NTTソフトウェアが大胆な組織再編を実施した。大型プロジェクトの急減と中小型案件の増加という売上構造の変化に加え、製品提供からソリューション提供へという顧客ニーズのシフトに対応するためだ。昨年7月の抜本的改革の指揮を執ったのが、同年6月に就任したばかりの鈴木滋彦社長だ。「完全にV字回復に向かった」と言い切る。
2003年度は減収だが増益、確実にV字回復へ
──昨年7月に組織再編を実施しました。進捗具合はいかがですか。
鈴木 2003年度(04年3月期)の業績見通しは、売り上げが355億円と昨年度の399億円より減少するものの、経常利益は5億円と黒字への転換を見込んでいます。当社は99年度をピークに、3年連続で調子が悪かったのですが、今年度は完全にV字回復に向かっていると自信をもって言えます。構造改革に着手したのは昨年7月1日からですが、それ以前の昨年1月末から改革案を考えていましたので、動き出してから1年強が経過しました。
──組織再編を行った理由は。
鈴木 こうした組織改革を行ったのは、会社を取り巻く環境が変わったためです。当社は99年度に500億円規模の売り上げを達成しましたが、売り上げの50%がNTTグループからの、しかも長期間で行う大型プロジェクト案件で占めていました。そういったプロジェクトは、年を追うごとに少なくなってきており、代わりに短期間で行う中小型案件が増えています。02年度は大型案件が13%、中小型案件が87%でした。これまでは、1年以上をかけて行っていたプロジェクトが、3か月程度で終了する案件が多くなりました。現に、99年度は受注件数が1500件でしたが、02年度は2500件に増えています。そうなれば、仕事の仕方を変えなければならなくなる。NTTグループからの案件も減り、外部からの案件が増えたのに、それに対応できる組織ではなかったため、あやふやなままで案件を獲得し、結果的にトラブルを起こすといったケースもありました。
また、顧客ニーズも変わってきています。当社は、組織変更前まで15種類の製品別に事業部を設け、顧客にパッケージ製品を提供していました。パッケージを納めていれば顧客ニーズに応えることができた。しかし、最近ではソリューションを求めている顧客が多くなっています。しかも、ある部門が得た顧客ニーズの情報を、その組織のパッケージではニーズに応えることができない、あるいは大型案件を抱えているため人員を割くことができない、という理由で案件を獲得しなかったケースもありました。他部門にその情報を伝えれば、顧客ニーズに応えられる可能性があったにも関わらずです。社内で情報の共有化が欠如していたともいえます。改革というのは、今までのやり方を変えなければ改革ではありません。当社では、以前からのやり方が染み付いており、大幅な組織変更を行わなければ変わらなかったといえます。しかし、組織再編を実施するためには、社員がついて来なければ何もなりません。よって、「なぜ組織再編を行わなければならないのか」という理由を明確にして遂行しました。
──案件獲得のチャンスを増やすということで、ソリューション事業部制の組織に変えたのですね。
鈴木 そうです。従来の製品別事業部を当社が得意とする「モバイル&セキュリティ」、「ネットワークサービス」、「エンタープライズ」という3分野のソリューション事業部とし、各ソリューション事業部の中に3─4の事業ユニットを編成しました。営業体制はコーポレートレベルのアカウントマネージャー、現場サイドの営業SE(システムエンジニア)を配置しています。さらに、各ソリューション事業部の横断組織として、「生産性革新センター」を設置しました。このセンターは“火の見やぐら”のような存在で、リスクマネジメントを実施する“火消し”の役割を果たすほか、全技術者のスキル情報や稼動情報をデータベース化して、人材運用の効率化を図ることで生産性を高める狙いです。
営業力の強化で、直販比率を高める
──組織改革を行ったことで新規顧客が増加するなどの効果は出ているのですか。
鈴木 ビジネスを拡大するためには、「技術」、「市場」、「顧客」という3つの視点を考えなければなりません。技術のノウハウもなく、未開拓の市場を攻めたとしても顧客を獲得できないといえます。新規顧客を獲得するためには、当社の強みを見極めたうえで、選択と集中を行えるかがカギになります。プラットフォームを提供している既存顧客に対し、そのプラットフォームを生かしたアプリケーションは提供できます。しかし、何もないところから、ただ単にアプリケーションを提案しても顧客が満足するソリューションを提供できません。実力以上のビジネスを行うことが良いとは限りません。売り上げがいったん縮小しても構わないと考えています。今年度は、組織改革により従来の受注型ビジネスに代えて、提案型のビジネスが展開できる体制を作りました。また、この組織が上手く機能するように人材育成も徹底し、ビジネスを拡大する土台を作りました。あとは、3年以内に“筋肉質”の企業として生まれ変わるように力を注ぎます。
