リコー販売は2005年1月、リコーの販売会社5社が大合併して誕生した。この設立以来、「ソリューション販売」に注力し、「箱売り脱却」を成し遂げつつある。実際、プリンタ販売会社としては高い水準の経常利益率を叩き出している。リコー本体が大量出力プリンタの事業会社を相次ぎ買収したことに伴い、大企業領域での販売力強化に焦点が当たっている。一方で、リコーが「エリア」と称する中小企業領域も再度戦力を増強、競合のキヤノンや富士ゼロックスとの相違点を鮮明に打ち出してトップの座を不動のものにする考えだ。
県別体制改革は自明の理 断続改革で収益率アップ
──リコー販売は、リコーの国内販売会社体制改革の一環として設立されたのですね。
畠中 従来のリコーは、各県単位に販売会社を置く「県別販社体制」を基本にしていました。(2005年1月に)首都圏の5販売会社を合併して誕生した当社が、初めてこの体制を崩すことになりました。顧客の環境が急激に変化したことが理由です。それまでは、各県にある顧客の支店や工場などが、本社決裁ではなく独立して機材を購入していました。ところがいまは、本社で一括する「集中購買」の傾向が顕著です。このように顧客環境が変化するなかで「県別販社体制」は、時代にそぐわなくなったのです。
──プリンタ販売の場合、サポート面で「地域密着型」の体制は欠かせないように思いますが…。
畠中 その点は大丈夫。確かに首都圏では販売リソースを1つの会社に統合し、特に、拠点を広域にもつ大手企業に対応する営業部門はすべてリコー販売の東京本社に属する形にして、指令もすべて本社から出しています。だけど一方で、各県には「独立販社」と同じ従来通りのサポート体制があります。
──リコー販売設立からまだ3年しか経っていませんが、断続的に改革が行われているように見受けます。
畠中 リコー販売は、5つの販売会社が合併して生まれたのは先に述べた通りです。この際、首都圏大手企業に対応する組織部隊を「首都圏広域事業本部」という「本部制」にし、各県に在籍している大手企業対応の部隊をすべて同本部所属にしています。この本部は「超大手」の領域を担当しています。しかし、それ以上に戦略的に問題になっていたのは、当社で「LA(ラージアカウント)」と呼ぶ、従業員が300─1000人未満の中堅・大手企業へ対応する戦力が十分でなかったことです。そのため、これも「LA事業部」という組織に集約したわけです。
──リコー販売に限らず、リコー全体に関することですが、「リコーテクノシステムズ(RTS)」に保守サービス部門を統合しましたね(05年10月)。この影響というか、効果をどう捉えていますか。
畠中 保守サービス部門は、保守サービスの「効率と品質」を限りなく追い求めるべきなんです。その際、販売のなかに保守サービスがあると品質にバラつきが出てくる。
いままでは、ある顧客に対し、リコー販売とRTSの「サービスマン」がサポートする非効率さがあった。それが一本化されることで少人数で効率よく対応できるようになったことが第一でしょう。お互い(リコー販売とRTS)がノウハウを共有することでレベルはあがるとみているのです。実際、顧客の所在地に近いところに、適切な「デポ」を置くという再編成はうまくいって、サービス品質を上げることができました。
経常利益は2.1倍に 再度、「エリア」回帰も
──一方で、プリンタ販売会社の課題の1つには「箱売り脱却」があります。
畠中 当社は、設立の出発段階から「ソリューション販売」を社内ビジョンに掲げ、「顧客価値を提供するナンバーワンベンダー」になることを目指しています。そのため、いろんな「ソリューション対応」の形が出てきた。現在、当社の登録商標にもなっていますが、顧客の創造的なビジネスやCSR(企業の社会的責任)経営に役立つ「Customer’s Customer Success(CCS)」というビジネスモデルを2年ほど前から志向しています。
当社はオフィス環境のソリューションを提供している。それがプリンタやデジタル複合機(MFP)であったりしますが、それだけでなく、顧客ニーズは「オフィスそのものを快適にしたい」とか、最近では「セキュア」「低コストなプリンタ環境」「社員間コミュニケーションを良くする」──などがある。これまでは、“箱”だけを提供するビジネスをしてきましたが、オフィスに関わる「改善提案」をするビジネスを進めています。
いま企業では、CSRやローコスト経営、JQR(経営品質)などの社会的な環境への対応が求められています。メーカーであるリコーグループ内で取り組んできた実践をメニュー化して、顧客へコンサルティングするのが「CCSメニュー」になっています。
──「箱売り」を脱却する取り組みが急のようです。ただ、「収益モデル」が変わってこなければ意味がないのでは。
畠中 ハードウェアを売る収益とハードを取り巻くコンサルや新システム構築で収益がプラスされる形に変わってきました。この3年間の経常利益は、初年度の05年度(06年3月期)から06年度にかけて1.7倍に増加し、06年度から07年度にかけては約2.1倍に成長する見込みです。ハードの利益率はあまりあがらずコンサルや新システム構築などで伸びたわけです。また、ハードに付随するシステムやMFPに関連する保守サポートのアフターサービス「パフォーマンス・チャージ」が伸びました。売上高に対する経常利益率は今年度、販売会社としては高い水準に達する見通しです。
