今年6月にCEO(最高経営責任者)、8月に社長CEOとして就任し、アッカ・ネットワークスの舵をとることになった木村正治氏。日本IBM出身ということもあり、これまでの通信業界とは異なった色の持ち主だ。そのためか、「通信業界の“台風の目”になる」ことを目指し、同業界にこれまでなかった“水平型”をビジネスモデルの選択肢の1つとして浸透させる方針。WiMAX免許取得の最有力候補としても注目を集める同社の方向性を聞いた。
通信業界は変革期へと突入 新しいことに挑戦していく
──アッカ・ネットワークスのトップとして真っ先に行ったことは何ですか。
木村 CEOに就任した(今年6月)初日から、社内で各部署を回って私が構想した当社の方向性を話す、社外で取引先などに挨拶回りで説明する、などに専念しました。社内外に当社のビジョンを明確にすることが重要だと考えたからです。
というのも、通信業界は今、変革期を迎えているからです。既存のビジネスモデルだけでは成長路線を築くことが難しい局面でもある。そこで、これまで業界にはなかった、新しいビジネスモデルを発信する“台風の目”に当社がなろうと考えました。
──なぜ、そう考えたのですか。
木村 当社は売上高が380億円規模と、通信事業者のなかでは非常に小さい。売上規模をほかの通信事業者並みに引き上げるため、今から同じように自社で何でもビジネスを手がけるには限界があります。新しいことに挑戦し、当社のポジションを確立したいからです。
──新しいビジネスモデルというのは、具体的にどのようなものですか。
木村 ハードメーカーやソフトメーカー、SIerなど、さまざまなベンダーとのアライアンスを活発にすることです。当社の通信回線とベンダーの機器やアプリケーションなどを組み合わせ、個人ユーザーや法人ユーザーに対して付加価値の高いサービスを提供する。これまで通信業界のビジネスとして主流だった“縦型”でなく、当社を含め各企業が得意としているものを持ち合わせる“水平型”を1つのモデルとして浸透させたい。
──“水平型”を浸透させるために決め手となるのは。
木村 1つはWiMAXです。WiMAXはグローバルスタンダードになっていますので、オープンインターフェースとして、さまざまなベンダーをサポートできるという側面があります。WiMAXというプラットフォームをベースに、さまざまなアプリケーションを組み合わせることができる。しかも、パソコンだけでなくモバイル端末など多くの機器で接続することも可能でハードウェアに依存しない。アプリケーションの広がりという点で、これまでには考えられなかったサービスが提供できる可能性が高いということです。ご承知のように、当社はWiMAX免許の取得に向けた取り組みを積極的に進めています。秋には免許が取得できることを期待しています。
それに、さまざまな機器をつなげるために通信回線を活用するといった意識が高まれば“水平型”を実現できる。ネットワークをベースにして、さまざまな機器がつながるという観点から、“マシン・トゥー・マシン(M2M)”と呼んでいます。当社の通信回線とハードメーカーの機器、ISVやSIerなどのアプリケーションを組み合わせて提供する。ソリューションのラインアップが増えれば、増えるほど顧客ニーズへの対応が可能になるといえます。
これまでは通信回線が一番後ろにあった。通信事業者が回線を含め、すべてのサービスを提供しようとしていたため、ITベンダーにとってはネットワークをベースとしたビジネスを手がけるケースも少なかったのではないかとみています。しかし、通信回線も考慮に入れれば、さまざまなソリューションが提供できるようになる。当社だけで提供するのではなく、多くのベンダーがアライアンスを組んで実現する。そういった環境が整ってくれば、これまで思いもつかなった製品やサービスが出てくると確信しています。
3段階の成長で売上高は倍増 WiMAXは新市場創造の要
──“台風の目”を目指し、“水平型”のビジネスモデルを構築していくなかで、アッカ自体を成長させるための策としては、どのような戦略を持っているのですか。
木村 これまで主力になっていたDSL事業のウエートを変えていきます。そのために、3段階の成長戦略を立てました。DSLは“見極め戦略”と位置づけ、コスト削減を中心とした事業最適化を図ります。DSLユーザー1000万人を維持し、安定的なビジネスにしていきます。
2段階目として、法人分野の強化です。この分野は“伸ばせ戦略”として、経営資源投入によるシェアの拡大を図ります。ダイヤルアップ回線を使っているケースが多いので、これを光などブロードバンド回線にリプレースするだけでも需要を掘り起こすことができます。要するに企業への回線導入ということですが、単に「回線を導入してください」では企業は受け入れない。そこで、M2Mをコンセプトとしたソリューション提供に力を注ぎます。実際、NTTコミュニケーションズさんとユーシーカードさんのクレジット決済処理にかかわるIP化サービス「OCNクレジット加盟店パック」や、店舗のパソコンに蓄積された映像データを店頭のディスプレイに表示する日立製作所さんのサービス、カシオ計算機さんの次世代サービスに対応するマルチ決済機能レジスタ「ネットレジ」などで当社の回線が活用されています。ソリューション提供は確実に企業ユーザーを増やせます。回線提供ですので当社の名前が表立って出ないことが多く、その点では寂しいのですが(笑)、さまざまなベンダーのソリューションの要の1つになる、ユーザー企業の業務を支えているというポジションを確立できる点では大きい。
