2005年度(06年3月期)の黒字化で累積損失を一掃したシーティシー・エスピー(CTCエスピー)。06年度(07年3月期)を“飛躍”の年と位置づけ、業績伸長に向けた新しい仕組みづくりで成長を遂げようとしている。現在、力を注いでいるのは、販売代理店とのウェブEDI化。これにより販売代理店とのパートナーシップを深め、代理店網の拡大も狙っている。「今年度は反転攻勢の年」と話す岩本康人社長に同社の現状を聞いた。
05年度で累積損失を一掃 利益50%増の目標達成へ
──今年度の状況はいかがですか。
岩本 非常に順調です。第1四半期は、売り上げが前年同期比45%増、売上総利益が20%増となりました。伊藤忠テクノサイエンス(CTC)向けの製品調達事業「プロキュア・ドメイン」が安定していることで売上増になりました。利益増は、CTCグループ以外の販売代理店に製品を卸す「パートナー・ドメイン」で独自製品の取り扱いが数年間で3─4倍に増え、卸事業の収益が伸びていることが要因です。全般的に景気の拡大が業績を後押しする形になっていますが、とくに今年度は反転攻勢をかけて積極的な拡販に取り組んでいることが結果につながったといえます。
──反転攻勢というのは?
岩本 昨年度まではじっと我慢をして基盤づくりに徹してきたからです。当社は91年の設立から10年間、CTCグループの調達会社として卸事業を手がけてきました。ビジネス領域を広げるため、01年度以降は独自に海外メーカーと販売契約を結び、新しい製品の国内販売に着手し、人員も大幅に増やして事業領域の拡大を図ってきました。ところが、独自製品の市場投入の遅れなどで事業がうまく軌道に乗らず、02年度と03年度は2期連続で赤字に陥りました。そのため04年度は主力であるCTCグループへの調達事業に力を注ぎ、足元を固めることで黒字に転換できたわけです。05年度には、ネットワーク機器に加えてセキュリティ製品の取り扱いを増やすなど独自製品の強化で、累積損失の一掃も達成しています。
──業績拡大への足場は固まったのですか。
岩本 業績アップに向けた基盤整備は昨年度でめどがつきました。今では、新規事業を立ち上げる「アウトソーシング・ドメイン」でセキュリティ監視や環境関連のサービスも手がけるようになりました。ですから、今年度は“飛躍”の年として反転攻勢をかけると宣言しているわけです。前年度と比べて売り上げで15%増、経常利益で50%増を掲げています。第1四半期の状況をみると、それ以上に増やせるのではないかと期待しています。
──業績拡大に向けてのポイントは。
岩本 業績を伸ばすには、常に変革しなければなりません。そう社内広報しながら、社員の意識改革を進めているところです。単に製品を販売するだけでは競合他社との差別化が図れない。社員には、「“プロダクト”ではなく、“付加価値”を売ってこい」と、事あるごとに言い聞かせています。しかし、言葉だけで付加価値といっても、具体策がなければ何も実現できません。そこで社員が付加価値を提供できる環境をつくるため、効率化できる箇所はできるだけシステム化を進めている。
──システム化の具体的な内容は。
岩本 販売代理店とのSCM(サプライチェーンマネジメント)を踏まえたウェブEDI化です。現在は、CTCグループでフィールドトライアルを実施しています。今年10月をめどに本格提供できる予定です。
ウェブEDIは会員制で、会員となった販売代理店がインターネットで365日24時間、いつでもどこでも発注できるようにします。加えて、物流システムとの連携で、発注製品の納期や、その製品が現在どこにあるのかを把握できます。ほかにも、各会員に適した情報を定期的に提供します。
──ウェブEDI化の狙いは。
岩本 ひとつは、業務効率化による付加価値の追求です。定期的に受注がある製品に関しては、当社の営業担当者が販売代理店に出向いて注文を取ってくるよりもシステム化したほうが効率的。販売代理店としても、「注文を聞くために、いちいち来てもらわなくてもいい」と考えています。 その代わり販売代理店を訪問するなら、ユニークな製品やアイデアを持って「この製品とサービスで新規顧客を開拓しましょう」と先方に合わせたソリューションを提案するほうが双方にとってメリットが大きい。販売代理店と共同で、単なる箱売りではない拡販の“仕組み”をつくることが重要です。こうした営業を徹底していくため、効率化できるところは徹底的に効率化すべきだと判断しました。
2つめは、販売代理店網の拡大です。顧客層を広げるため、中堅・中小SIerなども新規に販売代理店として開拓していきたい。システム化で業務効率化を実現すれば、現在の人員でも多くの販売代理店をバックアップできるようになると確信しています。
──ウェブEDIを通じて、販売代理店をどのくらい増やすのですか。
岩本 ウェブEDIの会員数として、30社程度の既存販売代理店を含め、まずは今年度中に40社を見込んでいます。将来的には、200社まで増やすことを目指します。
アクトン製品を国内に投入 特色ある製品が生き残るカギ
──組織体制で課題はありますか。
