固定資産・リース資産管理パッケージ開発・販売のプロシップは「減価償却制度」が40年ぶりに改定されたことをきっかけに、大幅に業績を伸ばしている。今年4月にはリース会計の新基準が適用される。これにより、来年度(2009年3月期)以降は、リースオンバランス化対応のためのシステム再構築の動きが広がり、さらなる成長が見込まれている。「常に研究開発と人に惜しみなく投資する」(川久保真由美社長)ことで、経常利益率25%以上を安定的に計上する体制をつくり出す考えだ。
固定資産管理が複雑化の一途「ProPlus」は絶好調に
──プロシップは、今年度(2008年3月期)の期初から、株価(ジャスダック)が上昇傾向にあり、業績も期中に大幅上方修正しました。この好調要因をどう見ていますか。
川久保 おかげさまで今期は大幅な増収増益となる見込みです。利益については、上方修正(経常利益、営業利益とも当初予想より約25%増)したほど非常に好調です。高収益なのは、30年近く前から1つの業務(固定資産管理システム)に特化したパッケージを扱い続けてきたことが大きいでしょう。その業務ノウハウや経験値に基づくテンプレートが多く蓄積され、ソフトウェア開発の生産性があがり、利益率を高めています。
──川久保社長が今の会社に入社した頃(91年)は、「バブル崩壊」の時期と重なります。日本経済が長いトンネルに入った時代を経験していますよね。
川久保 ちょうどバブル経済が弾けた頃がこの会社への入社と重なって…。どの新聞を見ても「人員リストラ」を伝える記事ばかり。国内企業のIT投資もかなり渋っていた。マイクロソフトの「WindowsOS」が出回り始めた頃でもありました。この変わり目に、Windows製品を発売しましたが、なかなか売れず苦しい時期を過ごしました。
──「固定資産管理システム」というのは、「バブル崩壊」云々にかかわらず、当時から企業に必要なアプリケーションだったはずです。
川久保 当時は、各企業が自社のシステム部門で“手組み”でソフトを作るケースが圧倒的でした。しかし、現在と10-15年前を比較すると、企業の固定資産管理は180度変わりました。昔は、償却計算だけして、減価償却の年間額を出すだけのツール的な「固定資産管理システム」で済んだのが、今は資産の管理能力が問われ、経営指標になる将来予想の数値も算出する必要性が出てきました。
──それにプラスして「内部統制」や「国際会計基準の準拠」、「四半期決算の早期化」などの“波”がやってきた。
川久保 その通りです。「会計のグローバル化」という流れは顕著です。これに、いちいち各企業が“手組み”でシステム変更するには体力的に問題がある。ならばパッケージを導入すれば、時間的なロスも防げるはずです。
──今までに、事業主体がコアの「固定資産管理システム」から一度もぶれることはなかったのですか。
川久保 私自身が入社して18年目ですので設立当時にはさかのぼれませんが、固定資産システムを中心に毎年、着実に導入社数を増やしてきました。残念ながら、昨年度は新規導入社数が前年度を下回りましたが、それを除けば増え続けています。
──世の中にある“手組み”の「固定資産管理システム」がオープン化した証ですね。
川久保 08年3月末には「ProPlusシリーズ」の導入社数は、大手・中堅企業を中心に延べ2500社を突破する見込みです。今年度だけで、400社を超える見込みですので、急速にオープン化しているのでしょう。
──07年度の税制改正で「減価償却制度」が40年ぶりに大幅改定されました。このことがプロシップにもたらした影響は、予想外に大きかったということですか。
川久保 昨年の1月頃には、社内で「来年度は忙しくなるね」と話し合っていました。そのためには、ある程度まとまった体制で取り組むべきと感じていました。ただ、ここまで引き合いが多く急激に導入社数が増えるとは、正直、予想をしていませんでした。 このポイントはいくつかありますが、1つは、先ほど指摘のあった制度改正でしょう。それとは別に、当社の知名度が着実に上がり、「固定資産なら『ProPlus』」といわれるまで信頼性が高まったということだと感じています。
──ところで、「固定資産管理システム」の競合と捉えているITベンダーはありますか。
川久保 ないわけではないですが、ERP(統合基幹業務システム)大手のSAP、Oracle EBS、富士通、住商情報システムなどになるでしょうか。すべてが競合するわけではありませんけど。競合他社と異なる点は、当社の製品が中堅・大手企業をターゲットにし、その領域にまんべんなく網羅する製品だということ。それが強みになっています。競合他社ですと、企業規模別にぶつかり合っているようです。
──中堅・大手企業にまんべんなく導入できる製品であるポイントは何ですか。
川久保 やはりそれは、2500社以上に導入しているという実績もありますが、各企業のニーズを製品にフィードバックしているというところが大きいですね。「ProPlus」は機能数が非常に多いパッケージです。このパッケージを上手く活用することで大体の企業ニーズに応えることができます。
