ソニーマーケティングが、営業力の強化に乗り出している。これまでは営業に強いというよりは、マーケティングに強いという印象があった。しかし、現場の営業と量販店との連携をさらに深めていくことで、営業にもマーケティングにも強い会社として成長を目指す。2003年4月に就任した宮下次衛社長は、「当社はマーケティングカンパニーであり、セールスカンパニーでもある。必要なのは“原点回帰”を徹底すること」と強調する。
特約店とのコミュニケーションが製品拡販のヒントにつながる
──2003年4月に社長に就任されて、1年が経過しようとしています。ソニーマーケティングの方向性は固まったでしょうか。
宮下 ソニーマーケティングは社名に“マーケティング”と付いていますが、同時にセールスカンパニーでもあります。そのため、マーケティングカンパニーらしさに加え、セールスカンパニーらしさも前面に出すことが必要です。なかでも、量販店さんへの営業に関しては、当社がもつ各製品のメッセージを売り場を借りてどう伝えていけるかがポイントになります。当社は、AV(音響・映像)機器でテレビの「ベガ」や関連機器、IT機器でパソコンの「バイオ」やデジタルカメラの「サイバーショット」、それに付随するメディアなど数多くの製品を市場に出しています。ですので、今後は量販店さん向けの営業について、製品カテゴリーで分類した営業担当者を配置し、より専門性を高めていきます。オールラウンダーも重要ですが、より専門性を高めていくことが今後の市場には重要です。
──これまで重点的に行ってきたことは何ですか。
宮下 社長に就任した当初、“原点回帰”というテーマを掲げ、「営業としての原点回帰」と「商品としての原点回帰」の2つを徹底することが重要だと社員に伝えました。「営業としての原点回帰」を実現していくうえで、最も大切なことは特約店さんとのコミュニケーションです。私自身も、特約店さんとのコミュニケーションを図るため、「100日間で100法人を回る」という訪問計画を打ち立てました。もちろん、たった1回の訪問だけで特約店さんとのコミュニケーションが図れるとは思っていませんが、1回目がないと2回目はありません。コミュニケーションは、“情報の交換”でなく、“自身の交換”です。「100日間で100法人を回る」という訪問を実行したことで、特約店の方といろいろと話し合ったり、自分の目と耳と鼻と皮膚を使って現場の状況を感じ取ることの重要性を改めて認識しました。
当社は、情報を伝達するためのインフラという点で相当進んでいると自負しています。ホームページは充実させていますし、さまざまな商品情報や物流情報などを送り出すためのインフラも整備しています。しかし、最後はやはり顔と顔を合わせないと本当のコミュニケーションは図れません。メールやウェブは、あくまでもツールであってコミュニケーション手段としては最適ではないといえます。一時期は、このインフラだけに頼ったことも正直ありました。しかし、今では当社の営業担当者の多くがコミュニケーションと、ウェブなどやメールなどのインフラを上手く活用していると自負しています。
──「商品としての原点回帰」についてはどうですか。
宮下 「商品としての原点回帰」という点では、製品力の強化が何よりの強みになります。高付加価値の製品を発売すれば確実に売れる。“ソニーならでは”の製品と当社ならではのマーケティングでいかに市場を活性化していけるかが、需要を創出するカギだと考えています。製品の発売時期に関しては、たとえばDVDレコーダーの市場投入が若干遅れたことは否めません。しかし、「すご録」や「PSX」については、多くの量販店さんとコミュニケーションを深め、いかに拡販していくかという提案を量販店さんごとに行えました。おかげ様で、年末年始の販売が好調だったという声を多くの量販店さんから聞きました。また、年末年始に向けて発売したデジタルカメラ「サイバーショットT1」の販売も順調でした。この製品は、薄型のボディに大画面の液晶を搭載したことが特徴です。今年に入ってからも販売台数を伸ばしています。
強みはAVとIT両方のノウハウ、戦略的製品投入も計画
──03年を振り返って、AV機器市場、パソコンおよび関連機器市場は、それぞれどのような状況だったとお考えですか。
