ウィルコムが新しいビジネスモデルの確立を目指している。パートナー企業と連携し、アプリケーションの提供を含めた法人向けビジネスの拡大がそれだ。ウィルコムは、カーライル・グループ60%、と京セラ30%、KDDI10%の資本構成のもと、今年2月2日付でDDIポケットから社名変更して再スタートを切った。一足早く1月17日付で就任した八剱洋一郎社長は、「PHSの優れた技術をアピールする」と、PHS独自の将来を見据えビジネス拡大に意欲をみせる。
パートナーとの連携で、法人向けビジネスを拡大
──社長就任から約2か月。2月2日には社名も「DDIポケット」から「ウィルコム」に変更し、再スタートを切りました。
八剱 今まではコンシューマ向けビジネスに重点を置いていましたが、これからは法人向けビジネスに力を入れていこうと考えています。
現在、コンシューマ向けビジネスと法人向けビジネスの売上比率は、それぞれ6割と4割です。この比率から言っても法人顧客は少なくありません。ただ、これまでは、企業からPHSを導入したいという要請があった場合だけ対応していました。しかし、ここにきてPHS技術を活用したシステムを導入したいというニーズが高まっています。そうした状況を考えると、法人向け市場が伸びないとは考えにくい。このために、コンシューマを中心とした施策から法人にウェートを移すことが重要と判断しました。
──法人ビジネスを拡大するには、その方法や体制作りが必要になります。
八剱 PHSを使ったシステムのアプリケーションを含めてソリューションを提供していきます。これまで、工場内にアクセスポイントを作って内線電話として利用するなどのシステム案件を受注してきました。その際に、アンテナを工場用に設置するにはどうしたらいいかとか、音声やデータのやり取りをスムーズに行う方法、外出先から社内のイントラネットにアクセスする手段など、PHSベースのネットワーク構築のノウハウを蓄積してきました。こうした技術の蓄積を、これからは積極的に売り込んでいくつもりです。
現在の法人営業の人員は、コンシューマ営業の3分の1程度です。ビジネスの軸足を法人営業に移せば、当然、組織を変えなければなりませんが、法人営業を強化するからといって単純に増員することはできません。そのため、地域別や産業別による切り口など、ニーズをどのようにカバーしていくかを考えていく必要があります。
例えば、かなり広い地域の場合なら、その地域全体を1つの営業部隊がカバーするより、業種別に切り分けた営業体制の方が適しているでしょう。また、比較的狭い地域であれば、業種で切り分けるより、地域を一括して担当する営業に重点を置く体制が向いているかもしれません。さらに、営業担当者が数人単位の支店であれば、地域や産業別にこだわらない営業も必要といえます。
現在、インダストリー別では、IT関連の企業向けに特化して対応しています。これを幅広い業種に広げたい。まずは、流通や製造、金融、医療など5─6業種をターゲットにアプローチをかけていきます。しかも、1業種に多くの人員を割くのではなく、10人程度のグループを編成します。これにより、極端に人員を増やさなくても十分にビジネスを拡大できると確信しています。
──パートナーとのアライアンスも重要ですね。
八剱 IT系では富士通や日本アイ・ビー・エム(日本IBM)など大手電機メーカーとアライアンスを組んできました。さらに、システムインテグレータとの協業も行っています。こうしたパートナーとの連携は、さらに強化していくことになります。これまでは、顧客企業から依頼があってもパートナー企業が主体となってきましたが、今後は当社でアレンジしてソリューションを提供していきます。もちろん、当社がアプリケーション開発の分野にまで進出するというわけではありません。パートナーが自由に開発できる環境を作るということです。
パートナーとの協業関係をはっきりさせるため、4月にパートナープログラムを策定する計画です。第1弾では、ビジネスパートナー向けセミナーなどを開催し、まず10社程度のパートナーを獲得することを目指します。その後1年間は、それらパートナーとの連携を深めていくことに専念します。当社のパートナーになるメリットは、パートナーが持つアプリケーションソフトと、当社のPHS技術を組み合わせたシステムを開発しやすくなる点です。パートナーに対しては、PHSのコアとなるテクノロジーを開示します。パートナーの数が増えれば、将来的にはメンバーズ制度の設置も検討しています。
05年度は、法人ビジネス強化の初年度になりますから、法人向けとコンシューマ向けの売上比率に変化が表れるまでいかないと思います。しかし、法人向けの売上比率は06年度に50%、07年度に60%まで引き上げます。
コンシューマ市場はスピードがカギ 音声定額サービスも開始
──法人向けビジネス強化でコンシューマ向けがあおりを食いませんか。
