ネットワーク管理分野を中心にビジネスを展開していたノベルが、新しい領域に踏み出した。2004年1月に親会社の米ノベル社が独スーゼ・リナックスを買収したのを受け、同年6月に日本市場でLinuxOS「SUSE LINUX」を発売。拡販に向け、パートナー企業の拡大に力を注いでいる。マネジメントの分野では、160種類以上ある同社製ソフトを「ビジネスソリューション」として体系立て、社内システムの統合管理を可能とする「アイデンティティ」管理を提唱。吉田仁志社長は、「ビジネスを飛躍的に拡大する機は熟した」と自信を覗かせる。
2004年は戦略的な年、Linux分野でパートナー倍増
──昨年は本社がスーゼ・リナックスを1月に買収し、日本市場でLinuxOS「ノベルSUSE LINUX」を投入するなど、激動の1年でしたね。
吉田 確かに、昨年は当社にとって新しい風が吹き込んできた1年だったといえます。スーゼ・リナックスの買収で、メーカーをはじめ、さまざまなソリューションベンダーが当社を「Linuxのノベル」と見方を変え、一緒にビジネスをしたいという傾向が以前にも増して高まってきました。今年は、日本市場でLinuxを広めることや、Linuxをベースに当社の製品を拡販していく意味で戦略的な年になります。そのため、パートナー体制をさらに固めていきます。
最近では、当社のLinuxビジネスに賛同する“仲間”が増えています。国内では、ほとんどの大手サーバーメーカーと販売契約を結びました。ディストリビュータやシステムインテグレータ(SI)のパートナー開拓も進んでいます。パートナー数は、LinuxOS「SUSE LINUX」を出荷開始した昨年6月からの約8か月間で100社に達しました。今年は、パートナーを200社に増やします。
──とことんパートナーを増やしていくと。
吉田 そうです。基幹系システムのオープン化が進んでいるなか、オープンソースの導入を煽るためには、とにかく広めていく、いわば“ゲリラ戦略”が重要になってきます。
当社では、「SUSE LINUX」のパッケージ製品として、企業のサーバー向けにパートナー経由で提供する「エンタープライズ・サーバー9」や、個人ユーザー向けに家電量販店やパソコン専門店が販売する「プロフェッショナル9・2」を発売しました。ほかにも、Linux製品では企業のクライアントパソコン向けに「ノベルLinuxデスクトップ9」も提供しています。これは、企業内のシステムからクライアントパソコン、個人で使用するものまでLinuxで網羅するためです。加えて、当社の製品をベースにしたLinuxシステム提案を増やすためには、パートナー数の大幅な拡大が最適だと判断しました。
──パートナーの拡大策については。
吉田 パートナー100社を獲得できたのは、「SUSE LINUX」の市場投入が大きいといえますが、昨年春にパートナー向け支援プログラムを策定したことも貢献していると自負しています。販売面で、当社の製品を使ってソリューションを提供する「ソリューション・パートナー」という制度を設けたことに加え、ディストリビュータを中心にパッケージ製品の販売パートナー向けに「オーソライズド・パートナー」制度を設置しました。 通常、各ソフトメーカーなどが提供しているパートナープログラムは1年間の売上金額を設定するなど、何らかの条件を提示しています。しかし、オーソライズド・パートナーに関しては条件を一切設けていません。当社のパッケージ製品を扱ってもらえるパートナーであれば、プログラムに参加できるようにしました。
パートナー企業の開拓では、東京や大阪など大都市圏で販売パートナー向けセミナーを実施し、当社から「SUSE LINUX」のパッケージ製品をはじめ、当社製品で実現できるソリューションの説明や、パートナーさんから導入事例を紹介してもらう場を設けました。こうしたセミナーは継続して行っていく予定です。
──Linuxビジネスの対象企業は。
吉田 これまでは業種というよりも、データセンターなど大容量のデータを持つ企業に対してLinuxソリューションを提供してきました。クライアントパソコンの切り口では、大学教育機関へ導入した実績があります。まずは、当社が得意とする企業を対象に顧客を増やしていきます。また、一般企業を顧客として獲得するには、UNIXの置き換えとしてLinuxを提案する方法が最適といえます。パートナーとともに「SUSE LINUX」のパッケージ製品を拡販することで、ユーザー企業がLinuxの良さを理解する下地作りが今年の戦略になります。
現段階では、Linuxビジネスは売り上げベースで小さな規模です。しかし、パートナーを多く集め、当社のLinuxOSのパッケージ製品を拡販する体制を整えることで、Linuxビジネスは飛躍的に伸びると確信しています。5年以内には、サーバー分野の国内LinuxOS市場で50%のシェアを狙います。
ノベル流「アイデンティティ」を定義、マネジメントビジネスを飛躍
──ネットワークOSなど、ほかのソフトについてのビジネス拡大策は。
吉田 当社では、さまざまなリソースの管理に、ポリシーベースの管理やロールベースのアクセス制御、統合されたワークフローやセルフサービスといった技術を適用し、一貫した管理を実現する「アイデンティティ」管理を定義しました。現段階では、セキュリティやデータの整合性などの観点から導入を図っています。
