ソフトブレーンは、アウトソーシング事業を本格的に立ち上げる。ホワイトカラーの生産性向上を実現するコンサルティングやソフトウェア開発で成長を遂げてきた同社は、これまで蓄積してきたノウハウを自ら実践することで、生産性の高いアウトソーシングの実現を目指す。「第2フェーズに突入した」とする宋文洲会長は、3年後の2007年度(07年12月期)に100億円の連結売上高、経常利益率30%以上を目標に掲げる。
営業プロセスを科学的に改善、顧客数620社のヒット商材に成長
──ホワイトカラーの生産性向上を実現するプロセスマネジメントソフト「e-セールスマネージャー」が大ヒットしています。
宋 非製造業分野のなかで、世界的に見て割高な日本の販管費を抑えるための営業部門改革は、日本の経営者にとって緊急度の高い課題でした。そこで、まずはこの営業プロセスを科学的に改善し、生産性を高める「e-セールスマネージャー」を開発したところ、これまで620社の顧客企業に購入していただくヒット商材に成長しました。今年11月末までをめどに、ソフト開発や工事施工などの業務プロセスを改善する「e-工程マネージャー」や、機器・設備メンテナンス、店舗の情報収集などのフィールドサービス業務プロセスを改善する「e-フィールドサービスマネージャー」など、プロセス管理のシリーズを投入します。
──プロセスを重視した製品・サービスづくりをしておられますが、非製造業分野の問題点はプロセスにあるということでしょうか。
宋 日本の製造業は、徹底的なプロセスの見直しにより、世界でも類を見ない高い生産効率を実現しています。これに対して、なぜか非製造業分野では、こうしたプロセス管理ができていません。そこには精神論であったり、人数だけ揃えた人海戦術であったりと、非科学的な現象が少なからず見受けられます。日本の製造業、製造ラインと同じように、非製造業分野でも徹底的なプロセス管理による効率化を図るのが当社の目的です。たとえば、長い日報を書かせて社員の気持ちや精神状態を管理しようとしたり、単純に労働時間を管理するのではなく、仕事の結果を生み出すためのプロセス、つまり人間の行動を管理するのが当社のコンセプトです。
──今年7月以降、人材派遣会社への出資や子会社2社を相次いで設立しました。その狙いは何ですか。
宋 これまでホワイトカラーの業務を改善するコンサルティングや、業務改善を実行し、定着されるためのソフトウェア開発を中心に手がけてきました。徹底的に業務プロセスを見直し、無理や無駄を排除していくことでホワイトカラーの生産性を高めてきました。ところが、これを突き詰めていくと、給料の高い正社員では、どうしても採算が合わない業務があることが判明します。こうしたケースでは、業務の一部を切り出してアウトソーシングすることで、一歩踏み込んだ提案を当社はしてきました。ただ、顧客企業のなかから、「ソフトブレーンのコンサルティングやソフトウェアは信頼できるが、アウトソーシングで本当にコスト削減になるのか」という率直な質問をぶつけられることがありました。「それなら」ということで、ホワイトカラーの生産性を高めるアウトソーシングビジネスを本格的に立ち上げる体制をつくるため、今年7月以降、資本提携や子会社設立などの準備をしてきたわけです。
具体的には、7月14日付で主婦などパートタイム就業に特化した人材派遣会社「ビー・スタイル」の発行済み株式数の20%を取得し、一方で、小売店舗やサービス現場における情報収集などのマーケティングサービスを手がける子会社「ソフトブレーン・フィールド」を7月12日付で設立しました。両社を組み合わせて、効率の高いラウンダーなどの仕事を受注していきます。ラウンダーとは、小売店に商材を並べるメーカーなどが市場調査を目的に、パートタイムの主婦などに小売店舗を巡回させる仕事です。これまでは、1人のラウンダーが1社のメーカーの調査を請け負うケースが多くを占めていましたが、当社では、たとえば1人のラウンダーが5社程度から受注できる仕組みをつくることで、コストを大幅に下げる予定です。もちろん競合企業の仕事を兼務するのではなく、たとえばビール、醤油、クッキーなど競合しないメーカーの仕事を1人のラウンダーが複数受注します。
顧客の要望を切り出して子会社化、ノウハウ実践し“第2フェーズ”へ
──1人が1か月働くコストを示す「人月」モデルや、時間給という考え方を打ち破る発想ですね。
