東芝のサポート・サービス事業を担うITサービスが、システムインテグレータとの連携強化を進めている。ITサービスは昨年10月、東芝グループのサポート会社・部門が統合しスタートした企業だが、あえて「東芝」のブランドを冠せず、マルチベンダーでのサポート・サービス事業の獲得に力を入れる。グループ内外のシステムインテグレータと密接に連携するなどの施策を打ち出し、売上高ベースの統合効果で今年度(2004年3月期)約30億円を見込むなど、新しいビジネスモデルの構築を急ぐ。
IT分野を総合的にサポート、4つのプロジェクトで売上げ増へ
──経営統合して、1年余りが経ちました。
市川 昨年10月に、東芝ITソリューション(現・東芝ソリューション)の保守部門と、通信システム系の東芝通信テクノス、券売機など自動化情報システム系の東芝ソシアルテクノス、および東芝本体の社内分社であるe―ソリューション社(現・東芝ソリューション)の保守企画部門が統合して、ITサービスとなりました。現在、東芝系のサポート・サービス専門会社として、グループ内外にサービスを提供しています。社員は約1900人、昨年度(2003年3月期)の単体売上高は約494億円です。昨年度の業績は、上期が事業会社3社の合算値、下期がITサービスとしての実績値を合計した形になっており、今年度(04年3月期)がITサービスとして初めて通期業績を出す年度となります。
設立時は東芝100%の子会社でしたが、この10月に東芝ITソリューションと東芝本体のe―ソリューション社が統合し、新しく東芝ソリューションとしてスタートしました。これにともない、当社の株主構成は東芝100%から、東芝ソリューション80%、東芝20%へと変わりました。いずれにしても、今は東芝系100%の資本ですが、社名に「東芝」を冠しておらず、将来的には資本提携などを通じて変化することは十分に考えられます。統合して一番の効果は、情報、通信、自動化情報システムなど、IT分野を総合的にサポートできるようになった点です。情報と通信の融合もさることながら、駅の自動券売機、自動改札機など近年の自動化情報システムの中身は、ITと通信を組み合わせたコンピュータシステムそのものです。これまで、これら3つの分野を3つの会社でサポートしていたわけで、それを統合すれば効果が出て当然です。
──具体的な統合効果は?
市川 売上高ベースでの統合効果は、今年度で約30億円を見込んでいます。この1年間、社内で4つのプロジェクトを走らせ、このプロジェクトが成果を出しつつあるのが売上げ増の原動力となっています。具体的には、まず最初に情報、通信、自動化情報システムの3つの保守サービスの統合、2つ目にコンピュータの設置やネットワークの敷設など工事を伴う保守サービスの強化、3つ目に東芝グループとの新しい仕組みづくり、最後にITサービス独自の新規事業の開拓です。これら4つのプロジェクトを合計すると、売上高が今年度約30億円のプラスになるということです。
もう1つ。これは当社の施策ではありませんが、東芝本体のe―ソリューション社と東芝ITソリューションが今年10月に統合し、「東芝ソリューション」として発足しました。東芝のシステムインテグレーション関連事業を統合し、独立した別会社として再編されたことで、より機動的になります。当社は東芝ソリューションの保守サービス領域も担当しており、東芝ソリューションの事業が拡大すればするほど、当社のビジネスにも追い風となることが見込まれています。
──サポート・サービスの領域も、マルチベンダー化が当たり前になっています。
市川 その通りです。東芝グループにおいても、東芝や東芝ソリューションそのものがマルチベンダー化しています。当社に至っては、マルチベンダーを前提としたサービス体系を組み上げており、今後も東芝および東芝以外のメーカーとの連携を強化していく方針は変わりません。数字の上からも、マルチベンダー化の進行が読み取れます。昨年度実績ベースでは、東芝グループ向けの売上げが全体の約62%を占め、グループ外に向けた売上高(外販比率)は38%でした。今年度は、マルチベンダーの保守サポートなどを足がかりに、グループ外への販売比率を41%に高める計画です。東芝グループ向けの比率は相対的に減り、59%になる見込みです。05年度(06年3月期)には外販比率をさらに51%に増やす計画です。
マルチベンダー化は、富士通サポート&サービス(Fsas)やNECフィールディングなどの大手サービス・サポート会社から中小サポート会社まで、全般的に進んでいます。われわれは大手に比べてずっと小回りが利く規模です。大手が手薄になりがちな中堅どころの顧客企業に対して、手厚いサービスを提供できる全国ネットワークを構築している強みがあります。
