ウルシステムズは、顧客の情報戦略トップへのITコンサルティングや、独自のソフトウェアプロダクト開発で差別化を図る。受託型のシステム開発ビジネスが多くを占める国内IT産業だが、発注者側に立ってIT戦略を立案する手法を実践することで、知識集約型の付加価値の高いサービスを生み出す。ITコンサルで元請けのポジションを確保。ソフトプロダクトでは流通業界向け次世代EDI(電子データ交換)の流通ビジネスメッセージ標準(流通BMS)やオープンソースソフトなどに取り組むことで事業拡大を目指す。
安藤章司●取材/文 大星直輝●写真
脱・労働集約型を目指し、開発型から知識集約型へ
──流通BMSやオープンソースソフトなどのソフトウェアプロダクトの開発に力を入れておられますが、本業はITコンサルティングサービスですよね。事業ドメインの焦点がややぼやけている印象があります。
漆原 確かに本業はIT戦略のコンサルティングですが、同時にITのベンチャー企業でもあります。ITのイノベーションを起こしてこそベンチャーであり、コンサルだけでは十分なイノベーションを起こせない。とりわけ流通BMSは流通サプライチェーンや食品トレーサビリティを実現するうえで重要な基盤部分。これから継続的な技術革新が求められる分野でもあり、ITベンチャーが活躍する余地が大きい。また、オープンソースソフトはソフトウェアビジネスで欠かせない分野でノウハウの蓄積が必要なのです。
──どういったビジネスモデルを目指しておられるのですか。ソフトプロダクトは成功すれば高い粗利が期待できます。コンサルだけでは成長に限界があるということですか。
漆原 そもそもの出発点は、日本のIT産業の課題、弱点を克服するためなんです。
日本企業は、オフコン時代のように業務の効率化をするためのIT投資は比較的しっかりやってきた。ただ、ITを活用して新しいビジネスを創出する発想に弱い。斬新な発想で新しいITサービスビジネスを組み立てる力がIT業界側も米国と比べて欠けています。このITとビジネスのギャップを埋めるのが当社のコンサルティングサービスです。
さらにいえば、米国では多数のソフトプロダクトが生み出され、日本のITベンダーはそれを輸入して、マージンを乗せて再販売するやり方が多すぎる。革新的なソフトプロダクトをつくる努力をしないと、いつまでたっても今の輸入超過の状態から抜け出せない。であるなら、自分たちで革新的なソフトをつくろう、イノベーションを起こそうと考えたわけです。正直申し上げて、ソフトプロダクトはまだ収益的に厳しいですが、誰かがやらなければならないのなら、ベンチャーのウチがやりましょうという発想です。
──8年前、脱サラして起業したときから今のような業態だったのですか。
漆原 いいえ。創業3年目くらいまではソフト開発をメインにやっていました。社員数も少なかったので、スーパーフラットな組織で全員プロマネ的な雰囲気でしたよ。ひたすら開発に精を出す当初の業態のままだったら、Javaが得意なソフト開発屋さんという感じで、恐らく普通の中小SIerになっていたでしょう。企業規模から考えると上場も難しかったかもしれませんね。
日本のIT業界、とくに情報サービス産業と呼ばれる領域は、価格が下落し続ける労働集約産業で、人月いくらで仕事が決まる傾向がある。本来のIT産業は知識集約型の高付加価値サービス業であるべきでしょう。これも先にあげた日本のIT産業の課題、弱点の一つです。その構造のなかにすっぽり当てはまるような会社ではダメだと思い、2003年末に米投資会社から全株式を譲り受けるMBO(マネジメント・バイアウト=経営陣による企業買収)を行いました。
──日本のIT産業の弱点を突いていくことが、逆にビジネスチャンスになると捉えたわけですね。ところで、MBOの資金はどうされたのですか。
漆原 資金調達は経営者の仕事。いろいろ方策はあるものですよ(笑)。おかげさまで06年、JASDAQ証券取引所に株式を上場するまで来ましたし、これからさらに上を狙えるポジションにつけたと自負しています。コンサルでは徹底的に顧客、つまり発注者の側に立ってIT戦略を立案する。考案した戦略やノウハウは顧客企業のCIOなり、情報システム部門にそっくりそのまま移植し、自分たちが離れたあとでも継続的な拡張、発展ができるようにする。開発ありきの旧来タイプの受託ソフト開発屋の発想では、顧客の高い満足を得られないし、不信感を増幅させるだけです。
未開拓の領域に積極挑戦 流通BMS率先し製品化
──ソフトプロダクトでは、流通BMSなどずいぶんと特化した領域に力を注いでおられます。ここに目をつけた理由は何ですか。
