CPUやメモリ、HDD(ハードディスク装置)などの機器とOSの橋渡しを行う管理・制御ソフトウェア、BIOS(バイオス)のトップメーカー、フェニックステクノロジーズがビジネス領域の拡大に積極的だ。“ユビキタス”をキーワードにパソコン以外のデジタル機器にBIOSを搭載することに力を注ぐと同時に、セキュリティ機能を搭載したBIOSなど、付加価値戦略によりパートナー企業の拡大を図っている。今年6月にトップに迎えられた松島努社長は、「BIOS市場のパイを広げていく」と意欲を燃やす。
“ユビキタス”をキーワードに、デジタル家電市場への参入を目指す
──国内BIOS市場で90%以上のシェアを握っていますが、今後ビジネスをさらに拡大するために、どのような策をお考えですか。
松島 当社はパソコンを中心にBIOSビジネスを手がけてきましたが、今後はパソコンに限らず、他のデジタル機器にもBIOSを搭載してもらい、ビジネス領域を広げることに力を入れていきます。当社は、国内のBIOS市場でトップシェアを誇っていますが、パソコンだけに焦点を当てたビジネスでは市場のパイが広がらず、ビジネスを拡大できないとみています。近い将来、“ユビキタス”を切り口に、パソコンだけでなく、さまざまな機器がネットワークでつながる社会が訪れます。そうなればパソコンと非パソコンという垣根がなくなってくると言えるでしょう。こうした社会を早期に実現していくためには、基本入力ソフトのBIOSが1つのキーワードになると確信しています。
──銀行のATMやPOSレジなどの端末でBIOSが搭載されています。他にどのような機器で搭載される可能性がありますか。
松島 企業向け市場では産業用ロボットでの採用もあり、ますます増えていることは確かです。最近では、マルチファンクションプリンタ(MFP)でBIOSが採用されるなど、一般企業向け機器に裾野が広がってきています。MFPはネットワークでつながっており、BIOSの搭載が主流になりつつあります。また、コンシューマ市場ではHDDレコーダーやゲーム機などでの採用が浸透してきています。こうした状況から、これまでBIOSを搭載していなかった機器が、ネットワークにつながることでBIOSを採用するケースは増えていくと考えています。なかでも、アナログからデジタルへと移行してきている家電機器が、ビジネスを拡大するキーポイントになってきます。デジタル家電でBIOSが搭載されるためのビジネスモデルの構築を進めています。
──具体的には。
松島 パソコン以外の機器がネットワークにつながるために、重要になってくるのがセキュリティ面です。最近では、多くのベンダーが参入し、さまざまなセキュリティサービスを提供しています。当社では、他のベンダーとは異なり、BIOSの上にセキュリティ機能のコアとなるシステムソフトを搭載することで、BIOSレベルでのセキュリティサービスを提供しています。BIOSレベルのセキュリティは、ウイルスの駆除をはじめ、ユーザーの誤った操作やドライバの不具合による障害を防ぐ機能があらかじめ端末そのものに搭載されていることになり、さらに強固でセキュア(安全)な領域でサポートすることが可能になります。当社では、パソコン以外のBIOS搭載機器の拡大と、BIOS自体の付加価値を拡大させるという2つの点でビジネス領域を広げていきます。
新分野への参入に向けアライアンスを強化
──ビジネス領域を広げるとなれば、アライアンス戦略が重要になってきますね。
松島 その通りです。当社にとっては全く新しいビジネスを手がけることになりますし、新しい市場を創出することにもなります。そのため、当社1社だけで新市場を創出するよりも、新規パートナーの開拓や、パートナー企業とのアライアンスをさらに強固なものにしていくことが重要と考えています。新しい取り組みとしては、NTTデータさんと共同でデバイス認証セキュリティソリューション「セキュアアクセス」をこのほど開発しました。このソリューションは、認証を与えられていないパソコンが企業内のイントラネットに接続された場合、BIOSレベルでネットへのアクセスを不可能にし、ウイルスの感染や情報漏えいを防ぎます。当社のコアシステムソフト「シーミー・ファースト・BIOS」や「トラスティッド・コア」などをベースに開発しました。
パソコンのネット接続認証ソリューションには、ICカードやUSBトークンなどがありますが、これらの認証機器はその所有者を認証するだけで、パソコンまでを認証しているわけではありません。今回のソリューションは、正当に認証された特定のパソコンのみイントラネットへの接続を許可しますので、パソコン自体が認証機器になります。社内情報のアクセス起点となるイントラネット部分をセキュアに保てる最適なソリューションと自負しています。NTTデータさんにとっては、企業や自治体、官公庁などセキュリティに強い関心をもつ顧客を増やしていく狙いがあります。当社にとっては、BIOSおよびアプリケーションソフトの顧客企業を増やすことにつながります。
