NTTデータイントラマートは主力のアプリケーション基盤をSaaSに対応させる。SOA(サービス指向アーキテクチャ)に基づき、従来の業務アプリケーションを“サービス”として有機的に結びつけるプラットフォームに変えることで優位性を高める。来春のメジャーバージョンアップでSaaS対応させる計画だ。ワークフローをはじめとする持ち前のビジネスプロセス管理機能も強化する。NTTデータグループの強みを生かしたグローバル展開も視野に入れることで、事業拡大を目指す。
SaaS対応を容易に サービスを柔軟に連携
──来年春に予定している主力アプリケーション基盤製品「intra─mart(イントラマート)」のメジャーバージョンアップでは、SaaS対応を行うとのことですが、具体的にはどんなメリットがありますか。
中山 従来のウェブアプリケーション方式では難しかった、1つのシステムリソースで複数のユーザーを企業向けにカスタマイズしたり、インターネット上の業務アプリケーションサービスと連携させたりすることができるようになります。SaaSベンダー大手の米セールスフォース・ドットコムが急成長している例をあげるまでもなく、国内でもSaaS対応を検討しているSIerやISVは多い。来年度第1四半期(2008年4─6月期)に予定している次期バージョンでは、SaaS対応がぐっと容易になります。
──従来のウェブアプリケーションとの違いは何ですか。
中山 これまでも、顧客企業において親会社の業務アプリケーションを、ウェブを使ったASP方式で、複数の子会社と共有して使うケースが少なくありませんでした。ただ、この方式では、画面まわりなどを子会社単位で個別にカスタマイズすることは構造上難しく、一律に同じ画面を使わざるを得ないケースが目立ちました。
SaaS方式では子会社が必要とする業務アプリケーション(=サービス)だけを取り入れるなど個別対応のカスタマイズが容易になります。SOAベースのアプリケーションインターフェース(API)も公開しますので、インターネット上の他の業務サービスと組み合わせることも格段にやりやすくなる。
また、SIerやISVなど当社のビジネスパートナーが自らSaaS方式でサービスを提供することも可能です。intra─mart上で開発した業務アプリケーション、把握しているメジャーなものだけでも40─50種類あります。営業支援やナレッジマネジメント、購買管理、資産管理、不動産業界向けERPなど、多岐にわたります。個別の顧客向けに開発している業務アプリケーションを含めれば、数はもっと増えます。こうした多彩な業務アプリケーションをSaaS化する敷居がぐっと低くなることは間違いありません。
──既存のアプリケーションソフト資産との互換性は保たれますか。
中山 バージョンアップしても既存のアプリケーションの互換性は保たれます。アプリケーション基盤が登場する以前は、ソースコードを上から下までびっしりと書くこともありましたが、今は違います。当社が用意したコンポーネント(部品)の中に、ビジネスパートナーや顧客企業が開発した業務アプリケーションを組み込む方式ですので、基盤に変更があっても、業務アプリケーションには影響が及びにくいのです。
世界の大手がライバル グループの力量を発揮
──昨年度(07年3月期)の売上高(非連結)は一昨年度比で約40%増、今年度は23.3%増の25億円余りの見込み。業績は順調に拡大していますが、行く手には世界の大手ベンダーが立ちふさがっているのも事実です。
中山 アプリケーション基盤の分野では、IBMやBEAシステムズなど世界大手が存在しています。IBMは早くからSOAを提唱していますし、ソフト開発大手のオラクルも10月にBEAシステムズへの買収提案をするなど、大手集約が進む傾向にあります。
現時点で当社のマーケットにおける立ち位置は、こうした世界大手と異なります。まず、オープンソースソフトウェア(OSS)をベースに開発していることや、ワークフローをはじめとするビジネスプロセス管理の機能が突出して優れていることです。
OSSをベースに大手より割安に価格を設定し、なおかつ日本固有のワークフローをしっかり練り込んである製品は、他にはありません。外国のアプリケーション基盤の上で、日本ならではのワークフローシステムをつくると、個別のカスタマイズが増えて結果的に高いものにつく。これに比べれば当社の製品を使えば5─10分の1のコストでできるのが強みです。
──アプリケーション基盤をOSSベースで提供しながら、同時にビジネスプロセス管理もやってしまうのは確かに異色ですね。
