保守サービス単価の下落が顕著になってきた。これまで安定的なビジネスと言われた保守サービス事業も変革が迫られている。日立製作所グループの保守会社として成長してきた日立電子サービスも、この厳しい環境の真っ只中にいる。古厩賢一社長は打開策として、「保守サービス会社の武器は人」と、カスタマーエンジニア(CE)の育成に力を注ぐ。「言われたことだけをするだけの“マニュアル民族”は要らない」と、「営業力を持つCE」や「ソフト技術にも精通したCE」など、従来のCEの枠組みにとらわれない、新たなCEの創造を図ることで、業績拡大を狙う。
システム全体を総合的に保守 マルチベンダー対応が基本
──保守サービス事業は、サービス単価の下落が顕著になってきました。日立電子サービスでも、その影響を受けているようですが。
古厩 保守サービスビジネスは厳しい環境にあります。当社の売上高も一昨年度(2003年3月期)、昨年度と連続して減収を強いられています。当社は、ハードウェアとソフトウェアの保守・修理事業が全売上高の65%を占めていますから、経営に大きな打撃を受けているのは事実です。
保守サービス事業の低迷にはいくつかの要因がありますが、主な理由は、ハードの保守サービス領域で、他社との価格競争激化と、ハードの価格が下がっていることによる保守サービスの単価下落です。昨年度に比べ、今年度は3─4%サービス単価は下落していると捉えています。単価下落の傾向は今後も続き、ハードの保守サービスは、今後も急速な拡大は期待できないとみています。現状ではハードの保守サービスビジネスの割合は保守サービス事業全体の中で大きいですから、次の手を打たなければならない時期、ビジネス体質の変換が求められている時期を迎えていると言えます。
──具体的に、どのような施策を打っていますか。
古厩 「システム保守サービス」という新たなサービスモデルを掲げ、保守サービスを提供する領域を拡大させています。
従来の保守サービスと言えば、ハードの保守・修理が大半でした。ですが、2─3年前から、ハードだけでなくOSやミドルウェア、アプリケーションまでを含んだソフト分野を保守・修理する、つまり顧客のシステム全体を総合的に面倒見られる保守サービスを提供していこうとしています。
また、ハード保守に関しても、取り扱う製品は日立製作所製品だけにとどまらず、マルチベンダー対応を基本スタンスとしています。他社製品で万一、当社のカスタマーエンジニア(CE)では対応できない場合は、他メーカーの保守担当者をまわしてもらって、顧客に提供する体制も整えており、マルチベンダー対応の保守体制も徐々に整い始めました。
ソフトの保守サービスに対しては、まだ力不足の面が拭えませんので、今後の強化ポイントとしてCEの育成に力を入れています。
──CEに求められるスキルも幅広くなり、高度化していきますね。
古厩 従来以上にCEの果たす役割は大きくなります。ですから、今最も力を入れているのはCEの教育です。従来のハードだけが分かるCEではなく、ソフトまで任せられるCEや、営業能力を持ったCEなど、いくつかのカテゴリに区分けして教育プログラムを設けています。
具体的には、ハードとソフトの両方を担当できるCEを「アドバンスカスタマーエンジニア(ACE)」、新たな提案を顧客にできる営業能力を持ったCEを「セールスエンジニア(SLE)」として位置づけ、それぞれ教育を施しています。「SLE」は現在470人います。「ACE」は今年度中に100人程度育成する予定で、06年度には1000人まで増やします。
保守サービス会社の武器はやはり「人」ですから、もともと人材育成には力を入れています。新入社員は、入社してすぐに8か月間、研修・教育機関に缶詰めにして、業界の動きから技術教育まで徹底的に教え込みます。また、IT関連の資格取得件数は1万5000─6000件まで増えています。人材教育費用として、今年度は約30億円を投じますが、来年度はさらに増やすつもりです。
また、人材教育強化の一環として、当社は独自開発したeラーニングシステムとコンテンツを持っています。310か所、2750人のCEに共通した教育プログラムを提供するのは容易なことではありません。ですからeラーニングシステムによって効率的かつ低コストで教育を実施しているわけです。これが大きな武器になっている。このeラーニングシステムは販売もしており、約300企業・団体に導入した実績があります。
提案型のCEを育成 今年度は約2億円を投資
──CEに営業能力を求める動きは競合会社でもあります。「提案能力」と「保守・修理」という異なるスキルを兼ね備えた人材を育成するのに苦労しているとも聞きます。
