6月17日、日本電子計算(JIP)の社長に、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)で数々の要職を務めてきた内池正名氏が就任した。JIPの業績は、昨年度(2005年3月期)営業赤字に転落。厳しい環境下、トップとして内池社長はどのようにJIPを復活へと導くのか。「ヒントは現場にしかない」と現場をあずかる社員とのリレーションづくりに力を注ぐ。
JIPは「真面目な会社」若手社員とともに新たな成長戦略を
──日本電子計算(JIP)の社長に就任して約1か月。現状をどのように捉えていますか。
内池 顧客にJIPの印象を聞くと、「真面目だよね」とよく言われます。社長に就任して約1か月、顧問に就いてからは3か月半の間、JIPをみてきましたが、私も同感です。JIPの社員はとても真面目です。顧客のことをとことん考えて、とにかく誠実に顧客と向き合う姿勢はJIPの強みです。
ただ、一方でブランド力が低下しているようにも思います。私はJIPに入るまで、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)でJIPを外から見る立場にいましたが、以前よりも市場や顧客に対しての訴求力が薄れているようにも感じています。
顧客に対してしっかり分かりやすくメッセージを伝える施策が活発かといえば、少々手薄かなと感じており、これを今後強化していきます。5月中旬にはホームページのリニューアルを提案し、現在制作中です。7月中にはリニューアルオープンしますので、より分かりやすい形でJIPをアピールできればと思っています。
──トップに立ってまず着手したことは。
内池 社員との会話、意見交換の場を持つことです。毎週1回、2時間半の時間をとり、社員と直接会話する機会を設けました。
毎回15人ほど社員を集めて、社員1人ひとりの考えを聞き、そして私の考えを直接伝えています。意見やビジョンを伝える方法はいくつもありますが、顔を見て直接会話することが一番効果があります。毎週1回、15人のペースでは、全社員と話すのに2年もかかってしまいますし、効果が出るかどうかは分かりませんけど、それでもやります。社長室に座っているだけでは何も分かりませんから。
また、中堅社員と、役員および事業部長レベルの幹部陣が意見を交換する場も設けました。
顧客からの「真面目」という評価は非常に嬉しいです。安心もしました。ですが、これからは真面目さだけではダメです。枠にとらわれない新しい発想でチャレンジしていく姿勢が必要です。そのためには幹部陣だけではなく、若い社員の意見も重要です。成長するためのヒントは現場にしかなく、現場を知っている若手社員の声は貴重な財産ですから積極的に取り入れていきます。
幹部陣と選抜した中堅社員13人にはそれぞれ、JIPが成長するうえで何をしたら良いか、アクションプランを考えてもらい、その後に両方の意見をぶつけあっています。活発な議論があり、新たな成長戦略を練っている最中です。
──昨年度(2005年3月期)の業績は、増収を確保しながらも営業赤字に転落。厳しい状況です。
内池 増収を遂げながらも赤字になったのは、いくつかの原因があります。1つは戦略的な先行投資型の案件が多かったこと。利益重視ではなくノウハウを蓄積するという意味で、今後成長が期待できる分野で挑戦的なプロジェクトに昨年度は取り組んできたため、コストがかさみ利益を圧迫しました。
また、いくつかのプロジェクトでサービスインが遅れ、顧客に違約金を支払いましたので、このことも赤字につながった要因です。
プロジェクト管理の徹底で利益を出す 自治体向けビジネスは今後も拡大
──どのように打開しますか。 内池 まずはプロジェクトの管理を徹底させます。そのため、専任部署をすでに設置しました。これまでは各事業部にプロジェクトの管理を任せていましたが、生産管理部という組織を十数人体制で設けました。この部署で、適正な品質を適正なコストで、スケジュール通りにプロジェクトを進めているかを厳重にチェックしていきます。
──プロジェクトの不採算化は、どこのITベンダーも少なからず抱える課題です。原因はどこにあると考えますか。
内池 大きく分けて、3つの要素があると思います。1つは、プロジェクトマネジメントが徹底されていないこと。2つ目は変化に対応する力が不足していること。仕様が決まっても、顧客と話を進めていく間に仕様は変わっていきます。仕様変更に柔軟に対応しながらも、しっかりと利益を生み出す仕組みがないことです。
そして最後が、システム構築、ソフト開発を始める前段階、つまり売り方に問題があると思います。営業担当者がユーザーの要望を正しく理解し、的確なソリューションを見つけ、分かりやすく説明できるスキルが不足していることにあると考えています。
