「組織や業務の改革を目的としたECM(エンタープライズコンテンツマネジメント)やナレッジマネジメント」という新しい概念を日本市場に広めようとしているリアルコム。上場以来、赤字が続く。どのように黒字転換を果たすのか。果たして、同社が掲げるECMは浸透するのか。谷本肇代表取締役に戦略を聞いた。
今年度は赤字の見通し開発強化で“筋肉質”に
──ビジネスの現状をどう考えていますか。谷本代表取締役が描く理想に向かっていますか。
谷本 山でいえば1.5合目、いや1合目にも達していないかもしれません。ただ、昨年IPOを果たしたことも含め、徐々に目指している方向に進んでいるといえます。
──しかし、赤字が続いていますね。通期予想も赤字の見通しです。厳しいようにも見受けられます。
谷本 確かに順調に伸びていたのですが、上場した途端に下がったことで厳しいと思われるのは仕方がないことです。しかし、原因は分かっています。ですので、期初の段階で今年は赤字にならざるを得ないとの判断をして下方修正しました。
──原因は何なのですか。
谷本 本当は、大黒柱のナレッジマネジメントソフトを強めなければならなかったにもかかわらず、余計な部分までビジネスを広げたことです。これまでに当社が確立したECM(エンタープライズコンテンツマネジメント)の基盤では、事業領域を拡大するには時期尚早だった。まだ多角化戦略のステージではなかったのです。そこで“贅肉”を引き締めることにした。具体的には、新製品の開発費用を一括償却しました。これが赤字の原因です。今後は、“贅肉”を“筋肉”に変えることを徹底的に実行していきます。
──一括償却で“贅肉”を落としたからといって、すぐ“筋肉質”になるわけではありません。策はあるのですか。
谷本 とにかく、やるべきことをやるしかありません。一番のポイントは、開発能力を向上することと考えています。競争力のある製品だけにチームを編成し、人員リソースを集中しました。
というのも、売れている製品を一段と伸ばすといったハングリーさが欠けていたからです。放っておいても売れるため、「100点満点中の80点前後をキープすればいい」という意識が社内にあった。その分、新製品の拡販に力を入れようとしていたのです。0点から数字を引き上げようとして、製品の数だけ優秀なスタッフを分散させてしまった。もともと事業領域の拡大が間違いだったわけですから、80点をキープしていた製品の数字までも下がる。つまり、売上高が減って悪循環に陥ったわけです。そこで、細分化した人員を強い製品に集中させる。80点を90点、100点に増やすほうがプラスに働くと判断しています。
そのためにも、われわれと似たナレッジマネジメントソフトを開発する米AskMe社を買収しました。これは、開発能力を高めるためです。開発人員を融合すれば社員のスキルアップにもつながる。しかも、グローバルでの競争力も高まります。
──ECM製品というのは現在、日本市場で受け入れられているのですか。ニーズがないから業績が下がったという見方もあります。
谷本 市場がなかった領域で、業界初となる製品を出しているという点では、アーリーアダプタといった先進技術に敏感なユーザー企業が導入する傾向が高い。確かに製品を提供する側が市場を立ち上げなければならないのも事実ですが、確実にニーズがあるとも感じています。
──その根拠は。
谷本 当社の強みからきています。大きく分けて2つあり、1つは情報共有の分野に特化していること。2つ目は、特化した分野のなかでパッケージソフトとコンサルティングの両方を持っている点です。
基本的に、ソフトベンダーはパッケージソフトを販売する際に自社製品のコンサルティングを行うことが多いですよね。それは、すでに存在するマーケットのなかで製品を開発しているからなんです。一方、当社はマーケットが存在しない業界で市場創造に向けた製品開発に力を注いでいる。そのため、使い方というよりも新しい世界が実現するメリットを訴えています。ですので、ニーズに応じて他社製品を選定するコンサルティングも行っています。また、他社製品では対応できず、当社の製品で業務の改善やワークスタイルの変革を実現したいという企業に対しては自社製品を提供しています。
──ただ、製品とコンサルティングの両方を持っていると「要は製品を売り込みたいのでは」などとユーザー企業が意識するかもしれませんよね。
谷本 それだからこそ、ニーズが合わなければ他社製品を提案しているのです。また、当社にとってはパッケージを持つことで、コンサルティングの結果が机上の空論にならないといったメリットもあります。ユーザー企業が困っている課題に適した製品が市場に出ていなければ当社が解決する。コンサルティングを行いながら現場の声をしっかりと聞く。声に合わせて製品を開発していますから、遅すぎず早すぎないタイミングで提供できる。これは、当社ならではの強みと自負しています。
