内田洋行の中期経営計画が本格的に動き始めた。2006年7月期に向けた3か年計画では、顧客本位の徹底、人材育成、パートナー企業との連携強化を打ち出す。数値目標は、連結経常利益50億円、有利子負債150億円以下を目指す一方で、積極的な売上拡大策は打ち出していない。売上至上ではなく、次の成長に向けた足場固めに重点を置く。
3か年計画で粗利益率を25%以上に、人事制度の改善も進める
──3か年の中期経営計画で示した連結経常利益50億円は、かなり堅実な数字に見えます。
向井 そうとも言えます。昨年度(03年7月期)の粗利益率は単体で約21%でした。これを06年7月期に約25%以上に改善する計画です。仮に5%改善できたとすれば、昨年度の連結売上高約1500億円をベースに単純計算すると約75億円の利益改善となります。昨年度の連結純利益が約21億円ですから、経費を現状維持のままだとして、これを足していくと100億円近い数字になります。しかし、これはあくまでも数字の話であり、実際は、この3か年で改革していかなければならないことがいくつか残っています。情報分野で言えば、「顧客企業に、より真っ直ぐに向き合え」と、関連する役員・社員全員に強く求めています。顧客の要望に対して、いかにコミット(確約)できるかどうかが、業績を大きく左右します。顧客へのコミットが、業績に直結するということです。逆に、そうでないと、ビジネスとしておかしいですし、永続的な成長は得られません。
──一昨年度(02年7月期)の情報関連事業の業績は厳しい内容でした。
向井 02年7月期は、情報関連事業の連結売上高約496億円に対して、約8億円の営業損失を出しました。この時点で、「全員で、顧客の状況をすべて洗い出せ」と命令しました。
何が課題であり、どんな技術が不足し、そのためにどの部分が弱点になっているのか――。結局、顧客企業とわれわれの双方がお互いに不満足の状態だからこそ、売り上げも利益もあがってこないわけです。ここ2年ほどで、「品質向上委員会」や「見積審査会」など、それぞれの案件を客観的に分析する社内組織を作りました。これらの監査組織をフルに活用して、業務内容を見直しました。具体的には、顧客の要求とわれわれの認識にズレはないか。見積りよりも過大な仕事を引き受けて、右往左往していないか。技術スタッフがきちんと揃っているかなど、綿密に調べ上げました。
これを受けて、昨年度(03年7月期)は、顧客に対してコミットできる組織に変えようと、全社を挙げて取り組みました。その結果、情報関連事業の収益は、売上高こそ前年度比2.8%減の約483億円にとどまりましたが、営業利益は約12億円へと大幅に改善しました。また、この事業における単体ベースの粗利率も17.6%から24.0%へと改善し、ソフト&サービスへの移行を推し進めた効果も出すことができました。組織的にも、顧客にコミットできる体制へと変革を急いでいます。何か解決しなければならない課題が出てきたとき、営業担当者やSE(システムエンジニア)の間で、「あいつだ、こいつだ」と責任の所在が行ったり来たりするのは、そもそもおかしな話です。この反省から、今年度からは営業とSEとを1つの組織に統合する作業を進めています。これまで、システム開発は主に子会社のウチダインフォメーションテクノロジーで行ない、内田洋行本体は営業を中心に手がけてきました。今後は、営業とSEの指揮系統を一本化し、顧客に対するコミットをより確実に遂行できる体制にします。
──3か年計画で、人事制度も改善する方針を打ち出されています。
向井 人事制度については、いくつか考えていることがあります。基本的には、株主重視の米国型、従業員重視の日本型の両方ともおかしいと思っています。企業経営では、株主も従業員も両方とも重要な要素であり、優劣をつけるべきではありません。昨年度までの改革で、人事制度から「年功序列」という文字を完全に削除しました。今年度からは、新しい人事制度をいかにうまく運用していくかという段階に入ります。内田洋行の人事制度の基本は「長期雇用」です。長期雇用といっても、年功制ではありません。
まず、35歳までは定期昇給があります。昇給のスピードは個人差があります。しかし、最低限子供2人くらいを育てられるような、内田洋行の社員らしい生活ができる水準です。これはもちろん、豪邸に住んでベンツに乗れるという意味ではありませんよ(笑)。その後、35歳からは定期昇給はなく、完全な成果主義、能力主義に切り替わります。係長、課長、部長、SEなど、それぞれの役職に見合った給料になります。課長なら課長にふさわしい仕事をしてもらうという、成果主義を大前提とした期待給と言い換えることもできるでしょう。ただ、そのなかで重要なのは、数字を出す社員を評価する一方で、「がんばっている人」も、それに応じて評価するということです。
