「ビジネスチャンスが到来している」。日本ストラタステクノロジーの長井正利社長は現状をこう表現する。仮想化ニーズが高まりつつあるなか、サーバー市場では決してメジャーとはいえなかったftサーバーをベースに事業を拡大。「マーケットの一翼を担う存在になる」と宣言する。その発言の裏には、サーバービジネスで主導権を握る自信が透けてみえる。
国内事業は順調に推移 2ケタの伸びは確実に
──国内事業の状況はどうですか。
長井 予想以上に伸びています。例年になく10製品ほど市場投入するなど、これまで以上に今年はラインアップを増やしたことが要因で、ftサーバーに対するニーズが高まっていると実感しています。ですので、当社のビジネスは一段と伸びると見込んでいる。しかも、来年には仮想化搭載の製品も発売する予定で、仮想化をベースとしたビジネスも加速できると踏んでいます。
──仮想化搭載の製品を発売するということは、ftにとって仮想化は追い風ということですか。
長井 その通りです。インテルやAMDがクアッドコアのCPUを相次ぎ市場投入、オープン系システムと仮想化を組み合わせることが可能になった。オープン系というのは当社の得意分野です。そのオープン系に、これまでオープン系ではないシステムで主流だった仮想化が乗っかる。これは、ftに特化していた当社にビジネス拡大の機運が訪れているということです。
ftサーバーは言葉の通り、ひとつのハードウェア部分に障害が生じた際にも停止することなく稼働できるようにした製品です。仮想化は、物理的構成に限らずに柔軟に分割したり統合できる技術です。なかでも、1台のサーバーを複数台のコンピュータのように論理的に分割でき、しかも耐障害性を高めることが可能な点では、ftサーバーと非常に互換性がありマッチする。そのため、来年は“仮想化元年”と位置づけ、今年を“準備の年”として環境整備を推し進めています。
──具体的には、どのようなことに取り組んでいるのですか。
長井 いつでも仮想化関連ソリューションを提供拡大できるよう、環境を整えてきました。製品展開は来年ですので、前段階として今年は国内のベンダーさんと製品検証を中心に実施したということです。当社の製品をうまく組み合わせることができるベンダーさん複数社とのパートナーシップに絞り込んで取り組みました。具体的にいえば、VMware製の「ESX」を搭載したftサーバーを市場投入する予定ですので、その互換性を検証したのです。
また、これもベンダーさんを絞り込んでいったことなのですが、XenSourceベースで仮想化システムを構築し、あるユーザー企業にテスト稼働してもらうプロジェクトも進めました。
日本の課題は、マーケットが立ち上がるのが米国に比べて半年以上遅れるということです。仮想化に関しても同じで、ギャップを埋めなければならない。そこで、米国本社と同時期の検証や開発に取り組む。最近では本社との壁が取り払われたという外資系企業が多いのですが、まずは米国で先行発売するケースが多いなど、まだまだ米国との隔たりがあるのが実情といえます。しかし、当社に関していえば、ここ2─3年で米国本社との垣根がなくなった。そのため、製品の市場投入だけでなく、開発という点でも日本のパートナーさんと共同で行えるという環境が実現したわけです。
──ということは、来年から一段と仮想化関連のビジネスが加速すると。
長井 これまでの取り組みでも本当はさまざまな道が開けていました。しかし、日本に関していえば、ほかのサーバーメーカーに比べると知名度やマーケットシェアといった点で低かったことは認めざるを得ない。そこで、さまざまな道のひとつとして仮想化がある。来年から仮想化が急速に立ち上がるとみていますので、当社は、このチャンスを最大限に生かします。
──売上成長率など具体的な目標はありますか。
長井 具体的には申し上げられませんが、日本での売り上げは2ケタ成長で維持しています。今年は現状よりも高い伸びを見込んでいますし、今後はこれまで以上の成長を狙います。
代理店ありきの組織を追求し、ソフトウェアの投入も視野に
──事業を拡大するうえでは販売代理店とのパートナーシップも必要ですね。支援強化や代理店増など何か策はありますか。
長井 最近になって始めたことですが、販売代理店さんが得意な業種やマーケットに特化した販売部門の設置など、各代理店さんに適した組織作りに力を注いでいます。これまではフラットな組織だったため、契約を結んだ販売代理店さんのなかには当社とパートナーシップを組むメリットを見いだせなかった可能性もあります。今後は、こうした不安を徹底的に払拭していきます。当社は小規模ですので、そういった点では小回りがきくといえます。
──どのような体制ですか。
