ワイズマンは、直接販売、直接サポートのビジネスモデルで、電子カルテ関連システムを拡販する。2010年度までに同ビジネスを50億円規模に拡大させる計画だ。同時に全社売り上げも、今年度(2006年3月期)約1.5倍の100億円を目指す。福祉介護向け業務システム分野でトップシェアを誇る同社の強みを生かし、電子カルテを中心とした医療分野へ切り込んでいく考えだ。
全国8000件の中小病院が対象 大手ベンダーとも互角に戦う
──電子カルテを中心とした医療機関向け基幹システムは、大手ITベンダーとの競合になりますね。体力で勝る相手と戦って、勝算はありますか。
南舘 当社は福祉介護施設向けの業務システムでは、トップクラスのシェアがあります。この強みを生かした戦い方をします。全国に約9000ある病院のうち半分弱が長期療養型の医療サービスを提供していますから、まずはここがターゲットです。福祉介護との相乗効果が見込めるため、これまでの営業ノウハウを生かしやすく、電子カルテビジネスも有利を進められる。全国21か所の拠点網を使って顧客に直接アプローチできる強みも生きてきます。
──大規模な医療機関への導入となると、大手ベンダーも威信をかけて対抗してきますね。厳しい戦いになりませんか。
南舘 確かに、大型の総合病院や、国公立系の医療機関となると、どうしても自治体とつながりの深い大手ベンダーが有利になります。ですから、こうした大手の医療機関に正面からぶつかるのではなく、ベット数400床未満で、かつ療養型を兼ねる民間系の病院を中心に狙っていこうと考えています。400床以上の医療機関は全国で約1000件しかないんです。それに対して400床未満は、8000件もありますから、ひとつひとつの規模は小さくても、その市場規模は大きい。大手ベンダーとも互角に渡り合える市場だと思っています。
──2010年度までに年間50億円の売上達成というのは大きな目標ですが、具体的にどんな戦い方をする、と。
南舘 直販、直サポートの体制は維持しますが、病院が見積もりをとるとき、当社もその候補に入っていないと意味がありません。初期情報は普段から病院に出入りしている製薬会社や医療機器メーカーが現場のドクターから得ることもあるでしょうし、地元の文具、複写機販売会社なども、病院の事務長クラスの方から情報を得る可能性があります。最終決定権を持つのは理事長クラスでも、こうした初期情報を得やすい販売会社と営業面での連携を拡大することを検討しています。
電子カルテ本格普及は08年から 福祉介護のノウハウ生かして展開
──電子カルテは医療情報化の大きなテーマとされながら、普及率はいまだに10%未満です。何がネックになってるんですか。
南舘 一番の問題は、投資対効果が見えにくいことです。電子カルテ以外の分野、つまり薬剤処方や検査など医師のオーダー情報を伝達するオーダリングシステム、診療報酬明細書を処理するレセプトコンピュータは、院内業務の効率化、省力化に大きく貢献するので効果が見えやすい。しかし、電子カルテの場合は、これまで紙に記録していたものを電子化するというだけでは、医療現場を納得させるだけの説得力がありません。
電子カルテの最大のメリットは病院や診療所との間で患者の情報を共有し、診療業務を効率化できるということなんです。ファクシミリの普及段階と同じで、自分たちだけが単独で購入しても意味がない。相手も購入してくれないと情報のやりとりができないのと似ています。
地域医療と大規模病院との連携で考えれば、全国約9万7000件の地域診療所にも電子カルテを導入して、診療所で手に負えない患者の場合は、これまでの診察記録をとなる電子カルテを添えて速やかに大病院へ転院できる仕組みが求められています。受け入れた大病院は、診療所から送られてきた電子カルテを参考にして素早く適切な治療ができるようになります。転院するたびにゼロから検査をやり直すという無駄を省けるのが最大のメリットなんです。
──普及が本格化するのはいつ頃からだと思いますか。
南舘 厚生労働省はまず全国400床以上の大病院と診療所に普及させることで、電子カルテをベースとした地域医療のネットワーク化を推進しています。診療所が転院先として紹介する病院は基本的に大病院であることが多いので、まずは大病院と診療所に普及させようという趣旨です。当初の目標では06年度までに両者のうち6割以上に普及させることを目指していたようですが、少し遅れそうですね。今のペースで行けば08年頃から本格的な普及に火がつき始め、2010年頃には6割という目標に達するだろうと見ています。
