6月下旬、NECフィールディングのトップに片山徹氏が就いた。オープン化がもたらす単価下落で保守サービス産業界は厳しい環境にある。決して楽観視できない市場環境のなか、スピードが要求されるパソコン事業のトップを務めてきた片山社長の舵取りは注目に値する。就任から1か月半が経ったところで、片山社長の考えを聞いた。
復活の道すじはすでにある スピード性もって取り組む
──顧客回りを行っている最中だそうですね。ユーザーからはNECフィールディングに対してどんな声が聞こえてきましたか。
片山 NECフィールディングの事業は私のこれまでの仕事とは全く畑が違うので、最初は各部門のオリエンテーションを受けることに時間を費やしていました。なので、なかなかお客さんに会えなかったのですが、7月下旬くらいからやっと回り始めています。NECフィールディングの顧客は全国に約24万社おられるので、すべてに挨拶にいくのは時間がいくらあっても足りません。ですので、セブン─イレブン・ジャパンさんなど約50社に絞って訪問させていただいています。
私が一番聞きたいのは、当社に対しての不満の声。要望は何で、どこに改善するポイントがあるのかを知りたい。なかなか教えてもらえないですけどね。上手く聞き出して今後のヒントにしていければ、と。
──2期連続の減収減益という厳しい状況ですが、社員に対してはどんな言葉を。
片山 私が社長に就任した時、社員に伝え、求めたのは5つです。CS(顧客満足度)のさらなる追求、現場力の向上、技術力アップ、リスクを回避する体制整備、そして最後がスピードアップです。とくにスピードは大きな強化点ですね。
保守サービス業全体が厳しい状況にあり、確かにフィールディングも苦労している。就任した直後であまり大きなことは口にしたくないですが、旧幹部陣は減収減益の要因をしっかり把握していて、その克服策も示していた。私は復活のための骨子は間違っていないと考えています。あとは、どれだけスピードを上げて進めるかです。結構大変な状況ですが、悲観はしていません。
──とはいえ、保守サービス事業の低迷は深刻ですね。そもそも保守事業がこれだけ落ち込んでいる理由はどこにあると。
片山 情報システムのオープン化が急速に進んでいることです。保守サービスの単価は、ハード価格の何%と設定しているため、オープン化は保守サービス会社に大きな打撃を与えます。システムが高額なメインフレームから低価格のサーバーに置き換われば、それだけサービス単価も自ずと下がるわけですから。それだけではありません。競争が以前よりもずっと激しいんです。「ACOS(NEC製メインフレーム)」であれば、当社しか保守サービスは提供できませんが、オープン系ハードはどの会社でも基本的に保守ビジネスが手がけられる。そうなるとプレイヤーが増えて価格競争が生まれ単価が下がる。サービス単価は年率10%下がっているんですよ。
──そうなると、いかにコストを下げて効率化を図るかが重要になる。
片山 そう。単価は年率10%で下がりますが、逆に年率5%の割合で保守対応の機器が増えているんです。オープン環境ではNEC製品だけ対応していればよいというわけにはいきませんから。となると、昨年度とトントンの業績を上げるためには、15%の効率化を実現しなければならない計算になる。
性急な構造改革の断行は、自らの首を締めることに
──だとすれば、拠点の統廃合や人員削減施策を断行する必要性も出てくる。
片山 いや、それはない。私はNECパーソナルプロダクツの社長時代にかなり乱暴な構造改革を断行した経験があります。フィールディングのトップに就いて、効率化やコスト削減を考えた時、まず最初に思いついたのは拠点の統廃合でした。フィールディングは、営業およびサービス拠点を約410か所持っていますからね。でも、その考えは大きな間違いだった。この1か月間、拠点を回ってお客さんの声を聞き、現場のCEとコミュニケーションをとって痛感したんです。拠点の統廃合や人員最適化施策を軽はずみにやれば痛い目にあうと。
全国を網羅するサービス拠点を持ち、その拠点でお客さんに接するCEこそ当社の強みだということを実感しました。拠点の統廃合や人員の最適化を無闇にやったら、CSはどんどん下がりお客さんは当社から離れてしまいます。だから、拠点の統廃合や人員最適化を復活の骨子には据えません。
──ただ、年率10%のサービス単価下落を補うのは簡単ではないですよね。
片山 いくつか克服施策は考えられます。たとえば、保守サービスの価格体系見直し。ハード価格の何%という価格体系自体を変えたいと思います。オープンシステムでもメインフレーム並みの信頼性が求められ、止めてはいけないシステムがある。それなのに、プラットフォームがレガシーからオープンに変わりハードの価格が下がったからといって、保守サービスの料金も下がるのはおかしい。逆にパソコンのようにそれほど緊急性が必要ない機器に関してはサービス料が安くてもよいかもしれません。保守サービスの契約条件を見直し、再度価格を設定する必要があると思います。お客さんに納得していただかないといけないので、簡単にはいかないかもしれませんが、上期中には動き始めたいですね。
