KeyPerson
NIerから脱皮し新ステージへ 2社統合で事業領域の拡大に自信
ネクストコム 代表取締役社長 山本 茂
取材・文/佐相彰彦 撮影/岩田えり
2006/09/11 18:05
週刊BCN 2006年09月11日vol.1153掲載
統合効果の発揮に向け、06年4月に組織を再編
──04年12月に実施した、アダムネットとビーエスアイ2社との統合効果は現れてきましたか。山本 はっきりと統合の成果が感じられるのは、企業規模が拡大し、顧客からの信頼が高まったことです。実際、旧ネクストコムの優良顧客である通信事業者に対して旧ビーエスアイが得意としていたシステムインテグレーションを提供できるようになった。加えて、ネットワーク機器の顧客企業に対してIP関連機器も販売するなど、1社あたりの取引額も増えています。システム案件の受注が活発化しているのは確かです。

──課題は。
山本 ネットワークインテグレーション、IP関連機器の販売、システムインテグレーションといった3社それぞれの事業を上手く連携させることです。今後は、単に製品を売るだけでなく、ソリューションサービスの提供が顧客を増やしていくカギになります。しかし、残念ながら社内体制はまだ商習慣の違いが払拭できない組織になっていた。そこで、今年4月1日付で大幅な組織再編を実施しました。
──顧客基軸で組織を再編して、旧3社の総合力で対応できるようにしたわけですね。
山本 そうです。具体的には、昨年度まで製品単位だった組織を、「コールセンター」「キャリア・サービスプロバイダ」「エンタプライズ」など顧客別に再編しました。加えて、社長直轄部門の「商品企画部」を営業組織内に設置しました。これにより、各分野に特化したシステム提案が強力に行えるようになります。一方、事業ごとに設置していた「システムエンジニア部」を「SSE(セールスサポートエンジニアリング)本部」として集約しました。さらに、「CRMコンサルティング室」や「ネットワーク診断コンサルティング室」を営業組織の直轄部門に一本化したことで、コンサルティングサービスを事業として確立できるようになりました。同時に、営業活動全体のモニタリングや営業部門の補佐組織である「営業統括推進室」を設置して、各分野の営業を連携し新しい事業への参入を模索できるようになりました。
──組織再編により、“商習慣の違い”という課題は乗り越えられますか。
山本 3社統合でいろいろな商品を扱えるようになっても、これまでは製品別の組織だったため、例えばネットワークの営業担当者は、自分の担当分野の知識しか持っていなかった。そのためシステム構築を提案するためのアポイントすら取れないというケースが多々ありました。組織再編では、1人の営業担当者がさまざまな製品を販売できる環境を整えていますので、製品単体の販売ではなくトータルなシステム提案が行えるようになります。開発部隊も、これまで製品ごとの事業部に設置していたため、営業担当者が案件を獲得できないとSEが暇になるという弊害がありましたが、集約によって開発リソースの最適化も実現できます。
全体的には組織の細分化で幹部を増やしましたので、現場で迅速に意思決定するなど権限の委譲が図れると考えています。
──新組織で統合効果は現れそうですか。
山本 現段階では、組織再編から半年も経過していませんので、まだ十分に統合効果が発揮できたとは断言できません。しかし、少しずつ効果が出始めているのは確かですね。社員同士がお互いを認め合うようになれば、商習慣の違いなどは払拭され、一丸となって会社の成長をけん引してくれると思います。
第1四半期は厳しい結果に 中期計画策定で成長目指す
──今年度第1四半期は売り上げが減収、営業損益が赤字に転落しました。この厳しい状況を打破できますか。山本 第1四半期の業績に関しては恥ずかしい限りです。そのため、今年度通期は連結業績予想が売り上げで468億円(前年度比5.6%増)と増えても、経常利益は20億3000万円(同25・5%減)と大幅に減少する見通しです。しかし、組織再編によりネットワークシステム構築、IP関連ビジネス、サーバーを含めたシステムインテグレーションの3事業を伸ばす体制は整えました。業績を高めるためには、いかに3事業を連携させたトータルソリューションを提供できるかがカギになる。そこで、既存分野での売上規模やビジネス領域の拡大を図り、中期的に売り上げと利益ともに成長させるため、08年度までの3か年経営計画を策定しました。
──具体的な内容は。
山本 既存ビジネスの強化と新興市場への参入を加速させることを目的として、「ワイヤレス」「セキュリティ」「RFID」「サーバー関連ビジネス」の4分野に焦点をあてました。
「ワイヤレス」では、次世代ワイヤレス規格「WireLess Mesh」を搭載した製品の販売を本格化させます。すでに、ネットワーク機器のノーテルネットワークスと共同で地方自治体向けワイヤレスネットワークシステムの導入を提案し、5件ほどのシステム案件を受注しました。今後は、ほかのネットワーク機器メーカーとの協業も強化していきます。
