停滞から一転、急成長戦略を描いたNECネクサソリューションズのトップ、渕上岩雄社長。2001年、NECグループのSIer5社が経営統合して生まれた同社だが、その後の業績はほぼ横ばい。この現状にメスを入れることを決断し、09年度に売上高2000億円以上、営業利益率は最低5%を達成という挑戦的な数字をぶち上げた。ここまで規模の拡大を追求するのはなぜか。大手SIerとはいえ「今のままでは生き残れない」という危機感があるからだ。
強みを再確認して、停滞感を打ち破る
──NECネクサソリューションズ(NECネクサ)は、就任直後の渕上さんの目にどう映ったのでしょうか。
渕上 こんなに面白い会社はほかにないと思いましたよ。まず営業力が強い。そして、他社にはない強みが多い。まだまだ伸びる力を持っている会社です。「NECネクサに来て良かった」と、社内を把握した後に思いましたね。
──トップに就任してまず最初に手をつけたことは。
渕上 “尖がり”探し、です。われわれしかもたない強み(尖がり)は何で、いくつあるかをまず最初に把握したかったから。探してみたら、あるわ、あるわ。たくさんあるわけですよ。社員は、自分たちの強みを尖がりだなんて感じていなかったですけどね。尖がりはある。営業力もある。あとはどう見せて、どこにターゲットを絞るかです。
──強みが多いにもかかわらず、01年に5社が統合してから売上高と利益ともにほぼ横ばいが続く。今年度(07年3月期)も前年度並みの見通しです。強みが業績に結びついていない印象があるですが。
渕上 強みを強みとして捉えず、うまくアピールできていなかったのも問題ですが、業績がほぼ横ばいで社内には停滞感のような雰囲気がある。社員のみんなは、よく頑張っていて最大限の努力をしています。ですけど、もう一段成長するための壁を越えられていない。そんな場面がいくつもあるんです。誰かが社員の限界をぶちっと切ってやらなければならない。
原因は、マネジメント陣にもあったと思います。自分たちのミッションや守るべきことが多少不透明で、責任と権限も明確ではありませんでした。昨年、すでに各部門のミッションと責任を定義し、達成するためにはどんな権限が必要なのかを聞いて、変わってきた。松本(秀雄)前社長が今年度期首に成長路線への転換という号令を出されて、「変わろうぜ」という機運になっています。沈滞ムードから抜け出しどうやって変えていくかは、これからが本番です。
──壁を破るとは、業績目標ではどの程度を目指すということですか。
渕上 来年度から3か年中期経営計画を始めます。最終年度に売上高2000億円以上、営業利益率は最低でも5%は確保したい。
──過去5年間、売上高は変わっていません。業界全体の年成長率が2-3%といわれるなか、15%以上で急成長することになる。
渕上 確かに大変ですよ。NECの経営陣にこの計画を話したら、藤江(一正)副社長には、「来年の今頃の発言を楽しみにしているよ」なんて言われました(笑)。過去5年、業績がフラットだったんだから無理もない。これまでは、こうした状況に甘んじていましたが、私は変えたいんです。
──それにしても高い成長率です。挑戦的な目標を掲げた理由は。
渕上 ひとつは、単純に2000億円以上の売り上げを出せるポテンシャルがあるから。ただ、それ以上にSI業界全体の潮目が大きく変わると感じているからなんです。「Web進化論」や「Web2.0でビジネスが変わる」で書かれているように、新しい波が押し寄せてきている。NECは「NGN構想」を打ち出し、政府も「u─Japan」を掲げた。何かが変化しているんです。今までのやり方は通用しなくなり、業績は成長どころか維持も難しくなるでしょう。生き残るためには変わらざるを得ないんです。
NECネクサは5社が統合して生まれました。それ以前、5社とも20─30年の長い歴史があって強みを持っていました。しかし、情報技術の進化によって強みが薄れてきてしまい、経営統合した経緯がある。業界の動きに合わせて変わったわけです。
私はこれから入社してくる新卒社員も含め、今のメンバーが1人も欠けることなく社員がNECネクサでの会社人生を楽しめるようにしたい。変わることはリスクですが、承知のうえで変化を受け入れるタイミングにあるんです。私は、パーティーの席などあらゆる場所で、うるさいと思われるくらい「売り上げを2000億円以上にするんだ」と言い続けますよ。
対象企業の規模に応じ、営業方法を変えて臨む
──NECネクサの尖がり、すなわち「強み」とは何ですか。