制度に100%対応しているパッケージは世の中にありませんが、当社は真摯に取り組んで、中途半端な製品を作っていません。例えば、他社に「減損会計対応版」とうたっている製品は、「本当にどこまで対応しているのかな?」と疑わしいところもある。制度上必要とされる機能の一部が使えないので何とかしたいという声を耳にすることがあります。変更に柔軟に対応できない製品もありますが、それに比べ、「ProPlus」はどの業種にもまんべんなくフィットする製品です。
夢は上場企業の占有率5割 SaaSの研究も本格的に
──川久保社長が就任されてから2年が経ちました。社長の色をどう出していく考えですか。
川久保 現在、国内大手上場企業の約2割で「ProPlus」が利用されています。「夢」としては、早い段階で5割を目指しています。その実現には研究開発と人が重要だと考えます。人材の面では、業務ノウハウをもつ「Specialityの高い」要員を多く確保・育成する。すでに当社には、そうした「固定資産・リース会計マニア」と呼ばれる人材がかなりいます。「ProPlus」導入の際に窓口となるのは、システム部門ではなく、経理部門ですから。ユーザー企業は当社に、税制改正など経理に関する専門的な部分を問い合わせてくることも多いようです。複数の事例を抱えていますので、多角的にユーザー企業へ知識を提供できます。
──この先、「ProPlus」自体は時代の変化に対応してどのように機能拡張し、SaaS/ASPへの取り組みなどについては、どう対応していく考えですか。
川久保 2500社以上という顧客を抱えていますので、当社に課せられた社会的責任は重大です。まずは制度改正に瞬時に対応する必要があり、そこには惜しみなく開発費を投資します。それとは別にシステム環境が大きく変化しています。SaaS/ASPなどのサービス提供を見越した開発費も増やしていきます。
──サービス提供という部分は、いつ頃どんな形式で始めるつもりですか。
川久保 来年度からは第一弾として、リース会社との協業で一部始めます。これまでは「借り手側」にシステムを提供してきた。今度は「貸し手側」のリース会社が、「借り手側」に情報提供する仕組みとして当社製品を選んでいただきました。これをSaaS型で展開する。これで、「貸し手側」へのシステム提供という、いままでにないサービスが創出できるとみています。
My favorite 15年以上も愛用しているカシオ計算機製の電卓。型番は「JS-25」。当時、「メモリが大きい」ことが気に入って約6000円で購入した。会社内の会議には必ず持参し、事業計画を練っている
眼光紙背 ~取材を終えて~
「固定資産」関連のソフトウェア一筋に歩んできたプロシップ。「固定資産を得意とするベンダー」から連想するイメージはといえば、「堅物の巣窟」と映るかもしれないが、「若手でもやる気があれば成長できる」と川久保真由美社長が自慢する通り、自由な雰囲気が漂う。IT業界では稀な存在である「女性社長」というのも、「堅物」のイメージを払拭させる要素だ。
川久保社長自身は通信関連の技術者出身で、「固定資産のことをすべて分かっているわけではないが、うちには(固定資産)マニアが一杯いて助けられている」と実情を正直に話す。役員、社員を含め、相乗効果で良い面を引き出す風土が定着しているようだ。
当面の「夢」は、主力システム「ProPlus」を「国内上場大手企業の5割(現在は約2割)に導入すること」(川久保社長)。独占的なシェアをもつ同社にとって難しい数字ではないだろう。(吾)
プロフィール
川久保 真由美
(かわくぼ まゆみ)1964年、新潟県生まれ。86年、NECグループの日本電気通信システムに入社し、通信関連の技術者として活躍。91年、日本エムアイエス(現プロシップ)に入社。03年に取締役システム開発本部長に就任。06年4月、鈴木勝喜社長(現会長)の後任として現職に就いた。
会社紹介
プロシップの設立は1969年4月。電子計算機利用状況の診断・導入指導やシステム設計指導などの業務を手がけるベンダーとしてスタートした。78年には会計システムパッケージ「ASPAC-Ⅰ」を、94年には現在の主力製品「ProPlus(プロプラス)シリーズ」を発売した。
「ProPlusシリーズ」は、固定資産、リース資産管理、減損会計、賃貸借管理、販売管理などの基幹業務システムを構築するための分野をカバーする。特に、固定資産管理、リース資産管理など、会計業務のなかでも専門性の高い分野に強みを持つ。固定資産やリース資産管理などの知識に長けた営業担当者やコンサルタントを育成・保有することに力を入れ、現在、大企業・中堅企業の上場ユーザーを中心に延べ2500社以上に導入した実績をもつ。
今年度の業績は、売上高が36億円(前年度比43.4%増)、営業利益が13億3600万円(同79.7%増)、経常利益が13億5000万円(78.0%増)と、大幅な増収増益になる見通しだ。