金融ハイテクベンチャーのシンプレクス・テクノロジーは、経済全体が急激に落ち込む状況にあってもなお業績を伸ばしている。金融フロンティア領域に特化した“ナンバーワン戦略”を展開。優秀な人材を集中的に投入することで競争力を高める。今期(2009年3月期)は、8期連続の増収増益になる見通しだ。グローバルでは“日本の金融とITは所詮二流”と揶揄される。金融工学を駆使した純国産のオリジナルソフトの開発を通じて、低い評価を覆す意気込みだ。
安藤章司●取材/文 大星直輝●写真
金融フロンティアに特化
──激しい逆風下にあって、今期(09年3月期)の業績見通しを上方修正していますね。8期連続の増収増益になる見通しですが、その要因は何でしょうか。
金子 “ナンバーワン戦略”です。当社は金融機関の収益に直結する業務システムを開発しており、この領域で着実にシェアを獲得している。主力商品は、株式や債券、為替、デリバティブなどの金融商品に対応したディーリング(取引)システムで、なかでも債権のディーリングシステムは、大手総合証券10社中9社で採用していただいています。限られた領域ですが、ナンバーワンになるという当社の経営戦略が収益力に現れている。
──ニッチトップになることで強固な収益基盤を構築するモデルですね。ただ、今回の金融危機で証券部門は最も傷が深い領域の一つ。大手SIerでもこの領域で売り上げを落としています。
金子 ディーリングシステムなど金融工学を駆使するシステム領域を“金融フロンティア”と呼んでいます。この領域の国内市場規模はざっと500億円。関連するサービスを含めても1000億円は超えないでょう。実は10年前から市場規模はほとんど変わっていないのです。多くのベンチャー企業は、急成長する市場に参入し、自身も伸ばしていくモデルなのですが、当社は成熟市場で他社のシェアを奪って成長しています。
市場拡大の「勢い」への依存度が高いと、伸びが鈍ったとたんに影響を受けやすい。当社の場合、他社のリプレースで成長してきたので、仮に市場が2~3割縮小したとしても、依然として伸びる余地は大きい。今期の売上高は100億円を超えようとしている段階に過ぎませんので、他社との差別化をしっかりやって、単純にもう100億円分市場を奪えば、売り上げを2倍に増やせます。
──金融フロンティア領域は、米国が先行しており、日本は弱いと指摘されています。グローバルなITベンダー相手とどう戦っているのですか。
金子 優秀な人材を限られた領域に大量に投入することで、日本の金融機関に最適なシステムやITサービスを開発してきました。ここに当社の競争力の源泉があります。国内で最も優秀な人材に金融フロンティアを学べる環境を与え、適切な評価、報酬を支払うことで優れた商品が生まれる。わたし自身も金融機関で世界最先端の金融工学やテクノロジーに触れてきましたので自信があります。金融システムに長けた経営陣と、優秀な人材を組み合わせることで、世界水準をキャッチアップできる。
国内金融機関のシステム開発といえば、海外の専門的なパッケージ製品を購入し、大手SIerがこれをカスタマイズして日本の商習慣に適応させるというのが主流でした。カスタマイズにけっこうなコストがかかる割には、ユーザーの満足度はそれほど高くない。起業する以前の一時期、金融機関でディーリング・リスク管理のシステム統括を任されていたのですが、このとき“もっと質の高い金融システムを自らでつくれば、大きなビジネスチャンスが掴める”と思いついたのです。
グローバルで見れば、日本の金融、ITともに二流だと言われる。だったら、その領域で世界のトップになってみせる。
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