通販サイト「PCサクセス」を運営するサクセスは、1999年の創業以来7期目で年商200億円を突破した。07年には株式公開も狙う成長企業だ。価格競争の激しいネット通販の世界で、常に「どこよりも安く」を標榜する一方で、利益率8%という高い収益構造を築き上げた。その背景にあるのは、自前の在庫確保にこだわり、徹底した顧客分析で月2回転の在庫回転率を達成するという効率的な経営手法である。「徹底した価格戦略で、短期間に1兆円企業へ駆け上がる」と語る栗田勝社長は34歳。「うちを真似できる会社なんて他にない」と胸を張る。
上場はブランド力の強化が目的、eコマースでナンバー1になる
──昨年度(2005年10月期)の業績がまとまったばかりですが、満足できる内容でしたか。
栗田 売上高が206億4600万円で、経常利益が8000万円でした。通販の利益率は約8%を維持していますが、今は先行投資を優先して、それほど利益にこだわっていない。10月10日に倉庫を新設したばかりですし、先日、秋葉原にサクセス本店もオープンさせた。来年5月にはシステムもサイトも全面的にリニューアルします。将来に向けて力を蓄える時期ということでは、やるべきことはできたと思います。
──株式公開も控えています。
栗田 そう、今期10月決算で売上高を2倍の400億円に、経常利益を6億円くらい叩きだして、06年末に上場に持ち込みたい。今のところ、スケジュール通りに進んでいます。ただ、本音を言うと、私はそんなに上場したかったわけじゃない。本当の目標は、あと5年で1兆円企業をめざすこと。楽天、アマゾンを抜いて、本気でeコマースナンバー1になりたい。これをやるには、ブランド力が必要だから、上場するだけです。
──1兆円というのは、遠大な目標ですが。
栗田 本気にしてないでしょう。3─4年前には200億円売るぞと言っても、誰も信じてくれなかった。バカじゃないかと言われましたよ。でも、今は実際にそこまできている。1兆円だって、昔から掲げてきた目標だから、必ずできる。そう信じています。
──1兆円の売り上げにどうやって駆け上がると。
栗田 パソコンだけで終わりたくないんです。ですから、来年5月にサーバーから在庫管理システム、サイトを全て作り直して、そこから一気に扱い商品を広げます。パソコンや周辺機器、家電だけでなく、釣具やオモチャ、宝石、書籍、CD、楽器、食品といった新ジャンルの商品をすべてやっていきたい。これで07年10月期には、1000億円を売り上げる。パソコンが3割で、それ以外の新規商品が6─7割と考えれば、できない数字じゃない。そこから先は商品別に別会社をつくって、ホールディング・カンパニー制でそれぞれの売り上げを伸ばしていくというやり方もあります。
自前の物流体制にこだわる 自社在庫だから納期も早い
──ネット通販の世界では、わずかな価格差が勝負の分かれ目になりますね。しかも競争は年々厳しくなる一方です。そのなかで勝ち続けることができる原動力は何ですか。
栗田 価格に関しては、最安値にこだわり抜いてきました。何が何でも、カカクコムで最安値を出すこと。そのために、今でも1日に何十回も価格の見直しをやっています。ただ、本質的なことをいうと、勝負を分けるのは価格と、それから納期なんです。時間指定配達や24時間発送をやるうえで、最後に勝負を分けるは物流です。在庫をメーカーの倉庫に預けたり、外部にアウトソーシングしていると、納期に制約がでてくる。さまざまな注文に応じて、いち早く顧客に製品を届けるには、どうしても自社で在庫を持つべきなんです。他のeコマース企業は、ほとんどが物流を外部に委託していますから、ここが当社との大きな違いですね。
──商品のライフサイクルが早いパソコン通販の世界で、在庫を抱えるのは大きなリスクじゃないですか。
栗田 リスクは大きいですよ。だから、在庫管理は徹底して行う。単に在庫を管理するだけでなく、サイトのログも徹底的に解析します。売れ行きの悪い商品があれば、ログ解析をもとに需要予測をして、無駄な在庫はすぐに売り切る。今、通常の在庫金額は約10億円です。ひと月の売上げが20億円ですから、在庫は大体1か月に2回転する勘定です。
──ログ解析と在庫管理の連携とは、具体的にどんな仕組みなのですか。
栗田 顧客がどのサイトから当社の通販サイトにアクセスしたかを分析します。たとえば、ヤフーやカカクコムからきた人を属性別に分けて、どういうキーワードでサイトにアクセスしているか、その場合の直帰率や放棄率などを調べる。カカクコムからきた場合は、ほとんどカタログも見ないですぐに商品の購入ページに飛びますから、途中に面倒なページをつくらない。別のサイトから来た人たちは、放っておくと単品しか買ってくれません。そこで、主役となる商品を把握したうえで、なるべく動線の道筋に購入率の高い周辺機器などを置いておく。当然、そうした商品在庫は即納ができるように手当てしておく。こうした仕掛けをすることで、顧客の複数購買率は確実に上がります。通常のサイトでは単品購入がほとんどですが、当社の場合は平均で5品目は買ってくれる。これが利益の源泉です。
