情報サービス産業へ不況の影響が及ぶのは、半周(半年)遅れるのが定説だ。昨年秋の世界同時不況の顕在化から半年が過ぎ、“余震”から“本震”へシフトするのではないかと危機感が増す。情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長は、来年度上期(2009年4-9月期)は「より厳しくなると見るべき」と、慎重な姿勢を崩さない。大型不況を乗り越えるにはどうしたらいいのか――。浜口会長に聞いた。
安藤章司●取材/文 大星直輝●写真
本当の試練は来年度上期
──4月からの新年度を目前に控え、情報サービス産業はどのような状況にありますか。
浜口 足下の受注は、良好とは言えません。特定サービス産業動態統計における情報サービス業の2008年12月の売り上げは、前年同月比でマイナス2.6%と4か月連続して減っている。世界同時不況が表面化したのと歩調を合わせるように影響を受けているのが実情です。年度末の1─3月も厳しい状況に変わりありませんが、むしろ本当の試練は来年度上半期(4─9月期)ではないでしょうか。大手SIerはそれなりに受注残を抱えていましたから今期(09年3月期)末まではなんとか乗り切れます。ただ、このまま先々の受注が先細るようでは上期は厳しさが増すと見るべきです。
──過去の不況を見ると、IT業界は半周(半年)遅れで影響が本格化しました。ただ、今回の同時不況はほぼリアルタイムで響いたことを考えると、上期はこれ以上落ち込まないのでは。
浜口 確かに製造業のように単月ベースで何割も売り上げが落ち込むことは考えにくい。前年同月比で数%程度のマイナスにとどまる可能性が高いですが、全体的に見れば厳しさが増すと見たほうがいい。この業界はすそ野が広いですから、受注が減った状態が長引けば、大手は外注費を削らざるを得ない。すると二次、三次で仕事を請け負っているSIerは売り上げが減る。さらに階層が深いところに位置していたり、人材派遣的な手法でソフトを開発する比率が高いベンダーは深刻度が増す危険性があります。
──マイナス要因ばかりが目立ちますが、上期、期待できるとすれば、どんなところでしょうか。
浜口 まず、今回は産業界の不況に対する反応が早かった点です。自動車などは速やかに減産体制へと移行し、在庫圧縮に努めました。派遣や請け負い切りなどの問題も表面化しましたが、過去に長らく在庫を抱えて苦労したことを考えると、驚くべきスピードです。結果として、一部で在庫が不足気味になり、生産量を増やす動きもみられる。もう一つ、国内金融機関も、証券など一部を除けば、それほどダメージを受けていません。株価の下落などで有価証券の評価損は計上していますが、手持ちのキャッシュが即座になくなるわけではない。自己資本比率が下がる部分はあるにせよ、あくまで会計上、企業の実態を示すための数字。膨大な不良債権を抱えた過去の不況を考えれば、ダメージは限定的です。
──大手SIerは何とかしのげても、その分、中小の協力会社や下請けベンダーにしわ寄せがいきそうです。
浜口 多重構造については、今始まった問題ではありませんが、事業環境が悪化すると弱いところに影響がより顕著に出やすい。受動型の派遣や請け負いではなく、コアコンピタンスをしっかりと持ち、特定分野に強みがないと勝ち残れないという流れが、今回の不況でより確定的になるのではないでしょうか。規模が小さくてもしっかり利益を出しているベンダーはたくさんあります。上流のコンサルティングから入り、仕事を取る力量がなければ、市場に残れない。今の不況を境にしてより明確に命運が分かれるのは、健全な業界の発展という観点から見てもやむを得ない。コアコンピタンスを生かすかどうかは、事業の規模とは直接関係がありませんから。
強みなしでは勝ち残れない。今の不況でこの流れがより確定的になる。コアコンピタンスを生かせば規模を問わず利益を伸ばせる。
[次のページ]