──05年1月の「大合併」でリコー販売が生まれ、今年2月には関東甲信越地域の販売会社6社も経営統合しました。その理由は。
畠中 リコー販売が誕生したのと同じで、大手企業への対応力のスパン(範囲)を広げたということです。もう1つは、リコーが米IBMや日立製作所からの買収で得たハイエンド領域の「プリンタ事業」を展開するうえで、各県の販売会社に専門要員を配置する余裕がないということがあります。非常にヘビーなビジネスですから。そこは、リコー販売で集中して支援部隊を養成し、案件に対して機動的に対応すべきだと思います。
また、「ソリューション販売」のうち大型案件になると、地方での対応力に限界があります。いま当社は約1000人のソリューション販売の部隊を抱えているので、案件別に切り分けて支援できるようになります。支社の現場は限りなく「販売」に特化する体制にしました。
──いままでの日立製作所のハイエンドプリンタと米IBMの「プロダクションプリンティング」の販売を担うことになります。組織をいかに改革し、推進していく考えですか。
畠中 現場担当のわれわれとしては、リコー本体と一体で臨む必要がある。基幹直結型のハイエンドプリンタに関しては1年前、「プリンタ事業部」に集約し、支援と直販部隊として動き始めました。今度は「プロダクションプリンタ」をどう売るかです。これには、一段と高度な販売ノウハウが要る。基本的には、中途採用を含め外部から人員を補充し、社内でも優秀な人間をリコー本体へ留学させます。
──今年度(09年3月期)以降に強化するポイントは何ですか。
畠中 大きな課題は、得意なゾーンである「エリア」と呼ぶ従業員100人以下の企業に対し、当社製品を厚く利用してもらう「ITソリューション」を提供することです。その「エリア」でも確実に果実を手にしたい。いままで、戦略の軸が大手企業にシフトしていたので、もう一度、重点を置き直すつもりです。
──そのうえで、パートナー(販売店)施策は重要ですが、どう仕組んでいきますか。
畠中 当社はディーラーと一緒に育ちました。「箱売り」だけのITベンダーでも、リコープリンタを100台販売すると、そのITベンダーには100件の顧客があるということです。当社の販売店のうち、「トップ・OA・ディーラー(TOD)」と呼ぶ年商1億円以上の販売店は首都圏で70社、首都圏を除く関東圏で50店ある。幸いなことに、TODにランクインしたいという販売店の要望が強くあるので、そこに導く施策を強化していきます。
My favorite イタリアのベネチアに旅行した際、街角の「革製品店」で売っていたブックカバー。文庫本用ではなくハードカバー用で、デザインが気に入って1万円で購入したという。三島由紀夫を好むが、社長という仕事柄、ビジネス書も手にする。1年間に100冊以上を読破するそうだ
眼光紙背 ~取材を終えて~
いまやプリンタはスタンドアローン機器ではなく、ネットワーク上にある重要な端末である。しかし、プリンタの販売は「箱売り」が主体であり、ここから抜け出すために販売会社は悩んできた。
しかし、リコー販売は畠中健二社長の指揮の下でこれを解消しつつある。「現場に合ったソリューションは現場で創る」。プリンタを介してさまざまなシステムを使うことで「新しい価値を生み出す」ことを狙っている。
リコー販売の取り組みは、調査会社のデータを見ると「顧客満足度」で首位を獲得するまでにユーザー企業からも認められた。淡々と語り、「圧迫感」を感じさせない柔和な表情が人をひきつける社長だが、短期間で「改革」を進めるうえで相当な苦労があっただろうと推察される。同社には来年度、プロダクションプリンタ販売という大きな壁が現れる。畠中社長ならば難なく越えられそうだ。(吾)
プロフィール
畠中 健二
(はたなか けんじ)1946年、福岡県生まれ、61歳。69年、早稲田大学第一政治経済学部経済学科卒業。同年、リコーに入社。97年10月には販売事業本部大阪支店長、翌年6月取締役に就任。02年1月にはリコー関西の社長に就いた。05年1月にリコー販売が設立されて取締役社長になり、現在、リコーの常務執行役員、リコーリースの取締役などの要職にある。06年10月からは代表取締役社長執行役員。
会社紹介
リコー販売は2005年1月、首都圏にあるリコーの販売会社5社(東京リコー、神奈川リコー、千葉リコー、埼玉リコー、西東京リコー)が合併し、従業員約4200人、年商2500億円クラスのグループ内の国内最大販売会社として誕生。06年度(07年3月期)には売上高2697億円、従業員も3628人の所帯へと拡大した。
08年2月には、関東甲信越地域の販売会社6社(群馬リコー、茨城リコー、栃木リコー、山梨リコー、長野リコー、新潟リコー)を経営統合。大企業の広域顧客向け本社一括/集中購買に対応することやソリューション対応などを増強したり、ローコストオペレーションを確立した。リコー本社が日立製作所と米IBMのプリンタ事業を買収したことに伴い、今年度以降は関連するハイエンド機の販売の中核を担っていく。