帳票作成ソフトベンダーのウイングアークテクノロジーズが、翼システムから分離・独立して1年が経った。パートナー向けコンサルティングサービスの開始やパートナー支援プログラムの設置など、独立後、協業企業への支援施策を次々と打ち出している。内野弘幸社長は、「パートナーとの密接な協業体制の確立」を前面に押し出す。企業としてスタートしてから1年。ウイングアークはパートナーとの連携を加速させている。
コンサルティングの専門部隊を設置 複雑な情報システムに対応
──翼システムから分離・独立してから1年が経ちました。1事業部として活動してきた時と比べ、どのような成果が出てきましたか。
内野 まずはスピードの向上です。経営の意思決定が当然早くなり、それによりパートナーや顧客の要望に対する対応スピードも格段に早まりました。1つの企業としてスタートを切ったことで、迅速に対応できる体制を確立できました。
また、スピードとともに表れてきた効果として、取引先やユーザーに分かりやすくアプローチできている点も大きいです。事業内容やビジネスモデルを分かりやすく伝えられるようになりました。
翼システムとはそもそも、事業内容やビジネスモデルが異なっており、翼システムの1事業部としてでは、ユーザーや取引先にとって分かりにくい体制だったことは否めませんでした。
翼システムは、自動車整備業という市場にターゲットを絞り、直接顧客に販売するビジネスモデルです。また、顧客の中心は中小企業です。一方、ウイングアークのメイン事業である帳票作成ツールの開発・販売は、市場を限定しておらず、ターゲットは主に大企業です。販売モデルは、システムインテグレータなどのパートナーを通じて提供する間接販売です。さらに、翼システムのソフトはアプリケーションが多く、単体で機能しますが、当社のソフトは、ミドルウェア、ツールと呼ばれるカテゴリーであり、他社製品との連携が必要になるなど、同じソフトでも性質が全然違います。
こうした様々な違いが、ユーザーやパートナーに分かりにくさを与えていました。分社化したことで、「帳票作成ソフトが主軸ビジネス」と伝えられるようになり、明確なメッセージを発信できるようになりました。
独立してから1年。ブランドも認知度もなくゼロからのスタートで、リスクも色々考えられましたが、ほぼ設立時の計画通りに進んでおり、順調です。
──コンサルティングサービスは、翼システム時代にはなかった新たな事業領域ですね。
内野 その通りです。翼システムには、コンサルティングビジネスの専門部隊を設けることが難しい文化がありました。ですが、私はコンサルティングの必要性を以前から感じていました。コンサルティングサービスは、ウイングアークを設立して強化したポイントの1つです。
具体的には、メニューを3つに分けたコンサルティングサービスを体系化し、約10人のコンサルタント専門担当者を配置しました。「購入前」、「購入後の実装」、そして「運用」の各段階でウイングアークの製品を適切に取り扱ってもらえるよう、システムインテグレータを中心としたパートナーにコンサルティングサービスを提供しています。
──ソフトメーカーであるウイングアークが、なぜコンサルティングサービスを強化する必要があるのですか。
内野 最近のIT産業では、レガシーシステムからオープン系システムへのマイグレーションが急速に進み、情報システムが複雑化してきました。ミドルウェアの数も一気に増えており、様々なミドルウェアとアプリケーション、そしてハードを組み合わせなければならなくなっています。システムインテグレータは、顧客に1つの情報システムをまとめて提供するのが難しくなっている状況です。
ウイングアークのソフトは、他ジャンルのミドルウェアやアプリケーションソフトとの連携が非常に重要になります。単純に開発して販売するだけではなく、パートナーとともにエンドユーザーの現場に入り、他のソフトとの連携や、既存の顧客の情報システムへのインテグレーションを手伝う必要があります。たとえメーカーの立場でも、導入・運用を支援していくことが、ユーザーにとってもパートナーにとっても重要になってきたわけです。パートナーとの連携を強化する意味で、コンサルティングサービスは重要な位置付けになるわけです。
国内市場に加え海外展開も視野に 今年中には北京市に拠点を
──パートナーとの連携を重視されていますが、昨年11月に打ち出したパートナープログラム「WARP」はパートナーの支援施策で重要な意味を持つと思います。このプログラムが稼動したことで、パートナーはどんなメリットが得られますか。