JIPでは、すでにプロジェクトマネジメントの強化については、生産管理部を設置しました。売り方や仕様変更への対応力については、経営戦略本部という部署を新たに設置し、この組織で強化していきます。この部署では、人材教育に積極的に取り組み、営業力、そして顧客の要望に合わせてハード、ソフト、開発手法を含めソリューションをデザインするアーキテクチャ能力の育成に力を入れていきます。
──JIPのビジネスは、証券会社と自治体向け事業が大きなボリュームを占めています。それぞれの市場環境をどのように把握していますか。
内池 証券会社は、ネットに特化する企業が出てきたり、各社で特徴が出てきており、ニーズも多様化しています。また、サービスインまでのスピードをかなり求めるようになりました。
一方、自治体は市町村合併が進み、ITベンダーとしては厳しい環境になります。単純に顧客数が減ることになりますから。ですが、マイナス面だけではありません。コスト削減を各自治体が図っていくなかで、事務の効率化などITがサポートできることがたくさんあると思います。
また、今後はITの利活用に本格的に自治体が動き出すでしょう。ITを使った住民のための情報サービスを各自治体が考えるなかで、お手伝いできることもたくさんあります。
JIPは自治体に対して長年、情報処理サービス、システム構築、ITサービスを提供してきたノウハウがありますし、各自治体に合わせたきめ細かな提案で、合併後もビジネスを拡大させていけると自負しています。
──組織体制の課題は。
内池 JIPは、金融証券事業部や公共システム事業部などというように、事業部制をとっています。各事業部で独立採算をとっており、権限もかなり委譲しています。この事業部制は変更しません。
ですが、各地域ごとのニーズにしっかりと応えられる体制が必要だと感じています。特に自治体では、各地域によってニーズは異なり、各地域の声に合わせたソリューションづくりや戦略が重要になります。今の顧客別やサービス別の事業部の枠を超え、地域の声を反映できる仕組みを整えようと思っています。これについては、新設した経営戦略本部と私、そして営業担当の室直之取締役で戦略を練っている最中です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
今のIT産業に対して厳しい意見を持つ。インタビュー中も、JIPのビジネスだけでなく、IT業界が抱える課題や問題点を次々と指摘した。
「知的産業にも関わらず、人数計算で対価を決めるのはおかしい」「知的財産を適正に評価するカルチャーがこの業界にはない」「中国や米国などの海外諸国に比べ、IT関連の大学教育が貧弱」「自ら進んで勉強しようという意識がこの業界には欠けている」…とさまざまな問題に対して苦言を呈する。
内池社長は、大学卒業後日本IBMに入社。一貫してIT業界に身を置き、IT産業の発展のなかで活躍してきた。それだけにこの業界に対する思い入れはひとしおだ。
IT産業が成熟期を迎えた今、業界全体が解決しなければならない部分は多い。JIPの成長だけでなく、業界全体の発展にも目を向けている。(鈎)
プロフィール
内池 正名
(うちいけ まさな)1947年4月26日生まれ、福島県出身。70年3月、慶応義塾大学経済学部卒業。同年4月、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)入社。98年4月、取締役システムズ・エンジニアリング担当。02年4月、常務取締役関連事業・購買・営業管理担当。04年7月、常務執行役員営業支援・スタッフオペレーションズ担当。05年4月、日本電子計算(JIP)顧問。6月17日、代表取締役社長に就任。
会社紹介
日本電子計算(JIP)は、情報処理サービスをメイン事業に1962年に設立された。その後事業領域を広げ、現在はシステムインテグレータ(SI)として、情報システムおよびネットワークの導入支援から構築、運用サービス、ソフト開発などを手がける。
特に金融・証券、官公庁・自治体向けシステム構築、ITサービス事業に強みを持っている。昨年度(05年3月期)売上高のうち、金融・証券分野が33.3%、官公庁・自治体分野が29.0%を占めている。
昨年度の連結業績は、案件の長期化による遅延損害金などの発生で、増収ながらも営業赤字に転落。売上高は前年度比8.5%増の398億4200万円、営業損益は10億8300万円の赤字(前年度は2億8600万円の黒字)、経常損益は11億4600万円の赤字(同2億8100万円の黒字)、当期純損益は11億7100万円の赤字(同3億6500万円の赤字)となった。今年度は、プロジェクトマネジメントを徹底するなど不採算案件の撲滅施策などにより、売上高で前年度比2.9%増の410億円、当期純利益で4億5000万円を見込んでいる。
社員数は約1300人。連結子会社は5社。96年、東京証券取引所第2部に上場。99年、同第1部に市場変更した。