「今年度(2004年12月期)は強く攻める」──。今年2月に開いた事業方針説明会で、ベリタスソフトウェアの木村裕之社長は〝攻めの営業〟を宣言した。昨年6月に米国本社が打ち出した「ユーティリティ・コンピューティング戦略」がようやく日本でも浸透。人材、製品、市場カバレッジとも「駒が揃った」というのが〝攻め〟の理由だ。来年度(05年12月期)は、データ管理市場がさらに広がるとして体制強化に余念がない。
テレコム関連需要で好業績、企業のITインフラ全体を効率化
──「ユーティリティ・コンピューティング戦略」を掲げて2年目に入りました。日本市場では短期的にどの市場を核に拡販をしていきますか。
木村 今年度(2004年12月期)、日本法人の業績は、世界に拠点を置く各ベリタス現地法人を遥かに超えて伸びています。この好業績を牽引したのは、通信事業者を中心にしたテレコム関連需要です。最近では、金融関連の案件も増えつつあります。この2つの市場がさらに伸びると、来年度(05年12月期)も大きな売上増への期待が高まります。本社のある米国では1、2年前から、テレコム、金融の両市場が活況でした。日本市場でも、この動きを追随するまでになったのです。
製品面では、当社ソフトウェア製品の主力となっているストレージ管理の製品群「ストレージ・ファウンデーション・スイート」と「バックアップ・エグゼ」など、データプロテクション製品が企業のITインフラ基盤ソフトとして堅調に伸びています。これに付随して今年度はアプリケーションパフォーマンス管理の製品が、昨年度(03年12月期)に比べ売上高で8倍を超える勢いで伸びています。単体ソフトをバラ売りする従来の戦略が影を潜め、企業のITインフラ全体を効率化するソリューションを提供する戦略基盤が日本でも整い始め、ユーティリティ戦略が軌道に乗りました。来年度は“刈り取り”の年にします。
──テレコム関連の好調さは、どんなことに起因していますか。
木村 テレコム関連のIT企業は、データのトランザクションが近年非常に増え、バックアップなどへの関心が高いのです。しかも、ITをビジネス基盤にしているので、ITの果たす役割を理解しています。特に日本市場では、携帯電話を主力とする通信事業者の成長が著しく、IT投資も盛んで、当社の製品がほぼすべての国内通信事業者の基幹系ソフトとして導入されています。テレコム関連については、当社の全売上高に占める割合が40%を超えています。日本の通信インフラは、ADSLなど高速大容量の回線が世界トップレベルで、政府の「e─Japan戦略」なども後押しして、さらに整備が進むでしょう。これにより、IT市場全体の底上げが図られ、当社にもビジネスチャンスが訪れると期待しています。
──米国ではテロの脅威もあり、金融機関のディザスタリカバリ(災害復旧)への関心が高く、ベリタス製品への関心も高いようです。
木村 日本の金融機関でも、ディザスタリカバリに関連する当社のソリューションが徐々に導入されてきました。金融機関は、業種・業態別に見ても、特に無停止型システムに対するニーズが高い分野です。そういう危機意識が金融機関に広がり、当社のディザスタリカバリに関連するソリューションが注目されるようになったようです。単一のシステムやOSをバックアップするだけでなく、企業の業務全体をバックアップできるソリューションが求められていますが、それを実現できるのは当社だけだと自負しています。米国の金融機関では、テロを含むあらゆるシステム障害からディザスタリカバリする本格的なシステムを政府主導で構築しています。金融機関は、リスク管理の一環でコンプライアンス(法令遵守)に関する取り組みでも先陣を切っているので、ディザスタリカバリに関連する製品の需要がある市場だと思っています。
──テレコムと金融関連以外では、どんな市場に期待を寄せていますか。
木村 ストレージファウンデーションやバックアップなどのソフトは、“守りのIT”として企業の事業部別に多く導入されています。今後の課題は、こうした部門別の拡販ではなく、企業単位で一括してソリューションを提供し、ユーザーが総合的にデータを使って“攻めのIT”を構築できる環境づくりを支援していくことが大事です。日本では、データやストレージなどを含め、企業のITインフラ全体をマネジメントするシステム構築の市場を盛り上げたいと考えています。このためには、企業のシステム構築に際して、強い影響力のあるシステムインテグレータに依拠するところが大きく、こうしたパートナーと協業してこの市場を築きたいのです。どうしても、日本のシステム構築は、企業がプロジェクト別にシステムインテグレータに発注する傾向があります。徐々に企業全体でデータを統合する動きは浸透してきています。当社としても、この波に乗るため、企業に直接データ管理の提案を持ちかけるダイレクト営業やシステムインテグレータとの協業体制などをさらに拡充していきます。