「スーパーカクテル」の方向性を論議、パートナーのノウハウも吸収
──主力商材である統合型業務ソフトウェアライブラリー「スーパーカクテル」事業はどうですか。
向井 スーパーカクテル事業の拡大は、パートナーとなるシステムインテグレータの協力が欠かせません。当社の伝統的な販売店組織「全国ユーザック会」では、現在約100事業所が加盟し、スーパーカクテルの売り方の成功パターンを日々研究しています。内田洋行としては、パートナーがどの市場でスーパーカクテルが求められているのかを綿密に調査し、情報を提供します。また、実際にビジネスを遂行するうえでの収益モデルの構築を支援。さらに、システムの開発体制などスタッフ部門の組織はどうあるべきかというところまで踏み込んで、パートナーと対等な立場で、議論を深めていくという姿勢を打ち出しており、今後もこれは変わりません。
次期スーパーカクテルの開発も進んでいますが、私がすべてを仕切っているわけではないので、この点は担当事業部に任せてあります。すでに陳腐化している部分があるなら、積極的に改善しなければなりませんが、一方で、ウェブ対応などでどんどん肥大化していくのもどうかと思います。ユーザック会での議論を見ていると、とりわけ特定業種に詳しいパートナーが、その特定業種に対してどうしたらスーパーカクテルを適用できるかと盛んに研究しています。
こうした、パートナーのノウハウもたくさん蓄積されています。スーパーカクテルの1つの方向性として、業種展開しやすい形態であるべきという考え方もあるでしょう。昨年度(03年7月期)までの3年間、これからの3年間、ともに堅牢な成長基盤を着実に構築する期間だと捉えています。一般にスクラップ&ビルドと言いますが、お金を投じてスクラップするのではなく、筋肉質にするところはしっかり鍛えつつも、積極的に取り壊すことはしない方針です。今後3年間は、ビルド&ワープをコンセプトとして、次の成長に欠かせない基盤づくりに投資していく考えです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
98年7月の社長就任以来、今年度で6年目になる。業績は一概に右肩上がりというわけではないものの、これまで一度も改革の手を緩めることなく、力強い経営手腕を発揮してきた。「この1年、原点回帰。顧客を見つめて、よそ見をするな」と、繰り返し社員に説いてきた。
「顧客の要求に対するコミットなしで、業績をコミットすることはできない」人材育成とパートナー支援には、一貫して力を入れる。「人を育てるより、人を育てられる人材を育成したほうが合理的。こうした人材が、当社のみならず、パートナー企業の人材教育にも役立つ」と話す。「今は、体質強化を図る時期」。顧客やパートナーの満足度向上が、将来の成長に結びつく。(寶)
プロフィール
向井 眞一
(むかい しんいち)1947年7月生まれ、神奈川県出身。71年3月、明治大学経営学部卒。同年、内田洋行入社。経営企画部長、広報部長、知的生産性研究所長、開発事業部長などを経て、93年10月、取締役就任。96年10月、常務取締役、マーケティング本部長兼管理本部長。97年7月、専務取締役。98年7月、代表取締役社長に就任。趣味はゴルフ。
会社紹介
内田洋行は、今年度(2004年7月期)から06年07月期までの3か年の中期経営計画を発表。昨年度(03年7月期)に約288億円あった有利子負債を、06年7月期までに約150億円に圧縮したうえで、連結経常利益50億円以上を目指す。昨年度の連結業績は、売上高1493億円で前年度比6.1%減になったものの、経常利益では同694.2%増の約30億円と大幅増益となった。この背景には、情報関連事業の収益率が拡大したことがあげられる。また、教育関連分野では、今年度から、これまでのCAI(コンピュータ支援教育)事業を、ICT(インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー)事業へと名称を変更し、収益拡大が見込める同分野でのICTビジネスの立ち上げに力を入れる。今年度の見通しは、売上高が前年度比1.8%増の1520億円、経常利益は同23.3%増の38億円を見込む。