ERP(統合基幹業務システム)パッケージ開発のワークスアプリケーションズは、カスタマイズを一切行わない直販スタイルで急成長を遂げている。大企業が必要とするさまざまな機能をパッケージで網羅することで、導入や運用コストを削減し、納期短縮も実現。パッケージで節約できたIT投資の余力は、「企業の競争力の源泉であるコアコンピタンス(中核領域)の強化に振り向けるべき」と、牧野正幸・代表取締役最高経営責任者(CEO)の“IT投資論”は明快だ。
“カスタマイズで収益”を改めるべき。節約した余力をコアコンピタンスに
──個別カスタマイズを必要としない大企業向けERPパッケージ販売で、急速に業績を伸ばしています。
牧野 当社の出発点は、国内大企業のIT投資が、海外の大企業に比べROI(投資対効果)が非常に低いことに対する問題意識から始まっています。この考え方は、今も変っていません。中小企業ならROIが得られなければ資金繰りが厳しくなり、すぐに回っていかなくなるわけですが、大企業の場合は何とかなってしまう。IT化するより、手作業でやった方が安かったという話も少なくありません。欧米には、SAPやオラクルなど著名なERPベンダーがありますが、日本にはありません。これが国内大企業のROIが低い大きな要因の1つになっています。海外ベンダーの製品は、海外の企業には合うかもしれませんが、国内大企業には合わないことが多い。さらに、国産でも、大企業に対応をうたったERPパッケージはありますが、残念ながら中堅企業向けの延長線上にあるとも聞きます。
中堅企業向けの延長線上にあるパッケージの問題点は、機能が少ないことです。中堅・中小企業ではさほど問題にならなかった機能不足も、大企業では何十人と人手がかかるほど“大規模な例外処理”に発展する可能性があるからです。また、海外のERPベンダーは欧米ユーザーの要求には応えられても、国内ユーザーの要求には応え切れていない。従来は国内のシステムインテグレータがカスタマイズしたり、テンプレートをあてがったりすることで、国内ユーザーの要求に応えてきました。これは、本来のパッケージベンダーの役割やインテグレータの本業から外れている、と私は考えています。
──ERPのカスタマイズに対し激しい拒否感を示していますが、インテグレータの多くは、ERPパッケージのカスタマイズで多くの収益を得ているのも事実です。
牧野 パッケージのカスタマイズは、顧客企業とパッケージベンダー、インテグレータの3者がともに得をしない方策です。カスタマイズが必要ということは、顧客企業の求める機能がパッケージで実現できていないという証拠です。つまり、機能が足りなければ足りないほど、IT業界側が潤うという構造だと思います。逆に、パッケージベンダーが思い切ってパッケージソフトの機能を増やすと、それにともなって儲からなくなるという構図は、どう考えても間違っています。
当社のパッケージは、顧客企業が必要とする機能が揃っているため、カスタマイズが必要ないのです。これまで、およそ250の企業に納入してきましたが、カスタマイズで必要となる追加コストは一切発生していません。パッケージの機能強化には特に力を入れており、年2回のマイナーバージョンアップと、年1回のメジャーバージョンアップを通じて、最新のERPパッケージに仕上げています。次のバージョンアップまで改善を待たなければならないのは、オペレーションに従事する担当者は我慢ならないかもしれませんが、カスタマイズによる追加コストがかからないので、経営者には満足していただいています。
──システムインテグレータから見れば、「仕事を奪われる」危機感を拭いきれないとの声も聞かれます。
牧野 ERPパッケージのカスタマイズで収益を得るという考え方を改める必要があります。当社の言うERPとは、経営資源を効率良く、有効に活用するためのプランニングです。一般にERPは統合基幹業務システムと呼ばれていますが、誤解を招きやすい表現です。ERPとはつまり経営資源の有効活用ですから、“省力化”が中心となります。ERPで省力化した分を、企業の競争力の源泉であるコアコンピタンスに投資すべきです。コアコンピタンスとは「他社には存在しない強み」の部分ですから、この部分に当てはまるパッケージソフトなどありません。システムインテグレータは本来、顧客企業のコアコンピタンスを強化することに全力を挙げるべきであり、パッケージソフトで対応できる部分に、貴重なインテグレータの経営資源を投下すべきではありません。
インテグレータの使命は、顧客企業を成功に導くこと