日本法人独自にVPPを推進、ディザスタリカバリを共同で訴求
──システムインテグレータとの協業という面では、木村社長が就任してから急速に体制が強化されてきています。
木村 米国本社は、世界的にシステムインテグレータとの協業を強化しています。この世界的な協業については、日本に拠点を置く外資系ベンダーに対し、日本法人で補完していきます。日本法人独自には、システムインテグレータを対象に昨年6月から「ベリタス・パートナー・プログラム(VPP)」を推進し、技術や教育の支援、共同プロジェクトなどを行っています。今後は、ダイレクト販売やOSに依存しないヘテロジニアス(異機種混合)環境に対するコンサルティングサービスなどを、VPPに参加するパートナーにも深く関わってもらう施策を検討しています。ディザスタリカバリに関連して、企業がITインフラ全体を統合していく波は大きくなりつつあり、この波をベリタス1社で賄うのは難しいと思います。このため、パートナーと一緒にディザスタリカバリを訴求できる体制を築きたいのです。企業のITインフラ全体を将来的にユーティリティ環境にしていく手立てを数多く仕込んでいきます。
最近、案件ベースでシステムインテグレータと当社が共同で、企業のITインフラをユーティリティ化するシステム構築事例が出始めてきました。将来的には、日本で「ユーティリティ・コンピューティング」を題目にしたコンソーシアムを立ち上げ、共同研究・検証体制を強化したいと思います。大企業向けには、大規模なシステム構築ができるシステムインテグレータと一緒に企業をコーディネートしていきます。中堅・中小企業(SMB)市場に対しては、パートナーに依拠します。SMB企業市場では、Linuxが伸び、ウィンドウズも力強い状況は変わりません。この両面で企業に提案でき、販売力のあるパートナーを今後も増やしていきます。7月には、名古屋市に営業向けの事務所を構えました。少しずつ東京以外の地域でも地場の企業に関わっていく予定です。10月6日には、「ユーティリティ・ナウ」と題したイベント「ベリタスビジョン2004ジャパン」を東京で開催しますが、ここでは「ユーティリティ・コンピューティング」が具現化されている姿を紹介します。イベントに協賛している国内20社のパートナーそれぞれが、ベリタス製品を基盤とした具体的なソリューションを紹介する予定になっています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
木村社長は剣道5段。地元のさいたま市では、週末ともなれば剣道場「剣友会」で地元の子供達に剣の道を説く指導者でもある。物腰が柔らかく、語る口調も1つ1つ丁寧である。だが、核心を突く質問をしても、笑顔でかわされてしまうことが多い。“記者泣かせ”の社長の1人。欲を言えば、もっと明確なメッセージを出して欲しいところだ。確かに、米国の会社は威勢のいい経営陣が多いが、ベリタスのマネジメントには技術畑出身の控えめな人が多い。社風なのか。今年度(2004年12月期)の事業方針として「攻めの営業」を掲げた木村社長。来年度(05年12月期)の目標として、「先を取る」という戦略を検討中だ。剣道では、敵を待つより、その攻撃が及ぶ前に倒すことをいう。(吾)
プロフィール
木村 裕之
(きむらひ ろゆき)1954年生まれ、東京都出身。78年、電気通信大学電気通信学部卒業。同年、東京重機工業(現JUKI)入社。89年2月、サン・マイクロシステムズ日本法人に入社。同社で営業開発統括本部やエンタープライズ営業統括本部の本部長を務め、02年7月、常務取締役・インダストリー営業担当に就任。サンでは、主に各業種の大手顧客の獲得に奔走した。03年1月、サンと世界的に協業しているベリタスソフトウェアの社長に就任。
会社紹介
米ベリタスソフトウェアコーポレーションの日本法人であるベリタスソフトウェアは、1996年3月に設立された。日本では、世界的な主力製品であるストレージ管理ソフトを大手ITメーカーなどにOEM(相手先ブランドによる生産)供給して業績を伸ばしてきた。90年代終盤から、米国本社はバックアップソフトやOSレベルのデータ保護、アプリケーションのパフォーマンス管理などを手がける有力IT企業を相次ぎ買収。昨年6月には、ヘテロジニアス(異機種混合)環境にある企業のITシステムを、電気、ガス、水道などと同様にユーティリティ化し、必要な時にシステムを柔軟に提供する「ユーティリティ・コンピューティング戦略」を提唱。日本法人でも、このコンセプトの定着・具現化に力を注いできた。日本法人の業績は公表していないが、今年度(2004年12月期)は、各四半期で前年同期に比べ売上高が20%以上伸びた。国内で先行する競合企業のEMCやコンピュータ・アソシエイツ(CA)との戦いが注目されている。