チャネルビジネスすべてを主力に――。今年6月26日付で富士通パーソナルズのトップに就任した瀬井秀社長が掲げる戦略だ。リテール系のパーソナルビジネスに加え、企業顧客を獲得するシステムチャネルのビジネスと、携帯電話の小売業であるモバイルビジネスの強化を図る。「利益率を高めるために、まず各分野のビジネスを伸ばすことが重要」と強調する。
ハードは利益率が低下、得意分野の裾野を拡大
──社長就任から3か月が経過しました。富士通パーソナルズの方向は固まりましたか。
瀬井 量販店への卸売りを中心としたパーソナルチャネルを通じたビジネスは、堅調に売上高と利益を伸ばしています。一方、パーソナルチャネルと同様、設立当初から展開しているシステムチャネルを通じた企業顧客向けのビジネスは、売上高、利益率ともに伸び悩んでいるのが現状です。そのため、当面はシステムチャネルのビジネスを伸ばすことに力を入れていきます。パートナーとしては、システムインテグレータやソフトハウスなど全国規模の大手企業5社に加えて、各地域の地元企業約500社とアライアンスを組んでいます。企業向け事業に関わる社内組織としては、パートナー向けの専任営業が約170人います。ビジネスを拡大する体制が整ったといえます。システムチャネルのビジネスは企業が対象なので、富士通グループの他社と競合するケースもあります。しかし、当社がこのビジネスを強化することで、結果的に富士通ブランドの製品が拡販できればよいと考えています。
──2001年に富士通モバイルテレコムと合併し、モバイルビジネスへも進出していますね。
瀬井 実は、このモバイルビジネスも、売上高を伸ばすためにテコ入れしなければならない課題の1つです。このビジネスは、通信キャリアの1次代理店として機能し、直営店の運営と、卸販売も行っています。卸販売の方は、ディーラーを通じて2次取扱店が600店舗に達していますが、当社の直営店は32店舗と少ない。今後は直営店を徐々に増やしていく予定です。当社の売上比率は、パーソナルチャネルのビジネスが全体の65%と、半分以上を占めています。一方、システムチャネルのビジネスは20%、モバイルビジネスが15%です。得意分野のビジネスを伸ばしつつ、他のビジネスを拡大することで全体の売上高、利益の拡大を図るつもりです。
──昨年度(03年3月期)は、売上高が2792億円でした。今年度(04年3月期)の見通しは。
瀬井 今年度は2900億円と、100億円強ですが売上増を目指しています。利益面では、昨年度に比べて横ばいを見込んでいます。しかし、当社が行っているすべてのビジネスを得意分野にすることができれば、利益は確実に伸びていきます。
──主力であるパーソナルビジネスの拡大策について。
瀬井 各地域、各店舗ごとにきめ細かいサポートを行っていくことが重要になります。パソコンを例に挙げると、富士通では35モデルのラインアップを揃えていますが、すべての量販店に全モデルを提供することがよいとは限りません。ニーズがなければ在庫として残ってしまいます。各地域、各店舗に最適なモデルを提供していかなければなりません。そのため、企業と地域をマトリックスでとらえた営業を展開しています。具体的には、支社や支店など各地域では営業担当者が各店舗を回り、売れ筋になっていて在庫がない商品、売れているがまだ在庫がある商品、売れずに在庫として残ってしまった商品など、商品の状況を細かく把握して、そのデータを本社に伝えます。その情報をもとに本社の営業担当者が、「このモデルはA店では売れているが、B店では売れていない。B店で在庫になっている商品をA店に持っていこう」といった決断を迅速に下し、販売店に提案します。
流通商社として行うべきことは、販売店の在庫データをもとに流通在庫をなくし、売上増につながるよう提案することです。今年に入ってからは、携帯電話を活用して、地域の営業担当者が情報やデータなどを迅速に本社に伝えるシステムを構築しました。販促活動でも、各店舗のニーズを吸い上げ、地域の特性を生かしたプロモーションを展開をしています。パソコンおよび関連機器などハードウェア製品は、低価格化が進む中で利率率が低下しているのが現実です。当社と販売店の双方が利益を出せる環境作りが重要になってきています。
パソコン需要はまだまだ伸びる、高齢者のニーズ開拓も視野に
──パソコンおよび関連機器市場の今後をどのようにみていますか。
