定量、定性の両側面を重視
──SIerの地位を高めるために、具体的に取り組んでおられることとは?
赤羽根 業績の定量部分も重要ですが、同時に定性的な部分も重視しています。目先の数字ばかりを追うだけでなく、質や中身も高める。この両立が大切です。
わたしがこの会社に来た01年当時は、とにかくプロジェクトマネジャー(PM)が圧倒的に不足していました。開発人員ばかりでは、人を大量に投入して売り上げを伸ばすようなスタイルになりがちです。顧客に新しい価値を提案し、システムを設計構築する一連の仕組みをつくるにはPMクラスの人材が欠かせないと判断し、育成に力を入れてきました。
社内のPM認定制度をつくるなどして育成に取り組み、これまでに400人余りのPMを育ててきました。この人材基盤こそが、高い生産性と付加価値のあるサービスを提供する原動力なのです。また、SaaSやクラウドなどソフトウェアをサービスとして提供するビジネスが拡大していることを踏まえて、06年にサービス型のソフトウェアを開発する子会社アスタリクスを設立。収益的にはまだこれからですが、業界に先駆けて手を打ってきました。経済環境が厳しさを増すなかで、定量的な部分に加え、PMの育成やサービス型商材を創出する体制づくりなど定性的な部分も追求していきます。
──10年後のSI業界はどう変わっているとお考えですか。
赤羽根 以前の当社のようなソフトの受託開発屋はいなくなるのではないでしょうか。米国を見るとソフト開発はインドや中国にどんどん移転し、ソフト関連の労働者が職を脅かされると抗議する声も聞かれるほどです。日本はそこまでオフショアが進むとは考えにくいですが、それでも一定規模は海外に出ていく。パッケージソフトやSaaSなどサービス型のソフトウェアの活用で、ゴリゴリと手組みでソフトを開発する部分は減る。ただ、必ず残る部分は“サービス”です。コンサルティングや設計など上流部分、アウトソーシングの下流部分、そしてまたコンサルへと続くITライフサイクル全般にかかるサービスの価値で競い合うことになります。
──中堅企業向けのコンサルティングやサービスのメニュー化に力を入れておられますね。
赤羽根 当社の場合、金融や運輸通信などの大手アカウントがビジネスのメイン。ワンストップのサービスメニューを揃えることで、これまで弱かった一般産業分野における中堅企業のビジネスを拡大させるのが狙いです。メニュー化を推進し、整合性の高いトータルサービスを提供するサービス部門も拡充しました。顧客企業との直接的な接点を増やすことで、プライム受注の比率を、直近単体ベースの約50%からさらに高めます。
──日本のサービス産業は、過剰だとか生産性が低いなどと、よく指摘されています。国際的な競争力を保てますか。
赤羽根 携帯電話なんか、いい例だと思うんですよ。携帯サービスの品質の高さ、サービスの種類の多さ、どれをとっても世界に冠たるものがあります。料金だってそこそこ安くなった。ただ、海外では売れていません。これは日本の携帯サービスの質が悪く、レベルが低いという理由ではないだろうし、これからも永遠に通用しないかといえば、そんなことはないと思うのです。SIerのビジネスも、サービスの質の高さ、リーズナブルな価格を追求していくことで国際競争力を高められる。競争力を高めるためには、ある程度の規模の追求が必要になります。難しいテーマではありますが、それ以外にわれわれSIerが勝ち残る道はありません。
眼光紙背 ~取材を終えて~
売り上げも増え、連結営業利益率も今年度上期(08年4~9月期)で6.0%と決して低い水準ではない。ただ、自身を見る目は厳しい。
「今、情報サービス業界のなかで少しばかりマシだからといって、安心する気にはなれない」と、語気を強める。
ビジネスの中身を見ると、「詰めの甘い部分が目につく」というのだ。これを改善するため、従来の“成り行き管理”的なシステムの構築を撲滅し、ソフト開発の成熟度を示すCMMIも、現在のレベル3から、向こう2年でレベル5に高める。ここ数年でプロジェクトマネジャー(PM)を400人余りに増やした。
SIerが目指すべきビジネススタイルやアイデンティティの形成という意味では、「まだスタートラインに立ったばかり。足下の経済環境が悪いからこそ、定性的な側面での充実をよりいっそう進めていく必要がある」と気を引き締める。(寶)
プロフィール
赤羽根 靖隆
(あかばね やすたか)1946年、東京都生まれ。71年、東京大学経済学部卒業。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。90年、東京支社経営企画部長。95年、マルチメディア推進本部マルチメディアビジネス開発部担当部長。99年、NTT─MEとNTT─ME情報流通(現NTTレゾナント)の取締役を兼務。01年、データ通信システム(現DTS)代表取締役副社長。02年、代表取締役社長に就任。
会社紹介
2008年3月期に前中期経営計画の目標を1年前倒しで達成。このため今期(09年3月期)から年率6%の連結売上高の成長を目標とした中期経営計画をスタート。だが、下期以降の経済環境の悪化もあり、今期連結売上高は前年度比103.6%の640億円にとどまる見通し。経常利益は前年度比90.5%の51億円の見込み。従業員数は約4170人。日本SEや総合システムサービスのグループ化などM&Aも積極的に推進する。