──今後の課題は。
鈴木 営業力の弱さを解決するため抜本的な改革を実施しましたが、これに続き、営業担当者1人ひとりを、どの分野でも通用する営業に育てることが必要です。今は、NTTグループに人脈が強い営業担当者と、NTT以外の顧客担当者を同行させるなど、お互いの持ち味を生かし情報共有するよう徹底させています。地道ですが、確実にスキルアップが図れます。一方、当社の強みは最先端の技術を開発できることだと自負しています。最近では、米カール社との共同開発により、この会社が持つ次世代ウェブ言語「カール」にセキュリティ機能を拡充したシステム開発・実行環境「サイファークラフト/カール」の販売を開始しました。こうした市場で生かせる最新技術力で、いかに顧客のビジネススタイルを変えるソリューションを提供できるかが重要です。営業力を強化すれば、さらに飛躍できると確信しています。
──営業力を強化するために、他の企業とアライアンスを組むことは考えていますか。
鈴木 これまでは売り上げの7割がNTTグループからの受注ということもあり、当社が最先端技術を開発してNTTグループに販売してもらうという連携がありました。しかし、市場環境の変化で、自社の営業力を上げなければ新規顧客は開拓できなくなっています。そのため、自社の営業力強化を第1に考えています。まずは、NTT以外でのビジネスを4割まで引き上げます。また、将来的な収益目標として、2010年度に売り上げ1000億円規模、経常利益100億円規模の企業に成長することを掲げています。6年後に今の約3倍に引き上げることは途方もない話に聞こえますが、以前は500億円規模の企業でした。6年で2倍に引き上げると考えれば、十分に達成できる数字です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
鈴木社長は、NTTソフトウェアの副社長に就任した当時、「業績不振の問題解決に役立てようと、社員の仕事のやり方、会議や挨拶の仕方などを毎日ノートにつけていた」という。 「日々チェックして気づいたのは、生意気な社員が多いことだった。生意気なのは自己主張の証。この個性を生かすことができれば会社を変えることができる」との思いから、大胆な改革案を立てた。 「社員は『新しい副社長が来ても、どうせ会社は変わらない』と考えていたのではないか」と笑う。そういった社員には、「辞めてもらって結構。しかし、辞めたことを後悔させてやるからな」と言い放った。 良否をはっきり言う性分。しかも、「有言実行の男」として社員に焼き付いたはずだ。(郁)
プロフィール
鈴木 滋彦
鈴木滋彦(すずき しげひこ)1945年生まれ、東京都出身。68年3月、東京大学工学部電子工学科卒業。同年4月、日本電信電話公社(現NTT)入社。97年10月に常務理事通信網総合研究所長兼ネットワークサービスシステム研究所長、98年7月に取締役研究開発本部副本部長兼通信網研究所長、99年7月に取締役第3部門長兼情報流通基盤総合研究所長などを経て、02年6月にNTTソフトウェア代表取締役副社長。03年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
NTTソフトウェアは、NTT研究所の技術者が中心となり1985年に発足。以来、先端IT技術とソフトウェアパッケージのインテグレーション技術をコアにビジネス展開してきた。なかでも、ネットワーク系から情報処理系までを広くカバーする技術が、同社の強みになっている。大型プロジェクトに基づくシステム開発で、99年度(00年3月期)には売上高500億円を超える企業に成長した。しかし、これをピークに市場環境の変化から業績不振が続き、昨年度(03年3月期)は売上高399億円、経常損失8000万円という結果を強いられた。そのため、昨年7月にプロダクト事業部制だった組織をソリューション事業部制に変更。営業面で、コーポレートレベルのアカウントマネージャーを配置するなど、コンサルティングから顧客ニーズに対応できる体制を整えた。今年度の売上高は前年度比12・3%減の350億円と減収の見通しだが、経常利益は5億円へと黒字転換を見込む。