このほか、CEの業務“見える化”による作業効率のアップ、ナレッジマネジメントの強化、保守部品の在庫圧縮、物流コストの低減などまだまだ削れる部分はあります。
──保守サービスに固執するのではなく、システムの企画から開発・構築、そして運用・保守まで総合的に面倒を見る体制をつくるつもりはないのですか。
片山 昨年度の実績からもわかるとおり、当社の保守サービス事業「プロアクティブ・メンテナンス」は、全売上高の半分を割っており、運用・監視サービスや物販などの「フィールディング・ソリューション」が多くを占めています。決して保守サービスだけの会社ではないんです。ただ、システムの企画・設計、そして開発・構築というインテグレーション力についてはまだ弱い。これについては、NECほかグループ会社との連携をとり、お客さんの要望があれば、NECグループとして案件を勝ち取り、保守サービスは当社が担当する体制でまずは補おうと考えています。
──同業の日立電子サービスやユニアデックスは、グループのSI会社を吸収しSI力を高めた。NECフィールディングもこのような動きがみられる可能性はありますか。
片山 今のところ、計画はない。ただ、必要性を感じていないわけではありませんので、将来の可能性としてはありえるかもしれない。NECグループの効率を考えても必要なことかもしれませんしね。もともと、私は情報システムのライフサイクルの一部を切り出して分社化するのは無理があるのではとも思っています。ただ、今はNECとの連携をさらに強めることが重要だと考えています。
──フィールディングの今後は。
片山 まずは減収減益の流れを止めることが先決です。1年以内は無理かもしれないが、08年度には売上高2500億円、利益180億円の確保を目指します。旧幹部陣が立てた施策をスピード感をもって取り組むことに専念します。あと半年ぐらい経ったら、私独自の施策にも取り組んでいきますよ。
My favorite 毎日持ち歩く手帳とボールペン。NECがオリジナル手帳を作成していた時までは、NEC手帳を愛用していた。だが最近は、NECが手帳を作らなくなったため市販製品を使っているそうだ。ボールペンはスーツの内ポケットに入れて欠かさず携行する
眼光紙背 ~取材を終えて~
NECフィールディングは、CEの技術コンテストを毎年2回開催している。ユーザーから上がってきそうな要望を問題に仕立て、どのように対処するかを試験する。時には意地悪な質問もしてCEのスキルを試すという。優秀な人材は表彰し、CEのモチベーションや競争意識向上につなげている。
片山社長も最近開かれたコンテストに初参加した。最近、CEに求められるスキルとして修理技術や問題解決力だけでなく営業力も求める保守サービス会社は多い。営業担当者よりも顧客に近く頻繁にコミュニケーションもとりやすいからだ。コンテストにはCEの本来のスキルといえる修理技術だけでなく、営業力も兼ね備えたCEもいて「心強く感じた」とか。
現場を支えるCEがNECフィールディング最大の強み──。自慢のCEを今後どのように効率的に動かすのか。まずはその施策が復活への最初の試金石だろう。(鈎)
プロフィール
片山 徹
(かたやま とおる)1945年3月23日生まれ。東京都出身。67年3月、早稲田大学理工学部機械工学科卒業。同年4月、日本電気入社。90年7月、交換事業部長代理。93年11月、天津日電電子通信工業有限公司に出向。98年6月、米沢日本電気に移り、代表取締役社長に就任。02年4月、NECソリューションズ執行役員常務。03年4月、NEC執行役員常務。05年4月、執行役員専務。06年6月23日、NECフィールディング代表取締役執行役員社長に就任。
会社紹介
NECフィールディングは情報システムの保守サービス最大手。ハードやソフト、情報システム全般の保守・修理サービスを手がける。ただ、製品品質の向上によって修理サービスと保守契約が減少しているうえに、オープン化の進展によるサービス単価の下落により保守事業は低迷し続けている。保守サービス料金はハードの価格に比例するため、オープン化の進展は保守サービス事業者にとっては大きな打撃になる。
昨年度(2006年3月期)の連結売上高2307億7600万円(対前年度比4.5%減)のうち、保守サービスビジネス「プロアクティブ・メンテナンス事業」が占める割合は、42.7%まで落ちた。そのため、システムおよびネットワーク構築や運用管理サポートサービス、サプライ販売などの「フィールディング・ソリューション事業」の構成比率が高まっている。
今年度の業績予想は、売上高が前年度比1.8%増の2350億円、営業利益が同20.0%減の80億円、経常利益が22.2%減の80億円、当期純利益が同32.5%減の40億円。
子会社は3社で、連結従業員数は約6500人。日本国内の営業およびサービス拠点は連結で約410か所。02年9月、東京証券取引所市場第一部に上場した。