「セキュリティ」では、トークンデバイス活用の「金融向けワンタイムパスワード本人認証システム」の提供に力を注ぎます。セキュリティベンダーやISPなどとのアライアンスを深めていき、ASP化などサービスモデルも模索していきます。「RFID」で進めているのは、“人物監視”をベースとしたシステムです。現在、埼玉県蕨市にある複数の小学校で「児童監視ソリューション」の実証実験を進めており、10月から本格稼働する予定です。
サーバー関連ビジネスは、当社にとって初の取り組みになります。まずは、サーバーメーカーとの販売契約を結び、今年度末までに販売に着手します。現段階では、サン・マイクロシステムズとの契約が決まるめどが立ちました。来年度以降は、国内メーカーとの代理店契約も進めていきます。サーバー販売の基盤を固めることで、08年度までにはERPやCRMなどのアプリケーションソフトの販売も視野に入れます。サーバーとアプリケーションを組み合わせることでサーバーソリューションを提供する、これがわれわれの目指すべき新しい領域です。
──サーバー領域まで踏み込もうというのはなぜですか。
山本 国内のネットワーク機器市場が成熟期に入っているためです。そのため価格競争が一段と激化している。ネットワーク構築を主力とした従来のビジネススタイルを変革しなければ、到底、生き残れないでしょう。今後は、ネットワークとサーバーを切り分けずに、総合的なシステムを提供していくことが、コンピュータ系SIerを含めた競合他社との差別化につながると判断しました。
──08年度の具体的な数値目標は。
山本 売り上げ575億円、経常利益34億円を目指します。今年度第1四半期の利益悪化は、ネットワーク構築に固執していたことが根本的な原因です。“ネットワークの世界”だけで領域を広げようとするのではなく、社内システム全体を構築できるベンダーに生まれ変わることが必要です。サーバー領域への参入によって、顧客に「ネクストコムに頼めば何とかしてくれる」と認識していただくことが、成長路線を突き進む起爆剤になると確信しています。
My favorite
20年以上も愛読している「六星占術による土星人の運命」(細木数子著)。ネットワーク業界に入った時期に購入したという。仕事と私生活ともに重要な事柄の前には参考にしている。「00年に“自分自身の願いが果たせる年”と書いてあり、株式上場を達成した」という

眼光紙背 ~取材を終えて~
「国内ネットワーク機器市場は成熟期に入った。市場の成長スピードは緩やかになる」というのが山本社長の見解だ。IP化の進展とともに、ネットワーク構築だけでなく、その上でどのようなアプリケーションサービスを動かせるのかがNIerに求められるという。こうした環境を見越して「アダムネットとビーエスアイの2社と統合した」。
現段階では、04年12月に実施した統合による効果は出ていないというのが実情だ。そのため、今年4月1日に大幅に組織を再編した。「組織再編を昨年度中に行ってもよかったが、社員に対して『組織を変えたのだから商習慣の違いを迅速に統一しろ』と言っても、なかなか変えることはできない。そのため、1年待った」という。
今年度は、組織変更に加え08年度までの3か年計画を打ち出した。ネクストコムにとって勝負の年といえる。山本社長の舵取りに期待がかかる。(郁)
プロフィール
山本 茂
(やまもと しげる)1950年8月3日生まれ。69年3月福岡県立小倉工業高校卒業。88年10月、ネットワンシステムズに技術本部長として入社。90年10月、インテグレート代表取締役に就任。91年8月、スリーコム(現ネクストコム)に入社。取締役技術本部長に就任。同社にて、取締役副社長兼技術本部長、取締役副社長管理部門管掌、代表取締役副社長などを経て、00年3月に代表取締役社長に就任。現在に至る。
会社紹介
1991年6月、ネットワーク機器の販売会社として設立。当初は、米国3Com社の資本が入っており、「スリーコム」という社名だった。94年6月に「ネクストコム」と社名を変更した。
主力のネットワーク事業では、シスコシステムズなど米国のネットワーク機器メーカーの製品を中心に販売している。04年12月に、IP関連機器販社のアダムネットとシステム開発系SIerのビーエスアイと統合。昨年度までは3社の各事業を組織別に切り分けていたが、今年度早々に組織を再編し、ネットワークシステム構築に加えてサーバーなどコンピュータ系のシステム構築を手がける体制を整えた。
今年度第1四半期の連結業績は、売上高75億8800万円(前年同期比6.4%減)と減収、営業損益が4900万円の赤字(前年同期は5億4900万円の黒字)、経常損益ゼロ(同6億2900万円の黒字)、最終利益900万円(前年同期比97.2%減)と厳しい状況だった。そのため、08年度までの3か年計画を打ち出し、RFIDシステムの提供やサーバー販売など新規事業への着手に力を入れている。
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