は上がりますが、どのベンダーも安定的な顧客を確保できずに悩む構図が見えてきました。当社では、こうした「売り上げ主導」の体質を改め、「脱・モノ売り」を掲げ、顧客に満足を売る「サービスカンパニー」であると宣言し、経営改革を進めることにしました。その上で、社会の発展に寄与できる分野にこだわり、事業を進めたいと思っています。この点をアピールしていくほか、当社の中長期的な事業計画も策定します。
──「サービスカンパニー」という位置づけはわかりにくい面がありますが。
反町 当社は農業分野のソフトで他社より先んじて開発に取り組んできました。93年まで8年間続いたGATT(関税と貿易に関する一般協定)のウルグアイラウンドで、例外的扱いだった農産物が国際的なルールの下に自由化され、農家でも財務管理の重要性が高まりました。その時に、安い農業向けソフトをいち早く提供し、社会に寄与してきたという自負があります。来年4月1日からは、消費税の免税点が3000万円から1000万円に引き下げられ、従来の課税売上高3000万円超に加え、1000万円超から3000万円以下の農家も消費税納付対象になります。1000万円以上の売上高というと、1日3万円程度を稼ぐ農家はすべて消費税を納める必要があり、新たに12万人の農家に納税義務が生じるといわれています。
一般企業でも、全国で136万事業所で新たに納税義務が生じます。零細企業や個人事業者にとっては、インパクトの大きい税制改正です。当社にとっては消費税導入の時に勝るほど、大きなチャンスだと思っています。恐らく、この改正で農家は「パニック状態」に陥るとでしょう。IT知識に乏しく人材も不足している農家に、新税制に対処できるよう事前にサポートをする必要が出てきます。農家だけでなく、税制改正で困っている小規模事業者向けに、単に業務会計ソフトという「モノ」を売るだけでなく、業務を代行するネットワークを作り、支援して行きたいと考えています。今回の税制改正は、当社がサービス業に変貌していくタイミングと重なって、とてもラッキーだと考えています。
──そうしたネットワークを利用した戦略は、他の業務会計ソフトベンダーと差別化できる部分ですね。
反町 他社と差別化できる要因はほかにもあります。当社の母体が会計事務所だという点です。会計事務所のノウハウを持つベンダーだからこそできるサービスがあり、これを実行していきます。まだ正式には決定していませんが、この先、業務会計ソフトについての経営コンサルティング分野にも力を入れていくつもりです。当社には、経営コンサルやOA指導の全国組織として「SAAG(ソリマチ・アプリケーション・アドバイザリー・グループ)」という制度があります。ソリマチソフトに詳しく、経営コンサルタントとしても優秀な税理士や公認会計士、社会保険労務士、弁護士など約700人のパートナーの方々が、当社の業務会計ソフト「王シリーズ」のユーザーを支援しています。
これまで、会計事務所には、小規模事業者が経営に関する相談を持ちかけられる窓口がありませんでした。その「入り口」の役目を果たしたいと思っています。できれば、SAAGを拡充するか、新たに制度を設けるか、あるいは、昨年から新潟本社に設置した電話相談の「サポートセンター」の延長線上で、製品に付随するサービスビジネスを強化したいと思っています。
経営陣の若返りを図る、ユーザーとの深い付き合いを大切に
──サービス重視への転換で、ソフトの店頭売りは縮小する方針ですか。
反町 そんなつもりはありません。これまでは、安価なソフトとしてスタンダード版の店頭売りに力を入れてきました。しかし最近は、販売管理や会計ソフトなどの導入時に顧客が業務に沿ったカスタマイズを求めるケースが増えています。他社と同様に、ソリマチでも保守・サービスは伸びるでしょう。業務会計ソフトは、企業の基幹業務を扱うことになるので、「売りっぱなし」ではユーザーに戸惑いがあり、顧客満足を得られません。
もっとも、「サービスカンパニー宣言」をしたからといって、スタンダード版ソフトの販売を減らすわけではありません。むしろ、主力の「会計王」や「給料王」、「販売王」はラインアップを増やす予定です。今回の経営改革は、それくらい徹底した心構えが必要だ、という危機感を持っているというメッセージなんです。スタンダード版ソフトについては、ディストリビュータ経由の店頭売りだけでなく、システムインテグレータなどと協業して、販売を伸ばす仕組みが必要だと思っています。業務会計ソフトと顧客の関係は、長く使ってもらうことで付き合いが深くなります。ユーザーとそうした関係が築ける環境や制度を整えることができたベンダーが、乱立する業界で生き残れると信じています。
──7月の役員人事では、38歳の反町社長のほか、取締役2人も40歳代前半と経営陣が若返りました。
反町 若い経営陣だからこそできることが多くあると思っています。農家がパソコンを使うなど到底考えられない時代に、当社は農業向けソフトをリリースしました。農業の情報化に関しては、時代を1センチ動かしたと自負しています。当社の創業者がやったように、この業界のどこもやらないような分野を切り開くことで、「オンリーワン企業」となる。これが私の目標です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ソリマチに入社する以前は、会計士やコンサルタントとして企業の経営を監査する立場にあった。それが一転。これまでとは逆に経営を任される立場に。「タイミングが良かった」というように、バブル経済に乗り経営は順調に進んだ。同社が業務会計ソフト分野へ進出するにあたっては、反町社長が陣頭指揮を執ったが、会計ブームの追い風を受け、安定的に成長した。「僕は運が良いんですよ」と謙遜するが、それはタイミングを逃さなかったという自負にも通じる。篠崎紘一前社長が「動」だとすると、反町社長は「静」というのが、もっぱらの評判だ。しかし、「時代を1センチ動かす」と、取材中に何度も話した言葉は印象的。秘めた闘志は計り知れない。(吾)
プロフィール
反町 秀樹
(そりまち ひでき)1965年7月23日、新潟県長岡市生まれ。89年、監査法人KPMGピートマーウィック国際税務部に入社、都市銀行系のシンクタンクで経営コンサルティング業務などに従事。94年、ソリマチ情報センター(現ソリマチ)の取締役に就任。同年、反町秀樹税理士事務所を開業。03年7月、ソリマチと関連会社の日本ソフトウェアプロダクツの代表取締役に就任。税理士でありITコーディネータでもある。著書は「スモールビジネスファイナンス革命」(プレジデント社)など多数。
会社紹介
ソリマチは1972年、反町コンピュータ会計事務所から分社して新潟県長岡市で設立された。農業分野向けソフトを中心に業績を伸ばし、91年には業務会計ソフトに進出。最近では、「会計王」や「給料王」、「販売王」など一連の「王シリーズ」が、中小・零細企業向けに売り上げを伸ばしている。大手業務会計ソフトベンダーが、中小・零細企業分野を評して「飽和状態にある」と、新たな土壌を求め徐々に見切りをつけるなか、この分野に力を入れてきた。最近2年間はサービス業へ業務内容を拡大するために組織改革を進めている。