販社を組織して全国にサーバーやパソコンを販売してきた日本のコンピュータ業界に、「デルモデル」と呼ばれる直販スタイルで切りこみ、国産メーカーからシェアを奪い続ける。デルの存在は日増しに強まっている。ジム・メリット社長は、「デルの目指すポジションはトップ」とマーケットシェアナンバーワンを目標として明確に位置づける。一方、ソリューションプロバイダを標榜し、「米本社よりも強く、私の誇り」と表現するサービス部隊を武器に、サービス事業拡大にも意欲を示す。ジム・メリット体制でデルは何が変わりつつあるのか。
大切なのは「顧客と社員」 CSは20ポイントも向上
──社長就任からほぼ4か月ですね。サポートの充実、サービスの拡大などいくつかの新戦略を打ち出していますが、最初に重要視したのはどんなことですか。
メリット やはり、お客さんと社員の声を聞くことでした。顧客からは、「デルは正しいサービスを提供できているか、どのようにデルはみられているのか」を知りたかったし、社員からは「会社に何を期待しているか、どんな不満を持っているのか、社員のキャリアアップの土壌は提供できているのか」を聞き出したかった。ユーザーと社員の要望に応えることが、今後のデルジャパンのやるべきことを決めますから。
──顧客からは、どんな声があがってきましたか。
メリット いくつかあります。たとえばサポートに対する要望がありましたね。一部からは、サポートの電話がつながりにくいなど不満の声も聞きました。でも、それを聞いたおかげで、コールセンターの強化など手を打つことができた。社内の独自調査では、顧客満足度(CS)が今年初めに比べ、7月末時点で20ポイントも上昇したんです。
私たちは顧客が満足しているか、ビジネスが成功しているかを毎日詳細にチェックしています。そのなかで、もっと顧客の声を拾うことができれば、デルジャパンの存在価値をまだまだ高められるはずです。年内にはセールス、サポート、サービスなど合わせて合計で400人の人員増強を図り、さらに満足度を上げる体制、組織を築いていきます。
──顧客と社員の満足度向上によって、メリット社長が目指しているデル日本法人のポジションとは。
メリット ナンバーワン、つまりマーケットシェアでトップに立つ企業になること。それ以外にありません。もちろん、法人と個人の両市場でです。シェアというものは、市場からどの程度評価されているか、どれだけ役に立っているかを測るためには有効な指標です。ユーザーと社員の声に常に耳を傾け、顧客から信頼されるアドバイザーになる。そうすれば、自ずとシェアは上げられると信じています。
──シェアアップに向け、市場環境はメリット社長の眼にどう映っているのでしょう。
メリット デルにとって非常に有利な環境にあるでしょうね。多くのユーザーが今、レガシーシステムからオープンな環境に移行したいと考えていますよね。デルは、オープンな技術を使って製品展開をしていますから、お手伝いできる部分も大きい。ビジネスには当然追い風になります。今後もオープン化の波が収まるとは考えにくく、中期的にみても非常に恵まれた環境ではないかとみています。
──オープン化の波は世界共通ですが、日本のマーケットの第一印象はどうでしたか。独特な部分はなかったのですか。
メリット 日本のお客さんは、米国よりもインテグレートされたソリューションを求める企業が多いですね。米国では、いろいろなソリューションを個別に買って、自分自身でインテグレートする傾向が強いんですが、日本はそうではない。ハード、ソフト、サービスを組み合わせ、完成したソリューションとして納入して欲しいという要望が大きいです。
ハードの提供だけではない サービスの質は米国しのぐ
──オープン化の波のなかで、ユーザー企業が今、デルに求めているのは何だと思いますか。
メリット オープン環境への移行でユーザーが考えているのは大きく分けて3つあります。投資回収率(ROI)を上げたい、システム移行のリスクを低減したい、そして最後が、独自技術になるべく依存しないシステムをつくりたいということです。
──完成されたソリューションを求める傾向が強いとなると、この3つのニーズにデルが応える必要もありますね。日本独特のニーズであるならば、米本社にはない強みも要求されることになりませんか。
メリット 当然そうなりますよ。だから、デルジャパンは、その要望に応えるために米本社よりも強い部隊を持っているんです。それが、導入支援やコンサルティングサービスを提供するサービス提供部隊「DPS(デル・プロフェッショナル・サービス)」です。
──「直販」というビジネスモデルで成長していることもあって、デルはハードウェアメーカーというイメージが強い。サービスというイメージはなかなか浮かんでこないのですが。
メリット いや、いや。そんなことはありませんよ。とくにデルジャパンのDPS部隊は、米本社よりも間違いなくパワーがあります。組織規模は大きいし、優秀な人材も多い。サーバーやストレージの統合・集約、システムの移行、セキュリティといった分野で、とくに高い実績があり、そのスキルの高さは実証済みです。ある四半期でみれば、前年と比べて2倍に成長した時期もあるんです。