古厩 営業能力を持ったCEの必要性には前々から気づいていました。当社では3─4年前から徐々に育成を手がけていますが、確かに簡単なことではありません。CEというのは、マニュアルに書いてあることをしっかりと成し遂げる、いわば“マニュアル民族”です。ですが、営業は、顧客の現状や要望を把握し、新たなビジネスチャンスを自らが探し出さなければならない“非マニュアル民族”です。
従来のCEが必要なスキルとは全く違う能力を求めるわけですから、一筋縄ではいきませんでした。最初の頃はCEから、「社長はCEの文化を分かっていない」と非難されたこともありました。CEは、「機械には詳しいけど、人とのコミュニケーションは苦手」という人が少なくなかったのは事実です。
このため、今はすべてのCEに営業能力を求めるのではなく、営業をやりたいCEや提案スキルの高いCEを選び出して、そのCEに徹底的に営業スキルを身につけさせています。これが「SLE」であり、このSLE育成のための営業系教育費用として今年度は約2億円を投資しています。
また、CEが取ってきた顧客の要望をデータベース化して、その情報を元にSLEが営業できるように、「CE情報支援システム」も導入しました。
徐々に成果が出てきており、CEが取ってくる些細な顧客の要望をSLEにフィードバックし、SLEが改めて営業に出向くといった体制ができています。
──保守サービス事業だけでなく、運用監視サービスなどのマネジメントサービスや、システム構築などのソリューションサービス事業にも今後、力を入れていく方針ですね。
古厩 ソリューションサービス事業は現在、全売上高の約35%で、残りの65%が保守サービス事業となっています。これを06年度には、保守サービスとソリューションサービスの比率を半々にする計画を立てています。そのために、ソリューションやサービスメニューの強化を急いでいる段階です。
ソリューションサービスの具体的な強化事業としては、ネットワークの運用監視サービスとITアウトソーシング、加えてeラーニング、セキュリティです。特にセキュリティについては、情報インフラのユビキタス化が加速し、また、来年4月1日には「個人情報保護法」も施行され、ユーザーからのニーズはさらに増えることは確実ですので、期待できます。
また、ITシステムのアウトソーシングも、特に中堅・中小企業(SMB)ユーザーから引き合いが増えていくジャンルだと思っています。アウトソーシングサービス提供のための設備強化や、技術者の育成には、より一層力を入れていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
終始、CEのスキル改革を強調していた古厩社長。特に「営業能力を持つCE」の必要性を感じたきっかけの1つが、顧客アンケートだったという。
アンケートの回答では、保守サービスへの評価は高かったものの、「提案能力がない」、「決められたことしかやらない」という厳しい答えもあった。ユーザーのCEに求める要求の変化を痛感したという。
「メインフレーム全盛期は、壊れたらすぐに駆けつけてくれ、完璧に修理してくれることだけをCEに求めていた。だが、今は単純な保守サービスだけでなく、保有するITシステムで受けられる新たなメリットの提案を、CEに期待し始めた。そのことが、あのアンケートで良く分かった」。
「保守会社の武器は人」──。CEのスキル向上は、低迷する保守サービス市場で業績を拡大するためにさらに重要になっている。(鈎)
プロフィール
古厩 賢一
(ふるまや けんいち)1939年生まれ、長野県出身。62年3月、信州大学通信工学科卒業。同年4月、日立製作所入社。95年、取締役兼情報事業本部副本部長。97年、常務取締役兼情報事業本部長。99年6月、日立電子サービスに移り取締役社長に就任。
会社紹介
日立製作所グループのハードウェア保守サービス事業部門が独立して、1962年に発足した。現在の社員数は約4300人。
保守サービス事業が売上高の約65%を占める。その他は情報システム構築事業、運用監視やeラーニングなどのサービス事業、機器販売事業となっている。
保守サービス事業の比率を06年度(07年3月期)までに50%まで引き下げ、マネジメントサービスを中心に、その他事業の売り上げを全売上高の50%まで伸ばす計画を打ち出しており、ソリューションメニューの拡大を急いでいる。
eラーニングサービスは、独自開発したeラーニングシステムとコンテンツを保有しており、システムとして販売も手がける。これまでに約300企業・団体に販売した実績を持つ。
全国を網羅する保守サービス体制を築き、310か所のサービス提供拠点を設置。2750人のカスタマーエンジニア(CE)を確保しており、全国に約2万4000社・団体の顧客を抱える。
昨年度(04年3月期)の業績は、売上高が1644億1700万円、営業利益が72億7900万円。