長井 販売代理店さんの得意なマーケットで体制を作るという点では、例えばクラスタの分野です。この分野では、優良な販売代理店さん3社とテーマに沿ってビジネスを手がけています。来年から本格的にビジネスを拡大するつもりの仮想化をテーマにすれば、クラスタも複数のOSを動かすため仮想化を実現しています。しかし、仮想化のなかではクラスタは例えれば“耐震構造”。複数のコンピュータを相互に接続し、全体で1台のコンピュータであるかのように振る舞わせると、障害が生じた際に“家の中身”はぐしゃぐしゃになってしまう。一方、ftは例えると“免震構造”になっていますので、地震が発生したことさえも気づかないようにします。そこで、クラスタとftを組み合わせれば深掘りできるのではないかという話が、販売代理店さんからあがっています。
──クラスタとftの組み合わせで開拓できるマーケットは。
長井 データセンターなどはメッカだといえます。例えば、日中はシステム稼働が頻繁ですので、ftで動かすことで障害が生じないようにする。夜間はクラスタで障害が生じても耐え得るようにする。こうしたニーズも実際に出ており、導入企業にとってはコスト削減につながります。
──ftの可能性として、ほかに考えられることは。
長井 CPUのマルチコア化で今、テーマになっているのは、どう動かすかということです。そのためには、仮想化がハードレイヤで対応することも重要です。当社では来年に仮想化技術を搭載したハードを出すのですが、一方でハードで実現していることをソフトウェアでも実現するニーズも出てくるといえます。そこで、ソフトウェアftを市場投入することを検討しています。
──いつ製品化するのですか。
長井 現段階では具体的な時期は決まっていませんが、実は複数のベンダーさんにOEM(相手ブランドによる製造)提供の話を持ちかけています。ソフトウェアftは、さまざまなベンダーさんとのアライアンスが考えられる。競合といわれるブレードサーバーメーカーにだって提供できる可能性はある。ハードでは、これまでNECとの提携など数々のアライアンスを組んできました。次の戦略として、今後はソフトウェアftをベースとしたビジネス拡大も視野に入れます。ハードとソフトの両輪で、マーケットで“メジャー”とまではいかないまでも、一翼を担う存在にはなります。
My favorite 20年以上前から愛用している腕時計。ブランドはCITIZEN製で、「アナログなところが気に入っている」。数字で表示されるデジタル時計よりも「長針と短針で何時なのかが分かるのがいい」。また、日付と曜日が把握できることも。ただ、電池交換の費用が高いことが玉にキズだとか。そんなわけで、同じ機種の太陽電池モデルも持っているそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
名刺交換からインタビュー後まで、「(私は)いいかげんな性格ですから(笑)」と何度も話していたのが印象的だった。
だが、内に秘める想いは言葉とは裏腹。雑談する時は穏やかだった目が、ビジネスの話に変われば途端に鋭くなる。「マーケットで“メジャー”になるとはいいませんよ」と念を押していたが、仮想化ニーズでビジネス好機が訪れたことでマーケットの主導権を握ろうという思惑が見え隠れする。
日本ストラタステクノロジーはスタッフが約100人。「小規模」と謙遜しているが、「小回りのきく体制」の追求でうまくマンパワーを生かす。さらに、「ここ2-3年で本社との隔たりを除いた」点も大きい。こうした術に長けていることから、同社が今後さらに成長すれば、業界でどのようなポジションを獲得するのか。長井社長の手腕に期待がかかる。(郁)
プロフィール
長井 正利
(ながい まさとし)1950年、石川県金沢市生まれ。75年、慶應義塾大学工学部計測工学課卒業後、横河ヒューレット・パッカード(現・日本ヒューレット・パッカード)に入社。88年、サン・マイクロシステムズに入社。同社にて、営業本部長や常務取締役などを歴任。01年、エントレージ・ブロードコミュニケーションズの代表取締役に就任。03年、日本ストラタステクノロジーに入社。現在に至る。
会社紹介
日本ストラタステクノロジーは1986年に設立。無停止型のft(フォールト・トレラント)コンピュータをベースにビジネスを手がけている。00年、世界初となるWindowsを搭載したIAベースのftサーバーを市場投入したことで注目を集めた。
日本メーカーとのアライアンスでは、NECとの業務提携が話題を呼んだ。今年6月には、提携効果による製品を第4世代として市場投入した。今年9月に発売した製品はインテル製のデュアルコアを搭載しているほか、ハイエンドモデルからローエンドモデルまで揃えており、高い処理能力を必要とするデータセンターなどで安価に導入できることが特徴だ。