システムインテグレータと積極的に連携、社員の技能向上にも力を入れる
──ハードウェア保守では、差別化が難しいとも言われます。
市川 アプリケーション保守ができてこそ、顧客の要望に応えられると考えています。当社は、ハードウェア、基本ソフト(OS)、ミドルウェアまでの保守には対応できるものの、すべてのアプリケーションに対応できるわけではありません。この点は、システムインテグレータとの積極的な連携でカバーしていく方針です。システムインテグレータは、主にアプリケーション層のシステム構築で差別化を図っています。一方、われわれは機材の設置から立ち上げ、保守・運用サービスを得意としています。システムインテグレータは、営業力と機動性を発揮し、新しい案件を次々と発掘、新規のシステム構築を受注することで成長します。システムインテグレータと組むことで、業務システムなどのアプリケーションがスムースに動き続けるようサービスを提供します。
──人材教育、人事制度に対する施策はどうですか。
市川 当社では、年間1人あたり平均約2週間の研修時間を設けています。これらの研修を通じて、現在約3000件の資格を保有しています。保守サービス要員1人あたり、平均しておよそ2資格程度持っている計算になります。これを05年度までに5500資格に増やします。1人あたり平均およそ4資格を保有することになります。
当面は、制度的な変更の予定はなく、研修時間を増やすなど自己研鑽が中心になるものの、資格を取得した際の報奨金は従来比で2倍支払います。報奨金は初級システムアドミニストレータからありますが、要求度合いが高い上級の資格については、通常で最高10万円だったところを今は20万円に引き上げています。さらに来年4月以降、人事制度に取得した資格を組み入れます。たとえば、入社から主任までは最低どれだけの資格が必要で、主任から上に昇格するにはさらにどれだけに資格が必要かを明確に示します。これにより、資格取得数を増やし、社員全体の技能を高めていきます。
──今後の経営目標をお聞かせください。
市川 今年度からの3か年計画で、05年度に単体売上高600億円、経常利益30億円を目指します。マルチベンダー化の推進、システムインテグレータとの連携強化、社員の技能向上など、サービス・サポート専門企業として、事業拡大に全力を注ぐ方針です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ハードウェア保守は、今後増えない――。「昨年度、売上げ全体の約21%だったシステムサービス系の比率を、05年度には34%に増やす。一方で、ハード保守は67%を50%にまで圧縮する」だが、アプリケーション保守は、どのサービス・サポート会社でも解決しきれていない難題である。市川社長は、「アプリケーションが得意なシステムインテグレータとの連携を強化すれば、おのずと決着がつく。マルチベンダー化を進めるうえでも、システムインテグレータとの連携強化は欠かせない」と考える。システムインテグレータとサービス・サポート会社との連携が、脱ハード保守、マルチベンダー化、アプリケーション保守への進出という難題を解決すると考える。(寶)
プロフィール
市川 忠夫
(いちかわ ただお)1942年、東京都生まれ。68年、東京大学大学院工学系研究計数工学専攻卒業。同年、東芝入社。96年、情報通信・制御システム事業本部技監。98年3月、退社。同年4月、東芝エンジニアリング入社。同年6月、取締役。00年6月、常務取締役。01年9月、退任。同年10月、東芝ITソリューション常務取締役。02年10月、東芝ITソリューションのカスタマサポート&サービス事業部および東芝通信テクノス、東芝ソシアルテクノスなどを統合したITサービスの代表取締役社長に就任。
会社紹介
ITサービスは2002年10月、東芝ITソリューション(現・東芝ソリューション)の保守部門、東芝通信テクノス、東芝ソシアルテクノスの3事業会社と、東芝の社内カンパニーだったe―ソリューション社の保守企画部門(現・東芝ソリューション)が統合して誕生した。社員数約1900人のうち、約1100人は東芝ITソリューションから移行した人員が占める。東芝ITソリューションは、もともと東芝エンジニアリングのIT部門が独立した企業で、今年10月には東芝本体の直販部隊であったe―ソリューション社と統合し、東芝ソリューションとして再スタートを切った。ITサービスは、新体制で立ち上がった東芝ソリューションと組むだけでなく、他のシステムインテグレータとも積極的に連携していくことで、サービス・サポート専門企業としての事業拡大を目指す。