クレジットカードの決済・認証システムなど、金融機関やカード会社向けに特化したシステム構築事業を展開するインテリジェントウェイブ(IWI)。そのIWIがいま、新たな事業戦略を打ち出している。これまでの個別のシステム開発からサービス事業への転換を図ると同時に、セキュリティ事業を急拡大させようとしている。その狙いは何か。創業者としてIWIを引っ張り続ける安達一彦社長に、事業戦略を聞いた。
クレジットカード市場をターゲットに、サービス事業に力を入れる
──昨年度(2003年6月期)の業績は厳しい結果に終わりましたが。
安達 昨年度は確かに苦戦しました。受注単価の減少と消費者金融向けの勘定系業務パッケージ「Prosper(プロスパー)」の不調が影響し、期首の見通しよりも約6億円利益が減りました。受注単価の減少は、経済全体が低迷していることから仕方ないにしても、「プロスパー」の受注が思うように伸びなかったのは誤算でした。研究開発費が、当初の見通しより約3億円増えたことも、増収でありながら減益になった要因です。しかし、昨年度にかなりの金額を投資した研究開発部門が、多くの新製品・サービスを生み出しました。その核を担う分野が、セキュリティとサービス事業です。サービス事業について言えば、目玉としてはVISAやマスターカードのインターネット上の認証を行うホスティングサービスを開始しました。これまでは、ユーザーごとにシステムをカスタマイズして提供する形しかありませんでした。しかし、それではインテグレーションするシステムエンジニアの数にビジネスが限定されてしまい、利益は上がりません。当社のシステムを使ってもらって、使った分だけ料金を頂く。そうしたサービスの提供が利益率を高めるために最適だと判断したわけです。
また、ユーザーは自社でシステムを構築する必要がなくなるため、当社の中心ユーザー層である大手企業以外の中小企業にも手軽に利用してもらえる。ユーザーの裾野拡大にもつながるわけです。日本はクレジットカードの使用率が米国に比べて低く、まだまだクレジットカードの利用頻度は伸びる余地がある。幅広いユーザーを取り込むことにおいても、ASPやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といったサービス事業は伸びると感じています。10年後にはシステムインテグレーション事業と同等の規模に、サービス事業を成長させていきたいと考えています。さらに、資金面でも毎月決まった利益を確保できるので、安定した経営を行えるのもメリットです。当社は年商約60億円と会社が小さい割に、億単位の大きな案件が大半なので(笑)。
──セキュリティ事業の強化は、かなり力を入れている分野に見えますが。
安達 セキュリティはもともと、当社のユーザーが金融業やカード会社が中心であることから要望が高かった分野でした。そのニーズに合わせ個別に展開してきた中で、大きなビジネスチャンスがあると感じ、01年度(01年6月期)から本格的に事業部として展開し始めました。セキュリティ市場は、IT需要が低迷している昨今の状況のなかでも、数少ない成長分野であることは言うまでもありません。私は現段階で年間2000億円規模の市場と捉えており、これが2007年には6000億円まで成長するとみています。これまで、クレジットカードの不正利用検知システムを国内で展開することが、セキュリティ事業の中心でしたが、昨年度から韓国や台湾、タイでも代理店を通して販売開始し海外展開に乗り出しました。新製品の開発にも取り組み、特に先月発売した内部情報漏洩防止システム「C―WAT(シーワット)」は、当社のセキュリティ技術の集大成といえる製品で、引き合いもすでに多く、手応えを感じています。「シーワット」は、当社の顧客層である金融業、カード会社だけでなく、今後は地方自治体や官公庁、一般企業にもユーザー層を広げていきます。
コンシューマ市場へも進出、店頭販売をスタート
──コンシューマ向けセキュリティソフトの販売も手がけ始めましたね。
安達 競争が激しいことは百も承知です。ただそれ以上に、ビジネスチャンスが大きいし、入る隙間は十分にある。セキュリティ事業を強化している以上、ブランド力をつける意味でも、最も影響力のあるパソコン向けウイルス対策ソフトを手がける必要性があったのです。当社のウイルス対策ソフト「ウイルスチェイサー」は、世界一と言っても過言ではない検索エンジンを搭載しており、容量も8MB程度と非常に小さく競争力は十分にあります。良い製品を出せばユーザーはついて来る。これはどの市場や分野でも一緒です。昨年11月の発売から約8か月間、ダウンロードのみで展開してきました。販促活動は特にしていませんが、すでに3万人以上のユーザーを獲得しています。当社のユーザーは、パソコン上級者層が中心で、その上級者が製品の優位性を認めてくれたから3万ユーザーまで増えたのだと感じています。