「アイデンティティ」では、ソリューションパートナーが重要になってきます。この分野では、とにかく拡販を図っていくというわけではなく、じっくりとビジネスを拡大していくことを考えています。現在、10社程度の企業とソリューションパートナーの契約を結んでいます。
──Linuxビジネスでは販売パートナー数を増やしてパッケージ製品を拡販する、アイデンティティの分野についてはパートナーとの関係を深めていくという戦略ですね。
吉田 現段階では、そういった戦略が望ましいと考えています。しかし、Linuxビジネスでも顧客ニーズに合ったソリューションを提供していく準備は進めています。当社は、160種類以上のソフトを持っており、製品の拡販にはソフト間のつながりを体系立てることが重要になってきます。そこで、「オープン・エンタープライズ・サーバー(OES)」を4月中旬から国内で出荷開始します。この製品は、ネットワークOS「ネットウェア」とLinuxOS「SUSE LINUX」を統合したものです。アイデンティティの分野では、当社のソフトと他社のソフトがつながるので、パートナーがよりソリューションを提供しやすくなります。またLinuxの分野でも、LinuxOSをベースとしたソリューションを提供することが可能となります。
──業績については。
吉田 具体的な売り上げは明かせませんが、日本法人の売り上げ比率は、現段階でワールドワイド全体の10%に達していません。ワールドワイドのビジネスも伸びますので、この比率を増やしていくのには時間がかかるかもしれませんが、売り上げ自体が伸びることは確かです。Linuxが普及すれば、アイデンティティ分野の拡大にもつながり、当社のサービスやサポートも売れる。当社の手がけているビジネス分野の相乗効果を発揮する戦略が軌道に乗れば、売り上げは飛躍的に伸びると確信しています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「SUSE LINUX」を国内市場で普及させる策。それは、現状の販売パートナー数を今後1年間で2倍に増やすこと。とにかく、パッケージソフトの対象企業に導入を促していく。「顧客企業にLinuxの良さを知ってもらう」ためだ。
しかも、「ソリューションベンダーにとっては、価格面でLinuxを担ぐことのメリットを感じてもらう」と、システムインテグレーションの現場も視野に入れる。向こう見ずと捉えられがちな戦略を掲げるのは、4月中旬に「オープン・エンタープライズ・サーバー(OES)」を発売するという布石があるため。「パートナーがソリューションをさらに提供しやすくなる製品」とアピールする。
コンサルティング畑出身というプロフィールから、取材前は“スマート”な人物という印象だった。取材後は、その“スマート”さと“大胆”さを備え持つ人物だと実感した。(郁)
プロフィール
吉田 仁志
(よしだ ひとし)1961年7月生まれ、神奈川県出身。95年、ITコンサルティング会社の米ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに入社。97年6月、同社の日本法人であるケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズの社長に就任。アジア・太平洋地域の事業拡大に従事する。00年4月、米国本社の上級副社長に就任。01年7月、米ノベル社が米ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズを買収し子会社化したのにともない、米ノベル社の日本地区代表に就任。同年9月には、米ノベル社の日本法人であるノベルの社長に就任する。子会社のケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ日本法人の社長も兼務している。
会社紹介
ノベルは、米ノベル社の日本法人として1990年3月に設立された。同年10月にネットワークOS「ネットウェア」を日本市場で広めるため、「ネットウェアコンソーシアム」を設立したのに続き、翌91年4月に「ノベル認定教育センター(NAEC)」、92年1月に「ノベル認定技術者(CNE─J)」などの資格認定制度をスタートさせた。
米ノベル社は、03年8月にLinux向けデスクトップ環境ソフトウェアを開発する米ジミアンを買収、04年1月には大手Linuxディストリビュータの独スーゼ・リナックスを買収するなど、立て続けにLinuxビジネスに強い企業を傘下に収めた。これにより、オープンソースに力を入れる姿勢を鮮明化。最近では、米ユタ州に「ノベル・オープンソース・テクノロジー・センター」を開設し、オープンソース関連企業を支援する体制を敷いている。日本市場では、LinuxOS「SUSE LINUX」を昨年6月に発売したことで、それまで数社程度だった販売パートナーが約100社まで膨れ上がった。
同社が提供するソフトは、ネットワークOSやLinuxOS、アプリケーション統合製品など160種類以上に及ぶ。今年4月中旬には、「ネットウェア」と「SUSE LINUX」を統合した「オープン・エンタープライズ・サーバー(OES)」を日本市場に投入。これにより、LinuxベースのSI(システムインテグレーション)ビジネスを加速させ、5年以内に国内Linux市場で50%のシェアを獲得する方針。