宮下 両市場とも、全体としては昨年前半が厳しい状況でした。ですが、AV分野は後半に入り、薄型テレビやDVDレコーダーなどデジタル家電を各メーカーが発売したことで市場が盛り上がったといえます。一方、パソコンは昨年10月に実施された個人向けパソコンのリサイクル制度により、市場が読みにくかったといえます。しかも、低価格パソコンやホワイトボックス、中古パソコン市場などが立ち上がってきていますので、さらに市場が読みにくくなるとも見ています。しかし、低価格にして台数が売れたとしても、利益につながらなければ意味がありません。当社では、パソコンの出荷と在庫のオペレーションをしっかり管理しています。ですので、決して低価格には走りません。今後も、高付加価値な製品を提供していく姿勢は変わりません。
──今後は、パソコンなどのIT関連機器とデジタル家電機器が競合するといった見方もあり、市場での競争が激しさを増す可能性があります。そのような状況下で差別化戦略はありますか。
宮下 以前は、当社もAVとITの融合を意識して販売を展開してきたのですが、現在は市場自体がAVとITの融合という状況に移行しているといえます。パソコンにAV関連機能を搭載することが当たり前になってきていますので、次のステップも考えていかなければなりません。当社の強みは、AV機器とIT機器の両方をもっていることで、AV領域とIT領域の双方を理解できるノウハウがあることです。
デジタル家電は、エンドユーザーが使うにあたって明確で分かりやすい。パソコンは、何でもできるという広い使い方がある半面、デジタル家電と比べて使いやすいというわけではない。当面は、それぞれの特徴を理解し販売していくことが拡販につながるポイントといえます。パソコンでいえば、デジタル家電にはない用途としてネットワークに接続できることが挙げられます。さらには、パーソナル化した製品力の強化と、HDDも含めた用途提案がカギになってくるでしょう。また、薄型テレビはCRT(ブラウン管)テレビの買い替え、DVDレコーダーはVTRの置き換えなどで需要が増えている状況です。普及後を踏まえた次の段階も視野に入れていかなければなりません。
──中期的にはどのような製品計画をもっていますか。
宮下 ソニーは、06年度で創立60周年を迎えます。1つの節目に向け、戦略的なプロジェクト製品の投入を計画しています。ソニーとの連携を深め、その製品1つひとつを開花させていくことが当社の役割です。具体的に何を出すのかは、今の段階で申し上げることはできませんが、近く第1弾の製品を発表できる予定です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ソニーマーケティングの営業力強化に向け、社員にハッパをかけるために宮下社長が行った「100日間で100法人を回る」という訪問計画。「実は、自分にプレッシャーをかけるためのものだった」と打ち明ける。パソコン専門店や家電量販店、放送局、プロダクションなど、さまざまな得意先を訪問した。パソコンおよび関連機器市場が厳しい状況にあるのは、「メーカーが魅力のある商品を出していないため」と、多くのショップが漏らす。現場に行き、こうした不満をぶちまける理由を目の当たりにした時、ソニーマーケティングとして行うべきことが見えてくる。宮下社長も、「実際に回ってみて、コミュニケーションの重要性を再認識できたことが大きなメリット」だったようだ。(郁)
プロフィール
宮下 次衛
宮下次衛(みやした つぎえ)1950年8月1日生まれ。73年4月、ソニー商事に入社。78年に東京中央ソニー販売、80年にソニーオブカナダへの赴任などを経験。90年、四国ソニー販売常務。93年、ソニーの国内営業本部ゼネラルオーディオ営業部統括部長。96年、ソニーオブカナダ副社長。00年、ソニーマーケティング東京第2支社長。01年、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ常務取締役。03年4月、ソニーマーケティング社長に就任。
会社紹介
ソニーマーケティングは、ソニー製品のマーケティングや販売、サービスなどの提供を目的に1997年に設立された。03年度(04年3月期)は、同社の営業と、量販店など販売パートナーとのコミュニケーションを図っていくことを徹底。宮下社長自身も、「100日、100法人」という訪問を実行した。販売パートナーとのコミュニケーション強化により、製品力だけではない、ソニーの強さを一層引き出すことを狙う。なかでも、パソコンに関しては用途提案を行っていくことを重要視し、量販店とのコラボレーションにより低価格パソコンやホワイトボックス、中古パソコンとは異なった魅力を訴えていく。今年4月1日には組織改革を実施する。コンシューマ分野のマーケティングでは、AV(音響・映像)機器とIT機器を融合させた展開も行うことで、迅速な市場対応体制の確立と、競争力強化につなげる。