NTTデータの子会社であるNTTデータシステムズの主力製品、中堅企業向けERP(統合基幹業務システム)「SCAW(スコー)」は、競合他社が足踏みするなかで、シェアを拡大している。大手企業に広く浸透する外資系ERPとの相性がよく、低価格であるため、内部統制強化の動きに呼応して「グループ会計No.1を目指す」(小島武雄社長)と、“上げ潮”に乗り業績拡大を狙っている。「SCAW」事業以外にもネットワークや受託開発の両事業で“秘策”が数多くあり、成長著しいベンダーの1つとして注目される。
外資系ERPとの連携がよく、比較的安価な点が有利に働く
──「金融商品取引法」の施行などに伴い、内部統制強化の動きが活発化しています。そうした状況下で、主力製品である中堅企業向けERP「SCAW(スコー)」の市場は、競合が激化していますね。
小島 内部統制に関連して「SCAW」では、基本的な「業務フロー」となる80項目と「リスクコントロールマトリックス(RCM)」「業務記述書」のテンプレートのセットで「SCAW内部統制文書化セット」の販売を開始します。これにユーザー企業の業務フローをあわせてもらう取り組みを始めます。これにより、ユーザー企業は、内部統制を強化する上で取り組むべき最低限のことを感覚的につかめるようになるでしょう。
このセットは、基本的に「SCAW」を導入している既存ユーザーか、これから導入する企業に限り提供する。単体売りは、ユーザー企業に応じて柔軟に対応することも検討していますが、「そのセットだけが欲しい」という希望が多く寄せられているほどです。
──「業務フロー」の項目というのは、具体的にどんな内容ですか。
小島 受注や発注伝票の決裁、原価償却費の処理などを80項目にまとめたものです。大企業であれば、一般的にはそういう項目は数千項目になってしまいますが、公認会計士などと協議して、中堅企業のグループ会社などが初期段階で必要となる項目に絞り込みました。
いま、ユーザー企業は、どこから内部統制に取り組むべきか悩んでいるというのが実情です。この“骨”となる項目をユーザー企業に見せて、自社の業務フローに適合してもらう。これを使えば、「SCAW」と連携して内部統制体制をすぐに築くことができるんです。
──中堅ERP市場では、フォーカスする領域を定めて、「グループ会計No・1」になることを目指していますね。
小島 内部統制の動きなどに呼応して、全社共通的に会計処理するニーズが高まり、上場企業を中心にグループ会社に会計システムを導入して連携性を強化する傾向にあります。ただ、親会社に導入されている外資系ERPをグループ会社にも採用しようとすれば、コストが高くなってしまいます。当社の国産ERP「SCAW」は、外資系ERPとの連携性が高く、比較的価格が安い点を評価されています。 つまり、「SCAW」のほうが導入効果が大きいということで、導入数が伸びているわけです。昨年度(2006年3月期)は、大手運輸業のグループ会社94社に「SCAW」を同時に導入し、4月に一斉カットオーバーすることにも成功しました。これ以外にも、すでに中堅企業のグループ会社への導入が何件か決まっています。伝票処理枚数が月間何百万枚という企業に「SCAW」が採用されたことで、処理能力の高さが証明できました。かなり大手の企業であっても対応できます。あわよくば、中堅企業に加え、大企業の受注も獲得したいと考えています。
──「SCAW」事業のここ数年の業績推移と来年度(08年3月期)以降の見通しは。
小島 前期は大型案件のカットオーバーがあっただけに、今年度(07年3月期)は、その反動がきています。したがって、売上高はやや落ちるでしょう。ただ、今年度下期に入り、受注の手ごたえが出てきたので、来年度の「SCAW」事業は、10─20%増えると見込んでいます。最近は、おおむねこの成長率を維持しています。
築いたノウハウを横展開し、次の柱となるSI事業育成
──「SCAW」ばかりが目立っていますが、これ以外の事業にも力を注いでいますか。
小島 たしかに当社は「SCAW」に特化したベンダーということを宣伝しています。しかし、実際はシステムインテグレーション(SI)を含め「SCAW」事業は全売上高の3分の1なんです。残りの3分の1は、NTTデータが受注した案件を当社が引き受ける仕事で、そのほかの3分の1は、ネットワーク事業と「SCAW」以外の分野で、当社が元請けとなる受託開発中心のSI事業です。
ネットワーク事業の大部分は、大学向けのLAN構築になります。SI事業では、主として営業活動支援や購買ワークフロー、勤怠管理、会計などの開発のノウハウを蓄積しています。
──国内全体に広がる内部統制の動きを受け、「SCAW」事業がここ数年の成長の基軸になりそうですね。この先、各事業をどのように推移させていくのですか。
小島 NTTデータ向け事業は、これまで通りに推移させていけばいいでしょう。「SCAW」事業は大きな柱の1つとして成長していますが、もう1つ大きな柱をつくりたいと考えています。それが、ユーザー企業個別のSI事業になります。どういう業務が当社の売りになるかはまだ模索中です。先ほど申し上げた通り、購買ワークフローや勤怠管理、会計の受託開発のノウハウがありますので、これを「横展開」していくことが次の柱として考えられます。パッケージにはならないが、テンプレート的な業務処理フォームをつくり込むことで「横展開」したいんです。たとえば、勤怠管理などは、某大手証券に納入していますので、こうした業務特化のシステムを他社にも応用していきたい。