──システムと分析能力の勝負ですね。
栗田 もうひとつ、売り上げ拡大のけん引役は、アフィリエイトのパートナーサイトです。ホームページに、当社へのリンクを張ってもらい、そこから購入した場合には、売り上げの5%がパートナーに戻る。うちの営業も頻繁に電話をかけて、こんな商品をサイトで紹介してほしいと連絡を取り合うようにしています。こうしたパートナーサイトが1万5000件あって、実はこの人たち自身が、うちのお客さんなんです。欲しいものがあれば、自分のホームページのリンクから安く買える。カカクコムの最安値で、しかもさらに5%安く買えるわけです。ですから今後、書籍やオモチャ、CDなどに商品が広がっていけば、このパートナーさんたちがどんどん新しい商品を買ってくれるはずです。
──なるほど、しかし、そんな工夫もすぐ他社に真似されることになりませんか。
栗田 そう簡単に真似なんかできないぞと思ってますね。最安値価格ひとつをとっても他で同じことはできません。うちは切手一枚にしても、安売り店でしか買わない。それくらい徹底的に経費削減をしています。そのうえで、ブログ解析や需要予測も徹底的に研究する。必要ならば、24時間体制でほとんど休みも取らずに働く。そんな会社が他にあると思いますか。ひとつやふたつの事象は真似できても、我々と同じことは絶対できない。自信をもってそう言えます。
──そこまで社員のモチベーションを維持できる秘訣は何ですか。
栗田 まず同志であること。いくら仕事ができても、志が一緒でないと当社の成長に耐えられません。最初の頃は、みんな夢をもって集まって、命がけで心が通じました。しかし、組織が大きくなると、そうもいかなくなりましたね。最近は、新しい幹部が必要なときは、専門的な能力と志の高い人にヘッドハンティングで来てもらうようにしています。今、考えていること、何がやりたいのかを、じっくりと話し合って互いを理解できるようにしています。そういう意味では、一番苦労したのは人の問題ですね。ストック・オプション? 志は株では買えませんよ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
34歳で株式上場の重責を負う。ネット系ベンチャーには同世代の経営者も多いが、経歴はやや異色。ダイエーが設立したパソコン販売会社に入社。ここで、元ラオックス・ザ・コンピュータ館店長の杉浦敏雄氏と出会う。そのためだろうか、生粋のネット系出身にはない「血の気の多さ」が漂う。「心の通いあう同志と命がけで働いてきた」と真顔でいう。
杉浦氏に従って旗揚げした創業期は、パーツの商いで瞬く間に資金が底をつく。窮余の策として飛び込んだネット通販の世界で花が開いた。業績は創業6年で200億円と華麗だが、ふとした言葉に店頭から叩き上げた重みが伝わる。
性格は極めてポジティブ。「1兆円なんて」とこともなげに言う。半面、「心が通う同志が少なくなった」と漏らす。歳は若いが「人」の苦労を語るとき、経営者の顔がのぞく。どこまで走れるのか、目標は途方もなく大きい。(澄)
プロフィール
栗田 勝
(くりた まさる)1971年生まれ、東京都出身、34歳。96年8月、ダイエーメディアソリューションズ入社。97年、同社フロアーマネジャーに就任。99年9月、サクセスの設立に参加。2000年、取締役。05年1月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
99年、元ラオックスの杉浦敏雄氏(現代表取締役会長)が創業。パソコン関連のeコマース企業として03年10月期に売上高100億円を達成、05年10月期に200億円を突破し、さらに今期は倍増の400億円を目指す。従業員120人(うちアルバイト40人)。パソコン本体、周辺機器、家電、DVDソフトなど35万アイテムを揃える。業界最安値を標榜し、月間400万人の集客力を誇る。現在の主な売上構成は、パソコン、周辺機器40%、パソコンパーツが25%、家電全般20%。11月に新しいリアル店舗として東京・秋葉原に本店(約55坪)をオープンし、2店舗を構える。自前の在庫確保のため、11月に新倉庫を東京・勝島に開設。今年6月にはi─mode公式サイトをオープンし、さらにauとvodafone公式サイトと自社モバイルサイトを12月にオープン予定。06年5月に「PC─SUCCESS」サイトを全面的にリニューアルし、アフィリエイト型SNSも同時に導入する。同年6月からはパソコン、家電以外にも取扱商品を拡大。150万冊の書籍とCD・オモチャ・釣り・楽器・フード・宝石などを揃えた幅広い生活用品の総合通販サイトを目指す。