渕上 まずインターネットVPNサービスの「Clovernet(クローバーネット)」。キャリアから回線を借りて24時間のサポートを付加して提供するサービスです。実績は昨年6月時点で8000ラインで、今年度内に1万ラインを突破できるかどうかという報告を聞いていたんですが、すでに突破しています。まだ需要が強いので、3か年の中期経営計画では最終年度で11万ラインという挑戦的な数字を設定しています。SAPの中堅企業向けERP「SAP Business One」での基幹システム構築スキルも強みで、日本国内の販売実績はトップクラス。NTTデータイントラマートの「intra─mart」を扱う技術とノウハウも武器です。今のところ大手商社に売り込んでいて感触は良好です。そして、「GRANDIT」。複数の企業が集まり、コンソーシアム形式で育てていますが、実績が着実に伸びています。製品・サービスで、すべてをあげるとキリがありませんから、これらはあくまで一例ですけどね。
──ターゲットは。NECネクサの本来のターゲットである中堅・中小企業だけでなく、最近は大手企業のユーザーも増えています。ターゲットがぶれてはいませんか。
渕上 それも実は課題。統合前の5社は中堅・中小企業をターゲットに置いて、NECネクサ設立時もそうでした。しかし、今は確かに大手企業が増えている。大手企業を攻めるのが本当によいのか疑問は持っています。
──大手は捨て、中堅・中小企業に的を絞ると。
渕上 いやそうではない。攻める方法を企業規模によって変えるんです。大企業はNECネクサが直接アプローチするのではなく、ネクサの持つ商品をNECや日本IBMなどに売ってもらえるようにする。そして、中堅企業はNECネクサの本来のターゲットですから、パートナーとともに直接攻める。中小企業は、ウェブを活用するなどしてNECネクサの良さを知ってもらい、ユーザー企業からきてもらうような仕組みで製品・サービスを届ける。同じ商材でも、企業規模によって営業方法を変えます。私たちだけで売るのは、リソースの限界がありますから。
──今ある強みのアピールとターゲットの明確化だけでは2000億円は難しい印象もあります。新規製品・サービスの開発に向けた研究開発投資の重点ポイントは。
渕上 「これだ」という点は今はとくにありません。ただ、OSS(オープンソースソフトウェア)では、最先端の流れを押さえていくつもりです。枯れた技術しか使いませんけどね。OSSはそれほど資金がかかりませんから、投資という面ではたいした金額ではない。
だとすると、投資分野はむしろ、研究・開発というよりもM&Aです。2000億円が見えた時、その次は3000億円を目指す。3000億円にはM&Aが必要になってくるでしょう。今はM&Aに投資できる状態ではないので、今からその資金を用意する必要性も感じています。
My favorite無類の愛煙家で「Peace」を好む。吸い始めてからずっと「Peace」一筋とか。かつて、「Peace」を吸う愛煙家の社長に会った際、煙草の味について話が盛り上がり、商談がうまくいったこともあるそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
語り口調は柔らかく、関西弁で冗談を交えながらインタビューに応じる。取材では、真剣な内容でも笑いを誘って空気を変えてしまう。ただ、NECネクサの将来には、並々ならぬ危機感を抱いていると強く感じた。急成長路線を描いた理由は、生き残るための術だという印象を受けた。
NECネクサは、複数の中堅企業向けERPを担ぎ、ユーザーの要望に応じて柔軟に製品を選択できる体制を整えている。構築・運用する経験とスキルは、国内トップレベル。NECグループ会社で、中堅企業のシステム構築でシェアをもっとも伸ばせる力があるのは、おそらくNECネクサだろう。それを渕上社長も感じているに違いない。
座右の銘は、「繊細にして大胆」。大胆な業績目標を示した後、繊細で緻密な成長戦略をどこまで具体的に出してくるのか。そろそろ詳細な計画が固まった頃だ。(鈎)
プロフィール
渕上 岩雄
(ふちがみ いわお)1946年3月4日、大阪府生まれ。69年、大阪市立大学商学部卒業。71年、NEC入社。95年、第二流通・サービス業SI事業部長。00年、NECソリューションズ第三システム事業本部長。01年、NECソリューションズ執行役員第三ソリューション営業事業本部長。04年、取締役常務。05年、取締役執行役員常務。06年4月、取締役執行役員専務。同年6月20日、NECネクサソリューションズの代表取締役執行役員社長に就任。NECの執行役員専務も兼務する。
会社紹介
NECネクサソリューションズは、NECグループでSI事業の中核を担うSIerだ。1974年に設立された日本電気情報サービスが母体で、01年にシステム構築やITアウトソーシングサービスを手がけていたNEC子会社5社が経営統合、現在の社名および業容になった。中堅から大企業を顧客ターゲットに置き、情報システムとネットワークの構築や運用サービスを全般的に手がける。
株式公開はせず、NECの100%出資の子会社として事業展開する。昨年度(06年3月期)の売上高は1272億円、従業員数は約2800人。東京本社のほか、全国に4支社、6支店を設置。データセンターは、8か所に設けており全国規模でビジネスを展開する体制を整える。