パソコンやサーバーのプロセッサでトップをひた走るインテル。2008年10月1日付で、共同社長体制から吉田和正氏の単独社長体制に変わった。その吉田社長が掲げているのは、「常に“フロントランナー”を確保する」こと。またITだけでなく、ほかの業界に事業拡大を図ることも見据える。今後、インテルはどのような成長を遂げるのだろうか。
佐相彰彦●取材/文 大星直輝●写真
権限移譲でスピードを向上
──2008年10月1日付で共同社長から単独の社長となりました。どんな変化がありましたか。
吉田 最も感じたのは、共同社長との違いを把握できたことです。
二人で(社長を)務めている際は、意思決定や難しい事柄などをお互いに相談して決めていた。これは、非常に良いことでした。というのも、それぞれの考え方をディベートしなければならないからです。ローカル(日本法人)の私と米国本社の彼が話し合うわけですから、必ずしも一人の考えが通るとは限らない。双方の良い部分で課題を抜本的に解決できたことが非常に多かった。
一方で、共同社長体制のデメリットもありました。組織的にみれば、二人の意見がまとまらないと決まりませんので時間がかかることもあった。社員にすれば、どう決定されるか分からないので戸惑うケースもあったかもしれません。
──確かに、社員からみると意思決定が遅いというのはスピード感に欠ける。
吉田 だけど、そのことが社員教育につながった面もありました。時間がかかるのであれば「二人が満足する決定案を持っていく」という意識が働いた。プロジェクトなど業務を進めるうえで、多くの考え方をまとめ上げる訓練になったわけです。
──となると、現状の経営体制では業務フローを変えなければなりませんね。
吉田 私にとっても、二人で目一杯行っていた業務を一人で取り仕切るのは不可能に近い。実行が遅れる原因にもなります。そこで、権限移譲を行いました。私が意思決定していた事柄の一部を幹部に任せるほか、各幹部の権限を下の役職に与えるといった具合です。これは、社員のスケールアップにつながる。
──下に権限を与えれば、社長の決定と違うケースが出てきませんか。
吉田 それがいいんです。アカウンタビリティ(説明責任)が明確になる。社員の責任が明確になれば、スピードも増す。もちろん、(社長である私による)決定事項の支援も行いますので、さらに革新的なプロジェクトを進められるようにもなる。
──組織体制については。
吉田 権限委譲という点では、あまり複雑な組織は適していませんので、とくに変更はありません。ただ、今は厳しい経済状況で次の成長に向けた準備の時期ですので、回復するであろう市場環境に合わせた組織体制を整備しています。当社はイノベーションで市場を活性化することが使命です。新しいテクノロジーを駆使し、新しい付加価値を提供していくため、常に“フロントランナー”のポジションを確保しなければならない。組織を構築する際は、市場を活性化させるための体制を整えなければなりません。今の組織は間違いなく市場を回復できる。当社のケーパビリティ(企業力)を生かす組織変更は常に考えています。
市場を活性化させるための体制を整えなければなりません。今の組織は間違いなく市場を回復できる。
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