──7月からは店頭販売にも進出しました。
安達 ユーザー層の拡大が単純な理由です。それとともに、やはり認知度やブランド力を強める意味で重要な販売経路だと思い、コストはかかりますが踏み切りました。当社はコンシューマ向けのソフト販売はこれまで展開していなかったので、ノウハウはありません。そこで、店頭向けソフト販売で実績のあるアプリックス販売から営業譲渡を受け、ノウハウを吸収しました。サポート体制も充実させるなど基盤を整え、他社と競合して十分戦える体制は確立しています。来年には10万ユーザー獲得、その後は毎年2倍ずつ増やしていくつもりです。競争が激しい市場だけに、長い目で見て、事業を継続して拡大し、徐々に大手ベンダーに迫っていきます。今はまだ計画段階ですが、企業向けに展開して行くことも考えています。このために、コンシューマ向けのセキュリティソフトは、「ウイルスチェイサー」だけにとどまらず、ラインアップを増やす計画です。年内にはリカバリソフトなど2タイトルを発売する予定で、今後も立て続けに投入します。
──店頭のユーザー層も幅広いですが。
安達 店頭販売では、一般消費者よりもSOHOや10―20人規模の零細企業にターゲットを絞ります。「店頭で売る企業向けソフト」という位置づけです。SOHOや零細企業向けは、IT需要が眠る大きな市場です。それにも関わらず、この市場に今アプローチしているベンダーは少ないのではないでしょうか。規模が小さくても、企業である以上は情報システムを止めることはできないし、セキュリティに対しても十分な対策をとらなければならない。セキュリティに会社の規模は関係ないんです。しかし、多額のIT投資はできない。そのような悩みが零細企業やSOHOにはあります。ここにアプローチしていきます。単純なソフトの販売だけでなく、付加価値を乗せて企業ニーズを意識した形で展開していきます。初心者ユーザーも念頭に入れつつ、あくまで主軸は企業向けです。5年後には当社はセキュリティベンダーとしての顔が注目を集めているかもしれません。
眼光紙背 ~取材を終えて~
安達社長は29歳で会社を設立して以来、経営トップのポジションを降りたことがない。
「誰もやらないからやっているだけ。気が付いたら30年も過ぎてしまった」と笑う。
約30年にわたって社長というキャリアの持ち主は、業界を見渡していてもそうはいないだろう。
日本タンデムコンピューターズの社長時代に、クレジットカードの決済システムに需要があると目を付け、「特化した専門企業を創りたい」と、IWIを設立。クレジットカード決済システムでは約70%のシェアを持つ独り勝ち企業になった。2001年にはジャスダック上場も果たした。
今年IWIは創業20周年。安達社長は来年還暦だ。不透明な時代に、30年のキャリアを持つベテラン社長の手腕に注目が集まる。(鈎)
プロフィール
安達 一彦
(あだち かずひこ)1944年2月、大阪府生まれ。67年3月、横浜国立大学工学部造船工学科卒業。67年4月、日本ユニバック総合研究所(現日本ユニシス)入社。70年8月、日本シー・ディー・シー入社。74年10月、日本マークを設立し、代表取締役社長に就任。79年6月、日本タンデムコンピューターズ(現日本ヒューレット・パッカード)代表取締役社長。84年12月、インテリジェントウェイブを設立し、代表取締役社長に就任。社団法人日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会(JPSA)副会長、アジアICTオーガニゼーション(AICTO)会長も務める。
会社紹介
インテリジェントウェイブは、1984年設立。金融機関やカード会社などにターゲットを絞り、クレジットカードやICカードなどのオンラインシステムや、銀行および証券ディーリングシステム、電子決済に関する基幹業務システムの構築事業を手がける。01年度(01年6月期)からは、セキュリティ分野を新たな柱として事業を開始、昨年度(03年6月期)は全売上高の約6%を占めている。コンシューマ向けソフトの販売も開始するなど、これまでにない取り組みを進めており、事業領域の拡大に活発な動きをみせる。昨年度の業績は、売上高で前年度比7.0%増の58億9100万円と増収になったが、利益は落ち込み、営業利益が同36.5%減の11億7700万円、経常利益が同37.1%減の11億6100万円、当期純利益が同46.2%減の5億3900万円となった。従業員は245人。01年6月にジャスダック上場。