漆原 まだ誰も手をつけていない日本初の領域だからです。リスクはありますが、基本はベンチャー。安定的な収益が期待できるコンサルビジネスで守りに入るつもりはありません。昨年度(08年3月期)は、ソフトプロダクトの投資回収が遅れ、株主の皆さまに申し訳ないことをしました。ただ、事業家としては後悔していない。多少リスクがあっても、投資をして、イノベーションを巻き起こしてこそITベンチャーです。
──流通BMSでは複合機を端末に使ったり、ウェブアプリケーション化したりと、業界初の取り組みを行っていますね。
漆原 当社製の流通BMSソフト「UMLaut(ウムラウト)/J─XML」は、流通BMSの規格が固まる以前の05年に、流通業向け次世代受発注ビジネスシステムとして製品化。流通BMSが規格化された後の昨年10月には、食品スーパーマーケットの共同仕入れ機構のシジシージャパン(CGC)に流通BMS対応のXML─EDIとして採用いただきました。実際に取り組んでみて分かったのですが、流通BMSは食品トレーサビリティやサプライチェーンなど幅広い領域に影響が及ぶのですね。流通業界全体で業務改革を遂行してこそ、本来の効果を発揮することを再確認しました。
大手小売業やある程度規模の大きい食品メーカーなどでの採用は進んでいますが、中小のメーカー・卸にはまだ少し敷居が高い。そこで、今年4月にリコーさんと協力して、複合機を端末に使えるようにしたり、10月にはウェブアプリケーション化して通常のインターネットブラウザを使って流通BMSに準拠した取引ができるようにしました。従来のクライアント/サーバー型に比べ、導入のハードルを低くすることで中小の流通業への普及を促進していきます。
──直近の年商の9割余りを占めるコンサル事業ですが、今は特徴を出せていても、事業規模が大きくなれば、いずれ既存の大手ITコンサル会社やSIerと変わらなくなるのではないですか。
漆原 一般論としてですが、大手の人たちは、この先いくつかのグループに集約されるでしょう。業界再編が進むということです。一方、二次請け、三次請けへと広がるゼネコン型の階層構造を、今後も現状の規模で維持するのは難しい。特徴のない中小の受託ソフト開発では淘汰されてしまいます。年商20億円ほどの当社が伸びるには、階層構造に組み込まれず、規模は小さくても得意技をもった元請けにならなければならない。景気変調でIT投資の減速が危ぶまれるここ数年は、なおさら勝ち残りの競争が激しくなる。
SaaSなどのオンデマンド型サービスやオープンソースソフトなどの技術革新で、業務アプリケーションはこれからも変わり続ける。基幹業務システムに強いITコンサル会社として顧客CIOと密接に連携して戦略を練りながら、一方でソフトプロダクトの領域で得意技を複数持つ。知識集約型で経営とITのギャップを埋め、日本初の革新的なソフトプロダクトを創出する。既存の受託型SIerの相似形ではなく、その正反対のビジネスモデルを追求することが、不況に打ち勝ち、業績を伸ばす方策だと考えています。
My favorite 子どもたちに贈られた手帳と絵入りのコースター。先の細いカラーペンで、家族の絵がかわいらしく描かれている
眼光紙背 ~取材を終えて~
システム開発で売り上げを立ててきた従来のSIビジネス。顧客ありきではなく、「システムありきで進んできた」(漆原茂社長)側面がある。
ウルシステムズも、創業間もなくは開発中心だった。だが、「これではダメだ」と、大手SIerのミニ版ともいえるビジネスモデルと決別。顧客のIT戦略を決定する最上流から参画し、発注者の立場でシステム設計をコンサルティングする。システムの元請けよりも、さらに上位の発注者側に立つことで顧客満足度を高める。
新規案件で、同じ顧客から再度コンサルを依頼されるリピート率も7割に達する。さらに、「なんでもできるは、なにもできないのと同じ」と、独自のソフトウェアプロダクトの開発にも力を入れる。顧客の経営と一体となってIT戦略を立案し、日本初のイノベーションを自ら実践。国内IT産業の弱点を鋭く突くことでビジネスチャンスを掴む。(寶)
プロフィール
漆原 茂
(うるしばら しげる)1965年、神奈川県生まれ。87年、東京大学工学部卒業。同年、沖電気工業入社。同社在籍中、89年から2年間、スタンフォード大学コンピュータシステム研究所客員研究員。00年、ウルシステムズ設立、代表取締役に就任。06年、JASDAQ証券取引所に株式上場を果たす。
会社紹介
ITコンサルティング会社。昨年度(2008年3月期)の連結売上高は前年度比3%減の18億6100万円。営業利益は同15%減の1億4000万円(一昨年度は非連結決算だったため単体業績と比較)。ソフトウェアプロダクト事業の黒字転換が果たせず、利益を圧迫した。今年度の連結売上高は前年度比18.2%増の22億円、営業利益は同71.4%増の2億4000万円を見込む。中期事業計画では2011年3月期に連結売上高50-60億円、経常利益10-15億円を想定する。