宋 その通りです。仕事を発注するとき1人月や時間給で給与を計算すると、仕事を受ける側は、できるだけ多くの人数で長時間働いた方が稼ぎが良くなってしまいます。これでは、いつまで経ってもコストを削減できません。そうではなくて、あらかじめ決めておいた作業に対しての対価を支払うようにします。作業のプロセスを明確に定義しておけば、発注者側は後から「どれだけ当社に関する仕事をしてくれたのか」を簡単に調べることができます。つまり、客観的な数値を残し、作業をした証拠も用意します。ある作業は5000円かもしれないし、別の作業は1000円、あるいは500円ということもあると思います。これを一律で人月や時間給で計算するので効率が悪くなります。パートタイムの人は、仕事が終わったのに家に帰れません。先に帰ればその分、時給が減りますから、無駄に居残りをするわけです。これは、サラリーマンの残業にも当てはまります。会社は“牢屋”ではありません。ちゃんと仕事をして、その仕事に対する正当な対価を得る場所です。
一方、8月26日付で設立した「ソフトブレーン・サービス」は、電話などを使った非訪問型の営業支援を展開していきます。これもアウトソーシングの一環で、当社の株主の1社であり、コンタクトセンター業務に強いトランスコスモスグループなどと連携しながら、効率の良い営業支援をしていく予定です。ソフトブレーン・フィールド、ソフトブレーン・サービスのいずれの事業についても、すでに顧客企業から要望があった業務を切り出して子会社化したものです。従来のコンサルティングとソフト開発だけでなく、これまで蓄積してきたノウハウをフルに実践したアウトソーシング事業の立ち上げにより、当社のビジネスは第2フェーズに突入したと認識しています。
──経常利益率30%以上の確保を重視していらっしゃると聞きます。
宋 3年後の2007年度(07年3月期)の売上高100億円、経常利益率30%以上を計画しています。これにはまず、業務改善を提案する当社が、顧客企業の手本にならなければなりません。経常利益率30%以上は、とてもこだわっている点の1つです。売り上げを伸ばすのは簡単ですが、赤字を出しては意味がありません。企業は利益を残してこそ、次の世代に価値を継承できます。売り上げがたとえ1兆円あっても、利益が出ていなければ、たくさんガソリンを燃やして前に進まないポンコツ車と同じで、環境に悪い。資源を食いつぶすだけです。今後とも非製造業分野の業務プロセスを改善し、無理、無駄のない高い生産性を実現していきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「業務プロセスを改善するには精神論はいらない」 ──宋会長の信念である。「意識改革は、日本の生産性の高い製造ラインと同じように、数値に基づいて科学的に実現すべき。1+1=2。この数式は日本だけでなく、中国や世界中どこでも同じ」と、数値に基づく徹底したプロセス管理により、ホワイトカラーの生産性向上に努めてきた。「仕事のできる人は忙しく、そうでない人は、できる人の残業の同伴者ではダメ。できない人にも、ちゃんと昼間のうちに仕事をしてもらう仕組みづくりが求められている」と、時として手厳しい改革を断行する。プロセス管理を徹底することで、非製造業分野の業務効率を大幅に改善できることを自ら実践する。(寶)
プロフィール
宋 文洲
(そう ぶんしゅう)1963年生まれ、中国・山東省出身。84年、中国の東北大学卒業。85年、来日。86年、北海道大学大学院工学部資源開発工学科に入学。91年、同博士課程修了、工学博士。92年、ソフトブレーンを設立し、代表取締役社長に就任。99年、代表取締役会長に就任。
会社紹介
ホワイトカラーなど非製造業分野の生産性向上を目的としたコンサルティングサービスやソフトウェアの販売で急成長している。今年6月には東京証券取引所第2部への上場を果たした。2004年度(04年12月期)の売上高は前年度比31.4%増の19億円、経常利益は同14.9%の6億円を見込む。3年後の07年度(07年12月期)に100億円の連結売上高を目指す同社だが、経常利益率30%以上という高い利益率を堅持する経営方針は崩さない。今年7、8月に相次いでBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を中心に手がける子会社を2社設立。併せて人材派遣会社との資本提携や、株主の1社でありコンタクトセンター業務に強いトランスコスモスグループとの連携強化により、アウトソーシング事業の立ち上げに向けた基盤づくりを加速している。