2008年に起こった米国金融危機。この影響を受け、国内SIerのなかには厳しい状況を強いられているケースも少なくない。そんななか、SI業界トップのNTTデータは、増収増益を遂げている。成長を続けているのは、アウトソーシングなど主力ビジネスをはじめとしてM&A(企業の合併/買収)による規模拡大など、これまで築き上げた蓄積で不況に負けない企業体質を作り上げたからだといえる。同社にとって09年はどのような年なのか。世界経済の情勢悪化は、はたして同社にどのような影響を与えるのか。山下徹社長に聞いた。
佐相彰彦●取材/文 馬場磨貴●写真
半年先が全く読めない市況 新サービスが打開の一つに
──まずは2008年を振り返ってください。
山下 08年度(09年3月期)が創立20周年ということで、年度初めは第三の創業を意識していました。実際、“フォローの風”のごとく順調な滑り出しと思っていたのですが、08年9月以降は(米国金融危機の影響で)急激な変化ですね。どういった形で終息するか分からない。本来ならば、半年先を見据えてイメージを描いていなければならないのですが、年度が終わっていないこともあって、総括するにはまだ早い。今回ばかりは見えないというのが実情です。
──確かに、情報サービス産業にとって大きな転換期の兆しがありますね。
山下 本当にその通りです。先が分からない。ただ、巷で言われている“100年に一度”の危機というのは間違いないでしょう。予想がつかないが、世界全体で変革の真っ只中なのは確かです。
──この不況は、いつ終息するとみていますか。
山下 2010年までは続くのではないでしょうか。
──となると、これまで情報サービス産業市場は落ち込んでも2~3%減でしたが、もしかすると5%減程度になるかもしれませんね。
山下 その覚悟はしておかなければなりませんね。とくに、金融分野は厳しいですから。ここ2年の間に郵政民営化や金融機関の統合などが収束し、市場規模が縮む傾向にあった。そのうえこの景気ですから。不安要因がいくつもあります。こうした観点からすれば、確かに5%くらい落ち込む可能性はある。
──そんななか、足下のビジネスはどのような状況ですか。
山下 幸いにして、“足の長い”ビジネスが多いので、あまり影響がありません。期末には多少の影響が出るかもしれませんが、見通しとして9割以上が確定しているということもあり、大きなダメージはないでしょう。大規模開発で構築に2年かかるものも珍しくないため、来年度に関しても若干の見通しは立てられます。しかし、足が長い分、来年度に新規のシステム案件が獲得できない危険性があります。そうなれば、09年度は非常に危ない。
──不況に強い製品・サービスなど打開策はあるのですか。
山下 09年度中の収益に結びつくかどうかは分かりませんが、金融分野でいえば当社が提供している「信金共同システム」や「地銀共同センター」などは原動力となり得ますね。また、新しい領域ではSaaSがひとつのトリガーになるのではないかとみています。対応アプリケーションが限られているという課題はありますので、すべてのサービスがSaaS化するとは思っていませんが、マイクロソフトの「オフィス」や業務ソフトの一部はSaaS提供が主流になるのではないでしょうか。パッケージソフトが汎用的であればあるほど、ネットワークを介して利用する傾向が高まる。SaaS景気も相まって加速するといえます。
これは歴史が繰り返されているともとれます。オフコンが登場する以前は閉じたネットワークにコンピュータを接続することが主流でしたよね。当社でも、販売在庫システム管理などを提供していました。これは、データセンター利用によるタイムシェアリングのニーズがあったから導入が増えたといえるのです。これって、今のSaaSの考え方と同じですよね。以前はネットワーク回線の利用料が高かったために、各企業が社内にオフコンを導入するようになった。ところが、今はネットワークの回線速度がかなり速くなり、しかもその利用料が格段に安い。ユーザー企業は常に低コストを要求している。それらの要因を総合して、再びネットワーク重視の時代となったわけです。
──SaaS関連事業への本格着手という点では、「グリーンデータセンタ共通IT基盤サービス」を提供していますね。
山下 このサービスは、これまでシステムごとに構築されていたIT基盤を、複数のシステムでシェアすることで、安定した基盤を安価でかつ手軽に利用できることが特徴です。ファシリティやネットワーク、コンピュータといったハードの共有だけでなく、OSやミドルウェアといったソフトやIT基盤の運用保守も共有できるので導入を促せると確信しています。