──顧客企業の情報システムに関する保守運用費は、IT予算全体の6割近くを占めているという統計もあります。保守運用費の比率を減らし、その分を国際競争力を高める戦略領域に新規投資する姿勢が求められています。
牧野 ERPなどの情報システムは、いろいろな要因によって保守運用費がかかる傾向があります。たとえば、テクノロジーの変革ではメインフレームからオープン環境、リアルタイム処理、ウェブ対応へと変化しました。また、国際会計基準の導入や成果主義の人事制度など、社会トレンドによっても変更が生じます。また、法律・規則の変更などでもシステムを変えなければなりません。パッケージを活用してこれら保守運用費を極力抑えることは、突き詰めれば顧客のIT予算のうち新規投資の比率を高めることにも結びつきます。システムインテグレータのビジネスモデルは、保守運用費の比率を高めることにあるのではなく、国際競争力を高められる新規投資を受けて、インテグレータとしての腕を存分に発揮し、顧客企業を成功に導くことが本命だと考えます。
──これまで直接販売が中心でしたが、システムインテグレータとの協業も新しく始まるそうですね。
牧野 早ければ、今年7月からビジネスパートナーの資格認定制度「カンパニー・プロフェッショナル」(仮称)を始めます。当面は、製品の操作技能を認定する「オペレーティングスキル」やシステムの運用管理技能を認定する「運用管理スキル」、システム導入時の「導入プロジェクト・マネジメントスキル」など、数種類の資格認定を検討しています。これまで、顧客企業の情報システム子会社と協業することはありましたが、この資格認定制度を通じて、独立系インテグレータと協業する可能性が出てきました。資格認定を持っているインテグレータに、われわれの方からビジネスを紹介する可能性もあります。ただ、間接販売チャネルを増やすのが主目的ではなく、あくまでも顧客企業へのサービス拡充に重点を置いています。カスタマイズも認めません。システムインテグレータの本業は、あくまでもパッケージでは実現できない顧客企業の戦略領域だと考えているからです。
将来的に、直販でなければならないということはありませんが、顧客企業の要求をダイレクトに受け止めるには、直販方式の方が利点が多いことは確かです。ここ2─3年は直販主体でビジネスを進め、当社のERP製品群のなかで、たとえば人事給与など完成度が高い製品から間接販売を始めることになると思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「“パッケージごとき”なんです」──。牧野代表取締役CEOは、自らのERPパッケージビジネスをこう喩える。パッケージで対応できない部分こそ企業の競争力の源泉であり、システムインテグレータが最も活躍すべき領域だと考える。パッケージで実現できる部分は、ごく限られているという。しかし、一方で「生産管理や販売管理でさえも、本当にオリジナルなシステムを開発しているのはトヨタ自動車やデルなど、ごく限られた先進企業のみ。多くの企業はパッケージで対応できるはず」と、パッケージ化しやすいとされる財務会計や人事給与以外にもパッケージの適用領域を模索する。どこまでパッケージ化が可能なのか。同社の挑戦は始まったばかりだ。(寶)
プロフィール
牧野 正幸
(まきの まさゆき)1963年2月5日、兵庫県生まれ。大手建設会社で海外での購買管理プロジェクトのシステム開発に従事。その後、ソフトウェア会社の取締役を経て、94年にシステムコンサルタントとして独立。旧三和銀行(現UFJ銀行)および日本アイ・ビー・エム(日本IBM)と共同で、中堅企業向けのシステムコンサルティングツール「ソリューションアドバイザー」を開発。95年から人事・給与パッケージの開発コンサルティングを始め、96年10月にワークスアプリケーションズ取締役副社長。01年9月、代表取締役最高経営責任者(CEO)就任。
会社紹介
今年度(2004年6月期)の売上高は前年度比58.5%増の89億8700万円、経常利益で同60.7%増の26億9700万円、当期純利益で同51.3%増の15億500万円を見込むなど急成長を続ける。主力商材は、大企業向けERP(統合基幹業務システム)パッケージソフトウェア「カンパニー」シリーズ。現行のカンパニーシリーズ「大企業向け人事・給与パッケージ」や「就労・プロジェクト管理」などに続き、今年12月をめどに会計シリーズの製品化を予定している。カスタマイズを一切認めない直接販売のビジネスモデルを基盤としている。