完成されたソリューションを求める日本市場にとって、DPSに求められる役割は米国市場よりもはるかに大きいかもしれません。私はこのDPS部隊を誇りに思っているし、デルジャパンの強みだと感じています。具体的な数字はありませんが、ビジネスの進捗にあわせ、積極的に人員を増やしていきたいと考えています。
──サービス事業が今以上に成長してくると、コンピュータメーカーという顔だけでなく、SIerとしての色も強まっていくのでしょうか。
メリット SIerという表現は正しくありませんね。単なるハードの提供だけでなく、ソフトウェアやサービスも付加してお客さんに届ける「ソリューションプロバイダ」の色が強まるということです。
お客さんの要望は多岐にわたるようになり、デルのビジネスも多様化してきた。サーバーやパソコンだけでなく、周辺機器、ソフトウェア、サービスなど製品・サービスは豊富です。それらを柔軟に組み合わせて、顧客がもっとも喜ぶ製品・サービスを提供しようと考えれば、当然ハードの販売だけでは終わらない。結果的にソリューションプロバイダとして成長していくわけです。
──情報システムはレガシーからオープン環境に移り、システムに対する考え方もさまざまです。分散環境がよいとか、統合するほうがよいとか。メリットさんは、情報システムの理想像とは、どのようなものだと考えていますか。
メリット もし私がCIOだったらと仮定して話すと、情報システムが企業のビジネスに沿った形、経営戦略にマッチした形であるかを考えます。企業の成長を支援する情報システムになっているかを絶対条件として考え、そのうえで、やはり投資回収率をいかにして上げるかという戦略を練りますね。オープンなシステムはそれを実現するための有効な措置です。デルは、今後もオープン環境に適したオープンな製品を提供し続けます。そのなかで、時期にはこだわりませんが、トップに立ちます。今は非常に好調なので、その時期はそう遠くないかもしれません。
My favorite 愛用するゴルフクラブ。写真のクラブは「callaway」製だが、とくにメーカーにはこだわっていなく、さまざまなブランド製品を使うという。最近、社員とともに日本で初めてプレーしたようで、その時のスコアは91だったとか。ベストスコアは80台中盤と相当の腕前。「忍耐力の大切さなど経営に役立つことをゴルフは教えてくれる」と、趣味に興じている時も経営者としての立場は忘れない
眼光紙背 ~取材を終えて~
「会社にとって何が必要か」。そう尋ねた時、「顧客と社員」と明快な答えが返ってきた。漠然とした質問だが、その回答と細かな表現、言葉でその人の考えが探れる。そのため普段さまざまなトップによく尋ねる。今回の回答は、よく返ってくる言葉だった。ただ、メリット社長は社員がいかに大切かを、他の社長以上に詳しくそして力強く語っていたように感じた。
「社員が働きやすい場所を提供できているか、社員のスキルアップの土壌になっているのかを突き止めることに、顧客の声を拾うことと同様に力を注いでいる」
優秀な社員を確保し、その社員が会社に貢献するためには、まず社員のビジネスマンとしての成功が重要だということなのだろう。
デルの社員は、現在約1100人。ジム・メリット体制になり、何が変わったか。それは、シェア動向だけでなく社員の表情でも測れるのかもしれない。(鈎)
プロフィール
ジム・メリット
(ジム・メリット)1957年10月生まれ、フロリダ州出身。81年、フロリダ大学にて機械工学の学士号を取得。90年には、ジョージア州立大学で経営学修士号(MBA)を取得した。99年に米デル入社。デルに入る前は、米IBMに16年間勤務し、製品開発、セールスおよびマーケティングを担当。サーバーグループの副社長を務めた経験もある。06年4月から現職。日本法人の代表取締役社長のほか、米デルの北アジア地域担当副社長を兼務する。韓国法人や中国・大連市にあるカスタマーサポートセンターの経営・運営も担当する。
会社紹介
「デルモデル」とよばれるダイレクト販売スタイルで成長しているコンピュータメーカー大手。パソコンと周辺機器、サーバー、ストレージ、薄型テレビやプロジェクターなど豊富な製品群を揃え、一般消費者と法人の両市場に向けて販売する。
直販で流通コストを抑え、その分、価格を下げて商品を提供するのが同社の強み。デルの参入後、競合他社はパソコンやサーバーの値下げを余儀なくされたり、ダイレクト販売を強化するなど影響が出た。
ガートナージャパンの調査によると、日本国内の2005年サーバー出荷台数シェアは、19.0%で2位。昨年と比べた成長率は27.3%増と他社を圧倒する伸びをみせる。パソコンは、11.4%で3位。成長率は20.2%でサーバー同様、もっとも高い伸び率を示した。
4月に就任したジム・メリット社長は事業戦略を説明する機会を設けていなかったが、就任から2か月が経った6月に方針説明会を開き、(1)顧客満足度の向上(2)エンタープライズサービス事業の拡大(3)ハイエンド・コンシューマ市場の開拓を骨子とした戦略を発表した。