中堅・中小企業向け市場をソフト・サービス分野の“主戦場”と捉える富士通にとって、グループ会社の富士通システムソリューションズ(Fsol)の存在感は高まる一方だ。4年前にFsolが開発した中堅企業向けERP(統合基幹業務システム)ソリューション「WebSERVE(ウェブサーブ)」は、今では富士通ブランドの「共通業務ソリューション」として全国に流通する。聖五社長は、「Fsolは中堅企業をコツコツと開拓するなかで“得意ワザ”を得た」と自負するが、中堅・中小市場の顧客獲得争いはこれからが本番。富士通グループの中堅・中小向けビジネスの最右翼として、Fsolは“正念場”を迎えている。
3つのキーワードを武器に“眠れる企業”を掘り起こす
──SE(システムエンジニア)やシステム構築に関連するIT企業にとって、中堅・中小企業向け市場がこの先、“主戦場”となりそうですが。
秦 中堅・中小市場は2極分化しています。元気が良くIT投資に積極的な企業と、景気が上昇すればIT投資を検討したい企業とに分かれます。当社がサポートする企業は、「勝ち組」で景気の良い話題が豊富。その部分だけ見ると、中堅・中小市場には明るい兆しがあります。
しかし、今後は、当社が把握できていない成長の見込める企業をどう掘り起こしていくか。それが課題です。そのためのキーワードは「スピード」と「低価格」だと思います。これに、システムインテグレータの使命でもある「確実に」を加えた3つをキーワードに、商品ラインアップとサポート体制を整備するのが、中堅・中小市場で勝ち残る重要な要素となりそうです。
──勝ち残る原動力となる商品としては、どんなラインアップをしていますか。
秦 昨年末には、中堅・中小企業向けeビジネス製品のうち、「迅速に、低コストで、確実に」を狙った新統合ソリューション「WebSERVE(ウェブサーブ)スマートソリューション」の出荷を開始しました。これは、導入実績で2000社を超えるイージーオーダー型のインターネット統合ソリューション「ウェブサーブ」の実績をもとに、ウェブ版の新ERP(統合基幹業務システム)として集大成しました。
すでに引き合いが20社以上からあり、10社以上で受注が内定しています。会計管理、人事・給与管理、販売管理を切り口にシステム導入を図りたいとする顧客が多く、そのニーズに応えた商品としてスタートは順調です。このソリューションは、従来の商品のように東京本社主導でサポートするのではなく、首都圏5地域の事業所や富士通関連のディーラーなどとパートナー連携したり、本社のパートナー担当も10人から30人へ増員し、支援体制も強化しました。
──スマートソリューションが加わったことで、市場のターゲットが広がる。
秦 ウェブサーブは年商300億円以上の中堅企業や一部大企業に導入しています。スマートソリューションは、年商30─100億円規模、あるいはシステム構成を弾力的に運用することで年商300億円規模の企業まで使えるシステムです。これまでの顧客アプローチの仕方は、IT予算の上限などを指標に方針を決めてきました。しかし、スマートソリューションの登場により、「こんなに安く、こんな経営上のメリットがあるシステムが導入できます」と、付加価値を訴える前向きな営業展開ができるようになりました。
──従来の市場とは異なる新たな市場開拓の必要性があったのですか。
秦 顧客の要望や要件ありきで市場を開拓しようとすれば、従来の市場は“飽和状態”になります。スマートソリューションは、IT投資を手控える“眠れる企業”を掘り起こすために、安く、スピーディにシステム構築できるアプローチの一手段として利用します。このようなアプローチができれば、首都圏の市場はまだまだ開拓の余地が残っています。当社は富士ゼロックスやリコーなどのOA機器ベンダー、銀行向けリセラーなどとパートナーを組んでいますが、その顧客数は数千社の規模になります。こうした顧客への提案で伸びる要素は十分にあります。
“得意ワザ”を持ったSE、コンサルティングも語れる集団に
──Fsolが開発したウェブサーブは、富士通ブランドの「共通業務ソリューション」として全国に流通しています。
秦 ウェブサーブだけでなく、スマートソリューションもFsolの手を離れ、富士通ブランドにすべく、富士通本体と連携して富士通チャネルで拡販できるか、広島市で集中的に市場を開拓する実証実験をスタートしました。富士通の黒川博昭社長からも「3か月で結果を出せ」と尻を叩かれていますので、当社からもSE3人が広島市に出向し、成功事例を積み上げ、今後は九州地区や関西地区にもこの実験領域を広げる予定です。
当社には、SE会社として生きるノウハウと糧が豊富にあります。さらに、小さい規模の顧客向けにビジネスをすることで、当社のコンサルティング力や提案力は磨かれると思います。富士通のSE子会社として補完的な役割を果たすのではなく、富士通の中堅・中小市場の最右翼部隊として、独自色を強めます。
──社長は常々、独自色を色濃くする上で“得意ワザ”を磨く重要性を主張していますが。
