TDKブランド製品の国内販売・マーケティング事業を一手に引き受けるTDKマーケティング。販売の専門集団として、ユーザーニーズを的確に捉えることを第一に構築した流通網を武器に、TDKブランドの浸透、拡販に力を入れる。ソフト販売では先月、合計40タイトルを各1980円で販売する大胆な戦略を発表、活発な動きを見せる。その舵取り役が、長年TDKで営業畑を歩んできた大竹忠義社長だ。その頭に描かれた成功へのシナリオとは――。
アナログ記録メディアからデジタルへ、市場の大きな変化に対応
──設立から約2年半が経ちました。そもそもTDK本体から販売部門を独立させた狙いは。
大竹 TDKマーケティング(TMK)は、TDKブランド製品の国内における販売事業を一手に引き受ける企業で、販売・マーケティングに特化した専門集団です。TMK設立の背景には、市場の変化が大きな理由としてあります。設立前後の時期は、主力商材であるオーディオ・ビデオのアナログ記録メディアの販売本数が激減していました。その一方で、CD―Rなどのデジタルメディアが台頭するなど、市場が急速に変化していました。ユーザーが何を求めているのかを再度見つめ直すことを痛感させられ、販売・マーケティングに特化した事業を手がける専門企業が必要と実感したのです。
独立したことにより、「生の情報」が入手しやすくなりました。ユーザーの声により近づくことができます。「情報の量と精度を上げる」。これが設立当初、最も重要視したことです。記録メディアなどは、設立当初からTDKからTMKを通して販売店やディストリビュータに提供していましたが、これまで一部のパソコンソフトは、TDKが直接、販売店やディストリビュータへ提供し、TMKを介さない流通体制を敷いていました。ですが、これも「生の情報」を目的に、今年4月にメディアなどの製品と同様、TMKから提供する体制に整理しました。今では全製品をTMK経由で提供する体制となっています。
──設立当初の見通しに比べ変化はありますか。
大竹 市場が端境期にあることも要因でしょうが、ユーザーのニーズが何で、どの販売網で最も商品が売れているのかなど、当社が描いていたイメージと多少のズレがあったのも事実です。そこで、設立から約半年経った頃に、マーケティング力、商品力、人材育成の3つに基盤をおいた構造改革を行いました。この3つを強化ポイントに、さまざまな施策に取り組んでいます。昨年度にビジョンをまとめ上げ、今年度はこれを実行に移している段階です。
低価格のパソコンソフトを投入、コンビニやスーパーでも販売
──記録メディアだけでなく、パソコンソフト、外部メモリ、インクジェットプリンタ用紙、パソコン関連機器の5分野を手がけています。パソコンソフトでは先月下旬、1980円という低価格の新シリーズ計40タイトルを発表しました。大胆な価格戦略ですね。
大竹 パソコンのソフト販売に関しては、TDKの時代から数えると、20年ほど前から教育関連ソフトを中心に手がけてきた実績がありますし、培ったノウハウには自信を持っています。現在では約100タイトルを揃え、年間約10億円を売り上げるビジネスに成長しました。これまでは教育分野など範囲を絞った市場で展開していましたが、そこからもう一歩飛躍したいと、1年ほど前から新たな方向性を模索していました。「ユーザーが何を求めているのか」。ただそこだけに着目した結果、この普及価格帯でのシリーズ化に踏み切りました。
パソコンソフトは今は低迷期にあるかもしれませんが、ブロードバンドの普及や無線アクセスの整備など、ユビキタス環境への進化が進み、今後の成長には大きく期待が持てます。その半面、ユーザーからは「高い」、「購入場所が少ない」、「何を買ったらいいかわからない」という声が非常に多い。わかりやすい製品を適正な価格で、幅広い販路で提供する。そうすれば、これまでソフト購入に縁遠かったユーザーを中心に、新しい顧客を獲得できます。ユーザーや流通業者の声を集約したうえでの戦略で、成功の糸口は見えています。
──TMKがこれまで手がけていたソフトは5000―8000円が主流ですね。低価路戦略に走れば、これまで以上に本数を売り上げることが最低条件になります。
大竹 商売である以上、赤字を出すことはもちろん許されません。パソコンソフトはゲームソフトのように、1本のソフトが大ヒットするようなことはあり得ません。ラインアップを豊富に揃え、継続させていくことが大事なビジネスです。細く長く、幅広い販路で、買い求めやすい価格で提供していけば、知名度やブランド力が向上し、これまで手付かずだったユーザーにアプローチできます。現段階では40タイトルまでしか発表していませんが、これで終わりではありません。新製品をどんどん投入していきますよ。短期的な目標数値も定めています。今年度(2004年3月期)までに、85万本を新シリーズで見込んでいます。