当社にとってはデータセンターの集約につながる。仮想化技術を駆使したサーバーにより、例えば今まで3~4割程度だった稼働率を最大限に引き上げられるようになる。
──「データセンターの集約」という言葉が出ましたが、現段階で各所に点在しているデータセンターを統合するのですか。
山下 東京近郊に集約するなど、それは十分に考えられます。
リストラ実施の理由がない 国際競争に勝つ基盤づくり
──この不況下で、“派遣切り”のようなリストラが一段と進む懸念があります。ベンダーのなかには「体力のあるうちに」と決断しているようですが、御社でも検討されていますか。
山下 今のところは考えていません。確かに、体力のあるうちに行ったほうがいいというのは賢明です。そういった意味では、08年3月にすでに雇用を見直しています。景気の良い時期にです。希望退職者を募って、一切“肩たたき”はしなかった。条件を公示しただけですので、これはリストラとはいえない。
──何人ぐらいが退職したのですか。
山下 300人程度です。
──予想通りだったと。
山下 予想通りでした。ただ、仕事がなくなった時に希望退職を募ったわけではないことは強調したい。ここ数年は人手不足でしたからね。しかも、50歳以上を対象にしていたことから、実はスキルトランスファーできていない人材が退職を願い出たんです。多くは電電公社時代からの社員でした。環境が変わってつらいと感じたとみています。また、希望退職を実施したのは組合の要求に基づいたものです。そういった点では、現在、ほかのベンダーが実施している人員削減とは異なっています。したがって今、人員削減を行う理由はありません。
──外注比率に関しては、どうですか。
山下 これは別物です。外注については、仕事がなくなれば発注できませんので勘弁して欲しい。ただ、当社は1年以上前から外注比率を低くすることを打ち出してきましたから、これも今の状況が理由ではない。外注先は500社以上もありますからね。生産性を高めるには効率的ではない。ガバナンスの問題も出てきます。ですので、10年度をめどに300社まで絞る予定なのです。
──世界情勢の悪化も踏まえ、日本のSIerのあるべき姿として描いていることはありますか。
山下 偉そうなことは言えませんが、明らかにスクラッチの開発から提案型の開発に変わらなければならない。これができなければ、この不況下で生き残れないし、国際競争に勝てないでしょう。海外ベンダーのパッケージ製品は、ある意味で提案型ですよね。あまり“お仕着せ”になると日本で通用しにくいでしょうが、こちらから積極的に提案しながら顧客の声も聞く。しばらくはパッケージとスクラッチの中間の開発形態がよいのではないでしょうか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
業績が右肩上がりであるためか、取材時は「自信がみなぎっている」という印象だった。「今回ほど読めないことはない」と言いながらも、人員削減や外注先の絞り込みなど、景気が良い時に先手を打って実施。「今すべきこと」を把握するのに長けている。記者の年末は数多くの社長に取材するものだが、今回は景気悪化から大半が様子見の姿勢。山下社長の話には、「地に足が付いている」と実感させられたものだった。
NTTデータの2009年として「『変革』という意味で変えなければならない時期に来ている」とかみ締めている。襲ってくるであろう不況の波はむしろ「構造改革を実施するためにプラス」と捉える。これまでは、「(案件獲得などで)“ホームラン”を狙うことが多かった」という反省もある。もちろん、この考えは継続するが、「今後は“ヒット・エンド・ラン”も決めたい」とスピードも追求する。“モノづくり”を変える。「ユーザー企業に対して積極的に提案していく」と、SIerトップとして将来像を描く。(郁)
プロフィール
山下 徹
(やました とおる)1947年、神奈川県生まれ。71年、東京工業大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。99年、NTTデータ取締役産業システム事業本部産業営業本部長。03年、常務取締役ビジネス開発事業本部長。04年、常務取締役経営企画部長。05年、代表取締役副社長執行役員。07年6月、代表取締役社長に就任。