優秀な人材が競争力の源泉
──ただ、上昇志向の強い学生は、IT業界を選びたがらない傾向が見られます。そもそもソフト開発に魅力を感じない若者が増えている。
金子 若いうちに大金を稼ごうと考える米国の学生は、まず一流コンサルティング会社で戦略コンサルを担当し、その後ヘッドハントされて経営者になる。あるいはウォール街でトレーダーになる。三つ目に、シリコンバレーで第2のスティーブ・ジョブズやグーグルのようなベンチャー企業で成功するという選択肢がある。これがすべてではありませんが、少なくとも日本の優秀な学生にとって三つ目の選択肢は事実上ないに等しい。
考えてみれば当たり前です。日本のシステム業界の多くは営業利益率が1ケタで、結果として給料も低い。大手SIerに入っても、やることといったら下請けや納期・損益の管理などでゼネコン化する傾向がある。多重下請け構造では、システム開発の丸投げも見られ、そうなると元請けは外注管理が主な仕事になる。外注比率が高いので利幅も小さく、給料も低い。当社はこのあたりの仕組みが、既存勢力とは大きく違います。
──具体的にはどう違うのですか。
金子 どんなに優秀な学生でも、当社ではがんがんプログラミングをしてもらいます。他社よりも優れたソフトを開発して、顧客のビジネスが潤うようにする。当社の本業はソフト開発であり、外注管理ではありません。成功さえすれば報酬は他社の2倍、30代で年収2000万円もあり得ます。才能を発揮したイノベーターにふさわしい待遇をすることで優秀な人が集まり、いい製品やサービスが生まれる。競争力と利益率が高まり、高い報酬への好循環をつくり出す仕組みです。プログラマ1人あたりいくらという“人月商売”をやってしまうと、とたんに労働集約型になってしまい、海外オフショアと競い合う消耗戦に陥る。
──優秀な人材といっても、どう確保しているのですか。来年の採用計画も併せて教えてください。
金子 成績のいい学生に狙いをつけ、30~40人ほどの規模でわたしが1時間ほど会社紹介を含めたプレゼンをします。論理思考力テストを実施し、ある一定基準を満たした学生を面接。採用に至るのは1セミナーあたり1人くらいです。08年4月入社で40人弱、09年4月で65人ほど採用しますので、社員数は300人程度に増える予定です。
2010年4月には業容拡大に向けて100人の採用を目指しています。現時点で75回くらいのセミナー開催を計画しており、すでに30回ほどこなしました。東京、福岡、大阪、京都、札幌、仙台… と全国行脚中です。単純計算でセミナー1回につき1人の採用と考えれば、もうちょっと数を増やさなければならないかしれません。それだけ優秀な人材の確保を重視しているということです。
──順調に事業を拡大したとしても、そもそも国内金融フロンティア市場が限られていることから頭打ちになりませんか。中長期で目指すべきところは。
金子 何年後かはまだ決めていませんが、将来目指すべきところはグローバルです。ワールドワイドの金融フロンティアでトップブランドを確立したい。「10年後にはせめて(国内トップSIerの)NTTデータの10分の1の売り上げは欲しい」と言っても何も始まらないし、当社は別にNTTデータになりたいわけではない。グローバルで見れば、日本の金融、ITともに二流だと揶揄されています。だったら、その金融とITが交わるフロンティア領域で世界のトップになってみせる。業界の古いしきたりや考え方は打ち破らなければなりません。いつまでも二流に甘んじるのはいやだからです。
眼光紙背 ~取材を終えて~
金融工学とITといえば、理数系出身者の専売特許のように思えるが、実はそうではないらしい。論理思考力の試験と面接を突破し、シンプレクスへの入社が決まる学生の約半数は文系が占める。
論理思考の能力は、理系も文系もさほど違いはない。「理系が勝るだろうというIT業界の“誤解”によって、当社は得している部分がある」と、金子英樹社長はほくそ笑む。ただし、文系にはコンピュータのイロハを叩き込むし、理系には金融を徹底的に学ばせる。数学を駆使した「高度なアルゴリズム開発は全体の1%程度」。残り99%はチームでの仕事だ。コミュニケーションやリーダーシップの能力も求められる。
金融危機で経済が大混乱を起こし、大企業でさえ右往左往している。文系・理系の総力を結集した若きエリート金融ハイテクベンチャーの活躍は日本のIT業界に希望を与えてくれる。(寶)
プロフィール
金子 英樹
(かねこ ひでき)1963年、東京都生まれ。87年、一橋大学法学部卒業。同年、アーサーアンダーセンアンドカンパニー(現アクセンチュア)入社。90年、キャッツジャパン入社。91年、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現日興シティグループ証券)入社。デリバティブ・アナリシス部バイスプレジデント。97年、シンプレクス・リスク・マネジメント設立。00年、シンプレクス・テクノロジーに社名変更。代表取締役社長に就任。
会社紹介
シンプレクス・テクノロジーは金融ハイテクベンチャー。会社設立から7年11か月で東証1部に上場。今年度(2009年3月期)の連結売上高は前年度比41.5%増の115億円、営業利益は同20.6%増の25億円、営業利益率は21.8%の見込み。売上高は今年に入って10億円上方修正した。中期経営計画で示した業績目標を1年前倒しでほぼ達成する見通し。12年3月期には連結売上高150~200億円、営業利益50~60億円、営業利益率30%を目指す。