──そうした「横展開」が新たな柱に成長するのはいつ頃ですか。
小島 結構、トライをしているのですが、なかなか難しいんですよ。来年度がこれを軌道に乗せる“山場”になります。それとは別に、ちょっと面白い商品があるんです。当社には「浜銀システム部」という部署があります。ここで、インターネットを介し高速にデータをやりとりできる「次世代ファームバンキング(FB)」というシステムを開発しています。NTTデータは今年5月から、ネットバンキングの統一仕様を目指して、企業からネットを通じてデータをやりとりする新EBプラットフォーム「VALUXサービス」を開始します。これに準拠するシステムとして当社のFBを全国の地銀や金融機関に販売します。
大手の都銀向けには松下電器産業などが販売していますが、地銀すなわち中堅銀行向けは、いまのところ競争相手がなく独占的に販売できそうです。金額は大きくありませんが、毎年数億円の売り上げが見込めるはずです。競争相手が見えていないなかで、先行すれば利益率の高い商品になりますね。
──最近注目が集まっている商品として、既存のアプリケーションを短期間・低コストでウェブアクセスを可能にするアプリケーション・ホスティング・ツール「GO─Global」がありますね。競合製品のシトリックス・システムズ「PresentationServer(旧メタフレーム)」と対抗して、伸びを期待できそうですが。
小島 まだ、思ったほど広がっていません。宣伝が足りないんですかね。ただ、すでに大企業を中心に引き合いがかなりあります。これを如何に受注に結びつけるかでしょう。「GO─Global」を「横展開」するための象徴的な大型案件を早く受注したいのですが、現在は初期段階にあります。火がつけば、内部統制とも絡み、勢いが出るとみています。
──「SCAW」を含めて、この先の代理店戦略をどう展開していきますか。
小島 そうですね。当社の代理店は数がそんなに多くありません。改めて、受託開発を含めた代理店施策を考える必要がありますし、代理店を満足させるためにサポートを強力にしていくべきだと考えています。
My favoriteNTT在籍中の1969年に北海道へ赴任した際、「寒冷地手当」の6万円で購入したキヤノン製の一眼レフ銀塩カメラ「キヤノンFT」。現在でも富士山など主に自然を題材にした写真撮影を趣味にしている。最近はデジカメを持ち歩くが、FTは当時の思い出が残る品として大切にしている
眼光紙背 ~取材を終えて~
「私はサディストです」──。社長として顧客を前に挨拶したりする際に、必ずこう言ってギョッとさせ、相手の心をつかむのだという。決して、当人にそのような嗜好はなく、母親が戦時中に新潟県の佐渡へ疎開した時に誕生したため、自称「サディスト(佐渡に生まれた人)」と名乗っている。
このことからも分かる通り、気さくで会話に長けた人柄である。取材中は、「オフレコだよ」と言いながら、業界の秘密情報を耳打ちしてくれるし、自社に関する中長期的で意欲的な戦略も隠さず披露してくれる。記者にとっては、繰り返し取材をお願いしたくなる経営トップである。
NTTデータシステムズは社員の離職率が低いベンダーだと、同社の担当者に聞いたことがある。社長の人柄や性格が社内に浸透し、働きやすい職場を生んでいるのだろう。(吾)
プロフィール
小島 武雄
(こじま たけお)1945年8月、新潟県佐渡市生まれの東京都育ち、61歳。69年3月、一橋大学商学部卒業。同年4月、日本電信電話公社(NTT)に入社し、法人向け開発部門に配属。88年7月には、NTTデータ通信(現NTTデータ)の金融システム事業部営業企画統括部長に着任。その後、同社の広報・人事畑の要職を経て、01年6月に常務取締役総務部長に昇進。03年6月、NTTデータシステムズの代表取締役社長に就任した。
会社紹介
NTTデータシステムズは1985年、日本電信電話公社(NTT)の100%出資子会社、「NTT東京ソフトサプライ」として設立された。91年には、出資比率をNTT25%、NTTデータ通信(現NTTデータ)75%に変え、NTTデータの子会社として「東京NTTデータ通信システムズ」に社名変更。
主力製品の中堅企業向けERP「SCAW」は、93年にNTTデータが国産ERPとして販売を開始。02年にはNTTデータから「SCAW」事業の譲渡も受け、現社名に変更し、主力事業として拡販している。「SCAW」は、営業管理・生産管理・財務管理・人事管理と、これらを統合するデータ連携機能「SCAW eTrans」、フロントオフィスソリューションの「SCAW Frontizm」の計6つのパッケージという構成。累計導入数は1000システムを超えている。昨年度(06年3月期)の売上高は、前年度比23億円増え185億円。「SCAW」以外では、大学向けLAN構築を中心としたネットワーク事業や個別受託開発のSI事業などを手がけている。従業員は約620人。