グーグルが新しいステージに駆け上がった。04年9月以降、日本語版サービスを充実させることでユーザー数が拡大。財務基盤の柱である広告収入も順調に伸びている。村上憲郎社長は、「05年はトランジションの年だった」と振り返る。これまでは、口コミベースでサイトを訪れるユーザーが多かった。今後は、「積極的にグーグルの存在を知らしめる」という。ユーザーの拡大を一段と加速するために、コンシューマ利用を促す施策を強めていく。
トランジションの年だった05年 財務基盤の広告ビジネスも順調
──2005年は、グーグルにとってどのような年でしたか。
村上 新しいステージに立つための“トランジション(転換)”の年でしたね。昨年までは、先進的なパソコンユーザーが当社の検索サービスを利用する傾向が高かった。しかし、今年に入ってからは幅広い層が利用するようになっています。具体的にはいえませんが、ユーザー数が確実に上がっているのを実感しています。
──どんな要因がユーザー数を押し上げたと。
村上 日本語版サービスの充実ですね。去年9月にサービスインしたニュース検索サービス「グーグルニュース」日本語版のスタートが大きかった。それ以前は、グーグルニュースも含めて英語版はあるのに、日本語版で提供できていないサービスが多かった。そのため、先進的な“グーグルファン”以外には、なかなか当社のサイトを利用してもらえなかった。ところが、グーグルニュース日本語版の開始以降は、英語版のサービスを間髪を入れずに日本語版に置き換えて市場に投入する流れが定着しました。これは、日本語版のサービスを提供するためのサポート体制が整ったおかげです。
──03年4月の社長就任から築き上げた“村上体制”が固まってきたということですか。
村上 いえいえ。日本語版サービスの充実は、私だけの力じゃありませんよ。日本で働くスタッフ全員が志をひとつにして努力した結果です。グーグルは米国が本社なので、英語版が先行して北米や欧州でのサービスが充実するのは仕方がない。しかし、グーグル全体でグローバルな体制が整ってきたことで、日本語版サービスの提供が早くなってきたんです。
──図書館の膨大な書籍をデータベース化する「グーグル・ブック・サーチ」などを例にあげると、グーグルには、著作権問題でごうごうたる議論を巻き起こしてでも、目標に突き進みたいという強烈な意志を感じます。それも、必ずしもビジネス上の利益追求ではなく、自分たちの理念を形にすることに意味があると考えているふしがある。不思議な存在ですね。何を目指しているんですか。
村上 それは、グーグルがまさにコーポレートミッションで掲げている理念そのものですよ。つまり、「世界の情報のすべてをオーガナイズし、それをアクセス可能にする」ということ。インターネット上のさまざまなコンテンツを組織化できるような世界をつくることが我々の目標なんです。しかし、だからといって、高度なテクノロジーを利用して、邪悪なことを考えているわけじゃないですからね(笑)。このミッションを達成するには、むろん財務的な面でも健全でなければなりません。だから、業績アップに向けた戦略もしっかり立てています。財務的な柱である広告収入でビジネスが成り立つという裏付けもありますから、より多くのサービスを実現し、提供するという体制が確立できるんです。
──確かに広告ビジネスは、急成長ですね。
村上 順調です。国内のインターネット広告市場は年率50%の伸びといわれています。当社は、リスティング広告の配信を中心に、市場の伸びと同程度に成長しています。サービスを強化できるのは、財務体制が成り立っているからです。業績を伸ばして充実したサービスを提供する。この好循環が、日本でも確立しつつあります。
──広告以外のビジネスは追求しないのですか。
村上 インターネット広告は、広告市場全体のわずか3%で、まだまだ伸びる可能性があります。広告収入だけのビジネスモデルは、非常にシンプルですが、十分にやっていけると確信しています。
日本発のサービス提供へ“検索といえばグーグル”
──日本語版サービスの強化には、昨年の「東京R&Dセンター」の設立が寄与しているのですか。
村上 よくいわれますが、実は違うんですね。日本語版のローカライズは米国で行っています。東京R&Dセンターは、ローカライズが目的ではなく、ワールドワイドでビジネスを強化するにあたって、日本のコンピュータサイエンスの能力を最大限に生かすのが目的です。センターを設置して日本の優秀な人材を、どんどん採用することも狙いです。
──ということは、東京R&Dセンターで日本発のサービスを開発することも考えられますね。
村上 日本が他国よりも先行している、モバイルやブロードバンドをベースとしたサービスを提供する可能性はあります。当社のエンジニアは、勤務時間の2割は自分の自由な発想で研究開発ができる「20%ルール」というコンセプトのもとで開発に携わっています。東京R&Dセンターのエンジニアが日本の環境下で開発すれば、何か新しいサービスが誕生することは十分に期待できます。実際、日本に合ったサービスとして検索語の入力中にリアルタイムで検索候補になりえる言葉を表示する「グーグルサジェスト」を試験的に開始したりしています。