──ソフトベンダーやCPUメーカーとのパートナーシップも強化していくのですか。
松島 ソフトベンダーとのアライアンスも顧客企業を拡大するカギになります。なかでも、セキュリティベンダーとの協業は、当社にとってもベンダーにとっても、セキュリティサービスの拡大を図るカギになります。現段階では、マカフイーさんと業務提携しており、マカフィー製ファイアウォールのオンライン管理サービスを当社のコアシステムソフトに統合しています。インテルさんやAMDさんなどのパートナーシップでは、パソコン以外の分野でビジネスを拡大していきます。セキュリティを搭載したBIOSとパートナーのプロセッサを組み合わせ、新しい市場に参入することを計画しています。現在、パートナー数はシステムインテグレータがNTTデータさんを含めて5社、ソフトベンダーがマカフィーさんをはじめ3社、CPUやマザーボードメーカーで4社になっています。なかでも、システムインテグレータはソリューションを提供するという点で、新規パートナーの開拓を加速させようと考えています。
──社内組織については。
松島 以前は顧客の中心がパソコンなどのメーカーに集中していたため、営業組織が1部門構成だったのですが、私が社長に就任した6月以降は、営業組織をパソコン部門と非パソコン部門、アライアンス部門、アプリケーション部門などに分けました。組織を細分化することで、より細かい営業を行っていきます。当社は「パソコンのBIOSメーカー」という認識が強すぎたか、もしくは「フェニックステクノロジーズ」という社名自体があまり表に出ず、知られていなかったのではないかとみています(笑)。今後は、BIOS市場のパイを広げることと、BIOS上のセキュリティといった新しいサービスを提供することでブランド力を上げ、これまでとは一線を画したビジネスを展開していくことにより、今後3年間で売上規模を現在の5倍に引き上げます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
松島氏がフェニックステクノロジーズ社長に就任し、まず実施したのが社員の意識改革。「BIOS市場でトップシェアだからといって安心できないことを各社員にたたき込んだ」抜本的に見直すために、1部門だった営業組織を細分化。各分野で的確なビジネスが行える体制を敷いた。「BIOS市場のパイを広げていく」。これは裏を返せば、パソコン市場に安住していては売り上げが伸びないという危機感の表れでもある。市場拡大を見据え、デジタル家電へのBIOS搭載も視野に入れる。売上高を今後3年間で5倍規模に引き上げることが目標。将来をにらみ、ビジネスの方向転換のために大胆な舵を取った手腕に期待がかかる。(郁)
プロフィール
松島 努
松島努(まつしま つとむ)1983年3月、慶応義塾大学工学部管理工学科卒業。同年4月、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)に入社。91年3月、製造営業統括本部チームリーダー。95年1月にモトローラ(日本法人)に入社し、医療システム営業本部課長、同次長などを歴任。99年3月、コンピュータ・アソシエイツ(日本法人)に入社。00年10月、副社長。02年1月、ブロケードコミュニケーションズシステムズ(日本法人)代表取締役社長。04年6月、フェニックステクノロジーズ(日本法人)代表取締役社長に就任。米国本社の副社長を兼務する。
会社紹介
米フェニックステクノロジーズは1979年の設立以来、BIOS(バイオス・コンピュータを構成する各種機器の入出力管理・制御ソフトウェア)のトップ企業として活動拠点を世界各国に設けてきた。顧客企業はワールドワイドで800社以上。創業以来、パソコンを中心に12億台以上の機器にBIOSを提供してきた。日本法人は93年に設立。国内のBIOS市場でシェア約90%と、日本においてもトップメーカーとして君臨し続けている。これまではパソコンにBIOSを搭載するビジネスを主流とし、パソコン市場の拡大とともに同社のビジネスも成長してきた。しかし、パソコン市場の伸び悩みを背景に、パソコン以外の機器にもBIOSビジネスを拡大。なかでも、最近ではコンシューマ向け製品にBIOSを搭載することに力を注いでいる。BIOSに付加価値機能を持たせるため、BIOSレベルでのセキュリティソリューションも展開しており、システムインテグレータとの協業など、新しいパートナーシップも確立してきた。