2007年、ネットエイジからngi groupに社名を変更した。新たに「ネクスト・ジェネレーション・イノベーター」として、グローバルに視点をおいたビジネス展開を推進している。市場の状況や同社のビジネスについて小池聡社長兼CEOに話を聞いた。
次世代インターネットに期待 標準化のコアメンバーとして
──プロフィールを伺うと、インターネットビジネスの最前線に立ってこられたようですが、今起きているインターネットの変化について教えてください。
小池 私は、電通国際情報サービス(ISID)の出身です。70年代の米国では、ネットワークを使ってコンピュータリソースを共同利用するビジネスをGEが商用化し、それを日本に持ってきたのがISIDでした。その頃から電通はコンピュータとネットワークのソリューションプロバイダでした。90年代初め「iSi電通アメリカ」に勤務し、94年の春、米国でインターネットが商用化された。私はその1年前にその情報に接して、すごいビジネスになると予感し、率先して企画・事業化を行いました。93年にブラウザ「モザイク」が登場すると、インタフェースが格段に向上し、後のゴールドラッシュにつながりました。
当時から「リアル」と「バーチャル」は対比され、例えば本屋ならバーチャル書店などと呼ばれたものです。ネット上では無限大の量で本が在庫されており、著者名や書籍タイトルで検索すれば即座に在庫がわかり、しかもそのまま購入できるので大変便利です。でもリアルの本屋を考えると、私の場合は目的買いではなく、何の気なしに店に立ち寄って面白そうな本を買うケースがほとんどで、バーチャルではそのような行動を再現しきれていませんでした。ところが最近、一転してリアルの本屋を再現できるようになった。それが「3D化」です。今、ブラウザの誕生時に匹敵するほどの「革命」が起きようとしています。「アバター(自分の分身として画面上に登場するキャラクター)」を通じてバーチャル世界に入り、店内の棚から、手に取った本をめくるというような、今までできなかったことが現実になろうとしています。それが次世代インターネットです。3Dインターネット、メタバース、仮想空間といった言葉でも語られます。
──国内外のIT企業はいま次世代インターネットにどんな認識をもっていますか。
小池 実際は大きなインターネット革命なのです。といって今のインターネットが大きく置き換わるわけではないのですが…。日本ではいまだ「ゲームの延長」くらいにしか考えていない人が多いけれども、世界に目を向けると、米国のインテル、IBM、マイクロソフトなど大手企業は次世代インターネットに水面下で投資し、事業展開を模索しています。
──ngiグループはどのような形で次世代インターネットに関わっているのですか。
小池 今、手がけているのが次世代インターネットの標準化です。現在の仮想空間はクローズドで、標準化されていません。ただ、クローズドでは絶対に生き残れない。PC通信ではニフティ、AOLなどがいました。その後ISPになったか、吸収合併されたという顛末です。標準化は不可欠です。その流れでオープンソースソフトウェア(OSS)が注目を集めています。仮想空間のOSS標準化団体として「Opensim」コミュニティがあります。当社では、次世代インターネット事業を手がける子会社として3Diを設立し、その技術者がコミュニティのコアメンバーとして参加しています。なぜ私どもがここまで力を入れるかというと、市場としても次世代インターネットは必要だと認識したからです。
──それはなぜですか。
小池 PCの低価格化が進み、チップなどは格安で売られる状況があります。次に何か高性能なチップやアプリケーションが必要になるものを考えると、次世代インターネットはメーカーの成長エンジンとなります。日本のIT業界は関心が薄いと言いましたが、NTTさんはNGNの利用促進のための、「何か」を考えています。その一環として次世代インターネットも推進していくとして、業務提携のお話を受けました。「経営者とは一歩先を照らし、二歩先を語り、三歩先を見つめるものだ」といった(ホンダの藤澤武夫氏の)言葉があります。三歩先では口外せず、地が固まって語っていい段階が二歩先になる。今までは三歩先でした。おそらくコミュニティなどから企業を探されたのでしょう。次世代インターネットの世界はヤフーもグーグルも存在しない、大きなチャンスです。当社は最初からグローバルで地位を確立することを狙っていました。われわれは独自にカスタマイズしたOSSベースの製品を作って、グローバルで出荷し「メーカー」の立場になりたい。OSS準拠のツール群、APIを用意し、SIerやソフト流通販社に代理店になってもらうイメージを持っています。製品出荷は今秋以降になりますが、年末くらいにはセカンドライフと違ったブームが起こることを期待しています。
アジアでベンチャー育成 政治中枢との関係強化で
──インキュベーション事業についてうかがいます。中国、ベトナムへの投資に力を入れているようですね。