秦 顧客ニーズに応じたアプリケーションを開発するSE(在籍人数約2000人)が多数在籍しているのは、1つの強みです。そのリソースを生かし、製造・流通・サービス業を主体にウェブサーブの業種ソリューションサービスのテンプレート(ひな形)を36種生み出してきました。また、中小企業会計のERP化やe─Japan関連、中堅の医療関係など、特化業種を深堀りしています。ウェブサーブの業種別ソリューションサービスは、毎年30─50商品を開発できる能力を持っています。このノウハウを蓄積することで、単なるSEではなく、システム構築の上流工程やコンサルティングなどの提案力という“武器”が備わった“得意ワザ”を持ったSEが育ってくると考えます。
──Fsolのビジネスは上昇カーブを描いているといえますね。
秦 小さい仕事で数をこなすことで、SEのスキルや能力は高まりました。今後は、もっと上流を目指し、コンサルティングも語れるSE集団にしたいと考えています。そのため、現在、システム構築のライフサイクルに基づくシステム導入方法のビジネスモデルを作成しています。システム設計やソフトウェア開発、運用など、各段階のノウハウだけでは食っていけません。システム部分を請け負うだけでなく、会計などの業務をASPなどでアウトソーシングで受け、情報分析して随時、経営改善を目指す提案をすることで、顧客への関わりを深めることができると思っています。
──昨年10月には中央青山PwCシステムコンサルティング(CSC)の株式81%を取得し、新会社「シナンシャル・システム・コンサルティング」を設立されました。
秦 CSCが販売している連結会計パッケージ「SUPER COMPACT(スーパー・コンパクト)」を富士通のERPパッケージ「GLOVIA(グロービア)」シリーズに組み込みました。これによりSE会社が会計ソリューションを扱えるようになり、連結会計や国際会計などの分野でも、会計パッケージベンダーに対して優位に立てます。
──富士通本体は、SE子会社の再編作業を進めていますが。
秦 “得意ワザ”を持つSE会社を横展開できる仕組みを早期に作るべきです。3─5年後を見据え大胆に再編する時期にあり、“待ったなし”だと思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長はSE(システムエンジニア)出身だが、エンジニア独特の専門用語で捲し掛ける口調は皆無だ。だが、自宅には“愛犬”AIBO(アイボ)が鎮座するなど、経営者になっても、エンジニアのこだわりは捨てていない。昨年末は、Fsolがサポートする企業を巡回。ユーザーの声を直接聞き、現場志向で戦略を練る姿勢は、黒川昭博・富士通社長にも共通する。それだけに、「富士通本体の政策には疑問点も多い」と、実態に基づく“歯に衣着せぬ言動”は貴重だ。取材中に再三口をついて出る標語は「得意ワザ」。Fsolが上昇気流にあるとはいえ、やはり「生き残り策」に余念はない。富士通のSE子会社再編の動きとリンクして、中堅・中小市場を担うFsolの動きは注目に値する。(吾)
プロフィール
秦 聖五
(しん せいご)1942年9月11日生まれ、大分県出身。65年、富士通信機製造(現富士通)に入社。富士通本体のSE(システムエンジニア)部隊の一員として、長年、製造・装置系や石油元売り関連企業向けシステムで腕を磨いてきた。その間、SE出身の黒川昭博・現富士通社長と机を並べたこともある。92年、富士通システムソリューションズ(Fsol)の前身である富士通東京システムズの取締役に就任。96年12月からは富士通関西システムエンジニアリングの社長を務め、98年6月には再度、富士通本体に戻り、ソフト・サービス事業推進本部主席部長に就任。同年10月、SE子会社の合併準備でFsol専務取締役に復帰し、02年から現職。
会社紹介
1999年10月、関東1都6県と山梨県エリアにある富士通傘下のSE(システムエンジニア)子会社が合併し、約5000社以上をサポートする中堅企業向けビジネスの雄として、富士通システムソリューションズ(Fsol)はスタートした。合併母体となった富士通東京システムズは、富士通グループで最初に設立されたシステムインテグレータで、同社の創業から数えると、Fsolは今年、創立25周年を迎えることになる。
合併時から販売しているERP(統合基幹業務システム)ソリューション「WebSERVE(ウェブサーブ)」は、昨年末で導入先が累計約2000社に達した。昨年、「ウェブサーブ」は富士通グループの共通ブランド商品に昇格。ローカル商品の位置づけを脱し、富士通グループの中堅・中小市場向け「共通業務ソリューション」として“全国区”の地位を確立した。その生みの親であるFsolには、中堅・中小市場を切り開く“最右翼”としての期待がかかる。
01年12月には、アジアのソフト開発拠点として「Fsol上海」の開発能力を拡大。03年10月には、中央青山監査法人の子会社と業務提携し、会計関連ソリューション専門の「シナンシャル・システム・コンサルティング」を設立。会計・経営コンサルティング分野とITの統合を図るなど、ビジネス領域を広げ、「富士通の“下請け”に甘んじない」(聖五社長)独自色の強いIT企業として飛躍を目指している。