岩本 多くの顧客ニーズに対応するためには、製品やシステムの販売だけでなく、サービスを含めたソリューションを提供していかなければなりません。営業担当者と技術者が連携して付加価値を追求していく。そういった意味では、現在の「営業本部」「技術本部」「管理本部」と分けた組織体制は果たして最適なのか。すぐに再編するわけではありませんが、将来的に変えることを模索します。
──国内ネットワーク機器市場を、どのようにみていますか。
岩本 スイッチやルータなどは、製品価格の下落で非常に厳しい状況といえます。ディストリビュータやSIerなど競合他社の多くが扱っている一般的な製品を販売しても利益の対象にならない。他社が扱っていない“ユニークな製品”を販売していくことが、競争が激化するなかで生き残っていくカギだと考えています。
──“ユニークな製品”のポイントは。
岩本 「価格」「機能」「ニーズ」が揃っていることです。廉価な割には機能が充実している、しかも、ユーザー企業が求めている製品であれば、確実に拡販できます。
──台湾のスイッチメーカーであるアクトンテクノロジーと販売契約を結びましたね。同社の製品はユニークということですか。
岩本 その通りです。スイッチの価格は何で構成されているかというと、実はメーカーのブランドが50%程度を占めています。だから、「大手メーカーの製品は高い」のが一般的なのです。ユーザー企業は、ブランドに対してお金を出していることになりますが、安くても認知されていないブランドは購入したがらない。安全性や信頼性という点で納得しているわけです。
しかし、価格下落が起こっているということは、ユーザー企業が今の価格に満足していないことになります。そこで、ほかのメーカーの製品より20%以上も低価格であるアクトン製品の販売を始めたわけです。
──日本での知名度は高くありませんが、勝算はあるですか。
岩本 アクトンは大手ネットワーク機器メーカーにOEM供給しています。つまり、機能や安全性という点では大手メーカーの製品と同じです。しかも、価格が安い。ユーザー企業からは非常に多くの反響があります。
また、販売代理店に対して、他社製品よりも高い粗利率を設定しています。アクトンの製品は、当社だけでなく、販売代理店やユーザー企業にもメリットをもたらしていると確信しています。今後も、このようなユニークな製品を国内市場に投入していくことに力を注いでいきます。
My favorite イタリアへの出張時に購入した鞄。日帰り出張用として選んだ。ほかにも、気に入った鞄が複数あるという。「ビジネスマンは、鞄が命だからね。出張や旅行のたびに、ついつい購入してしまうんだよ」。鞄集めが趣味のようだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
CTCエスピーの社長に就任したのは04年度。02年度、03年度と2期連続で赤字が続く厳しい状況下で舵取りを任された。
「売れる仕組みを考えれば必ず黒字に転換できる」。主力事業の強化、厳選しながら取扱製品の拡充、セキュリティをベースとした新規事業への着手など成長軌道に乗せるための布石を打ち、社長就任の初年度となる04年度に単年度黒字、05年度に累損の一掃を果たした。こうした実績から、「今年度は“飛躍”の年。反転攻勢をかける体制は整った」と言い切れるのだろう。拡販に向けてやみくもに「売ってこい」と指示を出すのではない。営業担当者が販売代理店と共同で新しいソリューションを創造する時間が割けるよう、受発注処理業務のシステム化を進めているわけだ。
社長就任から3年目を迎えた。岩本氏にとっても今年度が“飛躍”の年になりそうだ。(郁)
プロフィール
岩本 康人
(いわもと やすと)1950年11月4日生まれ。74年3月神戸大学教育学部卒業後、同年4月、伊藤忠データシステムに入社。同社の大阪支店や福岡営業所、東京本社などで勤務。91年4月、Technocomの設立に参画した。92年7月以降、伊藤忠テクノサイエンスにて営業技術部門長補佐、名古屋支店長執行役員などを経て、04年4月CTCエスピーに入社し代表取締役社長に就任。現在に至る。
会社紹介
シーティーシー・エスピーは、サプライ品販売を目的として1990年4月に設立。90年代に、順次コンピュータ周辺機器、ネットワーク関連機器など取扱製品を拡充。CTCの製品調達会社としても機能するようになった。
01年度から、無線LANやメールサーバー、バックアップ製品などの販売に着手するなど新規事業を立ち上げ、ビジネス領域の拡大を図った。しかし、既存製品の売上減や新規ビジネスの立ち上げが遅れたことなどから02年度に初の赤字に転落。03年度も赤字が続いた。そこで、04年度に組織を含めた体制の抜本的な見直しを図ることで黒字に転換。05年度には累積損失を一掃した。
今年度は、CTCへの製品調達事業、販売代理店へのディストリビューション事業、セキュリティ監視サービスなど新規事業などに力を注いでいる。なかでも、販売代理店への販売支援策として、受発注のウェブEDI化を進めており、システム本格化に向けてCTCグループ全体でテスト稼働を実施。今年度下期に本格稼働を予定している。会員企業数を今年度中に40社まで引き上げ、将来的には200社に増やすことを計画している。