──ソフト販売は、これまで家電量販店やパソコンショップなど、販売経路を限定していました。しかし、今回の新シリーズでは、コンビニエンスストアやスーパーなどの流通網も活用しますね。
大竹 TMKには、記録メディアなどで培ってきた、他のソフトベンダーにはない流通網があります。これは他ベンダーとの差別化要素であり、大きな武器です。これまでコンビニ展開してきたソフトは、明らかに価格が高かったように思います。コンビニにソフトを買いに行く人はほとんどいないですよね。となると、衝動買いを促すような商品でなければならない。つまり、パソコンショップや量販店などと違って、衝動買いの気持ちを起こさせる価格帯であることがまず大前提です。1980円は、十分その範囲内だと思います。そのうえで、人が集まるところに置くことは販売本数を稼ぐうえで、シンプルですが重要な戦略です。よって、メディアなどの販売網も初めて生かそうと判断しました。コンビニやスーパーなどの販売店に話を持ちかけた時も感触は良かったです。販売店の要求とマッチしたことも要因の1つですね。
──そのほかの商材として、力を入れている分野は。
大竹 DVDメディアには相当力を入れています。他社との差別化要素は十分にあります。今月に入って、当社ではDVDメディアの新シリーズを3タイトル揃えました。独自のコーティング加工技術を採用した傷に強い製品や、写真と同様の画質をメディアにそのまま印刷できるDVDメディアなど、TDK独自の技術を活用した高付加価値製品をラインアップに加えました。ここ数年、DVD関連事業は2倍以上の成長で推移しています。今後も、いかにユーザーに高付加価値を提供できるかを念頭において、成長市場でのシェア獲りに挑みます 一方、メモリやパソコン周辺機器、インクジェットプリンタ用紙は、先行メーカーが数多くいる状況で、なかなか競合他社に追いつけない。ですが、TDKブランドを広めていくうえで、大きな意味を持つ商品です。TDKの独自技術はこの分野にもたくさんあります。他の分野の商品同様、ユーザーの声に忠実に、高付加価値の製品を提供し続け、TDKの強みを実現していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「TDKの香りがする製品」。社内でのキャッチフレーズだ。約80年にわたって培ってきたTDKブランドにふさわしい製品とは何か。それを再度見つめ直そうというのが狙いで、TDKの澤部肇社長も口にする言葉だという。大竹社長によると、TMK設立時は、「TDKブランド以外の他社製品も取り扱いを検討した」そうだが、今は「TDKの3文字にこだわる」とし、扱う製品の100%がTDKブランドだ。「100人いたら100人に喜んでもらえる製品を作るのがメーカーの役目。そのうえでのマーケティング。良質な製品開発のために、ユーザーの声を忠実に拾っていく」と、“質”が大前提であることを強調する。10回以上も口にした“商品力”という言葉が印象的だった。(鈎)
プロフィール
大竹 忠義
(おおたけ ただよし)1945年4月10日、愛知県生まれ。74年6月、東京電気化学工業(現TDK)入社。81年1月、磁気テープ販売事業部広島営業所長。92年4月、記録メディア事業部中部統括営業所長。93年7月、TDKの子会社で電気機器販売の電気堂常務取締役に就任。98年11月、同社代表取締役社長。01年4月、TDKマーケティング代表取締役社長に就任。
会社紹介
TDKの販売事業部門が分社化し、2001年4月にTDKの全額出資でスタートしたTDKマーケティング(TMK)。国内におけるコンシューマ製品の総販売元として、記録メディアやパソコン周辺機器、オーディオ機器、ソフトウェアなど、TDKブランド製品の国内販売・マーケティング事業を手がける。家電量販店やカメラ販売店をはじめ、スーパーやコンビニエンスストア、レンタルビデオ店など流通チャネルは多岐にわたる。パソコンソフトの販売は約20年前から手がけており、教育関連ソフトなどを中心に、100タイトル以上を揃え、年間約10億円を売り上げる。資本金は10億5000万円。従業員は265人。東京本社を中心に、全国6か所の営業拠点と3か所の物流拠点で展開している。