中山 当社のワークフローは顧客からの評価がとても高い。根回しや差し戻し、イレギュラー対応など、この10年近くで磨きに磨きあげてきた自信作です。従来のワークフローは、紙の書類に上長の判子を押して回していたものを、そのままパソコンに置き換えたものが多い。でも実際は書類の前後にはさまざまな別の業務が連なっています。一連の長い工程があるんですよ。
たとえば、営業系のワークフローでは、与信管理や見積もり、受注、請求書発行とさまざまな業務があり、販売管理や生産管理のシステムとつないでいく必要がある。ビジネスプロセス管理の領域へ進出することが、当社のビジネスにとって非常に大切なことです。業務システムをつないでいく仕組みとして有力なのが、SOAやSaaSなのです。得意技を効果的に繰り出すことで、十分な優位性を発揮できると考えています。
──しかし、そろそろ海外展開を実行に移していかないと頭打ちになりませんか。IBMやオラクルなど世界大手に太刀打ちできますか。
中山 実は01年の段階で、intra─martの海外版「CoreMount(コアマウント)」を製品化しています。米国で商標をとれなかったことから“中山”をもじった英語名をつけました。これまでは、正直いって国内だけで手いっぱいのところがありましたが、これからは変わらなければなりません。
親会社のNTTデータは、今グローバル展開を積極的に進めています。まずはNTTデータの海外展開を有利に進めるための有力商材として売り込んでいく構えです。一方で、国産ソフトウェアベンダーがコンソーシアムを組んでグローバル進出を推進する「MIJS(Made In Japan Software Consortium)」のメンバーに加わり、SOAやSaaSのビジネスモデルの研究も進めています。
──中期的な業績見通しはどうですか。
中山 来年度下期あたりから、メジャーバージョンアップにともなうSaaS対応が実際の売り上げに結びつくことが期待できます。2年後の09年度は年商50億円をイメージしています。当社だけでみれば、売り上げ、利益ともに順調に拡大する見通しです。しかし、世界に目をやれば、年商規模はまだまだ小さい。残念ながら、世界大手のソフトウェアベンダーの年商規模は、MIJSのメンバーが束になっても届かない現実もあります。
世界規模で大手集約がより一層進むことが予想されていますし、この競争に打ち勝っていく必要があります。SaaSビジネスはまだこれからが本番です。日本発のアプリケーション基盤、ワークフローで勝負をかけていきます。
My favorite 夫人の手作りカフス。1セットしかないので、「ここぞ」というときに身につける。今年6月の新規株式上場のときは、このカフスをつけて上場記念の鐘をついた
眼光紙背 ~取材を終えて~
NTTデータが国内情報サービス産業で初めて連結売上高1兆円を超えたのは、グループ展開によるところが大きい。100社を超えるグループ会社はそれぞれの得意技を生かして連結業績に貢献。NTTデータイントラマートはそうした成功パターンの1つだ。
中山社長はNTTデータ時代にERPの開発に従事していた。「自分でも世界に通用するソフトをつくりたい」と、社内ベンチャー制度に応募。10年足らずで株式を公開するまでに急成長させた。
日本のソフト産業は、労働集約型の下請け構造が残り、製品面では欧米企業に圧倒されている。「良くも悪くも、巨大なNTTデータは日本のソフト産業の縮図だ。ならば、これを変えて世界に通用するソフトをつくる」と、腹に決めた。
海外では、中山社長の苗字を意訳した「CoreMount」の製品名で売る。世界を舞台に、NTTデータグループの先鋒として競争に挑む。(寶)
プロフィール
中山 義人
(なかやま よしひと)1966年、山梨県生まれ。92年、東京大学大学院修士課程(生命情報工学専攻)修了。同年、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。98年、NTTデータイントラマートプロジェクト発足。00年、NTTデータイントラマート設立。代表取締役常務。01年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1998年、SIer最大手のNTTデータの社内ベンチャー制度を活用してスタート。00年にウェブ対応のアプリケーション基盤「intra-mart」の開発を中核事業とするNTTデータイントラマートを設立。順調に事業を拡大させ、これまで1700社を超える顧客企業に納入。SIerなどのビジネスパートナーは90社近くに達した。今年度(08年3月期)は新たに10社を加えて販売体制の拡充を図る。今年6月、東京証券取引所マザーズ市場に株式上場を果たした。今年度の売上高(非連結)は前年度比23.3%増の約25億円、営業利益は同2.5%増の約3億円を見込む。中期経営計画では09年度に年商50億円を目指す。