八剱 コンシューマ市場におけるデータ通信サービスでは、ユーザーニーズのほとんどが通信速度の速さにあります。コンシューマビジネス拡大のポイントは、高速化にあります。このほど提供を開始した256Kbpsの通信速度がある「8×」は、使用する通信チャネルが8本となります。しかし、そのままではユーザーが集中すれば、当然、実効速度が遅くなってくる。これを解決するために1つのチャネル幅を広げることが必要になります。現在は1つのチャネル幅が32Kbpsですが、1年以内に2倍の64Kbpsを目指します。
また、音声通話サービスも充実させます。データ通信サービスの会員数が右肩上がりの一方で、音声通話は減少傾向にあります。そのため、音声定額サービスを来年度上期中に提供開始します。定額制とすることで、携帯電話を複数台持つようなユーザーが、用途に応じてPHSも活用することが考えられます。例えば、家族専用に使うことや特定の友達との間で使うというようなケースです。さまざまな用途を提案することで買い増しマーケットに焦点をあて、加入者を増やすことにつなげていきます。
──音声定額サービスの料金はどの程度を想定していますか。
八剱 具体的には決まっていませんが、PHSユーザーが1か月に支払っている料金が平均4500円ですので、コストと定額制の与えるインパクトを勘案して、4000円を切る料金でサービス提供できればと考えています。
ただし、これで音声通話サービスの加入者数が急激に伸びることはないでしょう。ですが、少なくとも減少は食い止められるとみています。当社の累計加入者数はデータ通信サービスが伸びており、全体で年間10%程度増えています。2月には300万人を突破しました。音声通話サービスの落ち込みを食い止められれば、年間15%増までは持っていけます。
──法人向けサービスにしろ、コンシューマ向けサービスにしろ、基地局増設などインフラ整備が重要になりますね。
八剱 現在、日本全国に16万局ありますが、05年度はリプレースを含めて1万局分の投資を行う予定です。人口カバー率については現在の97%から06年度に99%まで引き上げます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
八剱洋一郎氏は、日本IBMをはじめ、AT&Tグローバル・サービスなど外資系企業を渡り歩いた経験の持ち主。カーライル・グループが筆頭株主のウィルコム社長に就任してまず感じたことは、「外資系に良く似ている」ことだという。
一方、京セラとKDDIが資本参加していることから、会社の中には日本独特の風も吹いている。「海外の文化と日本の文化が交錯している」というわけだ。それぞれの文化は異なっている。当然、その違いを企業のメリットにしていかなければならない。
もっとも、業績を伸ばすという点では、外資系企業も日本企業も同じ。「これまで経験したノウハウを生かす。さらに、外資系の良さと日本企業の良さを取り入れ、当社独特の文化を作り出していく」。ウィルコムを進化させ、企業規模を拡大できるかどうか、腕の見せどころだ。(郁)
プロフィール
八剱 洋一郎
(やつるぎ よういちろう)1955年5月3日生まれ、東京都出身。78年3月、東京工業大学理学部卒業。同年4月、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)入社。99年6月、AT&Tグローバル・ネットワーク・サービス・ジャパンLLC取締役社長、AT&Tグローバル・サービス代表取締役社長に就任。01年5月、AT&Tビジネス・アジアパシフィックプレジデント、AT&Tグローバル・サービス代表取締役会長、日本AT&T代表取締役社長に就任。03年9月、日本テレコム入社、専務執行役戦略企画本部長に就任。03年10月、同社専務執行役法人事業本部長。04年5月、同社執行役副社長。04年7月、同社取締役執行役副社長。04年12月、DDIポケットに入社。顧問、取締役などを経て、05年1月17日に代表取締役社長に就任。
会社紹介
ウィルコムの前身であるDDIポケットは、DDIポケットグループ9社が合併する形で2000年1月に設立された。90年に当時のDDIがPHSサービスの検討を始めたことが発端で、94年7月にDDIポケット企画が発足した。同社は94年11月に事業会社へと移行し、DDIポケット電話グループ9社が誕生した。その事業会社9社がウィルコムのベースだ。
04年10月に、カーライル・グループが筆頭株主となり、新生DDIポケットとしてスタート。05年2月にウィルコムに社名を変更した。現在の出資比率は、カーライル・グループが60%、京セラが30%、KDDIが10%で構成される。
社名変更と同時に、データ通信サービス「AirH"(エアエッジ)」のロゴを「AIR-EDGE」にリニューアル。新サービスとして、出張が多い会社員などデータ通信の利用が多いユーザー向けに、256Kbpsに対応した「エアエッジプロ」を開始したほか、圧縮技術で通信の体感速度を通常より500%向上させる「メガプラス」のサービスを提供している。
同社が獲得しているPHSの累計加入者数はデータ通信サービスを中心に増加しており、今年1月に299万1200人、2月には300万人を突破した。