内野 翼システム時代からパートナーとの協業はもちろんありましたから、パートナーへの支援も手がけていました。今ではパートナー経由の間接販売の比率が、売上高の約9割を占めています。ただ、当時は案件やパートナーごとにその都度サポートを行っていたため、きめ細かな対応ができていませんでした。
現在、システムインテグレータだけでも、ウイングアークの帳票ツールを商材にしてもらっているパートナーは2000─3000社もいるのです。支援プログラムを体系立てることで、行き届いたサポートを各パートナーにくまなく提供できるようになります。
──帳票作成ソフト市場の今後をどのように見ていますか。
内野 レガシーからオープン系システムへの移行など、市場環境としては追い風が吹いている印象を持っています。ある調査会社の資料では、2010年には現在の約2.5倍にあたる250億円の市場規模になると言われており、私自身も同様のイメージを持っています。また、今は大企業中心ですが、今後必ず中堅・中小企業(SMB)にもニーズが出てくると見ています。さらに、成長していくのは日本国内だけとは思っていません。海外にもビジネスチャンスはあると思ってますので、海外に出て行くことも計画しています。市場全体の動きとしては、確実に右肩上がりで伸びていくでしょう。
──海外展開の具体案は。
内野 まずは中国です。中国に進出し、ウイングアークの帳票ソフトを導入している日系企業から、サポートをして欲しいという案件が増えています。この要望に応えるために、今年中には北京市に拠点を構えるつもりです。当面は日系企業のサポート事業ですが、その後は中国企業にもアプローチしていき、将来は北米市場にも進出していきたいですね。
──帳票作成ツールのイメージが強いですが、最近ではBI(ビジネスインテリジェンス)分野にも積極的ですね。
内野 BI関連ツールとして「ドクターサム」シリーズを提供していますが、将来は帳票ツールと同等レベルにまで育成し、事業の柱にしていきます。まだ認知度は低いですが、非常に引き合いが多い。昨年末に発売したレポーティングツールで一通りの製品群が揃いましたので、今後は販売を加速させていきたいと思います。これまで帳票ツールでしか付き合っていなかったパートナーの方々にアピールしていきたいと思います。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ウイングアークの会社案内の表紙には「日本の帳票」と、毛筆体で書かれている。内野社長をはじめ全社員の名刺には、「帳票一筋」、「集計革命」の言葉が印刷されている。どことなく“日本らしさ”を押し出している印象を受ける。外資系ベンダーが多く、カタカナが多いIT産業のなかでは、その日本らしさは際立つ。
「帳票は、日本独特の商習慣が大きく影響する。細かな要望を満たすことは、日本の帳票文化を知り尽くしているからこそできる」
内野社長は、翼システム時代から数えると帳票作成ソフトの開発・販売事業に10年以上携わり、日本市場で確固たる地位を築き上げた。
今後進出するグローバル市場では、日本らしさは通用しないだろう。世界市場でどのようにウイングアークらしさを打ち出していくのか。その動向が楽しみだ。(鈎)
プロフィール
内野 弘幸
(うちの ひろゆき)1956年12月生まれ、東京都出身。79年、明治学院大学経済学部卒業。92年、翼システム入社。新規事業企画を担当。95年、情報企画事業部部長。帳票作成ソフト開発・販売事業で、製品企画・プロモーション業務に従事。04年3月23日、翼システムから帳票ツールの開発・販売部門が独立し、ウイングアークテクノロジーズが発足。代表取締役社長に就任した。
会社紹介
ウイングアークテクノロジーズは、システムインテグレータの翼システムの帳票作成ソフト開発・販売事業部門が分離・独立し、帳票作成分野の専業ソフトベンダーとして2004年3月23日に発足した。
製品ブランドや事業内容は、翼システムの1事業部時代と変わりないが、分離・独立後の新たな施策として、コンサルティングサービスとパートナーへの支援制度の強化を図っている。
帳票開発の工数を最短化するためのツール、帳票の出力環境を構築するためのミドルウェアなど、帳票作成関連ソフトの開発・販売事業をメインとしている。主力商材の帳票作成ソフト「Super Visual Formade(SVF、スーパー・ビジュアル・フォーメイド)」は、約1万1000社に納入した実績を持つ。
昨年度(05年2月期)の売上高は約53億円。中長期的な目標として、3年後に売上高85億円、5年後には150億円を目標に掲げる。また、3年後をめどにIPO(新規株式公開)も視野に入れている。