TISはITホールディングスグループのリーディングカンパニーとして「グローバル」「技術特化」「原価低減」の“3G”施策の推進に力を入れる。インテックホールディングスと経営統合して4か月。双方の顧客に得意領域の商材を売り込むクロスセリングを強化。統合による増収効果も目に見えるようになってきた。ここ数年、業績の足を引っ張ってきた大型プロジェクトも完遂に向けて着実に進捗している。グループ全体の中期目標である連結売上高5000億円、営業利益500億円達成の推進エンジンとして機能する構えだ。
統合で経営体制を大幅強化 変化は現場で起こっている
──インテックホールディングスと経営統合して4か月になりますが、何が変わりましたか。
藤宮 TISグループとインテックホールディングスグループを束ねる持ち株会社ITホールディングスを4月に設立し、まずは経営体制が変わりました。わたし自身も経営統合のタイミングでTIS子会社のクオリカ(旧コマツソフト)からTISの社長に就きました。
ここ3か月余り、顧客企業を100社ほど訪問し、社内では部長クラスの中堅幹部社員と昼食や夕食などの場で腹を割って話しました。それで感じたのは、今、まさに現場で起こっている大きな変化です。
──つまり、統合したてのお見合いムードはもうないということですか。
藤宮 そんなものはもうありませんよ。経営的には完全に統合し、インテックグループとツートップの体制ができています。現場も同様のスピード感をもって連携が進み、ドラマのセリフになぞらえれば“変化は役員会議室で起こっているのではない”のです。
営業現場では、互いのグループの顧客に向けて自分たちの得意とする商材を売り込むクロスセリングを展開しています。両グループは顧客層がほとんど重なっておらず、予想を上回る速度で商談が進む。受注に至ったものだけですでに2件。引き合いは非常に強く、プラス要素は大きい。
技術領域では、知識を共有するドメインが倍になりました。エンジニアは、例えばあるモジュールに詳しい者同士、社内のネットワーク上のコミュニティで技術的な議論を行います。インテックの技術者とも連携がとれるようになり、より広い範囲から情報を集められる。基本的な技術力は同じなのですが、突き詰めた領域に入ると互いに持っているものが違う。これを補完し合うことで、技術的な厚みが増します。
──TIS自身は、大型案件の不調で業績が思わしくなかった。
藤宮 ご心配いただいているクレジットカードの基幹業務システムプロジェクトは、最終コーナーをまわったところです。5年にわたる長期プロジェクトで、開発のピーク時には数千人規模のSEを投入しました。結果としてこの案件を完遂するため、計画を大幅に上回る人員を配置せざるを得ず、費用がかさみ業績が悪化したことは事実です。
──一連のプロジェクトで、どんなことを学ばれたのでしょう。
藤宮 長期にわたる大型案件の契約形態を見直すことが第一ですね。設計から本稼働まで一括契約にしてしまうと、途中で予期せぬ変化が起こってコストに跳ね返る。仕様が固まってからの開発のみを一括契約とし、設計や開発後のテスト工程は柔軟性のある契約形態にすべきです。
例えば、鉄道会社が発行するスイカやパスモ、携帯電話に組み込まれたICカード、高速道路のETCカードなどがクレジットカードと連動して、現金を補充する仕組みがありますよね。5年前はこんな仕組みはなかったか、ほとんど普及していなかった。それが今は当たり前のように使われています。カードに関連するデータ量は爆発的に増え、処理する能力を高めなければ対応できない。設計時にすべてを想定できるわけではないのです。
常に変化する市場環境で、顧客やSIerの双方がシステム開発のリスクを最小限にする契約がいかに大切かを学びました。
製造業に学ぶべき点は多い 国内外のパートナーを重視
──SIerのビジネスは、もっと製造業に学ぶべきだとの考えのようですが。
藤宮 今年3月末までの6年間、建機・重機メーカーの小松製作所(コマツ)が一部出資するクオリカの経営に当たってきて分かったことがあります。キーワードは「グローバル」「技術特化」「原価低減」の“3G”です。製造業が強い日本だけあり、一日の長がある。
コマツは売り上げのおよそ8割を海外で稼ぎ、強みの技術分野を明確に持っている。かつ徹底的な原価低減策を実施し、世界有数の建機メーカーに成長しました。SIerは製造業ではないものの、よいところは積極的に採り入れる必要があります。
──3Gの具体的な施策をどう打っていくつもりですか。
藤宮 インドの大手SIerは相次いで日本でのビジネスを強化していますし、中国のSIerも実力をつけている。国内の情報サービス産業もグローバル化に抗うことはできない。ならば、こちらから主体的に乗り出していくべきだと考え、まずは中国でのSIパートナーの拡充を進めています。
