エス・エス・ジェイ(SSJ)は、数年前に主力である「人事/給与」の新製品開発に遅れが生じ、2年間ほど業績が低迷した。同社で“叩き上げ”の佐藤祐次社長は、過去に築き上げた地位を取り戻すべく、「第2の飛躍」を誓う。この先は、「レガシーシステム」のオープン化に拍車をかける「内部統制」需要や、企業内の人事・給与体制の見直しが必要な「2007年問題」需要などが顕在化すると予測し、中堅企業の上位層に狙いを定めた販売体制を強化する。来年度(2008年3月期)は、売り上げベースで前年度比20%の成長を目論んでいる。
開発・納期の遅れが大きなダメージに
──「SuperStream」の事業自体が一時低迷しましたが、原因は何ですか。
佐藤 「人事/給与」製品のリニューアルが上手くいかなかったのが、一番大きな原因です。「SuperStream」は、開発当初から「財務会計」製品として出荷し、10年以上が経ちます。一方、「人事/給与」製品は、旧小松ソフトと共同著作権をもつ製品でした。同社がTIS傘下に入り、社名をクオリカに変更した際、当社が著作権をすべて受け取り、「SuperStream」シリーズとして2001年から再度作り直したんです。
その際、非常に大きな問題が起きた。これが親会社であるアルゴ21のグループ内に大きな経営的負担をかけてしまった。大きくは、「人事/給与」製品の品質問題と納期遅れ、かつ、当初計画した開発予算の3倍以上の費用を使わざるを得なかったことで、事業にずれが生じました。このずれをリカバリーするまで2年、この前後を合わせて3年ぐらいの間、予定の業績をあげられなかった。
──内部統制に関する需要がある時に、開発や納期が予定より遅れた影響で、機会損失があったことは否めませんね。
佐藤 そうですね。「財務会計」については問題なく推移しましたが、03─04年頃に、一般企業のグループ内で有効に人事配置することや「能力主義」的なスキル管理など、新人事制度に対する期待が高まっていたにもかかわらず製品を出せず、ここに向けた「人事/給与」製品の機会損失が大きかった。
競合するワークスアプリケーションズがどんどん進んでいくなかでしたから、余計にその影響が目立ちました。「財務会計」製品を導入した大概の既存ユーザー企業は、「人事/給与」製品を入れたいと言ってきますよね。ここの取りこぼしは痛かったです。
──一時期の停滞はありましたが、今年度(07年3月期)中間期は、「SuperStream」の売上高が前年同期に比べ10%増加しました。回復の兆しでしょうか。
佐藤 実は、昨年度、一昨年度は、「人事/給与」製品などのトラブルをいかにキャッチアップするかという2年間でした。しかし、それが無事終わりました。そのため、今年度上期から復活しています。
──復活した理由は、技術、販売の両面で片がついたということですか。
佐藤 まず製品の完成度を高めることができたことがあります。品質と機能の部分で、当社が当初予定していたレベルに達したことが大きいでしょう。
──仮に、開発の遅れがなければ、今頃どうなっていたでしょうね。
佐藤 約2年間の遅れがありますね。この2年間はもの凄く大きいんです。例えば「人事/給与」製品でいうと、新バージョンの「SuperStream PR+」と「同HR+」は、移行を含めて新規に500社以上に導入しましたから、2年の遅れがなければ、2倍ぐらいまでは伸ばせていたでしょう。2倍ですから、単純にライセンス数だけを計算しても、数億─10億円近いインパクトがありました。
──この2年間にチャンスロスした分を、この先、どう取り戻していきますか。
佐藤 やはり、対象マーケットを絞り込み、積極的にどこかにフォーカスして取り組む必要があると思います。大塚商会の「Smileα」やオービックの「オービック7」など、競合ERPは、年商100億円以下の中堅下位の企業を対象にシェアを伸ばしています。当社の“主戦場”は、中堅上位と呼ばれている層です。年商500─1000億円の企業を中心に、下でも同200億円規模の領域で徹底的に勝負していく。
この領域は、まだ「レガシーシステム」を利用する企業が多いんですね。これらは、確実にマイグレーションを行うべきシステムですしね。特に、企業の「人事/給与」システムは、「2007年問題」で団塊の世代が抜けていく際にテコ入れするケースが多いんです。なぜかというと、給与体系を一気に変えていこうとするためです。そのための「人事/給与」システムの入れ替え需要は、かなりあるとみています。当社はここにフォーカスして中堅上位でのシェアを徹底的に伸ばす。
中堅上位の市場は、競争が激しくない
──「レガシーマイグレーション」は1つの狙い目と思います。しかし、その領域はどの競合ベンダーも焦点を定めていませんか。
佐藤 中堅上位は、意外と競合が激しくないと思っています。中堅上位の競合製品は、SAPの「my SAP ERP(旧R/3)」やオラクルの「E─Business─Suite(EBS)」、富士通の「GLOVIA/SUMMIT」だけです。従業員で2000人以上の企業に対しては、大規模で培ったシステム開発のノウハウがないと導入できない。当社は、そこを得意としています。
──現製品の「SuperStream─COREシリーズ」では、生産管理など連携製品が多数あります。これは、強みですね。