小池 シリコンバレーは、ICでもっているといわれていました。「インディアンチャイニーズ」、インド人と中国人がシリコンバレーの技術を作り、90年代のニューエコノミーを謳歌しましたが、ITバブルが崩壊すると、中国人は母国に帰ってベンチャーを立ち上げたりしました。米国のベンチャーキャピタルが投資して、中国系IT企業は相当大きくなりました。私も米国で仕事をしていましたが、外国人がビジネスを行うのは非常に難しい。学んだことは現地の人とのパートナーシップを築いて臨まなければいけないということでした。この業界は政府の規制などに左右されるリスクがあります。日本でも携帯フィルタリングの問題でビジネスがしづらくなったこともありましたよね。政治の中枢に踏み込んでいないと情報が得られません。法案が発表される半年前でも知っている人は知っています。信頼あるパートナーとして、政財界中枢とネットワークを作り、情報を得る。われわれのノウハウや得意分野をベンチャーも必要で、win─winな関係を重視しています。
──海外でインキュベーションするのはやはり勝手が違いますよね。課題は何ですか。
小池 中国は、パートナーシップも組んで、政府関係にも強いネットワークもできています。ただ、今成長している国はオールドエコノミー型の産業がほとんど。成長を続けるにはイノベーションで新しい産業が出てこないといけません。ベトナムは経済成長を遂げながら、インド、中国に続く技術立国となるべく国をあげて取り組んでいます。当社も国立ハノイ工科大学と提携して、日本語教育、IT教育を行っています。ベトナムの科学技術大臣はハノイ工科大学学長ですから、情報インフラ整備などの施策なども支援しています。
──日本経済は成長が鈍化しています。今後の伸びは見込めないのでしょうか。
小池 鍵を握るのはやはり『ベンチャー』と『イノベーション』です。米国は70年代以降、どんな不況でも毎年ビリオンダラー企業を輩出しています。日本はまだ廃業率が開業率を上回る状況です。一時、日本でもITベンチャーがワーッとできましたが、事件もあって、大企業指向が強くなって。もともと「皆で耕して収穫を分けましょう」という村社会ですから。成功したらねたまれ、失敗したら「それ見たことか」と嘲笑される。今回ガソリン税制で隠れてしまいましたが、経済産業省主導でエンジェル税制(ベンチャー企業投資促進税制)が立ち上がりましたよね。次のベンチャーを支援する状況を作るべく、ベンチャー企業に投資家が投資をすると、税制面の優遇措置をとる制度です。私どももそれを機に、エンジェルファンドを作りました。新しい会社や事業が生まれ続ける環境がないと、国は成長しませんから。
──次世代インターネットとアジアのインキュベーションで中長期的にどの程度収益を見込んでおられますか。
小池 世界相手なので、非常に大きな市場があるでしょう。アジアの成長を収益化するということで、中国・ベトナム中心に投資だけでなく事業も展開しています。そこの構成比も拡大していくと見ています。
My favorite 2-4億年前のアンモナイト。もともと古いものが好きだが、自然の産物にして、最も美しいとされる比率「黄金比」を体現しているところにも魅力を感じている。ビジネス面でも古に学びながら、新しいことにチャレンジする、温故知新のマインドを大切にする
眼光紙背 ~取材を終えて~
対外的な活動でもとりどりの経歴を持ち、2007年度には、日中韓若手経済人サミットの日本代表団団長や、現在は東京商工会議所でIT推進協議会委員などを務めている。精力的な活動をしている人物だけに、非常に活発な雰囲気の人物かと思いきや、ゆったりと構えて淡々としている印象が強い。日本の古きよきものに惹かれ着物を好んで着用していることや、仏閣、温泉巡りなどの話を聞いたせいかもしれない。
一度話し始めると話題は尽きることなく、自身が推進しているグローバルビジネスに対しての熱い思いをうかがい知ることができた。次世代インターネットは日本でも先日、メタバース協会が立ち上がり、これから本格的な動きを見せそうだ。同社が日本初にして、グローバルポジションを獲得できれば、わが国のITにも弾みがつくことだろう。(環)
プロフィール
小池 聡
(こいけ さとし)1959年生まれ、48歳。83年電通国際情報サービス入社。92年iSi電通アメリカ事業開発部長。96年同社取締役副社長兼COOに就任。97年本社経営企画室米国駐在兼務。米国戦略子会社、「Netyear Group」を設立し、社長兼CEOに就任。iSi電通ホールディングス副社長兼CFOを兼務。98年、MBOによりNetyear Group独立。同年11月、ネットエイジに資本参加し、社外取締役などを経て07年ネットエイジグループ代表執行役社長CEOに就任し、現在に至る。
会社紹介
創業は1998年。07年にネットエイジグループからngi groupに商号変更。ミクシィなど、ベンチャー企業の投資、育成を手がける。PCやモバイルの広告、コマースサービスなどのインターネット関連事業、インベストメント&インキュベーション事業を展開。また、次世代インターネットにおいて、標準化を進めているOSSに準拠したツール開発などを行う3Dインターネットビジネス、中国とベトナムをはじめとしたアジア地域での投資活動も行っている。06年に東証マザーズ上場。売上高は77億7500万円(08年3月期)。