──いつ黒字転換する見込みですか。
谷本 来年度に果たします。また、1─2年で大きな成長に向けた基盤を固めます。
シリコンバレーで閃いて欲しいものをビジネス化
──先ほどECM製品が市場で受け入れられているか否かを質問したのは、谷本代表取締役が描く世界が時代を先取りしているとみているからです。どのような経緯で、このような事業を始めようと考えたのですか。
谷本 もともと私は、米国・シリコンバレーを中心にビジネスを手がけるコンサルタントでした。新しい技術を市場に送り出すための橋渡し的なコンサルティングを続けて来まして、そのなかで米国のやり方に興味を持った。なかでも、オフラインやオンラインを問わずに企業を超えてコミュニケーションを図っている点に魅力を感じました。このような環境がシリコンバレーに限らず、日本で当たり前にならないかと考えた時、ふと、これをITベースで提供すればビジネスになるのではないかと閃きました。そこで、日本に帰ってインターネット上でのQ&Aサイトを立ち上げた。その後、企業内の情報システムと連携するような製品を提供したほうが誰もビジネスとして手がけていませんので、市場を引っ張れるとの判断で現在に至っています。
また、実は私自身が当社が提供しているような製品を欲しいと考えました(笑)。新しい技術を仲介するというコンサルティングを行っているうちに、手っ取り早く市場に送り出せないかと考え、業務改革につながる情報共有をインターネット上で提供することに目を付けたのです。
──国内で早急にECM市場を確立できそうですか。
谷本 そのためには、アライアンスも必要と考えています。当社の製品と組み合わせれば1プラス1が2ではなく3にも4にもなる製品を持つ企業とのアライアンスを組んでいきたい。
例をあげれば、IBMさんのロータス製品です。「ウェブ2.0」に着目している点で、まさに当社の製品とマッチしている。ほかにも、NTTデータイントラマートさんやネオジャパンさん、アクセラテクノロジーさんなどとも組んでいます。積極的にパートナーシップを深めていきます。
また、当社自身も一段と成長しなければなりません。とにかく、今は徹底的に基盤を固め、近い将来には日本で市場確立を実現させます。
My favorite ベンチャーキャピタルのある担当者から上場記念にもらったというボールペン。その担当者は学生時代からのつき合いだとか。次世代ウェブベースの法人向け情報共有サービス創造はアイデアが決め手。このボールペンを使って生み出したサービスは数知れないほどあるそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
日本の状況について「世界から取り残された感がある。とくにIT業界に目立つ」と指摘する。もちろん、グローバル化する日本企業は存在するものの、「グローバル視点が欠けている」と言い切る。他国に比べ、国際競争力が絶対的に足りない。
それはなぜか。「日本市場だけで十分に食っていけるから。広げる必要がない」。IT業界にとって世界で米国に次ぐ市場が日本といわれ続けてきた。しかし、アジアを中心に日本以上に急成長を遂げているケースが顕著にあらわれている。「そのことに気づかずにいて、周りをみれば遅れていたということにならなければいいが・・・」と懸念する。
こうした状況を根本的に打破するため、リアルコムは情報共有によって企業のワークフロー変革をサポートする。「ユーザー企業が組織の壁を超えたコミュニケーションで強くなることは確実」。ECM市場の確立に期待がかかる。(郁)
プロフィール
谷本 肇
(たにもと ただし)慶應ビジネススクールMBA、ペンシルバニア大学ウォートンスクール交換留学生などとして学業を修めた後、1989年、日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンに入社。内外消費財、ハイテク、製薬といった企業の戦略立案、実行をサポートする。94年、米国・シリコンバレーでハイテク・バイオ分野でのベンチャー企業コンサルティング、日米企業の提携戦略立案・実行サポートに従事。6年間のシリコンバレー生活を経て、00年4月リアルコムを設立。
会社紹介
リアルコミュニケーションズの社名で2000年4月に設立された。02年、リアルコムに社名変更。法人向けナレッジマネジメントソフト「ナレッジマーケット」シリーズを中心に情報共有関連のソフトを製品ラインアップとして揃える。コンシューマ市場で話題となった「ウェブ2.0」を、ユーザー企業が社内活用することでワークフロー変革やビジネス拡大につなげる「エンタープライズ2.0」というコンセプトで提供。次世代の法人向けウェブサービスとして注目を集めている。07年9月にマザーズ上場。上場以降は赤字が続くが、来年度に黒字転換を見込む。