佐藤 当社には、「SuperStreamアプリケーションファミリー(SAF)」と呼ぶ接続実績のあるパートナー製品群があり、かなり連携を強化している。元々のコンセプトが、「財務会計」と「人事/給与」専門のパッケージベンダーになりたいと考えていたので、当然、全体の基幹システムとしては「販売」「生産管理」などと、シームレスにつなぐのがテーマでした。過去10年間は積極的にやってきたので、一日の長がありますよ。
──「SuperStream─COREシリーズ」には実力のある販売パートナーが揃っていますね。中堅上位を攻めるうえで、彼らにどんな支援策を講じていくのですか。
佐藤 当社製品は、専門知識を持った人材が導入コンサルティングをしていくタイプのモノなんですね。「財務会計」については、「販売特約店」に在籍するメンバーに依頼し、要員を養成して頂いた。逆に、「人事/給与」製品では、なかなかこうした要員を育てる時間も機会もないため、当社内にスキルを溜め込みました。プリセールスをするタスクフォースである「営業支援部隊」を組織し、パートナーに有効利用してもらう方法を構築しています。
──パートナーの数は増やしますか。
佐藤 量的な拡大はあまり考えていません。ただし、パートナーを色分けして付き合うベンダーは出てくる。例えば、地域である業種に特化したSIerなどと、昨年度から案件ベースのアライアンスは強化している。
──「金融商品取引法」の「実施基準」が出てすぐに「SuperStream」対応の「内部統制用ドキュメント」を出しました。
佐藤 「内部統制」にかかわる部分は元々持っています。既存ユーザー企業に金融大手があったので、2000年頃からログ管理やドキュメント管理などの提供を求められていました。なおかつ、今回の「実施基準」公表を受けて、事前情報も得ていたので、早めに対応することができました。
──来年度(08年3月期)は、かなりの成長が期待できますね。
佐藤 全体では、やや強気の設定で、売り上げベースで20%の成長を目論んでいます。
My favorite 東京・品川区にある本社社長室には、佐藤祐次社長が愛読する文庫本が200冊以上ある。この本の一部は机の引出しにある仮の書庫に収める。40歳までは、「小説を馬鹿にしていた」というが、直木賞作家の池波正太郎に出会い考えが一変し、時代小説を中心に“乱読”をする。同氏の小説はすべて読破したが、なかでも「鬼平犯科帳」を好む。「庶民を通じ、精一杯生きることの素晴らしさを伝えている」と話す
眼光紙背 ~取材を終えて~
「人事/給与」製品のつまずきは、佐藤祐次社長の精神面に打撃を与えた。納期が遅れたユーザー企業先には、時に年間100社以上も「謝り行脚」をした。「途中で自殺も考えた」ほど、苦しい時を過ごす。だが、開発陣らの踏ん張りもあり、この間に新たな需要を開拓する土台を築けた。今の表情は明るい。
ここ数年、親会社のアルゴ21は、SSJの業績低迷に頭を悩ませていた。一時は、「SSJを他社へ売却するのでは?」とのうわさも出た。しかし、「フォーカスする市場が明確で、成長軌道に乗せられることができる」と自信を取り戻した。確かに、「金融商品取引法」の「実施基準」が出てすぐに記者会見を開き、「内部統制」への対応を表明するなど、腰が軽くなった印象がある。
佐藤社長は、SSJの“叩き上げ”で「SuperStream」の強みも弱点も知り尽くす。巻き返しはこれから。国産ベンダーの意地を見せてほしいものだ。(吾)
プロフィール
佐藤 祐次
(さとう ゆうじ)1955年9月生まれ。51歳。79年3月、日本大学商学部経営学科卒業後、電子工業用部品の製造・販売の東京セラミックスに入社。88年6月、アスキーに入社。95年1月、インフォミックスがアスキーデータベースシステム事業部を吸収合併し、インフォミックスアスキー設立に伴い同社へ転籍。営業本部副本部長やチャネル営業統括部長を歴任した。97年1月、エス・エス・ジェイ(SSJ)に入社し、「SuperStream」の事業部長に就任。同年4月に取締役、99年4月に常務取締役営業企画本部長を経て、00年6月から現職。
会社紹介
エス・エス・ジェイ(SSJ)の前身は、1986年に設立された米国ベンダーの日本法人、マコーマック&ドッジ・ジャパン。93年には、現在の主力製品となるクライアント/サーバー対応の基幹業務パッケージ「SuperStream」シリーズの開発を開始した。
現社名に変更したのは96年12月。98年には「ポートフォリオアセンブリ」の概念に基づく新製品「SuperStream-CORE」を発表した。99年4月には、アルゴ21に買収され、同社の100%子会社になる。その後、旧小松ソフトウェアと共同著作権を持っていた「人事/給与」製品を追加し、「財務会計・人事/給与」製品の専業ベンダーとして業界トップクラスの地位を築いた。
「SuperStream」の新規導入社数は、05年9月に累計で4000社を突破、06年9月現在では、4457社に達している。導入社のうち全体の11%に当たる487社が上場企業。企業グループ傘下の導入企業を含め、半数以上が「内部統制」の対象先となる。中堅企業の上位層を顧客にしているのが特徴だ。