──来年は、どんなことをやりたいですか。
村上 積極的にブランド力を向上するための策を打っていきたい。日本語版サービスを迅速に提供できる体制が整ったので、来年は日本ユーザーが待ち望んでいたサービスを次々と打ち出せるようになります。現在でも、高度な技術を駆使した日本語のサービスが増えたことで、さまざまなユーザーに“ハイテクは楽しい”と意識してもらえるようになったと自負しています。今後は、ユーザーが利用してくれるのを待つのではなく、グーグルの存在を積極的に知らしめるというか、コンシューマとの距離を縮める知恵を出していこうと考えています。まだ、具体的なプランは固まっていませんが、アイデアは練っています。競合のビジネスモデルも参考にします。ブランド力があるヤフーのサイトを使うのは構いません。しかし、“検索サイトといえばグーグル”という知名度を早急に確立したいですね。
──ヤフーの名前が出てきましたが、競合として意識しているのですか。
村上 ヤフーは、検索サービスだけじゃありませんからね。物販やコンテンツの販売も行う“デパート”みたいなサイトですから、私が競合と呼ぶのはちょっとおこがましいかもしれません。ただ、ヤフーの検索サービスからグーグルに入ってくるユーザーが多いという現状は、なんとか打破したい。ヤフーから訪れたユーザーの多くは、「グーグルの検索は速い」、「検索内容が良い」という感覚をもってくれているはずです。だから、できるだけ多くのユーザーが、ヤフーでなく、当社のサイトを直接アクセスする環境をつくりたい。
──検索サービス分野ではヤフーを抜くと。
村上 当社のエンジンを使っているパートナーのアクセス数を含めれば、すでにマーケットシェアは56%と過半数を占めている状況です。市場の拡大には、切磋琢磨して競争するのが望ましいでしょうが、来年末には、当社が「確固たるナンバーワンを実現した」と誰もが思うような環境になっていますよ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
大型連休の後には不思議にアクセスが増えるそうだ。「新しいサービスを提供したわけでもなく、とくに何か仕掛けたわけでもないのにね」と謎かけのように、笑みを含む。「長期休暇は、久しぶりに旧友に会うといった機会が増える。その時に、グーグルユーザーがまだうちを知らない人にアドレスを教えるのでは」というのが村上流の推理だ。
確かに、グーグルはこれまで口コミでユーザーを増やしてきたイメージが強い。これに、「サイトを利用させるため、積極的にプッシュをかける」ことになれば、口コミベースの広がりに輪をかけたユーザーの拡大が可能かもしれない。
しかし、大々的な宣伝にも関わらず、予想に反する危険性もある。こうしたことも踏まえ、今は「できるだけ早い時期に乗り出すためにプランを練っている」段階。同社の変貌でネット業界が変わる可能性も高い。(郁)
プロフィール
村上 憲郎
(むらかみ のりお)1970年、京都大学工学部資源工学科卒業。日立電子でミニ・コンピュータのシステムエンジニア、日本DECの人工知能技術センター長や取締役マーケティング本部長、インフォミックスの社長兼米国本社副社長などを経験する。97年8月、ノーザンテレコムジャパンの社長に就任。01年11月、米ドーセントの日本法人設立とともに社長に就任。03年4月グーグルの社長に就任し、検索サービスやスポンサード・リンク・サービスを含め、国内ビジネスの全責任を担当。現在に至る。
会社紹介
米グーグルは1998年に設立。サージ・ブリン共同設立者兼技術担当社長とラリー・ペイジ共同設立者兼製品担当社長が95年に共同で開発した技術が検索エンジンの基礎となっている。96年から97年にかけて開発された「BackRub」が「グーグル検索エンジン」の前身。
00年以前は、英語版の検索サービスが中心だったが、同年9月に日本語、中国語、韓国語などのサービスを開始し、アジア地域でのサービスを強化した。
グーグル日本法人の設立は01年4月。02年7月に日本語版のアドワーズ広告を開始することで国内でのビジネスが本格稼働した。03年4月に村上憲郎社長体制となり、国内パートナーが増加。インフォシークやビッグローブ、エキサイト、ニフティ、グーなどのサイトで検索エンジンが採用されている。
600以上のサイトからニュースを検索する「グーグルニュース」の日本語版サービスを03年9月から開始したことにより、ユーザー数が急激に伸びているという。今後は、日本語版のサービスを充実させていく。開発拠点として、「東京R&Dセンター」を設立したことで日本発のサービスが増える可能性も高い。