3段階目のステップとしては、ユビキタス社会やブロードバンド環境下での新市場開拓です。その1つがWiMAXになります。WiMAXは新しい通信方式でこれだけでも新しい市場の開拓が行えますが、当社が今持っているDSLやADSL、光など既存の回線と組み合わせても新市場が創造できるのではないかとみています。
──成長戦略による数値目標は。
木村 3段階を“ホップ、ステップ、ジャンプ”と例えれば、5年以内に売上規模を現状の2倍以上に拡大できると見込んでいます。
──新しい市場といえば、アプリケーションサービスとして確立されつつあるSaaS(サービス型ソフトウェア)があります。KDDIなどがSaaSに着手することを打ち出していますが、アッカでもビジネスチャンスと捉えていますか。
木村 WiMAXやM2Mでオープンな環境を整えられれば十分に考えられます。今後は、各ベンダーがSaaSベースのアプリケーション開発を進めるといえます。ですので、当社がSaaSプラットフォームを構築してISVとのパートナーシップを深める。また、SaaSビジネスへの着手を視野に入れているASP事業者に対して回線を提供する。そういった協業が行えるのではないでしょうか。
──規模拡大に向けたM&A(企業の合併・買収)についてはどうでしょう。
木村 当社のビジネスモデルと親和性が高いビジネスを手がけているベンダーやサービスプロバイダなどとのM&Aは興味があります。しかし、単なる規模追求のM&Aは行いません。
──最近では、海外の通信事業者が日本市場でビジネスの拡大を図ろうとしています。海外進出は視野に入れていますか。
木村 将来的には視野に入れています。各国の通信事業者と共通のインターフェース構築でサービスを提供するといったアライアンスを組んでいきたい。しかし、当面は国内での基盤作りを徹底します。
My favorite 愛用している文具。ノート、赤と黒のペン、メモ用のパンチカードは20年間、同じブランドを愛用しているという。ノートは何十冊になったか数知れない。重要な言葉やアイデアが書かれたパンチカードは今でも持っている。「昔に書いたアイデアや言葉が、役に立つことも多い」とか
眼光紙背 ~取材を終えて~
「明朗快活」という言葉がふさわしいだろうか。通信業界の偏っている点を見抜き、業界にプラスのエッセンスを入れ込むためのビジョンを示し、そのビジョンを達成するためにアッカ・ネットワークスが何を行わなければならないかを明確化する。穏やかな雰囲気と確固たる信念をあわせ持った人物だ。
日本IBM時代が長かったせいか、「大歳さん(日本IBM社長)は…」などと前職の話をすることも。長年、IBMで培ったノウハウをアッカでいかに生かしていくかが会社をさらに成長させる原動力になる。その点については、「木村がトップになったことで会社の雰囲気が一段と良くなった」(アッカ関係者)というのが社内の評判だ。
「通信業界は変革期を迎えている」。変革の中核人物として業界を一段と良い方向へ導くことに期待したい。(郁)
プロフィール
木村 正治
(きむら まさはる)1948年1月5日生まれ。70年3月、東京工業大学工学部電子物理工学科卒業後、同年4月、日本IBMに入社。取締役ソフトウェア事業担当、IBMアジアパシフィックジェネラルマネージャーソフトウェア担当、米IBMガースナー会長(当時)補佐、常務取締役などを経て、02年10月に日本IBM常務取締役兼IBMビジネスコンサルティング社長に就任。03年7月から日本IBM常務執行役員、06年7月に顧問を経て、07年6月、アッカ・ネットワークスCEOに就任。同年8月に社長CEOに就任した。
会社紹介
今年度(2007年12月期)中間期の連結業績は、売上高が181億4200万円(前年同期比8.4%減)と減少したものの、利益は営業利益が11億6100万円(9.9%増)、経常利益で11億6300万円(10.4%増)、最終利益が5倍程度となる11億5200万円と順調に伸びた。WiMAX免許の取得に向け、実証実験などに積極的に取り組んでおり、今年6月にWiMAXの事業企画会社としてアッカ・ワイヤレスを設立。また、オープンなプラットフォームの構築で、回線サービスがメインという通信業界のビジネスモデルを覆そうとしており、WiMAX免許取得の際には、ほかの通信事業者との連携を視野に入れている。中立的な立場で業界変革の“ハブ”になることで、市場での主導権を握ることを狙う。