──それに合わせた製品開発の方向性は。
南舘 大病院や診療所に普及が進めば、中堅中小の病院も電子カルテ普及にも弾みがつきます。当社はパッケージソフトが主体ですから、大手に比べて価格は割安で済む。逆にいえば、大病院はシステムの規模が大きいうえに、診療所との連携などでシステムも複雑になりがちです。こうしたオーダーメイドやカスタマイズへの対応は大手ベンダーが得意とする分野です。当社としては、中堅中小の病院に割安感のあるパッケージを提案していくほうが、コンペになったときの勝率は高いと予測しています。
1月末には、リハビリや看護記録など長期療養型の病院を意識した電子カルテシステムの機能アップを図りました。療養型の部分は福祉介護システムで培ったノウハウが生きています。電子カルテと入院病棟を一体的に管理できることで、十分に戦える商材になったと自負しています。
──ユーザーにとっては魅力的ですが、直接販売、直接サポートは、コスト負担が大きい。支店展開方式で損益分岐点をクリアするのは容易でないと聞きますが。
南舘 これは当社の伝統です。創業当時、森林組合向けシステムを開発していたのですが、競合会社の評判がよくなく、不具合や改善点を要望しても対応が悪いという声が聞こえてきました。それじゃあ、うちはユーザーの声を直接聞ける直販でやったほうがいいと判断したわけです。
確かに、拠点を増やすと維持コストがかさみ、損益分岐点に達するまで時間がかかります。しかし当時は、林野庁が全国の森林組合の情報化を進めていた時期で、予算の流れをうまくつかんで支店を開設することで、シェアを拡大し早い段階で損益分岐点をクリアすることができたのです。当社はこの森林組合向けシステムで直販、直サポートの体制を確立しトップシェアをとりました。次に福祉介護に進出し、今は医療分野にきているわけです。
福祉介護では、ASP方式への移行を段階的に進めていて、全国約1万4000システムの納入数のうち、今年度(06年3月期)は約900システムがASPに移行して、損益分岐点を超える見込みです。ASPは基本的には月額料金制なので、一度に高い価格を設定するわけにはいきません。データセンターなどへの投資がかさみますから、単年度ベースで採算が合うユーザー数は自ずと決まってきます。黒字経営を維持できる範囲内でビジネスモデルをうまく組み立てていくことがポイントです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
本社が盛岡にあっては、動きが激しい電子カルテ市場をリードしていくのに不利な面も出てくるのではないか--。
こうした問いを明確に否定する。「東京に行く特別なメリットはないし、仙台である必要もない」。大都市に本社を構えずとも最先端企業であり得ることを自ら実践する。
全国に張り巡らせた直販、直サポート網を生かした営業展開によって、「顧客の需要をいち早く製品開発に反映する」体制を築いた。
「上場しているソフト開発ベンダーは山ほどあっても、盛岡で上場しているところはまだ少ない。それだけに株主や金融機関からの期待が大きい」と、地元からの信任は絶大だ。知名度も高く人材を集めやすい。
業容拡大に対応するため、現在約20億円かけて建設中の新社屋は今年5月、市内に竣工する予定だ。(寶)
プロフィール
南舘 伸和
(みなみだて のぶかず)1950年、岩手県生まれ。74年、早稲田大学理工学部卒業。同年、インストロン・ジャパン入社。83年、ワイズマン設立、代表取締役社長に就任。96年、ワイズマンコンサルティング設立。代表取締役社長就任(兼任)。岩手県情報サービス産業協会副会長。岩手県サッカー協会顧問。
会社紹介
岩手県で株式上場を果たした初めてのソフト開発ベンダー。福祉介護システムの開発販売で急成長し、地元優良企業として注目を集めている。福祉介護の分野ではシステムに対する需要の伸び率が鈍化していることを踏まえ、電子カルテを中心とした医療分野への進出を本格化。全国に展開した支店網を駆使した直接販売、直接サポートを営業スタイルの基本とする。顧客との接点を増やし、課題や要望を製品づくりに生かす仕組みを充実させることで製品の完成度を高めている。福祉介護に比べてシステムの規模が大きい電子カルテは、サポート力が顧客満足度を大きく左右する。自社製品に関する豊富な知識を持った人材を拠点に配置し、きめ細かなサポートを提供することで満足度を高める戦略だ。今年度(06年3月期)の連結売上高は前年度比19%増の65億円、経常利益は同約7%増の6億円の見込み。