今年4月からは、沿岸部の大連と青島、内陸の西安のSIパートナーと新しく取り引きを始めました。これまでは当社グループの拠点がある北京と上海を中心に展開していましたが、今後はより範囲を広げて取引関係を強化していく方針です。まだオフショア開発が中心ですが、将来的には中国でのビジネス展開を有利に進められるよう、パートナーシップを強化していきます。オフショアの発注量も今年度は前年度比で倍増する予定です。
──技術特化と原価低減はどうですか。
藤宮 今回のクレジットカードのシステムを完遂すれば、世界でも有数のトランザクションを誇る大型プロジェクトをこなした実績が残る。“カード関連のシステムの発注ならTIS以外考えられない”というダントツに強い分野、商材をさらに伸ばします。
もうひとつ、大切なことがあります。日本の製造業が強みが維持できるのは、協力会社とのパートナーシップを重視している点が大きい。よいビジネスパートナーを持つことは、よい製品やサービスをつくり出すうえで欠かせない要素です。原価低減もパートナーなくしては成り立たないでしょう。
──製造業には下請け叩きや偽装請負など問題点も多い印象があります。
藤宮 それは側面の1つに過ぎない。違う角度からみると、相似形のSIerが積み重なる情報サービス産業の多重構造とは異なることが分かるはずです。パートナーの得意分野を引き出し、品質を徹底的に追求する姿勢は学ぶべきところが多い。
端的に言えば、人材派遣方式でワッと人を集めてソフトをつくる。終わったら解散してしまう従来型のスタイルでは、品質問題が起きたときに原因を遡って追及することが難しい。必然的にカイゼンもできず、同じような問題を繰り返す。そうではなくて、原因の突き止めが可能なパートナーを国内外にしっかりと持つ。そのうえでカイゼンを続け、品質を追求する体制が求められているのです。
──当面の課題と経営目標を教えてください。
藤宮 大規模プロジェクトを完遂し、これまで案件に張り付いてきた人材の再編成を早急に行う必要があります。人材の一部が塩漬けになっている課題を解消し、来年度からスタートする中期経営計画の原動力になるよう再配置します。将来的には、連結売上高5000億円、営業利益500億円の達成に向けた施策を打っていく方針です。当社としてもITホールディングスグループのリーディングカンパニーとして成長を加速させます。
My favorite グループウェアをモバイル端末で閲覧できる自社サービス「SynCube」に対応した携帯電話。社長が世界のどこへ出張しようとも“時差関係なしにメールが飛んでくる”と社内は戦々恐々だとか
眼光紙背 ~取材を終えて~
インタビュー前日までロンドン、ニューヨークと世界中を飛び回っていた。岡本晋・ITホールディングス社長と宮地秀明・インテックホールディングス社長らとともに、新体制発足の挨拶やIR活動も含めて取引先を精力的に訪問してきたのだ。
TISのトップに就いてからすぐに、携帯電話でグループウェアを閲覧できる自社サービス「SynCube(シンキューブ)」を使っている。海外出張が続いても、「携帯電話なら空港などでのセキュリティチェックもそれほど時間をとられない。パソコンより便利だ」と、積極的に活用する。
社長とやりとりすることが多い役員や幹部社員は、みな慌ててSynCubeを使い始める。地球の裏側からいつ社長の指示が入るか分からないので、パソコンでは追っつかないというわけだ。社内SNSにも精力的に顔を出す。「現場を動かすには、まず自分がそれ以上に動く」。行動で示すタイプだ。(寶)
プロフィール
藤宮 宏章
(ふじみや ひろあき)1947年、北海道生まれ。69年、東北大学理学部数学科卒業。78年、東洋情報システム(現TIS入社)。88年、東京本社情報通信システム開発部長。93年、西日本システム販売事業部名古屋支社長。94年、取締役西日本システム販売事業部名古屋支社長。99年、常務取締役金融・カード事業統括本部金融・カード第2事業部長。02年、コマツソフト(現クオリカ)副社長。04年、クオリカ社長。08年4月、TIS社長就任。
会社紹介
今年4月にインテックホールディングスと経営統合し、ITホールディングス(ITHD)を設立。現在はITHDの傘下にTISグループとインテックホールディングスグループが横並びで入る。昨年度(2008年3月期)の両グループの業績を単純合算すると連結売上高3224億円、営業利益199億円。これを2011年3月期に連結売上高4000億円、営業利益400億円にもっていく構えだ。将来的には年商5000億円、営業利益500億円を視野に入れ、大型案件を受注する経営体力の増強に努める。当面は双方の顧客に向けて自らの得意商材を売り込むクロスセリングなどで相乗効果が期待される。