瀬井 ブロードバンドネットワークにより、映像と音楽の融合など、パソコンを取り巻く環境が激しく変わっている、と感じています。テレビチューナーやDVD搭載のパソコンが売れているのは、パソコンが企業ユース中心から、家庭の日常生活にまで浸透していることの証拠です。しかも、パソコンはテレビとは違い、能動的な情報収集を実現します。そのような利便性を消費者にアピールしていくことが、パソコン市場の拡大につながるでしょう。日本の家庭でのパソコン普及率が6割以上となり、販売が蕫踊り場﨟にきているとの見方がありますが、1人1台がネットワーク社会本来のあるべき姿だと考えます。
──掘り起していけば需要はまだまだ出てくるということですね。
瀬井 55歳以上の層に大きな潜在需要があるとみています。この層の中には、企業をリタイアした年齢の人でも、それ以前に業務でパソコンを活用していたという人は多い。しかし、「パーソナル」で活用する場合、パソコン経験者も含めて、使い方とトラブルへの対応がわからないことが往々にしてあります。画像を自在に加工する方法など、楽しさを伝えることや、しっかりとしたサポートを提供すれば確実に購入する層だといえます。この年齢層の需要を開拓する策として、地域家電店をB to B(企業間の電子商取引)で結ぶ「FITS(富士通パーソナルズ・インターネット・トレーディング・サービス)」を99年から展開しています。会員は4000店舗を超えており、売上規模が40億円に達しています。 FITSの強みは、地域に密着した店舗が会員となっているので、消費者に最も近い存在にあることです。パソコンは、地域密着型の店舗が消費者に説明することで高齢者を中心とした需要を開拓しているケースが多く、富士通ブランドが、さまざまな層に浸透することにつながっています。チャネルの拡大に加え、充実したサポートを提供できるネットワークを構築した意味は大きいと言えます。加えてFITS会員350店舗では、パソコン教室「パソビ庵」を開いており、消費者にとって何でも聞ける「町のソリューションセンター」としての機能を果たしていると言えるでしょう。
FITSの受発注は、インターネットを通じて行いますので、在庫によるコストアップがほとんどないことも特徴です。今後は、IT業界以外の企業とのアライアンスも重要になってくると考えています。たとえば、消費者の不安材料を取り除くための「防犯」、「健康」などを切り口に新しいビジネスを作り出すことも、需要開拓には欠かせないことです。つまり、パソコンをコアシステムにして、IT業界以外のビジネスと連携することも事業拡大の1つの戦略になります。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「常務として富士通パーソナルズに来たのは1996年だが、最初に課せられた使命が、企業革新プロジェクト。その頃は、富士通グループ6社の統合から1年余り経過していたものの、なかなか企業文化の統一が図れていない時期だった」と振り返る。6社それぞれ企業文化の違いを把握し、議論を尽くして、意見の異なる点を掘り下げることで徐々に会社としての一体感を確立したという。社長就任前は、自分から動き回るほうだった。就任後は、「よく見る、よく聞く、よく考える、よく我慢する、そして決断する」と、じっくり構えることの必要性を意識するようになった。「自分で動く前に、社員を納得させて動かすことが役目」。沈着冷静な指揮官に徹している。(佐)
プロフィール
瀬井 秀
(せいすぐる)1943年10月13日、兵庫県生まれ。70年6月、富士通入社。85年6月、東京支社東京中央第一支店第一販売部長。87年6月、西支社神戸支店姫路支店長。91年12月、西支社大阪支店中央大阪支店長。94年6月、西日本営業本部九州支社長などを経て、96年10月に富士通パーソナルズ常務取締役に就任。00年6月、専務取締役を経て、03年6月26日に代表取締役社長に就任。
会社紹介
富士通グループ6社のパーソナル機器販売部門を統合し、1995年7月1日に設立。以来、富士通のコンシューマ向け製品の販売を主力に事業を伸ばす。98年には、消費者を対象にしたさまざまテーマを研究し、その成果を製品開発やマーケティング戦略などに生かす「生活者研究室」を設置。この研究室で開発された製品として、簡単・安心がテーマの初心者向け「ラクラクパソコン」(03年1月発売)がある。99年、地域家電店がインターネットを使って受発注する「FITS(富士通パーソナルズ・インターネット・トレーディング・サービス)」を開始。現在、同サービスの会員数は4000店舗を超える。
01年8月に、富士通モバイルテレコムと合併し、携帯電話の小売り事業に進出。設立当初から事業化している企業向けシステム販売も本格的に取り組んでおり、リテール系のパーソナルチャネルビジネス以外でも、売上高・利益の拡大を図る。今年度(04年3月期)の売上高は2900億円を見込んでいる。